100話ぴったりで劇場版編終われる、かな?
メンズブランドショップ、スポーツショップ。何軒も梯子して予算と相談して、後はサイズの有無とか着心地とかを確認する。
洗濯表示のタグを気にするのは普段から家事に勤しむ彼女らしい。いくつか候補を絞った後、一枚の赤いポロシャツを手に取った。
「前のショップで見た、黒いワンポイントが入った物も良かったわよね。どうするの?」
「あれも良かったけど。でも、やっぱり……うん、これに決めた!」
ハンガーから外した一枚の赤いポロシャツ。ワンポイントも柄もなく、胸ポケットだけの真っ赤な情熱の色。
生地が良く、触れた肌触りも良い。着心地もきっと良いはずだ。
これを来た新一を想像してみたら、ポロシャツの色が移ったかのように頬を赤くしている彼の姿が脳裏に現れた。蘭の顔にも、嬉しそうで照れ臭い微笑みが浮かぶ。
「おーおー、派手だこと」
「だって、この色は……」
「まあ、良いってこと! 情熱的で今のあんたたちにはお似合いよ」
「飾り気のないシンプルな赤ね……蘭ちゃんらしいわ」
新一への誕生日プレゼントとなる赤いポロシャツを買いに、蘭と園子、ジャンヌの3人は街に繰り出していた。
本当は世良も一緒の予定だったが、探偵の仕事が入ってしまいあえなくドタキャン。この埋め合わせは必ずすると、何度も謝りながら電話してきた現役女子高生探偵であったが、一体どんな仕事が舞い込まれたのだろうか?
プレゼントも決まり、後は女の子たちでお茶をしながら夕食のお店を吟味して、待ち合わせの時間まで胸をときめかせて待つだけだ。
赤いポロシャツをラッピングしてもらおうとレジに向かう彼女たちとすれ違った男性は、スマートフォンを手にして俯いていた。耳にはワイヤレスイヤホンが装着されており、スマートフォンから流れる音声を拾っている。
本日の1時に起きた爆発事件のニュースを聞いていた。1時数秒後、そしてそれより15分ほど前と、連続して爆発事件が起きていたのだ。
『爆発物を住宅地から遠ざけようとして負傷した少年は、警察病院へ運ばれ、手当てを受けています……』
***
深淵から意識が浮上する。
頭の下にある枕の柔らかさと身体の痛みを感じ取り、コナンはゆっくりと目を開けた。眩しさに瞬く目の中に入って来たのは、白い天井と心配そうな表情で自分を覗き込む歩美と光彦、元太の3人と阿笠だった。
「コナン!」
「目を覚ましましたよ!」
「大丈夫? コナン君?」
「……ここは?」
「病院だ」
「おじさん」
「ったく、何をしてたんだお前は!」
「覚えとらんか。空き地に倒れていたのを、ダンテスさんたちが病院まで運んでくれたんじゃ」
「きちんとお礼を言えよ」
「エドモンさんが?」
小五郎に言われて周囲――病室を見渡すと、窓際の壁にエドモンが寄り掛かっていた。
そうだ、高速道路の下にある空き地でキャリーケースの爆弾を爆発させたのだ。幸いにも被害は出なかったが、間近にいた自分は爆風に巻き込まれて気を失ったのだろう……気絶して倒れていたところを、エドモンに発見されたのだ。
「気分は、どうだ? 江戸川コナン」
「大丈夫だよ。ちょっと身体が痛いけど。エドモンさん、どうもありがとう」
「それは重畳。随分と無茶をしたな」
あれ?
丸眼鏡をかけたエドモンがコナンの顔を覗き込むと、コナンは頭の中で首を傾げた。
丸眼鏡をかけていない、裸眼の彼をどこかで見たような気がしたが……どこだったのだろうか。眼鏡をかけず、季節外れな裾の長いコートを着ていたエドモン・ダンテスを見た気がするのは、気のせいだろう?
そんな疑問は頭の片隅へと追いやられ、すぐに診察のために医者が呼ばれた。そして、コナンが目を覚ましたと聞いて、目暮警部を始めとした捜査一課の刑事たちが病室にやって来る。
いつもの高木、佐藤、千葉各々刑事。そして、白鳥警部を伴った黒田管理官までもが病室に現れたのだ。
「もう心配いりません。先ほどの検査でも脳波に異常は見られませんでしたし、明日には退院できるでしょう。お大事に」
「殊勝な働きだったな、江戸川コナン」
「どうして、黒田管理官が?」
「公安の連中が来る前に、功労者を労っておこうかと思ってな。見事だった」
「公安、って」
「恐らく、この爆弾事件は公安の管轄になる。先日、東洋火薬から爆薬が盗まれた事件の犯人と、この爆弾事件の犯人は関連があるはずだ」
「そこでコナン君。事件のことを、話してくれないか」
白鳥が口にした「公安」の言葉に、公安警察所属の風見。そして、安室こと降谷の顔が浮かんだ。
目暮や黒田、その場にいる者たちに事件のあらましを説明したコナンは、新一から預かっているというスマートフォンをベッドに備え付けられているテーブルの上に置いた。
「成程。じゃあ君は、他の人を爆弾から守るために、自転車を走らせたんだね」
「あ、警部さん。犯人からの電話は、新一兄ちゃんのスマホにかかって来るんだ。病院では、通話はできないんじゃ……」
「それなら心配はいらんよ。この病棟は独立していてね、全ての病室でスマートフォンの通話ができるんだ。阿笠博士から事情を聞いていたので、こちらにしたんだよ」
「良かった。それと……あの自転車、駄目にしちゃったんで。おじさん、後で弁償してくれる?」
「そんなことより! どうしてこんな無茶をしたんだ!! もう少しでお前が死ぬところだったんだぞ!!」
「ご、ごめん……」
「それにしても、新一はどうしたんだ? その男は、新一に電話してきたんだろ」
「だから、新一君は別の用があって。それで、コナン君に頼んだんじゃよ」
「なんて野郎だ! 今度会ったらタダじゃおかねえ……!」
その工藤新一がコナンだなんて、言える訳がなかった。
「……別の用とは? 爆弾事件よりも重大な事件でもあったのか」
「そ、それは……依頼人のプライバシーで詳しくは言えんが、とにかく新一君は厄介な事件を抱えていてのう」
「そうか」
何だかエドモンも新一の話題に食い付いて来た。
確かに、普通に考えれば小学生に犯罪者――それも、爆弾を街にばら撒いた犯人の相手をさせるというのは非現実的だろう。危険すぎる。
だが、犯人は
何か目的があってのことだろう。
「それで、目暮警部。爆弾の種類は分かったの?」
「RCの爆弾も、キャリーケースの爆弾も、使われたのはプラスチック爆弾だった。恐らく、東洋火薬の火薬庫から盗まれた物だろう」
「鑑識の調べによりますと、RCの爆弾は雷管を付けて衝撃爆弾に。キャリーケースの爆弾は、タイマーを接続して時限爆弾にしてありました」
キャリーケースの爆弾のタイマーが、1時16秒前に一度止まったのが引っ掛かっていた。
高木の報告によると、鑑識が爆弾の残骸を調べたが、一定の時間になるとタイマーが停止する仕掛けがしてあったとは考え難いらしい。強いて言えば、キャリーケースの爆弾にはGPSが取り付けられていて、爆弾の現在地を把握できるようになっていた。
すると、タイマーが停止した原因として考えられるのは二つ。
一つは、タイマーが故障してカウントダウンが停止した場合。
もう一つは、犯人が意図的に遠隔操作でカウントダウンを止めた場合だ。
「管理官、そろそろ」
「ああ。そろそろ公安が来るだろう。東洋火薬から盗まれた爆薬は、あれきりではない……抜かるなよ。目暮、任せた」
「はい」
黒田は警視総監賞ものの活躍を見せた少年へ最大限の礼を尽くすと、白鳥と千葉と共に病室を後にした。
眼鏡なのかサングラスなのか分からない、左右のグラスの色が違うアイウェアを着けた大柄の男性。しかも、顔の右側には火傷の痕が痛々しく残っているその姿は、警察病院の廊下でもよく目立った。
「……あちらの人は?」
「捜査一課管理官の黒田兵衛警視です」
捜査一課の刑事たちとすれ違ったのは、『カルデア探偵局』の立香とサリエリ。そして、世良であった。
千葉を捕まえて黒田の素性を聞いた立香は黒田の背中へ目をやったが、彼は気にせずに行ってしまった。
「コナン君! 怪我したって聞いたけど、無事かい!?」
「せ、世良の姉ちゃん? と、立香さん、サリエリ先生も」
「爆弾事件があったって聞いたんだけど……何が起きているの? コナン君」
『カルデア探偵局』も連続爆弾事件に合流したのだった。
間一髪で助けられたため、コナンの怪我が減り頭の包帯がなくなりました。