クラスメイトの何人かに声をかけられた時、清水は正直驚いた。
帝丹高校の1年A組での彼の立ち位置は、ひっそりと真面目に教室の隅にいる、でも影が薄い訳でもないごく普通の高校生である。時には雑務を引き受けて、生垣の水やりやらプリントの配布などを進んで手伝っている。
特に親しい友人はいない。地方から東京にやってきたので、中学時代の知人もいない……という“設定”になっているからだ。
だが、認識ではつい先月入学したばかりでも、この1年A組のクラスメイトたちは年単位の付き合いになってしまっている。それなりの繋がりはあったのだ。
「折角高校生になったのだからと、クラスの何人かが計画を立てて、夜まで思い切り遊びまくるそうです」
「羨ましいな~学生っぽい!」
「ボウリングにボルダリング、ゲームセンター、室内アスレチックに行き、映画も観たいのが二作あったので二本観てしまって遊び倒しです。米花シティビルにある、米花シネマ1でレイトショーを観て解散予定となっています」
「あら。その映画館、蘭ちゃんたちが行くオールナイト上映をやっている映画館よ」
蘭たちとは時間がずれているようだが、偶然にも同じ映画館を訪れる計画のようだ。
明日、5月4日は工藤新一の誕生日。
カルデアでこの日が来ると、モリアーティが苦虫を百単位で噛み潰したような顔になっていた。宿敵と道連れになった命日なのだから仕方ない。ついでに、その宿敵はしれっと生きていたから更に苦虫追加である。
つくづくホームズに縁がある高校生探偵であるが、蘭は見事に彼を引っ張り出すことに成功していた。本日の午後10時に、米花シティビルの映画館で待ち合わせる約束だ。
新一は約束を断らなかった。ということは、江戸川コナンから工藤新一に戻る何らかの手段を持っているということ。工藤新一が目撃されている同時刻に、江戸川コナンの姿が見えないのならば彼らが同一人物ということになる。
これで指紋の一つでも取れれば証拠になるのだが……流石に、今日は気が引けた。
恋人との誕生日デート(しかもサプライズ)に勘繰りを入れるような野暮の極み、やりたくないのである。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ……だったっけ?」
「カルデアにいる馬に蹴られたら、そりゃ死にますわ」
「赤兎馬とか、ブケファラスとか、ラムレイとか」
アンリマユの言う通り、それらの面子に蹴られたら確実に死にますわ。
未だカルデアの前に姿を見せぬ工藤新一を捉えるには絶好の機会であるが、気が乗らない。蘭の邪魔をしたくない。
彼らの約束の時間にはまだ半日以上ある。先ずは、『カルデア探偵局』に依頼が来た放火事件の調査だ。
阿久津邸の火事の火元となったのは裏手に置いてあった雑草だった。
夫人が趣味のガーデニングで刈り取った雑草入りのビニール袋にガソリンがかけられ、マッチなどの火種を放り込まれたと思われる。鑑識の調べでは、焼け跡の土からガソリンの成分が検出されたようだ。
雑草入りビニール袋が置かれていたのは、外からは見えない裏手の塀近く。塀は
阿久津邸の裏手の塀のデザインを知っている者は少ない。放火犯は、屋敷をよく知る人物の可能性が高い。
親しい人物と何かトラブルなどはなかったかと阿久津氏に尋ねたが、思い当たる点はないようだ。知人による怨恨ではなく、連続放火事件の一件目として捜査を開始した。
「マスター、ここが安田邸の跡地だ。発見が早かったため、全焼は免れている」
「それでも、結構焼けていますね。屋根が落ちている」
「ミャア」
ジャンヌと清水は各々の用事のため不参加。残りのメンバーで二手に分かれた『カルデア探偵局』は、阿久津邸の後に放火された二軒の屋敷を調べに出た。
立香とサリエリ、立香の肩に乗るプルートーと影の中のアンリマユといったメンバーは、大渡間町にある安田邸の跡地を訪れていた。
全焼はしなかったが、屋敷の三分の一が焼けてしまっている。ウォークインクローゼットと思わしき小部屋は、焼け焦げたコートや革靴の残骸が未だ残り、上を見上げると空が見えていた。
「もし、本当に連続放火事件だとしたら、犯人はどういった基準で放火する建物を選んだんだろう?」
『放火のような犯罪は、屈折した鬱憤を晴らすために無差別に着手されることが多いそうです。その場合、犯人の居住地や生活圏内に犯行場所が集中しているとありますが、放火された屋敷の位置は全てバラバラです』
「だとしたら、昨日放火された黒川邸を含めて、四軒の屋敷には明確な共通点があったのかもしれない」
マシュの言うとおり、此度の連続放火事件の被害に遭った屋敷の位置はバラバラだった。
阿久津邸と安田邸は米花市内にあるが、エドモンたちが調査に行った水島邸と黒川邸は市外にある。四軒とも都内に位置しているが、犯人の行動範囲内の犯行と考えるとエリアが広すぎる。
では、他に何らかの共通点があり、犯人はその共通点に従っているのではないだろうか?
その共通点は何かと思考し始めたその時、立香の背後からバイクのエンジン音が聞こえた。
プルートーが一声鳴いて肩から飛び降りると、ヘルメットを外したライダーの足下にちょこんと座り込んだ。
「ニャー」
「プルートー! ボクのこと覚えていてくれたんだ~」
「ニャオ」
「世良さん。今日は、ジャンヌたちとショッピングだったんじゃ?」
「探偵の仕事が入っちゃってね。蘭ちゃんには悪いけど、ドタキャンしちゃった。藤丸さんたちも同じじゃないですか? 都内で多発している放火事件の捜査でしょう」
プルートーに出迎えられた世良は、八重歯を見せながら嬉しそうに黒猫を撫でた。
「被害に遭った屋敷の主人がボクが滞在しているホテルに避難していて、その縁で屋敷を放火した犯人を捜してくれって依頼を受けたんだ。カルデアさんも同じ事件を捜査しているなら、情報共有したいところだな。あ、無理にとは言いませんよ」
「どうする、立香?」
「うーん……依頼人の名前は伏せます。でも、世良さんが知っている情報があれば共有したい」
「よし! お互いに利はある。
同じく、放火の被害者から依頼を受けた女子高生探偵も、頻出する火事は連続放火事件であると睨んでいた。
彼女の調べによると、阿久津邸の後に起きた二件の火事。水島邸とこの安田邸も、人気のない場所から火の手が上がったらしい。
「ボクは怨恨の線で調べていました。この安田邸の主人、銀座で画廊を経営しているんだけど、詐欺紛いの取引きで過去に訴えられたこともある。阿久津さんは貿易会社の経営者、水島さんは関東を中心にチェーン展開している大型ホームセンターの創始者一族。そして、昨日の黒川さんは大病院の経営者。どの屋敷も経済的に裕福な家族だ」
「黒川氏は先日、自身が医療ミスで死なせた患者の遺族に殺害されていたな。屋敷に居合わせた毛利探偵が解決したとか」
「個人への怨恨もあるけれど、成功者への妬みによる犯行の可能性もあるかもしれませんよ」
実際に怨恨で屋敷の主人が殺害されていた。そう考えると、世良の推理も一理ある。
放火されたのは、写真で見ても立派な屋敷だった。建つ場所も高級住宅地の一角だ。
成功者への妬みによる犯行。阿久津氏のように個人的な怨恨に心当たりがなくても、傍目から見れば十分に恨みを買っていることもある。
『屋敷……そうか、屋敷か。立香君、放火前の水島邸の屋敷の写真はあるかな?』
「世良さん、放火される前の水島邸の写真を持っていますか?」
「ありますよ。建った当時に地域の情報誌の取材を受けていて、その写真が」
三軒の屋敷は、写真なりニュース映像で放火前の姿を確認できたが、水島邸だけは生前の姿を目にしていなかった。
世良から受け取った情報誌の記事を目にすると、納得したように頷くダ・ヴィンチの声が通信機から聞こえてきた。
「これは……放火に遭った屋敷は全て、英国式の屋敷では? 我もそこまで詳しくはないが、外観がよく似ている」
『そう! サリエリの言う通り! 放火に遭った屋敷は、全てが英国古典様式風の建物だ!』
「あれ、この情報誌の日付……15年前?」
「うん。その頃に水島邸が建ったんだ」
「確か、阿久津邸が建ったのは……12年前」
「っ! 同じ建築様式の屋敷で、建った年が近い。もしかして」
「ニャー」
ここで、思わぬ共通点が出てきた。
同じ映画館だ!まあ偶然!(フラグ)
【個人的改変点】
その⑤
現役女子高生探偵、世良ちゃんも連続放火事件の捜査に参加!
それに伴い、放火された黒川邸以外の三軒にも色々と設定を捏造しました。
一体どういった経緯や注文で各々の屋敷がああいう設計になったのかは分かりませんが、阿久津邸は子供たちの希望で正面右手側にテラスができたという設定になりました。正面左手側にはテラスはない、左右対称ではない。
ダ・ヴィンチちゃんは建築に関しても天才なのです。
そういえば、この間目にした漫画世界の偉人的な本のダ・ヴィンチさんがえらい美形な作画だったな。