蘭が上機嫌で出かけていった。新一とのデートのために……。
その嬉しそうな様子といったら、ポアロの前で会った梓にも「もしかして、デートですか?」と尋ねられるほどだった。彼女によく映える赤いジャケットを着て、とても楽しそうにしていたのだ。
今夜の10時に、米花シティビルの米花シネマ1で待ち合わせ。彼女は、プレゼントである赤いポロシャツを持ってそこで待っているだろう。
どうしよう……。
「ダ・メ・よ!」
「頼むよ灰原。今回は修学旅行の時みたいに一泊もしねぇから。映画が終わるまでのほんの2時間ぐらいだから、APTX4869の解毒剤を」
「あなた、その修学旅行の時のことをもう忘れたの? ネットに写真を上げられて、
「そ、それは……」
「あの時はご両親が何とかしてくれたけど、今はスイスの別荘にいるんでしょう。それとも、また後始末を親に任せるつもり? それに、このオールナイト上映も映画も、結構話題になっているわよ。そんな公の場に顔が知られている工藤新一が現れたら、また写真を拡散されるわ。今回はあなただけじゃない、隣にいる彼女だって……」
修学旅行先の京都で目撃され、写真を撮られ、それをSNS上に投稿された。
あの時は、両親や服部の機転のお陰で京都にいた工藤新一は幻扱いとなったが、こんな幸運が何度も続くことはあるまい。
運命の恋人たち応援上映会なんてイベントで目撃され、しかも隣には「運命の恋人」である少女がいたとなっては生存騒ぎだけでは済まないだろう。隣にいる彼女が大切な人です!と、正々堂々主張している訳なのだから。
工藤新一の大切な人々に黒の組織の魔の手が及ばないようにと姿を隠したはずなのに、その大切な人を見せびらかすなんて本末転倒。世の中は、恋人とのデート中だから見なかったことにしよう、と有名人のプライベートを見逃してくれるお人好しばかりではないのだ。
目立つなという哀の言いつけの通り、目立たせないためにも解毒剤は渡せない。
「だから、もっと前に断りゃよかったんじゃ」
「仕方ねぇじゃねーか。毎日楽しそうにカレンダーに向かう蘭を見ていたら、とても断れねえよ! なあ博士、新一の高性能ロボットを作ってくれよ」
「そんなもん作れたら、今頃ワシは億万長者じゃ」
阿笠が苦笑しながらコーヒーを淹れた。
待ち合わせの時間まであと10時間もない。蘭に断りの連絡を入れるなら今の内だが、断った後の蘭を考えると良心が傷む。が、どうにもならない。
解毒剤も駄目、身代わりなんてもっての外。万策尽きたコナンはふて腐れながらソファーに横になる。ちょうど、テレビではお昼のニュースを放送していた。
東洋火薬からオクトーゲンを始めとした爆薬が盗まれた事件に、以前に殺人事件を解決した黒川邸が火事に見舞われたというニュースが流れる。
それと同時に、阿笠邸の固定電話が鳴った。
「新一、君にじゃ」
「え? どうしてオレがここにいるって?」
「何を言っておる。君の家にかかってきた電話は、全てこちらに転送されるようになっておるじゃろうが。沖矢さんにいらぬ手間をかけさせんようにと」
「あ、そうだった。何しろ最近、オレへの電話なんてないからすっかり忘れてたぜ……もしもし」
『工藤新一か?』
蝶ネクタイ型変声機を新一の声にセットして電話に出ると、電話をしてきた人物は不気味に甲高い声をしていた。相手も変声機を使っている……身元が判明しないように偽装した声は、耳を疑うようなことをコナンに告げたのだ。
『ニュースを見たか? 東洋火薬から爆薬を盗んだのはオレだ』
「何っ?!」
『お前の携帯電話の番号を教えてもらおうか』
「お前のような奴に教える義理はないね」
『ほう。オレからの唯一の連絡手段を断ち切ってもいいのかな?』
「……!?」
挑発しているかのような口ぶりであった。
電話の向こうにいる爆薬強奪の犯人からの連絡手段を断ってしまえば、お前は大変なことになるぞ……犯人からの連絡がなければ、何か事件が起きる。
それを察したコナンは、新一名義のスマートフォンの番号を犯人へと伝えた。
大量の爆薬――プラスチック爆弾の原料を盗み、何をしようというのか。
『よし、いますぐ提向津川の緑地公園へ来い。面白いものを見せてやる。急がないと、子供たちが死ぬぞ』
その言葉を最後に、犯人からの電話が切れた。
「新一!」
「とにかく行って来る!」
「悪戯電話じゃないのか?」
「変声機まで使うなんて、手が込み入りすぎている! 博士は目暮警部に連絡を頼む!」
「っ、そういえばあの子たち、今日は堤向津川方面に遊びに行くって」
「おいおい、まさか巻き込まれてねぇだろうな!」
「気を付けるんじゃぞ、新一!」
「分ってるって!」
充電中のターボエンジン付きスケートボードを掴み、コナンは急ぎ堤向津川緑地公園へと向かった。
GWの初日とあってか、公園は多くの人々と賑わいを見せている。その中に、興奮しながら空を見上げる歩美、元太、光彦の3人がいたのだ。
「おい光彦、そろそろ代われよ!」
「歩美もやってみたーい!」
「もうちょっと待ってください。結構難しいんですよ、RCの操縦って」
「おーい光彦! そのRCどうしたんだ?」
「あ、コナン君!」
「くれたんですよ。ヒゲを生やした人が」
「これは爆撃機だって言ってな」
「爆撃機!?」
案の定、彼らは巻き込まれていた。知らない人から物をもらうなと、小林先生からも注意されているだろう。
光彦の操縦で空を飛ぶRC飛行機に目をやると、胴体の下に魚雷のようなパーツが取り付けられていた。
あのデザインの飛行機に、あんな物は必要ないはず……まさか。
「光彦、貸せ!」
「何だよ! 次はオレだぜ!」
「爆弾が仕掛けられているんだ!!」
光彦から操縦リモコンを奪おうとするが、元太に阻止される。コナンが操縦の順番に割り込んで来たと思っての行動であるが、下手に操縦させられない。
下手に墜落すると、爆発する危険があるからだ。
コナンの口から爆弾の単語が出ると、元太も光彦も蒼褪めて手を止める。しかも、止まった手からリモコンが落ちてしまったのだ。
「馬鹿! っ、しまった! アンテナが折れた!!」
「コナン君、飛行機が!」
「ダメだ! みんな、逃げろ!」
リモコンのアンテナが折れてしまい、RC飛行機が制御不能になってしまった。
プロペラを回して速度を上げながらこちらに向かって来る。あの速度で衝突したら、爆発する!
突進して来るRC飛行機から逃げるが、制御不能の爆撃機は子供たちを執拗に追いかけてきた。コナンの脇をすり抜けて、歩美の頭の上ギリギリで再び上昇した。
虫の羽音のような音を立てて旋回し、地上に襲い掛かって来る……このままではまずい。
コナンの指は、足に――キック力増量シューズのダイヤルに伸びていた。
「行っけえぇぇぇ!!」
極限まで筋力を高め、制御不能となったRC飛行機を狙ってリモコンを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたリモコンは、今まさにこちらへ突撃してこようとするRC飛行に命中し、胴体の真中から真っ二つにへし折れる。勿論、胴体の下に取り付けられていた爆弾も……青みを帯びたオレンジ色の閃光を放ちながら、RC飛行機が爆発したのである。
光彦や歩美のみならず、元太さえも吹き飛ばしてしまいそうな爆風が五月晴れの公園に吹き荒れる。これだけの爆風、辺り一面を覆ってしまう黒煙と爆発音、周辺にいた者たちも異変に気付き始めていた。
「花火か?」
「何かが爆発したぞ!」
「飛行機が爆発した!」
「動画動画!」
「青みを帯びたオレンジ色の閃光……プラスチック爆弾だ」
やはり電話の犯人は、東洋火薬から強奪したオクトーゲンらでプラスチック爆弾を作ったのだ。それを子供たちに与え、工藤新一へ挑戦状の如く叩きつけた。
何が目的だ?
何故、工藤新一にこのような……?
爆薬の臭いが収まらぬ内に、新一のスマートフォンに非通知の着信が入った。犯人だ。
「どういうつもりだ?!」
『工藤はどうした?』
「っ、しまった」
『そうか、オレの相手はお前のようなガキで十分だというのだな』
「っ!」
うっかりコナンのまま電話に出てしまったが、電話の向こうで犯人が気になることを口走った。
お前のようなガキ……犯人は、電話に出るコナンの姿を見ている。この緑地公園に来てから、今の今まで犯人に監視されていたのだ。
この様子もリアルタイムで見られている。迂闊に新一の声は出せない。
『いいか、よく聞け。1時ちょうどにもう一つ爆弾が爆発する。場所は米花駅前広場だ。工藤が来ないのなら、お前が見付けるんだな』
現在、12時44分。1時まであと16分しかない。
犯人の意図は分からぬまま、まるでゲームのように犯人は次の爆弾の設置場所をコナンへと告げた。彼を新一が差し向けた代理と判断したようである。
「待って。それだけじゃ、ボク子供だから分かんないよ。何かヒントを教えて!」
『……木の下だ。ただし、木の下に埋めてある訳じゃない。早く行かないと、誰かに持って行かれちまうかもしれないぞ』
第二の爆弾は、米花公園前広場の
コナンサイドになると原作そのままになってしまうのです。
知らない人からRCをもらっちゃ駄目だよ!