よくよく考えてみたら、
鬼たちの指揮官として現場に出しても上手く動かないのは当然のことである。
ならば、別の犯人を見繕おう。
かつてのロンドンを恐怖に陥れ、未だにその正体は明らかになっていない霧の中の殺人鬼。ジャック・ザ・リッパー
盗賊団『源氏蛍』の構成員で、統領の「義経」亡き後に他のメンバーを次々に殺害した「弁慶」。武蔵坊弁慶
女の首を斧で落としバラバラに切り刻んで棄てた包帯男
闇夜の美術館で悪魔へ『天罰』を与えた甲冑の騎士
白いレインコートが血の海で真っ赤に染まった赤女
こんなものか。
それと、水蒸気の向こうから現れる竜種の肥大化に挑戦してみよう。そうだ、いたではないか。殺人を犯した着ぐるみが。
「犯人」は、人間だけとは限らない。
?■■■■?の手記より――
服部平次が江戸川コナンを「工藤」と呼んでいた。
彼の口から出る「工藤」という人物は1人しかいないだろう。西の高校生探偵に対を成す東の高校生探偵、工藤新一。
何故、コナンをそう呼んでいたのだろうか?
考えられるのは、以下の通り。
①コナンが工藤新一に似ているところがあるので、思わずそう呼んでしまった
②「工藤」ではなく、「苦労」とか「くどい」とか別の言葉と聞き間違えた
③実は「江戸川」ではなく「工藤コナン」というのが本名である
④江戸川コナンの正体は、工藤新一である
「①はともかく、②は無理があるのでは?」
「③は……凄い、名前のキラキラ感が半端ない。家庭の事情あり気な名前を呼ばないし、子供が偽名を使う意味も分からない」
「じゃあ、④しかないじゃない! 江戸川コナンは、工藤新一が幼児化した存在ってことでしょう」
通天閣が輝く夜の大阪。
夕飯の帰りの夜道で、服部平次の「工藤」呼び発言についての考察が続けられている。
そうだ、ジャンヌの言う通りそれだったら説明が付くのだ。
探偵を求める特異点で、名探偵である工藤新一が表舞台から姿を消したことも。江戸川コナンが、その身に不相応な知能を有していることも。
江戸川コナン=工藤新一と前提を立てたなら、納得がいってしまうのだ。
「確かにあのコナン君って子、とても賢そうな顔をしていたわ。大人の前では無理に子供ぶっている感じよね。無理に年相応に振舞っているみたい。ま、そこも可愛いけど」
「武蔵ちゃん、今はそういうことじゃないよ」
「江戸川コナンは、工藤新一が若返りの霊薬で幼児化した存在。工藤新一を失踪させ、彼女の家に転がり込んで、自分が探偵活動をできなくなった代わりに蘭ちゃんの父親を名探偵に仕立て上げた!」
「年上になったカノジョと一つ屋根の下で弟プレイとか……やるな」
「では、何故そこまでして毛利小五郎を名探偵に仕立て上げる必要があったのだろか?」
もし本当に、江戸川コナン=工藤新一だとしたら、いつくか疑問点がある。
疑問点その①
どうやって若返りの霊薬を手に入れたのか?
この特異点は神秘の気配が薄い。怪盗キッドの事件で魔術使いの存在は観測できたが、探偵たちの周囲には全く気配がない。
かつて、立香がコナンに「若返りの霊薬を飲んだ大人のようだ」と言ったことがあったが、あれは半分冗談だった。
王の宝物倉に保管されている宝がホイホイあるはずがない。若返りの霊薬は、神秘の薄いこの世界では実現不可能であると思い込んでいた。
疑問点その②
もし、本当に若返りの霊薬で幼児化したのであれば、何故精神は工藤新一のままなのか?
若返りの霊薬で幼児化すると、記憶や思考も肉体に引っ張られる。ギルガメッシュと子ギルが別の霊基扱いで顕現するように、ジャンヌ・ダルク・オルタからジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィが分離して成立するように、幼児化したら精神もそれ相応になるはずだ。
度々垣間見せる推理力から、コナンの知能は名探偵と呼ばれた高校生のままだ。人間とサーヴァントの違いも無きにしも非ずであるが。
だからこそ、わざとらしく子供として振舞っているのだろう。
疑問点その③
何故、工藤新一を隠し、毛利小五郎を名探偵に仕立て上げたのか??
『一般的に考えますと、急に幼児化したと説明しても誰も信じることができません。混乱を避けるために工藤新一を隠匿し、江戸川コナンとして過ごしているのでしょうか?』
『だけど、毛利蘭の家で居候をする理由が分からない』
「ん~……誰かから隠れている、とか?」
「っ! 武蔵ちゃん、それって……」
「工藤新一って子、名探偵と呼ばれるほどの知恵者なんでしょう。彼がいて不利益になる敵が彼を子供にして無力化しようとして、その敵から身を隠しているんじゃないかしら」
マシュやダ・ヴィンチとの通信会議の合間に、武蔵がポツリと呟いた。
工藤新一に敵意を持つ者がいて、その者から身を隠している。だが、それでは知名度を上げる行動をとる訳がない。
では、名探偵を疎ましく思う敵によって幼児化させられたとしたら、その敵の正体が分からないのだとしたら……敵を炙り出すために、工藤新一とは別の名探偵を創造したというのか?
「名探偵を除する意志を持つ敵……
工藤新一は特異点の黒幕によって幼児化させられ、その犯人を捜すべく毛利小五郎を名探偵へと導き、江戸川コナンとして身を隠している。
『カルデア探偵局』が仮説に辿り着いたその時、周囲の電灯がちかちかと点滅した。通天閣は変わらず輝いている……だが、彼らが歩く道の空気が変わった。
人気のない、目撃者のいない場所。犯罪にはうってつけの現場は、犯人が現れる。
湧き出るどす黒いインクの人型が、業物を鞘から引き抜いて振り回すと、察知して踏み込んだ武蔵が一刀両断に切り捨てた。だが、一体だけではない。無数に湧き出るソレは、最早お馴染みとなり、また出て来た(仮称)全身黒タイツだった。
「久々に出た!」
「あれが(仮称)全身黒タイツですか?」
「マスターの認識では久方ぶりの遭遇だが、我らは1月半ぶりか」
「まさか、
清水は初の
立香の認識では夏以来姿を現さなかった(仮称)全身黒タイツが、絶妙なタイミングで大量に出現した。大阪まで追いかけて来るとは、しつこい奴らである。兎にも角にも戦闘開始だ。
「マスター、下がってくださいよっと!」
「清水! アンタも下がっていなさい!」
「は、はい!」
真っ先に切り込んだのはやはり武蔵だった。二振りの刀を手に、軽快に、流麗に、犯人たちの殺意を掻い潜って切り捨てる。やはり強度は据え置き、しかし無限に湧いて来る。
全身黒タイツが湧き出るインクの淀みから黒い水柱が立った。続いて出現したのは、美天島に出現した(仮称)黒竜モドキだ。
全身に無数の目のような器官が走っているのは同じだが、島に出現した個体とは姿形が少々異なっていた。一回り大きく、竜種と言うよりは……何というか、牙を持つ怪獣みたいになっていた。
「黒竜モドキの姿が変わっている?」
「あのシルエット……大怪獣ゴメラに似ています」
「まさかの怪獣!」
「もう竜種とか関係ねぇじゃん」
『気を付けてください! シャドウサーヴァントの反応です!』
「っ! ジャンヌ!」
何故かゴメラのような姿に変貌した黒竜モドキの背後から、素早いナニかが飛び出してきた。それは真っ直ぐジャンヌへと向かって行くが、サーヴァントの姿に戻り旗を構えて弾き飛ばす。
全身黒タイツの群れを踏み付けてナイフを構えるその姿は、見覚えのある少女だった。ロンドンの霧の中から現れる殺人鬼――哀しき赤子たち、ジャック・ザ・リッパーのシャドウサーヴァントだったのだ。
否、ジャック・ザ・リッパーだけではない。彼女の隣には、七つ道具を背負った仁王立ちの最強の僧兵、武蔵坊弁慶が出現する。
カルデアに召喚されたサーヴァントたちと同じ姿を持つシャドウサーヴァントの他にも、かつて見た包帯男。剣を手にする血塗れの甲冑の騎士。赤いレインコートを着て包丁を手にした赤女など、
これらは全て、全身黒タイツと同じアサシンの霊基を持つエネミー……犯人だ。
「マスター、指示を」
「ジャンヌとサリエリ、プルートーは全身黒タイツと、他の犯人を。ヘシアン・ロボは弁慶を。エドモンはジャックを。武蔵ちゃんは……あの黒竜モドキを!」
「承知!」
アンリマユは立香につく。真名を忘却しているため戦闘に参加できない清水は、残念ながらこの場では足手まといにしかならない。
異常なほど人気がないのは、ここが犯行の舞台として整えられた固有結界か何かなのだろうか?
通天閣の光に照らされた犯行現場で、戦闘が始まった。
「黒猫プルートー、犯人を告発せよ!」
「『
黒猫に告発された犯人は著しく弱体化する。開幕デバフを撒き、「犯人」たちの能力を低下させたうえで、更に犯人特攻を入れるのだ。
「狼王、ちょっとお背中失礼しますよっと」
プルートーがロボの背中を足場にして、全身黒タイツの群れの頭上に跳び上がった。首輪に変化していた白い縄を長く伸ばすと、全身黒タイツは成す術もなく縄に括られてひとまとめにされる。まとめたら、一気に殲滅する。
サリエリの音撃とジャンヌの炎が全身黒タイツを消し去り、それらよりも些か丈夫な犯人たち――ネームドにダメージを与えていく。
俊敏にナイフを切りつけるシャドウ・ジャックは高速で動き回るエドモンによって攻撃を捌かれ、七つ道具を振り回すシャドウ・弁慶はロボの牙とヘシアンの剣が受け止める。
そして、武蔵の刀はゴメラの姿をした黒竜モドキの尻尾を切り落とした。が、淀みの中からもう一体出現した。
「……嗚呼、まただ。胸がざわざわする。これは……そうだ、そうだったんだ」
清水の中で、大阪城を目にした時と同じざわめきが湧き上がる。
初めて間近で見た、サーヴァントたちの戦闘……自分も、彼らと同じ存在であるはずなのに、手を貸すことができない。何もできない。サーヴァントとして召喚された役目を果たすことができない。マスターを守る力もない、現状を打破する能力もない。
そうだ、そうだったんだ。きっとこの地で、「私」はこの感情を抱いたのだ。
「僕は、悔しかったんだ!」
水気のない場所に水泡が渦巻いた。
ボコボコと湧き出る水の中から顔を出したのは、闇夜に映える赤い尾びれ……空を泳ぐ大きな金魚が清水――否、米花のライダーの周囲に出現し、彼の魔力が一瞬にして跳ね上がったのである。
エネミー名:不明(クラスは総じてアサシン)
【バリエーション】
(仮称)全身黒タイツ:ノーマルな姿、凶器は千差万別
ネームド:所謂、名前のある怪人系の犯人
ex)包帯男、甲冑の騎士、赤女
黒竜モドキ:人型ではない、竜種に近い姿をしているがゴメラも可
シャドウサーヴァント:「犯人」の概念を持つサーヴァントの紛い物