犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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5月3日 日没~午後9時

 爆弾騒ぎで何やら東京が大変なことになっているようだが、連休初日を謳歌している者たちにとっては特に関係はなかった。精々交通機関が乱れるぐらい、SNSやネットニュースを覗いた者が「ヤッベ!」と声を上げるぐらいだった。

 清水を始めとした帝丹高校1年A組の生徒たちグループは、幸いにも環状線の爆弾騒ぎには巻き込まれていなかった。高校生最初の……多分、最初のGWを思い切り遊び倒していたのだ。

 

「ポップコーンのサイズ間違った! 清水、半分食べてくれ!」

「ありがとう。いただきます」

「Mサイズにしとけば良かった~」

 

 米花シティビルに入る映画館、米花シネマ1のロビーは人々の賑わいを見せていた。特に、これから始まる映画のためにドリンクとポップコーンを買い求める人たちで売店に行列ができている。

 清水と共にやって来たクラスメイトも、キャラメルとソルトの二種類セットを買い求めたが、写真よりもボリューミーなLサイズに驚いたようである。彼らのみならず、全員で放映中にシェアされることとなるだろう。

 あと5分で放映開始だ。序盤の予告編からきっちり観たい派がグループにいるため、急いで席に着かなくては。

 一足先にキャラメルポップコーンを一つ、口に放り込んだ清水は、何気なくロビーを見渡した。すると、1人の男性の姿が目に入る……季節外れな裾の長いコートを着た、帽子の男性だ。

 男性はロビーに置いてある長椅子の前に立っていたのだが、その下に荷物を置いた。米花シティビルの一階に入る百貨店の紙袋に入った、随分と大きい箱型の荷物だ。

 近日公開の映画のポスターをしばらく眺めると、男性はその場から立ち去ってしまった。ベンチの下に紙袋を置いたままであったため、清水は親切心から引き留めたのだ。

 

「忘れていますよ!」

「っ!」

「そこの、紙袋」

 

 男性は清水の声に振り向くと、早足で戻って来てベンチの下の紙袋を持ち上げる。サングラスをかけたヒゲの男性だった。男性は再び早足でその場から立ち去ってしまった……感謝の言葉とかは、特になかった。

 まるで顔を隠しているような、不審な外見の男性であった。

 

「……?」

「清水! 始まるぞ!」

「はい、今行きます」

 

 彼らがこれから鑑賞する『MUSASHI―雷神剣伝説―』の放映が始まった。

 これは一本目。今夜は米花シネマ1で二本の映画を観て9時半に解散予定だった。

 

 

 

***

 

 

 

 午後6時。探偵事務所で蘭を見送ってから6時間が経っていたが、時間の経過が随分と早い気がした。

 太陽が西に傾き、夜がやって来る。幸いにも、完全に日が沈む前に東都環状線に仕掛けられた五つの爆弾を発見・回収することに成功していた。

 

「無事、五つの爆弾を回収することができた」

「やった!」

「全て工藤新一の推理通りだった」

「日没まであと15分。危ないところじゃったな」

「しかし、喜ぶのはまだ早い。環状線の爆弾と、今までの爆弾は、強奪された爆薬の量からして僅か四分の一だった」

 

 報告を受けた風見の表情にも焦りが滲み出ている。

 都市の半分を吹き飛ばしてしまう量の爆薬が、未だに犯罪者の手にあるのだ。もしかしたら、既に加工されて第四の爆弾としてどこかに設置されているかもしれない。

 しかし、犯人との唯一のホットラインである新一のスマートフォンは沈黙を保ったままだった。

 

「工藤新一のスマートフォンにかかってきた犯人の電話番号は、都内に住む独居老人の名義となっていた。調べによると、パチンコ屋で会った男にスマホを売ってくれと言われて売却したらしい。その男の顔は覚えていないそうだ」

「所謂、飛ばしの携帯か」

 

 最初の電話から6時間が経過しようとしていた。犯人探しは難航している。

 ここで、岡本浩平の足取りを調べに出ていた佐藤と高木が病室にやってきた。残念ながら、岡本浩平は今朝早くから伊豆へと出かけていて都内にいなかった。事件前後のアリバイも確認できたため、彼はシロである。

 

「それと、白鳥警部から連絡がありました。環状線の周辺に設置されていた数か所の防犯カメラに、線路に侵入する不審な男が映っていたそうです」

「犯人か?」

「裾の長いコートこそ着ていませんでしたが、帽子とサングラス、特徴的なヒゲと子供たちが目撃した犯人の特徴と一致しています。爆弾の設置のために動いていたのは1人、単独犯ではないかと」

「環状線の爆弾事件、工藤君が解決したんですよね」

「ああ」

 

 目下の目的は、犯人の正体と残りの爆薬の行方だ。

 工藤新一への憎悪を抱く者。かつて彼によって告発された犯罪者の身内か、それともまだ見ぬ犯罪者か。

 

「今、分かっていることといえば。犯人は環状線沿いの五か所の近くには住んでいない、ということぐらいですかね」

「毛利探偵、何故その推理を」

「だって、そうでしょう。もし爆発していたら、電車ごと吹っ飛んで来るかもしれないんですよ。自分の家の傍にわざわざ……っ!」

 

 環状線の爆弾は、複雑な仕組みになっていたとは言え絶対に誤爆しないとは言い切れない代物だった。急な天候不良でも起きれば、電車が通過する前に爆発した危険もある。

 いくら憎悪を滾らせて悪意を満たしても、流石に自身に被害が及ぶ犯罪には手を染めないだろう。巧妙に正体を隠す犯人なら猶更だ、破滅願望があるとは思えない。

 

「あの時、キャリーケースの爆弾のタイマーを止めたのも、同じ理由だったんじゃないか? あの爆弾にはGPSが設置されていたんだろ」

「はい」

「誰かに持っていかれた場合、自分の家の近くに接近することを恐れて現在地を確認するためのGPSと、いざという時のための遠隔操作装置を取り付けたんだ!」

「あそこで近くといえば、児童公園とマンション!」

「それだ! 犯人はマンションに住んでいるんだ!」

「あの周囲は、児童公園前隣のマンションだけではなく、一軒家やアパートも集中している住宅地だ。可能性はある」

「佐藤君、高木君も、マンションに直行だ!」

「「はい!」」

「……」

 

 公安警察、捜査一課の捜査員たち動員による住宅地のローラー捜査が始まった。件のマンションだけでも相当の部屋数、入居者数のため、捜査には時間かかった。住民の情報提供で、不審な入居者がいるならば管理人に鍵を借りて部屋の中まで調べた。

 だが、他の一軒家、アパートの何十戸を時間をかけて調べたが、全て空振りで終わってしまったのだ。

 時間だけが悪戯に過ぎていく。蘭との待ち合わせの時間も迫って来ていた。

 

「ねえ、目暮警部。環状線の爆弾は、どういうところに仕掛けられていたの?」

「ん? どういうって……普通の住宅街だよ。ああ、そうだ。一つだけ、橋の上だったな。墨田運河の」

「橋の上?」

「この橋じゃないのか?」

 

 阿笠がテレビを指差すと、環状線の爆弾のニュースを報道していた。その映像の中に、爆弾が仕掛けられていた橋の映像が放映されている。

 アーチ式の石造りの橋……コナンには、この橋に見覚えがあった。確か、そうだ。ギャラリーにこの写真があったのだ。

 

「ねぇ、この橋、森谷教授が設計したんじゃない?」

「え? そうだったかな……」

「森谷教授?」

「東都大学建築学科の教授で、有名な建築家さんだよ。この間、新一兄ちゃんの替わりにガーデンパーティーに行った時、教授のギャラリーでこの橋の写真を見たんだ」

 

 森谷帝二(47)

 英国古典建築の左右対称――シンメトリー様式へのこだわりを見せる、日本でも指折りの建築家だ。

 それと同時に、本日の昼に見た連続放火事件のニュースを思い出す。黒川邸……放火されたあの屋敷も、森谷教授の設計だったはずだ。

 

「ねぇ、連続放火事件で被害に遭った家って、誰が設計したんだろうね?」

「え……?」

「調べてみたら、面白いことが分かるかもしれないよ」

「……その事件に関しては、我らの範疇だ」

「え?」

我ら(カルデア)は、四件の連続放火事件の真相を追っていた」

 

 一つの兆しが見えて来たところで、エドモンが声を挟んできた。彼は誰かへ連絡を入れると、スマートフォンからは立香の声が聞こえて来た。

 

『……都内で起きた、四件の連続放火事件。俺たち『カルデア探偵局』と世良さんが協力して捜査した内容をお伝えします。阿久津邸、水島邸、安田邸、そして黒川邸。これらの屋敷は全て、森谷帝二氏の設計でした』

「何!?」

「本当か、藤丸君!」

『はい。どれも英国古典式の屋敷で、12~15年前に設計・建築されていました。同一の建築家が、同一時期に建てた屋敷が立て続けに放火されている。偶然とは思えません』

「犯人は、森谷帝二の若き頃の作品を狙っている可能性が高い」

「ひょっとして、環状線の爆弾も本当の狙いは、あの橋だったりして」

「すぐにあの橋の設計者を調べるんだ!」

「は、はい!」

 

 風見の指示で高木が飛び出して行ったが、橋の設計者は白鳥からの連絡で簡単に判明した。

 

『ええ、間違いありません。爆弾の仕掛けられていた橋は森谷帝二の設計です。鉄橋ではなく、英国(イギリス)風の石造りの橋であることが完成当時かなりの話題を呼び、この橋の設計によって森谷教授は日本建築協会の新人賞を取ったんです』

「随分と詳しいわね、白鳥君」

『個人的に建築に興味があるもので。橋が完成したのは14年前です。それと同じ頃、森谷教授は別荘の火事でご両親を亡くされています。父親も著名な建築家でして……僕も、あの人の作品が好きでした』

「同じ時期に、同じ建築家の作品。ホシは、連続放火事件のホシと同一人物で、森谷教授の設計を狙って……」

「そうか、分かりましたよ警部! 犯人は、森谷教授に恨みを持つ者か、その成功を妬んでいる者です! 新一への憎悪と言っていましたが、それはカムフラージュだったんですよ!」

「だとしたら、残りの爆薬は他の設計を破壊するために……都内にある森谷教授の設計。同時期、いや、都内全ての建築物を捜査する!」

 

 同時期に設計された建築物。全て15~12年前の、森谷教授が30代の頃の作品だ。コナンにはそれが引っ掛かっていた。

 

「よし、とにかく森谷教授に話を聞こう。毛利君、案内を頼むぞ」

「はて、どこだっけ?」

「おじさん、ボク覚えてる! 案内するよ」

「俺も、同行の許可をもらえるだろうか」

「ああ。ダンテス君も、一緒に来てくれ」

 

 コナンはジャケットを掴んでベッドを飛び出した。

 高木は風見刑事の指示で都内にある森谷教授の建築物の捜査に回され、目暮を始めとした探偵たちは佐藤の運転で森谷邸へと向かうことになる。

 小五郎が後部座席に乗ったのに続いてコナンも車に乗ると、暗闇に紛れた黒色も飛び乗って、コナンの膝の上にちょこんと座り込んだ。

 

「ニャー」

「プルートー?」

「ミャア」

「どこにでも現れるな、この猫は」

「フニャア」

 

 どうやらプルートーも付いて行く気満々だ。金色の左目でじっと見詰める仕草は、何かを訴えているかのようだった。

 

「……ああ、これから設計者である森谷教授の屋敷へ向かう」

『分った。俺たちは、米花シティビルで慶君と合流するよ』

 

 時刻は午後9時を回っていた。




ぐだ『すっげー聞き覚えのある名前の大学教授がいるな……』

ここまでで中編です!

【個人的改変点】
その⑦
映画館のゴミ箱は一定の時間で中身を回収されるはずなので、最初のゴミ箱の中の爆弾は仕掛けられてそう時間が経っていないと判断しました。
それに、最後に登場するあの大きさの爆弾が落とし物で届けられたりもせずに隠されていたところから見るに、犯人は自宅に凸される直前まで米花シティビルにいたんじゃね? 直前まで爆弾運んでいたんじゃね?
爆弾を仕掛け終わって一服しようとした矢先に警察が来た。本当に、やることが多い犯人である。
橋の説明はやっぱり白鳥警部にお願いしました。

『MUSASHI―雷神剣伝説―』
慶君たちが観た映画その①
真の剣豪だけが引き抜くことができるという伝説の聖剣『雷神剣』を、引き抜けずに修行を続ける剣豪・宮本武蔵を主役にした戦国バトルアクションファンタジー。
実力はあるがムッツリスケベでお調子者の武蔵が、恋人に愛想つかれつつもラブコメしたり、対の剣である風神剣に意識を乗っ取られて鬼神(中二病)になった佐々木小次郎とバトルする。基本はギャグ。
だが、アクションシーンは主演俳優が「死ぬかと思った」と零すレベルの殺陣アクション。勿論、特撮並みの爆発シーンもある。
ヒロインを演じたのは、先日20歳の電撃結婚を発表した女優の草野薫。
映画その②は、秘薬の漢方で身体を強化する謎の拳法で戦う人気拳法アクションシリーズの最新作『カンポー』
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