5月1日未明、東洋火薬の管理する火薬庫から、オクトーゲンを含む大量の爆薬が盗まれた。
「盗まれたオクトーゲンの量は約50kg。その他の爆薬を含めると、都市の半分を吹き飛ばす威力のプラスチック爆弾が形成できる量です」
「犯行は昨夜の午前2時頃。東洋火薬の正門に無人の軽トラックが衝突し、オイルタンクの中のガソリンが引火して炎上しました。この軽トラックは、西多摩市の建設現場から盗難された物です。建設会社から盗難届が出ていました」
高木、千葉両名の刑事が集まった捜査員たちへと情報を説明する。
軽トラックが突っ込んで来た音を聞いた警備員たちは、守衛室に1人を残して全員がそちらへと駆け付けていた。炎上した軽トラックの消火に追われ、外部からの侵入者に気を配る余裕はなかったと見られる。
この騒ぎに紛れて侵入した犯人は、守衛室にただ1人残っていた警備員に催涙スプレーをかけ、その隙に後頭部を殴って気絶させた。幸いにも命に別状はないが、現在入院中である。
「火薬庫は特殊な電子キーによって施錠されていましたが、電子キーが保管されていたキーボックスは鍵の複製が可能な市販の物です。犯人は、警備員を気絶させた後、守衛室の壁に固定されていたキーボックスから火薬庫の鍵を奪い、侵入しました。キーボックスにはこじ開けられた形跡はなかったので、犯人は何等かの手段で合鍵を入手していたと思われます」
「キーボックスの鍵を持っていた者は?」
「東洋火薬管理部の職員、部長と課長の2名が管理しています。管理部の業務終了後は、各々が鍵を持ち帰っていました。警備員たちは合鍵を所持していないので、キーボックスを開けることは不可能だそうです」
警視庁捜査一課管理官、黒田兵衛が、片目だけの視線で高木に問いかける。
黒いレンズの向こうに隠れている右目は義眼であるが、作り物とは思えない鋭い眼光に高木の背には冷や汗が伝った。
現在、課長職の職員が病気休養中のため、課長補佐が鍵の一本を手にしていた。課長補佐と部長のどちらも鍵を所持していたので、盗難に遭った訳ではないようである。
そもそも、火薬庫の電子キーの保管場所及び保管方法は内部のみの情報だった。だが、犯人は侵入して警備員を気絶させ、真っ先に電子キーを入手した。保管場所を知っていたということだ。
一体どこから漏れたのか?
その答えは、闖入者によって明かされる。
捜査一課の刑事たちが集まる会議室の扉を無断で開け、革靴を鳴らしながら公安警察の風見が入って来たのだ。
「東洋火薬の爆薬強奪事件、この瞬間から我々公安の管轄となります」
「何故!?」
「都市の半分を吹き飛ばすことのできる量の爆薬だ。テロ目的の可能性もある。捜査一課からは捜査員を動員してもらおう」
「不躾に現れて事件を横取りして、こちらには労働力だけを提供しろと言うのは、いくら公安でも余りにも横暴ではないですか!」
「さ、佐藤さん」
公安の態度に苛立ったのか、佐藤が風見に噛み付いた。しかし、風見が引くことはない。
むしろ、捜査一課の粗を突き付けるように、冷たい声色で投げ付けた。
「電子キーの保管場所、当日に大量のオクトーゲンが火薬庫に搬入されている情報を外部に漏らしたのは、合鍵を持つ課長補佐だ。我々の調べに対し、
「では……まさか、キーボックスの鍵も」
「鍵の盗難はなかった。犯人はその鍵の型を取り、合鍵を複製したと思われる」
会員制のクラブだったから油断した。風見が取り調べた課長補佐はそう言っていた。
キーボックスの鍵を持ったまま、火薬の搬入や保管方法などを酒の勢いでベラベラと話してしまったのである。会員制のクラブといっても、不特定多数の人間が出入りする場だ。会社の重要機密を漏らすとは懲戒免職ものの失態である。
犯人は、このクラブで5月1日にオクトーゲン等の爆薬が東洋火薬の火薬庫に保管されていると知った。そして、課長補佐の目を盗んで鞄の中に入れっ放しだったキーボックスの鍵の型を取り、合鍵を手に入れたのだ。
捜査一課が知りえていない情報を、こちらは先に手に入れていたと見せびらかす。
あからさまなマウント取りに佐藤が睨みつけはするが、反論はできない。彼女1人が反論しても、この事件の指揮権が公安に移ることを止められない。
もう既に、決定事項なのだ。
「……」
東洋火薬からの爆薬強奪事件は、公安警察によって捜査されることとなる。黒田管理官の指示により、捜査一課の捜査員たちが駆り出されることとなったが、目暮警部を始めとした刑事たちは外された。
世間のニュースが爆薬強奪事件の報道に塗り潰されるその一方、『カルデア探偵局』には依頼人がやって来ていた。
「阿久津さん……先日、ご自宅が火事に」
「はい。家族で12年住んだ家が全焼しました」
立香に差し出された名刺の肩書は、貿易会社の社長となっている。先日、4月25日に発生した火事によって自宅が全焼した、阿久津邸の主人だった。
人気のない場所が火元であったため、放火の可能性が高いと報道されていた。阿久津の依頼とは、その放火犯を見付けて欲しいというものだ。
「警察の捜査を待っていられません。あの家は、子供たちの想い出が詰まった大切な家でした……テラスの柱、ここには、子供たちが背比べをした身長が記録されていたんです」
阿久津が差し出したのは、全焼してしまった屋敷の正面写真だ。
この屋敷を建てたのは12年前。アニメに登場する屋敷のテラスに憧れ、まだ幼かった阿久津の娘の希望でこのテラスと柱を増築した。
3人いる阿久津の子供たちは、この柱に毎年の身長を記録していた。柱を見る度に子供たちの成長を実感し、かつての想い出を懐かしんだ。
子供たちは全員独立して家を出たが、子供たちの子供たちがこの柱に成長を記録して行くだろう……それを楽しみにしていたのに、全てが燃えた。
「私と妻は、火事に気付いてすぐに逃げられたので無事でした。しかし、柱だけではなく、子供たちの写真も何もかもが炎に消えました。私の両親の仏壇も、位牌もです。犯人を許すことができません……絶対に、見付けてください! お願いします」
「承知しました」
立香は、涙ぐみながら頭を下げる阿久津の依頼を受けた。
この日は、彼の案内で焼け跡の調査へと赴いたが、見事に燃えてしまった阿久津邸跡には証拠の一つも残っていなかった。
「4月25日、阿久津邸。4月28日、安田邸。4月30日、水島邸。ここ数日で、三軒もの屋敷が火事に遭っている。三者三様に、深夜の時間帯に人気のない場所からの発火だ」
「まさか、連続放火事件ってこと?」
事務所のホワイトボードには、阿久津邸を含む三件の火事の新聞記事が張られている。
煙草の不始末などの住人の不注意による失火ではなく、人気も火気もない位置から燃え広がり、跡地からはガソリンも検出されている。
阿久津邸も同じような経緯で全焼している。後に起きた火事と、手口と似通っているのだ。
この三件の火事は、同一犯による放火の可能性が高い。
「他の事件現場を調べてみれば、手がかりが掴めるかもしれない」
「では、明日は二手に別れよう。俺と傭兵、狼王は水島邸の跡地へ向かう。黒猫、おまえはマスターに付け」
「了解です」
「俺とサリエリ先生、アンリマユとプルートーで安田邸の跡地に向かうよ」
「結構、複雑そうな事件ね。私も蘭ちゃんとの約束を断って捜査に行くわ」
「僕も」
明日、5月3日。ジャンヌは工藤新一の誕生日プレゼントを選ぶ蘭とのショッピングの予定が入っていた。
そして清水も、クラスメイトに誘われて遊びに行く約束をしていたのだ。
立香が事件の捜査に出るのに、サーヴァントである自分たちが遊び歩くなんてできやしない。そう思い、2人とも断りの連絡をしようとしたが、それを止めたのは立香だった。
「良いよ。ジャンヌも慶君も、行ってきなよ」
「しかし、マスターが捜査に行くのに……」
「友達との約束を優先しなよ。折角のGWなんだから。また次に、いつ友達と遊びに行けるか分からないから……一緒に行ける時に、行ってきなよ」
「……そこまで言うなら、楽しく遊んでくるわ。でも! 何かあったら絶対に呼びなさいよ!」
「はい。ありがとうございます、マスター」
連続放火事件、東洋火薬からの爆薬強奪事件。
市井を不安に苛ませる凶悪事件の報道が後を絶たない米花市で、また事件が起きた。
5月2日の深夜、黒川邸で火が上がった。奇しくも、そこでは先日、屋敷の主が殺害され、現場に居合わせた毛利小五郎が事件を解決していた。
カルデアから帰ってきたらまた会えると思っていた友人たち。
いつから会っていないのか、次はまたいつか会えるのか……。
【個人的改変点】
その③
いやマジで、一体どうやってオクトーゲン盗んだん?
何でも自分でやらなければ気が済まない犯人が他人を金で雇ってやったとは考えにくいので、多分全部自分でやった模様。オクトーゲンも1人で盗んだことになりました。
内部の油断とミスに恵まれて見事に強奪成功。東洋火薬は泣いていい。
ガーデンパーティーで蘭から情報入手。ついでに新一の弱みも入手。都合がいいことに、デート先は一番の抹殺対象。
新一を貶める手段を「爆弾」に決定したことにより、前々から目星をつけていた東洋火薬へ軽トラを突っ込ませたことになりました。
その④
あれだけの爆発被害が出るレベルの爆薬が盗まれたのなら、テロの可能性も視野に入れて公安が動き出すのでは?と考えました。
東京サミットの会場でIoTテロもありましたからね~。なお、日付は……。
黒田管理官のキャラが掴めない……難しい。
着々と燃えた屋敷たち。
カルデア探偵局は放火事件の方面から関わって行くことになります。