犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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『緋色の弾丸』を観てきました。
流石、公式は規模も格も違ぇ……!


5月3日 午後9時~午後10時①

「あの屋敷の設計者……確か、あの方です。東都大学建築学科の森谷教授です」

「そうか、やっぱり。家を建てられたのは15年前、でしたね。随分昔のことですが、放火の被害に遭った屋敷を建設する際に、何かトラブルはありませんでしたか? 例えば、建設工事や森谷教授への妨害など」

「トラブルですか……ええと。何か、あったか? あの頃、私は大学のために家を出ていましたので……」

 

 世良が放火事件捜査の依頼を受けたのは、最後に被害に遭った黒川邸の主人であった。先日、元々の所有者である黒川大造は殺害され、息子である黒川大介が相続したばかりで起きた放火事件である。

 避難先であるホテルのロビーで向かい合う探偵と依頼人。黒川は当時の記憶を必死に掘り起こすと、何かを思い出して顔を上げた。

 

「そうだ、親父……亡くなった父と森谷教授が、揉めていました」

「揉めていた? 一体、どんな理由で?」

「確か、着工直前に父が設計を変更しろと言い出したんです。自分の書斎にも暖炉を付けたいと。父と森谷教授が長く言い争っていたのを思い出しました」

 

 暖炉……全焼する前の黒川邸の屋根には、三本の煙突がある。前の主人である黒川は、暖炉を増築した書斎で殺害されていたのを世良は思い出した。屋敷に居合わせた毛利探偵が解決した事件だ。

 否、毛利小五郎ではなく、彼の背後にいる名探偵が解決したのだ。

 

「ありがとうございます、黒川さん。お父様も亡くなられて、更には自宅が放火に遭って……大変でしたね」

「いえ、父に関しては、完全に自業自得です。あの屋敷を建てた時も、無理に話を進めて森谷教授や建設会社にも迷惑をかけていましたし。三奈さんだって……」

「お母様……後妻の方は、遺産相続後に死後離婚されたんですよね」

「ええ。元はと言えば、高額な手術代の替わりにと父が強引に妻にした人です。中沢さんの旦那さんのことだって……毛利さんが冗談で、三奈さんが父を殺した犯人だと言っていましたが、半ば本気で三奈さんが犯人だと思っていました」

 

 前院長の手術ミスを始めとしたスキャンダルが表沙汰になった黒川病院は、放火された屋敷以上に連日燃え上っている。その火消に回っている彼も、日々批判に曝されているのだろう。

 その渦中で連続放火事件の標的(ターゲット)にもなってしまった。その心労は計り知れないが、確かに父親が遺した自業自得の遺産だ。幸いにも息子は常識的な医者である。父親の轍を歩むことはないと願いたい。

 阿久津邸、水島邸、安田邸、そして黒川邸。連続放火事件の被害にあった四軒の屋敷は、全て森谷帝二の設計だった。

 そして、森谷教授と黒川の間にあったというトラブル……世良は、そこが引っ掛かった。

 

 

 

***

 

 

 

 周囲にカップルが目立つのは、彼らもこの後に予定されているオールナイト上映会へ参加するのだろう。午後10時20分から、『赤い糸の伝説』公開記念、運命の恋人応援上映会が開催される。

 会場の一つである米花シネマ1が入る米花シティビルの正面には、他の人気シリーズ映画と共に『赤い糸の伝説』の看板が大きく掲げられていた。

 

「もうこんな時間。時が経つのは早いわね」

「あっと言う間だったね。園子もオルタちゃんも、今日は付き合ってくれてありがとう」

「遂にこの時が来たわね。ラブラブバースデー大作戦! 後でちゃんと報告しなさいよ!」

「でも……いいこと! 工藤新一に変なことをされそうになったら、容赦なく蹴り飛ばすのよ!」

「高校生らしく、キスまでにしときなさいよ~!」

「あはは……」

 

 本気か冗談か判断に困る友人たちのエールを受けた蘭は、苦笑しながら米花シティビルの前で彼女たちと別れた。

 時計を見ると、午後9時を過ぎている。待ち合わせの時間まであと1時間もない。

 一応携帯電話を確認するが、新一からは連絡は来ていなかった。

 

「迎えを呼んだけど、オルタちゃんも乗って行く?」

「ありがとう。でも……迎えが来ているから大丈夫」

 

 米花シティビルの最寄駅。混雑するタクシープールに押し寄せる中の一台から、ジャンヌのおじ様が降りてきた。

 

「あ、こんばんはサリエリさん! おじ様がお迎えなら、大丈夫ね。またね~オルタちゃん」

「ええ。またね、園子ちゃん」

 

 園子と別れ、ジャンヌはサリエリと共にタクシーに乗り込んだ。

 タクシーの無線からは、絶えず配車の連絡が流れて来る。東都環状線が前線停止しているため、移動交通機関が混み合っているのだ。

 

「この後、清水と合流する予定だったはずだったんだけど」

「変更になった。我らは安田氏が滞在しているホテルへ向かい、建設当時の証言を得る。どうやら、夫人がピアニストとしての「サリエリ」のファンらしい……会いたがっているとか」

「あら、真似事の音楽活動が実を結んだんじゃないの。それで、何か分ったの?」

「現段階で、放火された四軒の内、二軒が屋敷を設計した建築家と諍いが起きている。黒川邸、そして阿久津邸だ」

 

 後者の場合は、諍いと言うには少々語弊があるかもしれない。

 阿久津氏は建築家によって屋敷の設計が出来上がった後に、半ば強引に設計の変更を押し通していた。変更点は、例のテラスと背比べをしていた柱である。

 阿久津氏自身も「無理を言った」と語っており、無理を言われた建築家もあまり良い顔をしていなかったらしい。その建築家の名は知っている。現在進行形で捜査中の立香から、定期連絡が入っていた。

 

「建築家の名前は、モリヤテイジ? 何だか無性に燃やしたくなる名前ね」

「立香たちはまだ市外にいる。水島邸の捜査に時間がかかってしまったようだ。清水との合流は、あちらで行う」

「私たちはおじ様で夫人の機嫌をとりつつ、建築家とのトラブル探りね」

「ああ」

 

 安田氏と夫人が滞在しているホテルはここからタクシーで10分もかからない距離であるが、交通網が混雑している今は到着まで時間がかかりそうだ。

 さて、屋敷の建築当時に、一体どんなトラブルがあったのだろうか?

 

 

 

***

 

 

 

 黒いFD RX-7が夜中の道路を照らす。刑事と探偵を乗せた佐藤の車は、コナンの案内で森谷邸へと向かっていた。

 その道中で、コナンがキャリーケースの爆弾に追いついた道路を通過した。爆弾のタイマーが残り16秒前で停止した場所だ。

 警察によってローラー捜査が行われたマンションと、児童公園が窓の外に見える。

 

「児童公園か……」

「ニャー」

「ったく、お粗末な爆弾のお陰で、とんだ無駄な捜査をしちまったよ!」

 

 目暮の言う通り、警察では、タイマーの停止は爆弾の故障として判断されていた。

 後部座席の中央に座るコナンは、エドモンの横顔越しに窓から児童公園を眺めた。プルートーも、彼の膝の上で同じ方向に顔を向ける。

 児童公園の周辺には、特徴的なデザインの街灯が並んでいる。LED電球とは違う、ガス灯に似せた橙色の光を灯す街灯に、コナンは何故か目が離せなかった。

 森谷邸には、午後9時半過ぎに到着した。幸いにも家主は在宅しており、夜間の、それも突然の訪問だというのに一行を快く出迎えた。

 

「爆弾事件……そういえば、夕方からニュースで何度も報道していましたね」

「そのことについて、いくつかお話を伺いたいのですが」

「分かりました。どうぞ、お入りください」

「ミャー」

「おや、猫?」

 

 家主こと森谷に招かれて、真っ先に屋敷に入ったのはプルートーだった。開かれた扉の隙間をすり抜けて森谷の足元に座り込むと、尻尾を揺らしながら甲高い声で鳴いたのだ。

 

「ニャーーーン」

「……失礼。カルデア(うち)の猫だ」

「いいえ。立派な猫ですね。まるで、ポーの小説に登場する黒猫のようだ」

「ミャア」

 

 一行が応接間に招かれると、目暮と佐藤が事情を説明する。森谷が若い頃に設計した屋敷が放火の被害に遭い、本日の東都環状線爆弾では、橋に爆弾が設置されていた。

 森谷は話に耳を傾け終わると、長いマッチでパイプに火を入れて一服しながら話を切り出した。

 

「成程。確かに、偶然にしてはできすぎていますな」

「そのようなことをする人物に、心当たりはありませんか?」

「うーん、そうですなぁ……」

 

 森谷が記憶を掘り起こしている隙に、コナンは応接間を脱け出して二階のギャラリーへと侵入した。

 先日のガーデンパーティーで見た時と同じく、今までの森谷の作品の写真が並んでいる。

 

「三十代の頃の作品は……ここからだ。黒川邸、水島邸、安田邸に阿久津邸。そして、橋……か。っ! 待てよ、この橋」

 

 コナンは橋の写真に何か違和感を抱いた。否、橋だけではない。今まで放火された四軒の屋敷の写真も、何かがおかしい。

 その違和感と同時に、ガーデンパーティーであった出来事を思い出した。森谷の発言……そして、小五郎がカンニングペーパー持参で語った彼の来歴を。

 

『ま、まさか! そんなことがあり得るのか?! しかし、あの匂いは……』

 

 脳内に出来上がったのは、あまりにも不可解な犯行動機。人間は、()()()()()でこんな大掛かりな犯行を何件も起こすのか?

 犯人はあの人しかいないが、まだ全てが解明されていない。何故、工藤新一への憎悪を口にした?

 小五郎の言う通り、ただのカムフラージュだったのか?

 

「……ん? この前来た時、こんな物あったっけ?」

 

 ギャラリーの隅に置いてある布のかけられた机。いや、何かのオブジェだろうか?

 布をめくってその下を覗き見ると……全て理解した。工藤新一を名指しした理由も、犯人はあの人だという確信も。

 しかし、証拠だけがなかったのだ。




【個人的改変点】
その⑧
何故、コナン一行は序盤の事件に遭遇したのだろうか? そもそも何故、黒川邸にいたのだろうか?
個人的に考えてみたのですが、やはり探偵の仕事のためにやって来たのかなと考えました。では、その仕事とは?
おっちゃんが後妻の三奈さんを犯人だと推理したのは、彼女が夫に恨みを抱く何かがあるという事前情報があったのではないか。
息子よりも年下の後妻。主人は黒い噂が絶えず、飲酒して手術して失敗してそれを揉み消すことのできる権力者。
彼女もまた、犯人であった中沢さんと同じく黒川の被害者ではないのか?
なので、家族の手術代が払えずに金と引き換えに妻にされたと設定しました。勿論、彼女にしてみれば不本意な結婚です。愛情はない。
浮気に走るかもしれない。それを夫が疑うかもしれない……愛情ではなく、自分の所有物が誰かにとられるという意味の嫉妬によって。
ということで、黒川氏が三奈さんの浮気調査を依頼し、その調査報告のために黒川邸を訪れて事件に遭遇した。という設定でいこうと思います。訪れたら殺されていた。
飲酒して手術をするような医者なんだから、これから来客の予定があっても飲酒するだろ。(偏見)

その⑨
燃えた四軒の屋敷と、建設当時のトラブル色々。まあ、大体は注文が入って設計図書き換えなんですけどね。
後半の方でもうちょっと詳しく書きます。
思い出すだけで腸が煮えくり返るというのは建設家談。
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