環状線に爆弾が仕掛けられた。電車が爆発すると聞いたら、爆弾は車両その物に仕掛けられていると考えるだろう。ヒントを与えられた探偵たちも、車両内もしくは車両その物が爆弾の在処だと推理した。
しかし、その前提が間違っていたのだ。
ノウム・カルデアの中央管制室のモニター上で点滅するのは、五つのオクトーゲン――プラスチック爆弾の反応。それらは電車のようにぐるぐると走り回ることはなく、線路上に鎮座していた。
爆弾は「線路の間」に仕掛けられていたのだ。
「爆弾が仕掛けられている線路の周囲は、遮蔽物のない住宅地です。一か所、運河にかかる橋の上にあります。この爆弾が、電車が時速60キロ未満で走行した場合。もしくは、日没後に爆発するとは……一体、どんな意味なのでしょうか?」
「線路上に設置された爆弾。その周囲には遮蔽物はない。すなわち、日没まで太陽光を遮ることはない……そうか!」
「はははははは! 感じる、電気の気配を! あの爆弾の動力源はすなわち! 太陽光による発電である!」
「それは私が今! 解明したばかりの真実である! 横取りをするなミスター・すっとんきょうがーー!!」
「利権の横取りは貴様の専売特許だったな。こりゃ失礼! はははははははは!!」
仕組みの分からない機械類の波動を感じたのか、突如現れたエジソンとテスラには犯人が仕掛けた謎が分ったようである。
キーワードは日没。つまりは、太陽光にあったのだ。
「先の爆弾は、モニターのカウントダウンが終了すれば爆発する時限式爆弾である。そのタイマーを動かすための動力は搭載されているバッテリーだろう。だが、そのバッテリーの充電源は太陽光発電という訳だ!」
「爆弾に太陽光が照射されている間は充電に専念し、時限式タイマーは活動を停止する。しかし、太陽光を感知できずにいると発電した電力の放電へと移行する! 簡単に言えば、太陽光を浴びている間はタイマーが動かず、太陽光を遮られるとタイマーが動き、カウントが0になると爆発するのだ!」
「車両が爆弾の設置されている地点を通過する際、車体によって太陽光が遮られる。その間、タイマーは動き始めるが、再び太陽光を感知すればリセットされるのだろう。日没となれば、太陽光自体が届くことがない! 爆発する! 随分と穴のある設計だ。何かしらのトラブル、例えば風で飛んで来たチラシが爆弾を覆ってしまったら誤爆してしまうではないか! 私の手にかかれば、そのようなトラブルを回避するための機能を搭載した上でもっと小型化し、量産することも可能! 何しろ! バッテリータイプは直流である!」
「爆弾の製造・流通はノーベルの専売特許にしてもらえないかな。カルデアの発明家コンビの見解、私も同意見だ」
交流・直流の殴り合いに発展しそうな2人は横に置いておく。
答えを言ってしまえば、エジソンとテスラの見解は正解だった。爆弾は太陽光――光が当たらなければ爆発する仕組みになっている。
東都環状線の電車は全十両編成。一車両の長さが約20m、それが十両で約200m。この車両が時速60キロの場合、秒速は約16.7mとなり200mを12秒ほどで走行できる。
すなわち、爆弾が設置されている地点を通過する場合は、光が約12秒間遮られる。タイマーは13秒でセットされており、時速60キロというのはカウントダウンが0にならないギリギリの時間だったのだ。
「爆発を回避するには、日が沈む前に全ての車両を環状線の線路から退避させるんだ。もしくは、設置場所から離れた駅に停車させる」
「本日の日没は、午後6時15分の予定です。現在の米花市の時刻は午後5時8分前。時間がありません!」
『だけど、それをどうやって伝えれば……』
『……否、こちらが動く必要はない。既に
スマートフォンでのエドモンとの会話。並びに、通信機によるカルデアとの通信を同時進行していた立香の耳に、利発な青年の声が聞こえた。
少年と青年の狭間にいるその声は、自身と同年代の人間のものだと分るが今まで聞いたことはない。だが、彼の声を聞いたことはないはずなのに、声の主が誰であるか気付いてしまったのだ。
『爆弾が仕掛けられている場所は、環状線の「座席の下」でも「網棚の上」でも、「車体の下」でも「乗客の懐」でもありません。「線路の間」です!』
カルデアによる
「この声……まさか」
『まさかだ。江戸川コナンの病室に盗聴器を仕掛けた。例の変声機で声色を変え、
「おー……声だけでも、始めましてだな。工藤新一クン」
アンリマユのいう通りだった。やっと、やっと“彼”と遭遇できた。
立香はやっと、平成のシャーロック・ホームズに辿り着いたのだ。
魔術礼装『カルデア式探偵七つ道具』で盗聴されていることに、声の主である変声機を使うコナンは気付いていないらしい。名探偵は犯人の残したヒントのみで真実へと辿り着き、現状を打破するための解決策まで用意した。
東都環状線全車両を、別の線へと移動させる。環状線の線路から移動させれば、日没まで爆発の心配はないのだ。
警察には、本当に爆弾が線路の間に設置されているかどうか分からない状況下で、新一の推理を信じるか否かの決断が迫られていた。
***
東都鉄道の指令室。この場において、捜査の指揮権を握るのは風見であったが、新一の推理に対する彼の反応は芳しくなかった。
「爆弾の実物が確認できていないこの状況で、安易に車両を動かすことはできない」
「しかし、風見刑事! 時間がない。乗客も騒ぎ始めている! ここは、工藤君を信じて決断しなければ!」
「……っ! 仕方がない。坂口運行部長!」
「はい!」
東都鉄道の坂口運行部長が、指令室に詰める職員たちへ向けて声を張る。
全車両を別の線へと移動させるのは警察の仕事ではない、電車と乗客を守ろうと必死に対応に当たっていた東都鉄道の職員たちだ。
「3分後に11号車を芝浜駅貨物線へ引き入れだ! 準備にかかれ!!」
「11号車、11号車、3分後にポイントを切り換える!」
「芝浜駅、軌道回路確認連動機オン!」
「貨物車両は至急退避線へ移動せよ!」
「11号車、川品駅通過!」
「13号車、芝浜駅通過! ポイント切り換え!」
環状線の線路から脱出した11号車は、汗の滲む運転手の手によって徐々に減速を始める。
時速68キロ、66キロ、64キロと速度は落ち、遂に60キロを切って時速58キロまで減速したが異常はなかった。
「やりましたな!」
「いえ、まだ安心はできません。環状線は、あと20編成走っているんです」
鉄道職員たちの手腕により線路のポイントが切り換えられ、東都環状線の電車が続々と貨物駅へ入って行く。環状線の線路から脱出した電車が速度を落としても何も異変は起きず、駅への停車が完了の連絡が入る度に指令室には安堵の息が漏れた。
残り、1編成。この電車に異常がなければ、全ての車両と乗客が爆弾の脅威から逃れられたことになる。
「こちら、10号車。ただ今、55キロです! 異常ありません!」
憔悴と歓喜を含む運転手の声が聞こえると、指令室には歓声が響いた。
書類を放り出し、ガッツポーズを決めて職員同士で肩を叩き合う。各々の働きを讃え、犯人の脅威から逃げ延びたことにただ喜ぶばかりだった。
「いやぁ、見事なお手並みですな!」
「ご苦労様でした。ここからは、我々の仕事です」
一方、緊急停車先となった貨物駅では、少年探偵団の3人とサリエリも無事に下車することができていた。
「やっと降りられましたね」
「オレ、もう駆け込み乗車は絶対やらねぇぞ!」
「米花町まで距離があるな。タクシーを拾うか」
「あー! 哀ちゃん、昴さん!」
「みんな、無事?」
「うん。サリエリさんに送ってもらったの!」
哀は沖矢の車で貨物駅にやって来ていた。喜びながら駆け寄って来た歩美を始めとした、彼らを迎えに来たのだ。
電車が環状線の線路から移動し始めたと報道が入った矢先、阿笠邸のインターフォンが鳴った。訪ねて来た沖矢は哀に、「彼らを迎えに行くんだろう」と声をかけ、彼女を貨物駅まで連れて来てくれたのである。
「サリエリさん」
「どうした?」
「……ありがとう。あの子たちを守ってくれて」
「我は送っただけだ。だが、結果的に貴女の願いに応えてしまったようだな。レディ」
さあ、次は警察が手腕を発揮する番だ。
「全捜査員に告ぐ! 東都環状線線路内に仕掛けられている爆弾の捜索に入る! 急げ! 日没まで時間がない!」
風見の指示により、爆弾処理班や警察犬を含む捜査員たちによる大規模な爆弾の捜索が始められようとしていた。
「爆弾の設置場所は、午後4時以降に建物で日陰にならない場所だ。障害物も遮蔽物もない、この橋の上のように」
「爆弾発見!」
「降谷さん、二つ目の爆弾も発見されました!」
墨田運河に架かる石造りの橋の上。東都環状線の線路の間に仕掛けられた爆弾を、降谷が発見した。
試しに、自身の影の中に爆弾を入れると、13秒で停止していたタイマーが動き始めて12秒、11秒とカウントダウンを始めた。影から出して再び西日に照らされると、タイマーは13秒に巻き戻り停止した。
なるほど、このような仕掛けか。全く、彼の推理通りではないか。
「残り三つだ! 急げ! まだ日はあるが、日没まで爆発しないとは限らないぞ!」
現場に出た降谷の指揮によって、五つの爆弾は全て日没前に発見、回収された。
挿入歌『キミがいれば』
【コソコソ話】
実は、爆弾の数を六つにするなりして一個は爆発させとこうかな~と思っていました。
新一の推理を信じ切れず、風見がGOサインを出すのに躊躇している内に、飛んで来た紙袋が爆弾にひっかかって光が当たらなくなって……ドカン!な感じで。
だって、本編は快晴の五月晴れだったけど、天候急変の可能性もあれば飛んで来たゴミとかカラスで影になる可能性も十分にあったから。爆発はさせたかったから、そのようなリスクは無視したんでしょうね……電車もそうですけど、橋が吹っ飛んだらガチの大惨事でした。
公安の扱いがあまりにも酷くなってしまいそうだったのでやめました。爆弾捜索は公安主体で行い、降谷さんも警察犬たちに混ざって現場で働いていた。
爆弾の構造も自分解釈ですが、バッテリータイプならば多分直流で動いている。
東都鉄道のポイント切り換えの場面がこの映画の一番熱いシーンだと思っています。
後は、「レディ」と呼ばれる哀ちゃんが書きたかったのです。
ところで四軒の放火事件ですが、本編を再履修していたらあの事件って発火装置が仕掛けられていたそうですね……やっべ!ガソリンまいてのマッチって書いちゃった!
確認不足でした!発火装置も手作りしたんかい!