犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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浪速の立て籠もり事件、思わぬ再会10

 ぴちゃん……と、舗装された地面に雫が跳ねた。

 水気のない都会の真ん中で、どす黒いインクの氾濫する犯行の場で、水泡と共に艶やかな赤い尾びれが湧き出て来たのだ。

 水泡を弾いて雫を降らせるのは、空を泳ぐ艶姿。清水の傍らに、ふわふわと浮遊する大きな金魚が出現したのである。

 

「金魚……これは?」

『米花のライダーさんの魔力が、一瞬にして跳ね上がりました! この金魚は、彼の能力です』

「これが、慶君の能力?」

 

 握り拳ほどの大きさの金魚は、帯のような豪奢な腹びれをなびかせて清水と立香の周囲を優雅に泳ぐ。それも1匹だけではない、水泡と共に何匹も出現しては、清水に脚や腕にすり寄って来た。

 金魚の出現により、彼の魔力が活性化し出したのをパス越しに感じた。清水が口にした「悔しい」という感情の自覚・爆発により、サーヴァントとしての能力の一部を覚醒させたのだ。

 

「そうか、そうだ……僕も、戦える!」

「待って慶君! まだどんな能力か分からない!」

 

 清水が腕を薙ぐと、金魚たちは彼の思い通りに全身黒タイツへと突撃して行った。だが、立香の言う通り、突如現れた金魚たちが一体どんな能力なのか分からない。そもそも、彼は攻撃に特化したサーヴァントであるのかさえまだ不明なのだ。

 だから止めたのだが、杞憂であったようだ。水泡と共に飛翔した金魚たちは全身黒タイツに突進すると、その胴体を貫いた。赤い艶姿が黒い肉体に風穴を開け、犯人はどす黒いインクに戻ったのである。

 

「効いている。あの金魚たち、攻撃として操ることができるんだ」

「ってか、何で金魚? え、あれに乗るの?」

「乗れるの?」

『これは……あの金魚たちの霊基クラスはキャスターです。おそらく、彼の能力で召喚されている使い魔の類と思われます』

「使い魔を使役するライダー? 宝具じゃない、真名解放まで至っていない……でもこの数を自在に操れるなら、イケる! やってくれ、米花のライダー!」

「はい!」

 

 小回りの利く金魚たちは全身黒タイツの合間を潜り抜け、振り落とされる刀の攻撃も袖にする。尾びれで頭を叩けば黒インクが飛び散るが、優雅に泳ぐ金魚たちは黒い飛沫を浴びることなく、赤い艶姿で闇夜を優雅に泳ぐのだ。

 

「随分可愛い攻撃じゃない、後輩。そろそろ、何か思い出した?」

「思い出しました。何故だかはまだ分かりません、どうしてそう感じたのかも分かりません……でも、()はきっと、この地でナニかがあった。悔しいと感じるナニかがあったんだ! 思い出せないのなら、この昂ぶりのままに、マスターのために奮い立ちましょう!」

「よかろう。叩き付けよ、その悔恨を、激情を。昂ぶりの旋律に乗るがよい。米花のライダー!」

「泳ぎなさい、炎の海で! 『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!」

 

 慟哭外装を纏ったサリエリが剣を手にし、滑るように全身黒タイツを切り刻むその周囲に米花のライダーが操る金魚たちも滑らかに空を泳ぐ。

 赤と赤が乱舞する戦場に、また別の赤が黒を取り囲んだ。ジャンヌ・オルタの憤怒の炎で死神と金魚が踊り、泳ぎ、全身黒タイツは殲滅される。

 ネームドの犯人たちも、慈愛の剣(ミゼリコルデ)で斬られ、金魚の突進を受け、炎に焼かれれば流石に持たなかった。包帯男も甲冑の騎士も、赤女も、手にする凶器で掠り傷一つ与えられずに消滅したのである。

 

「切り刻め! ヘシアン・ロボ!」

「ワォォォォン!!」

 

 獣の咆哮が都会の真ん中に響き渡る。騎乗する傭兵が手放した剣を咥えたロボと、マントが剣へと変貌したヘシアンが疾走すると、シャドウ・弁慶が手にする薙刀の刃がポロリと落ちると同時に首が落ちた。

 その横では、シャドウ・ジャックが標的を解体しようと肉にナイフを突き刺すが、捉えたのは実体ではなく青黒い炎だ。怨念の炎が全身に燃え移り、殺人鬼の凶器はへし折られた。

 

「殺人鬼の殺意よ、悪意よ、愛憎に狂った復讐者よ! 冥界より這い出し被害者の執行を、甘んじて受けるがよい!」

「ボクの首の縄とお揃いの縄を、首に括って処しましょう! 『陽炎に消えた、被害者の死体は消えた(DEATH BY HANGING)』!」

 

 高速で移動するエドモンの肩にしがみ付くプルートーが、第二の宝具を発動させた。

 青黒い恩讐の炎と地獄から湧き出た憎悪の炎が混ざり合う。被害者から加害者へ、犯した罪に相応しい刑を執行する縄が、シャドウサーヴァントたちに括られた。首を落とされ、燃やされ、絞められ、手にした凶器が跳ね返えってくるかのように、切り刻まれた。

 重々しく痛々しいほど燃え盛る炎の海は、燦々と輝く通天閣の人工的な光のように闇を照らさない。むしろ、闇に消えていく。炎の中で、全身黒タイツはドロリと黒インクになって消えた。

 残るは、大怪獣ゴメラの形を得た黒竜モドキだけだ。尻尾を斬られた一体、踏み潰さんと進撃を開始したもう一体を前にして、武蔵は二刀流を泰然と構えた。

 

「私利私欲のため、憎悪のため、愛のため……内の淀みから湧き出た負の憤りに身を任せて堕ちた、罪人たちの現身よ。でも、あの大きさはないんじゃないの。あそこの塔でも壊すつもり?」

 

 武蔵は己の肉体が綻び始めるのを感じていた。顕現の因果律に歪みが生じている。()()()()()……また別の世界への転移が始まるのだ。

 不気味な竜種のような巨大なナニかは、大怪獣というビルやら塔やらを破壊するモノを写し取っている。かつて切った雷帝よりは小さいが、それでも人間が踏み潰されるほどの大きさだ。

 ひとときの寄港地の如く降り立ったこの世界での役目は、あれを斬ることだろう。だが、武蔵が本当に斬るべきモノは、コレではない――まだ、斬っていないモノがある。斬らねばならぬナニかがある。彼女に課せられた役目がある。

 その真実と相見えるまで、まだ旅の途中なのだ。

 構えよ、宮本武蔵――汚濁の淀から這い出た竜よ、闇に跋扈する悪鬼の類よ。天下の剣豪の(ヤイバ)のもとに、悪意の因果を斬り捨てる。

 

「南無、天満大自在天神。仁王倶利伽羅仰天象! ゆくぞ、剣轟抜刀! 伊舎那大天象! 『六道五輪・倶利伽羅天象』!」

 

 剣豪、宮本武蔵の剣気に当てられ、黒竜モドキのインクの肉体が波打って全身の細かい目が忙しなく動き回る。

 悪意の因果を斬り、殺意の宿業を斬る。四つ腕の仁王が持たぬ「空」の一刀が、二体の黒竜モドキを真っ二つに斬り伏せた。

 しかし、武蔵の出番はここで終わりだ。身体から零れる光の粒が、また別世界へと彼女を誘った。

 

「武蔵さん!」

「慶君! 背負っているその役目、君ならきっと果たせるわ! 立香をお願いね!」

「武蔵ちゃん、ありがとう!」

 

 鮮やかなり、天元の花。花のような笑顔で綻んで、宮本武蔵はまた宛てのない漂流(ドリフト)へと旅立ったのだ。

 

「……ゲ、……リ。テケ、リ、リ……リ、リ……」

 

 殺人鬼は、夜に消えた。

 

 

 

***

 

 

 

「ええ! 武蔵さん、もう行ってもうたん?」

「また放浪の旅に出るんだって」

「何や、手合わせしよ言うてたのはお預けかいな」

 

 翌日、満足な大阪観光もできなかったが、米花市に帰る日である。

 コナンたちは飛行機移動らしい。こちらは新幹線なので、駅でお別れだ。

 和葉や平次も見送りに来てくれたが、武蔵はいなかった。彼女は一足先に旅立ったと伝えると、彼女が鯉口を切って誘っていた平次は若干の不貞腐れを見せて居た。

 

「遠山さん、これをどうぞ」

「何……っ! ショコラオランジェフィナンシェ!」

 

 清水が和葉へと渡した紙袋には、ショコラオランジェフィナンシェが入っていた。和葉が買った物は昨日の事件で踏み潰され、清水が買った物は立て籠もり中に人質たちへと振舞ったため、結局食べることができなかったのだ。

 ホテルを出る前にパティスリーで買ったそれをおすそ分けしたのである。

 

「ええの? もらっても」

「はい。服部さんと2人で、仲良く食べてくださいね」

「な、仲良くって……! 本当に、アタシと平次はそういう関係ちゃうからな」

「そういうことにしておきます。遠山さん、どうもありがとうございました」

 

 和葉自身は、どうして清水にお礼を言われるのか理解してないだろう。むしろ、お礼を言うのはフィナンシェをもらったこちらの方である。

 和葉は知らない。彼のサーヴァントとしての能力が微かに覚醒したのには、彼女が切っ掛けの一つであったことに……まだ真名を取り戻せてない。与えられた役目を果たせていない。

 だけど、「清水慶」の中で、少しずつでも忘却したモノが満たされているように感じていた。

 

「じゃあねオルタちゃん、また学校で」

「じゃあね蘭ちゃん!」

「立香さん、またね」

「うん。またね……コナン君」

 

 舞台は再び、東京都米花市に戻る。

 小さな手を振る小さな探偵の真実を探るために。




察した方もいると思いますが、米花のライダーの正体はもうちょっと引っ張らせていただきます。
サーヴァントとしての能力は、混ざっているというよりは底上げされている。

サーヴァント真名’s ヒント!
【米花のライダー】
・和鯖
・ミステリーや推理小説には関係がない
・15歳ぐらいの少年の姿
・甘党
・役名:清水慶
・初登場回
・大阪に縁がある NEW!
・大切な女性がいた NEW!
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