犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

90 / 140
5月3日 正午~午後1時②

 米花公園駅前広場の、木の下……ただし、木の下に埋めてある訳ではない。

 コナンが聞き出したヒントを最後に、犯人からの電話は切れた。時計を確認すると、時刻は12時45分……急がなければ。

 米花駅は緑地公園以上に人の往来が激しい。あんな賑やかな場所で、RCラジコンと同規模の爆発が起きたら大惨事だ。

 

「くっそ!」

「おいコナン、どこに行くんだよ!」

「お前らは博士の家に行ってろ!」

 

 誰かが通報したのか、パトカーもサイレンを鳴らしてやって来た。阿笠博士から目暮警部に連絡が行っているはずなので、この場は警察に任せよう。

 コナンは第一の爆弾の混乱が冷め止まない緑地公園から米花駅前広場に急行した。

 スケートボードを飛ばして米花駅に到着すると、時刻は12時50分。あと10分だ。

 やはりGWのせいか人通りが多い。駅前の道路にも絶えず自動車が行き交っている。

 米花駅前広場には、噴水の周囲に二本の木が植えられていた。「木の下」のヒント通り、それぞれの木の下を注意深く調べるが何もない。

 爆発物のような不審な物も、爆発物が入っているような荷物を持つ人物すらいなかったのだ。

 

『木の下ってどういう意味だ? 誰かに持っていかれるって、一体……?』

 

 米花駅の向かいにあるハンバーガーショップに入ったコナンは、二階席の窓から駅前広場を見下ろした。俯瞰した視点で全体を観察するが、ヒントの意味も、「持っていかれる」という謎の発言の意味も分からなかった。

 可能性があるとすれば、取得物として誰かが拾うかもしれないということだろうか……刻々と時間が経過する中で、駅から出て来た老婆が1人、駅前広場のベンチに座った。

 すると、何かに気付いたのかベンチの下を覗き込んだ。ベンチの下には、可愛らしいデザインのペット用キャリーケースが置いてあったのだ。

 

「『誰かもらってください』……まぁ!」

「ニャー」

「お前、捨てられちゃったのかい? かわいそうに。心配いらないよ、うちにおいで。ちょうど、息子家族と2匹目の猫を迎えようって話をしていたんだよ」

 

 張り紙が貼られたキャリーケースを開けると、中から仔猫が出て来たのだ。キャリーケースの鍵を閉められたまま閉じ込められて怖い思いをしたのか、仔猫はキャリーケースから出て来て老婆にすり寄った。

 傍目から見ると、無責任な人間が猫を放置しただけのように見える。だが、わざわざ立派なキャリーケースに入れて捨てるだろうか?

 木の下……木の下の根っこ、根っこ……。

 

「っ! 猫!?」

 

 あのヒントはそういうことだったのか。

 誰かに持っていかれるかもしれないというのは、現状起きている通り、誰かが猫を拾って家に持ち帰ってしまうということだったのだ。

 だとしたら、爆弾はあのキャリーケースに!

 猫を抱いた老婆がタクシーを停めてしまう。片手にはキャリーケースが……彼女は、あれがただのキャリーケースではないと気付いていないようだ。

 まずい、このままでは爆弾を持ち帰ってしまう。

 老婆を止めようとしたコナンはハンバーガーショップから飛び出した。声を上げて駆け出すが、信号が赤であることに気付かずに飛び出しバイクと鉢合わせしてしまった。

 

「おばあさん待って! ……わぁ!?」

「馬鹿野郎! 信号が見えねぇのか!!」

「ご、ごめんなさい」

 

 バイクが急ブレーキをかけたので正面衝突の事故は免れたが、コナンは派手に転倒してしまった。

 老婆と猫は既にタクシーに乗って出発している。駅の時計の時刻は12時55分……爆発の時間まで、あと5分だ。

 放り出されたスケートボードを拾い、最高速度でコナンはタクシーを追った。

 

「1時4分前! ……よし! 渋滞に引っ掛かったぞ! ……え? どうしたんだ? 充電はまだあるし、まだ日が高いのに」

 

 タクシーに追い付こうとしたその矢先に、スケートボードが減速し始め完全に停止してしまったのだ。

 こんな短時間で充電が切れるはずはない。ましてや、まだ日が高く太陽電池のソーラーパワーも十分なはず。

 こんな時に故障してしまったのだ。先ほど、バイクと衝突しそうになった衝撃でスケートボードを放り出し、道路の縁石に叩きつけてしまったのだ。

 完全に動かなくなってしまったスケートボードを手に、背後から迫る自動車を避けながらコナンは歩道に出た。焦りつつ周囲を見渡せば、コナンの目に留まったのは自動販売機の前にいる少年と、彼の隣にある自転車だった。

 

「ボウヤ、ちょっと自転車借りるよ!」

「お、おい! ……ボウヤ? オレの方が年下か?」

 

 サドルの位置も会わない自転車に飛び乗ってタクシーを追いかけるが、足止めとしていた渋滞が動き出してしまった。現在、1時3分前……普通に追いかけていたら間に合わない。

 そうだ、確かこの先の道路は、左へ大きくカーブをしていたはずだ。脇道に入って真っ直ぐ道路へと出れば、先回りできる。

 住宅地の隙間にある脇道に入り、必死にペダルを踏んで突っ切った。

 

 2分前――

 

 進行方向前の下り階段を飛び降りて、目的のタクシーの正面へと躍り出る。タクシーが急に現れたコナンに驚いて急ブレーキをかけたのに合わせてわざとらしく悲鳴を上げ、道路に座り込んだ。

 

 1分前――

 

「だ、大丈夫かボウズ!? ……え?」

「おばあさん、このケース貸して!」

「ええ?」

 

 心配する運転手を尻目に、タクシーに侵入したコナンは老婆から猫のキャリーケースを受け取った。

 中を覗き込むと……やはり、そこには仕掛けがしてあった。キャリーケースの奥には、爆薬とコードが繋がったモニターが数字を刻んでいる。間違いない、第二の爆弾だ。

 モニターの数字は25秒……あと25秒で、爆発する。

 

「くそ! こんなところで爆発させる訳にはいなかい!」

 

 周囲は住宅地だ。一軒家やマンションもあれば、子供たちが遊ぶ公園もある。

 こんな場所で爆発してしまったら、甚大な被害が出てしまう。

 必死に智慧を搾り出すコナンだったが、あと20秒……19秒では被害の出ない場所に隔離することもできない。

 どうする、どうすれば……!

 

「っ! と、止まった?!」

 

 爆弾のタイマーが16秒になったその時、カウントダウンが止まったのだ。

 どうして止まった……否、今は考えている暇はない。これは好機(チャンス)だ。道路の向こうに見えるのは高速道路、その奥は確か空き地になっていた。あそこなら爆発しても被害は少ない。

 今の内に安全な場所へと、自転車に爆弾を乗せてコナンは走り出した。

 16秒から停止したままのタイマーは動く気配はない。公園やマンションからは離れたが、まだ周囲は住宅地が続いている。急げ、急げと焦りしながらペダルを漕ぐが……恐れていたカウントダウンが再開した。

 タイマーが残り15秒を刻み出したのだ。

 

「動き出した!? くっそ!!」

 

 10秒前――

 

 自動車の急ブレーキ音を聞き流しながら、空き地のある土手への横道に入る。

 

 9秒、8秒、7秒前――

 

 自転車のブレーキをかけずに空き地に飛び出すと、勢いの余りコナンの身体が自転車から転げ落ちた。

 

 6秒、5秒、4秒前――

 

 爆弾を乗せた自転車はそのまま土手へと下って行き、コナンまでもがゴロゴロと転げ落ちる。爆発に巻き込まれないようにと草むらで蹲り、衝撃に備えて瞼を閉じた。

 

 3秒、2秒、1秒前――

 

 無機質な電子音が刻むカウントダウンが機械的に、無情にも0を羅列した。

 

ドウゥゥゥウウンン!!!

 

 RC飛行機の爆弾よりも音が大きく、煙も多く、爆風も強い。

 第一の爆弾よりも威力が増している第二の爆弾は、午後1時数十秒後に爆発した。

 

「うわぁぁぁ!!?」

 

 コナンの身体は爆風によって吹き飛ばされる。水切り石のように草むらを跳ねる小さな身体は、爆風に運ばれ土手に植えられている木に衝突しそうになった。

 それを間一髪で阻止したのは、黒煙に紛れる外套だった。

 

「プラスチック爆弾と言ったか。橙の閃光を伴って爆ぜる黒き衝撃……煙草の臭いとは、違うな」

 

 コナンは爆発の衝撃で気を失っていた。彼を爆風から庇って抱きかかえるその人は、自身のポークパイハットが飛ばされぬようにと手で押さえた。

 探偵……否、巌窟王エドモン・ダンテス。

 偶然だった。偶然、自転車で疾走するコナンの姿を発見し、その自転車が爆発した瞬間に飛び出した。

 探偵の仮面を脱ぎ捨ててサーヴァントとしての本来の姿となったエドモンが、黒い外套を爆風になびかせてコナンを抱き上げた。

 

「警察病院へ頼む」

「(コクンと頷く)」

「……」

 

 爆発に驚いたドライバーたちが、自動車を停めて空き地を覗き込んでいる。

 すぐに警察が臨場し、爆弾事件は世間に知れ渡るだろう。多くの人々はスマートフォンを片手に写真や動画を撮影していた。

 ロボのサイドカーにコナンを乗せ、エドモンはバイクを運転するヘシアンからヘルメットを受け取った。今、優先すべきはコナンの身の安全だ。

 連続放火事件を調べていた『カルデア探偵局』は、彼の身に一体何が起きているのかまだ把握していない。しかし、この小さな探偵がとんでもない事件に巻き込まれていることだけは察していた。




一旦切ります。ここまで前編!
原作沿いが、原作沿いが難しい……!

【コソコソ話】
当初の予定では、猫入りのキャリーケース爆弾はぐだ男と黒猫が見付け、横からお婆さんが現れて猫を引き取った……という流れにしようかと思っていました。
が、最後に巌窟王がコナンを庇うという場面に上手く結びつかなかったためボツに。
やはり、コナンは自転車を漕いで必死に爆破を阻止しようとするあの場面も入れたかったのです。あと、自転車の持ち主の少年の反応が地味に好き。
第二の爆弾は、猫を犠牲にする前提のため犯人絶許ギルティです。どうやって猫を調達した!?
猫に罪はない!
ちなみに、今のご時世で保護猫を引き取ろうにも、老年だと猫を置いて先立ってしまう心配から簡単に飼えないようですね。
猫を拾ったお婆さんは引き取るのを即決していたので、きっと1人暮らしや老夫婦2人暮らしではなく、子供や孫たちと一緒に暮らしているんだと思います。
そして先住猫もいるはず。
それぐらいきちんとした環境じゃないと、あの可哀そうな猫を引き取らせない!!
幸せになれよ、ネッコ……。

取り合えず、前編はこのラストの巌窟王が書きたかったんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。