犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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5月3日 午後10時~午後11時59分①

 午後10時ちょうどに、米花シネマ1に仕掛けた爆弾が爆発した。それに連鎖するように、米花シティビルの全体に仕掛けたそれも次々と爆発して行く。

 コナンの電話越しに聞こえる蘭の悲鳴は、爆発音にかき消されて徐々に聞こえなくなってしまった。それはエドモンも同じで、彼が焦ってかけた電話の向こうからも爆発音しか聞こえないのだ。

 

「立香! 返事をしろ、立香!!」

「蘭姉ちゃん!」

「貸せ! おい蘭! どうした、返事をしろ! 蘭!!」

「まさか、蘭君だけではなく藤丸君も米花シティビルに!?」

「テメェ! 蘭をどうする気だ!!」

「……ふっふっふっ、まだロビーの入り口と非常口を塞いだだけ。お楽しみはこれからだよ」

 

 小五郎が怒りと焦りに任せて森谷を問い詰めるが、爆弾犯は不気味に微笑むだけ。森谷は知っていた、本日の午後10時に蘭が新一と約束をしていることを。

 これが目的だったのか。新一への憎悪の捌け口は、彼の探偵としての名誉を汚すことではなかったのだ。

 標的は蘭だった。新一への復讐と、最低最悪と言い切った汚点の如き摩天楼の爆破を同時に行うつもりだったのだ。

 

「おい工藤! どうせどこかで聞いているんだろう! 早く行かないと大事なガールフレンドがバラバラになってしまうぞ!!」

「テメェ、許さねぇ!」

「毛利君、暴力はいかん!」

 

 小五郎が今にも殴りかかろうとしている。コナンも同じだ、この身体が工藤新一のままだったら怒りに任せて殴りかかっていたかもしれない。

 沸々と湧き上がる怒りと焦りの中で、小五郎に胸倉を掴まれて乱れた森谷のジャケットの合間から紙の束が見えた。まさかと、飛びかかってその束を奪い取って開いてみれば、数多に交差するコードが書き込まれた爆弾の設計図だった。

 この構造は、一番大きな爆弾だ。恐らく、最後の最後で()()を飾るために派手に爆発させる最後の爆弾だ。

 今……米花シティビルの方角から上がった、再びの爆発音と炎よりも甚大な被害を出す終焉の一撃。

 

「爆弾の設計図か?」

「新一兄ちゃんに、渡して来る!」

「待て小僧! 工藤に会ったらこう言っておけ! お前のために3分間作ってやった! じっくり味わえってな!!」

 

 今までの紳士然とした態度を脱ぎ捨てて、森谷はコナンに向けてそう吐き捨てた。憎悪に顔を染める「犯人」は、両腕に手錠をかけられても怯む気はなく、敗北を感じていない。

 勝利を確信している。復讐を完遂し、汚点を処分する。既に達成しているかのようだった。

 

「待ちたまえコナン君! 佐藤君、森谷教授を頼むぞ!」

「はい! ……あっ」

「……何かね。ああ、君の知人もあそこにいたようだな」

 

 走るコナンを追って、目暮と小五郎も米花シティビルへと駆け出した。

 残された佐藤が森谷を連行しようとすると、エドモンがその肩を掴んだ。彼もまた、偶然は不幸か、仲間が米花シティビルにいたのである。

 

「……貴様の()()は、憎悪とは言わん。復讐とも言えん。ただの()()だ。生み出した汚物を目にしたくがないために、破壊するだけ。あの男に言わせてみれば、愛を伴わぬ憎悪など……それ如きで、我が共犯者(藤丸立香)を殺せると思うな」

「ニャーーン!」

 

 生きている。それは、1人と1匹(2騎)が一番よく分かっていた。

 

 

 

***

 

 

 

 立香が米花シティビルに到着したのは、午後10時3分前だった。道路の渋滞に捕まってしまい、予定よりも随分と時間がかかってしまったのだ。

 クラスメイトたちと別れた清水とは、一階にあるレストラン街で待ち合わせをしている。米花シティビル一階に入っている百貨店は既に閉店時間を過ぎているが、レストラン街とそこのエレベーターから通じる米花シネマ1はまだ業務時間内だ。

 

「慶君、お待たせ!」

「お疲れ様です、マス……立香さん。捜査の状況はどうですか?」

「ジャンヌとサリエリ先生から連絡が来た。やっぱり、安田さんも屋敷の建設時に建築家と揉めていたみたいだ……あ、ごめん。エドモン?」

 

 エドモンから着信が入った。午後10時まで、あと1分を切っている。

 

『今、どこにいる!?』

「エドモン? 今、米花シティビルで慶君と合流して……』

『立香! 今すぐそこから逃げろ!!』

「え……」

 

 爆発音は、あの事件を思い出す……始まりのあの日。

 所長に怒鳴られて追い出されたあの時、白い礼装に袖を通していたあの頃。

 足元が揺れた。地震ではない、頭上が揺れた。

 午後10時ちょうどに、米花シネマ1に仕掛けられていた爆弾が爆発した。インフォメーションロビーへの出入り口と五階への非常口が塞がれ、爆心地の付近にいた人々が吹き飛ばされる。

 外には炎と共に黒煙が上がり、下層階は天井が崩れて落ちて来たのだ。

 

「キャァァァァ!!」

「っ!?」

 

 立香の心臓が跳ねた。

 反射的に動かなくなる身体、脳裏に過るあの日の光景。握った手の震え、冷たい廊下の温度……ほんの一瞬の硬直に囚われて、スローモーションのように立香の頭上には崩れた柱が迫っていた。

 

「固まってくれンなよ、マスター!」

「ウォォォォォン!!」

「っ! ヘシアン・ロボ!」

 

 立香を正気に戻したのは、影の中から這い出て来たアンリマユだった。立香を抱えて瓦礫の襲来から避難させ、高速で駆けて来たヘシアン・ロボにその身柄を投げ渡す。地下駐車場で待機していた彼らは、爆発音を聞いて駆け付けたのだ。

 ヘシアンに抱えられた立香が見たのは、ビルの瓦礫が雨のように降る光景を泳ぐ無数の金魚。清水慶……否、米花のライダーの指揮によって動く巨大な金魚は、レストラン街にいて爆発に巻き込まれた人々を安全な場所へと引っ張って行く。

 だが、この場に安全な場所などなかった。

 地下駐車場への通路も、エレベーターも非常階段も、外へ出るための唯一の出入り口もが倒壊した天井によって塞がれた。上階からは再び爆発音が聞こえて来る。何度も何度も、小刻みに、念入りに、ビルは爆破されていたのだ。

 

『先輩!』

「マシュ……大丈夫、俺は無事だ。何が、あったの?」

『そのビルの五階で爆発が起きました。他、各所で小規模の爆発が続いています』

「五階……米花シネマ1が入っている階です!」

「ま、まさか……蘭さん、巻き込まれていないよね」

「他人の心配している場合じゃないんじゃないの、マスター。結構ヤバいぜ、この状況」

 

 灯りはとっくに消えていた。アンリマユの姿が溶けてしまいそうな暗闇の中、煌びやかだったレストラン街は廃墟の如き倒壊に見舞われた。

 一瞬だった。一瞬で、取り巻く景色が変貌したのだ。

 清水の金魚によって救出された人々は、混乱しているようで何が起きているか分かっていないようだ。巨大な金魚に救出された記憶も曖昧なものになっているかもしれない。

 だが、店内や厨房から救出された人々は、現状が絶望的だということだけは理解していた。

 

「誰か! 聞こえますか!」

「もしもし? 助けてください! ビルに閉じ込められて……」

「駄目だ、入り口が塞がっているぞ!」

「な、何で、何でこんなことに……ううっ……」

「マシュ、脱出ルートをナビゲートしてくれ」

『はい! ……っ!』

『これは……』

「ダ・ヴィンチちゃん?」

『……脱出ルート、検出……できません。先輩たちのいるレストラン街は、完璧な密室になっています……!』

 

 無慈悲にも表示される『NOT FOUND』の文字……全ての出入り口が瓦礫で埋もれている。無理に動かせば、更なる倒壊を招いて一階フロアそのものが上階に押し潰されてしまう。危ない均衡で何とか保っている空間だった。

 焦る者、苛つく者、恐怖に震える者、泣き出す者……光源も崩壊し、暗い世界の中で他の人に気を配る余裕もないのだろう。誰も、先ほどまで実体化していたヘシアン・ロボの姿を気に留めてもいないようだ。

 誰かが助けに来てくれると信じている彼らに、この真実は告げられない。このままでは、消防が突入するだけで瓦礫の雪崩が起きてしまう。

 

『こちらで、何としてでも脱出方法を演算します! 先輩はその場で待機を!』

『ビル全体から大量のオクトーゲンの反応を確認!』

『五階に、今までで最も大きなオクトーゲンの反応あります!』

「このビルも、爆弾犯のターゲットだったんだ」

 

 焦りを隠せないマシュとカルデアスタッフの声を聞きながら、1人の建築家の名を思い出す。放火された四軒の屋敷と、爆弾が仕掛けられた東都環状線に架かる橋の設計者は同じだった。爆弾犯のターゲットはその設計者――建築家・森谷帝二の作品ならば、米花シティビルも彼が設計したのだろう。

 一体どうして、何故、何が目的で氏の作品を狙ったのか?

 立香にはまだ、理解できていなかった。惨憺たる現状以外は。

 

「……何か、何かできないのか。この状況を打破するための、何か……!」

「……閉ざされた世界……停滞する国、旧い価値観……ああ、そうだ。そうだったんだ……!」

「慶、君?」

 

 清水の様子がおかしい。否、この反応は……かつて、大阪で見た反応と同じだ。

 ナニを思い出した。サーヴァントとしての、英霊としての、人理に刻まれた英雄たる己の欠片を。

 

「そうだ、そうだ、そうだ! どうして、何故、何で忘れてしまっていたんだろう……君を、貴女を、()の名を!」

「っ!? ま、まさか」

 

 そういえば、この状況……微かな刺激でも崩壊してしまいそうな、ギリギリの危なっかしい均衡で保っているこの空間は、特異点の現状と同じではないか。

 閉ざされた世界を開く能力。

 閉ざされた米花を解放する能力……その能力を持つ者として、()()ばれたのだ。忘却した真名こそが、世界(ココ)を開く鍵だったのだ。

 

「マスター……いいえ、藤丸立香。長き間、役立たずで申し訳ありませんでした。思い出しました、取り戻しました! 僕の、私の、()の名を! 与えられた役目を!」

 

 清水……否、米花のライダーの足元から水流が迸る。使い魔の金魚ではない、潮の香りを孕んだ飛沫が追い風と共に立香の頬に飛んだ。

 すると、世界は一瞬だけ、光が差し込んだ。

 バタバタと走り回る人々の足音は、木造りの地面を蹴る音がする。この音は、特異点と化したオケアノスで(ドレイクの船に乗っていた時に)聞いた甲板を蹴る音だ。

 それと同時に、帆を張る音と蒸気を熾す音が同時に聞こえた。シャフトが廻る、世界が廻る……米花のライダーの姿が、高校生の姿から本来の英霊としての姿へと変化していった。

 

()には……いいえ、()の方が、私らしい。僕には、世界を開くための直接的な能力はありません。だけど、示すことはできる。兆しとなれる、開くことのできる者に託すことはできる。さながら、事件の証人のように、目撃者のように。僕の役目は、やるべきことは、前に進むための舵を切らせること! あの時のように、あの時、勝に託したように! 行くぞ、歯車()は廻る……海に出る! 『出航せよ、順動丸』!」

 

 真名解放――宝具、発動。

 巻き込まれた一般人たちが目視する余裕もないほんの刹那、辺り一面は船になった。

 帆船ほど古くなく、イージス艦ほど新しくはない。ほんの200年まで、数多の海上を進んだ蒸気船の甲板に彼らは立っていた。米花のライダーの隣に立つ着物のその人は、教科書で見たことのある顔をしている。振り向いて、微かに顔を綻ばせて消えてしまった。

 

「余は、私は、僕は……米花のライダー! 真名は徳川家茂! 徳川幕府第十四代征夷大将軍である!」

 

 着慣れぬ陣羽織の背には、葵の紋が誇らしげに刻まれていた。




某バーサーカー
「遂に出やがったな徳川あぁぁぁ!!」

某ライダー
「……っ! ……!?!?」

の隣にいる謎の美女
「どうした、リョーマ? 口をパクパクさせて酸欠の鯉みたいだぞ」

サーヴァント真名’s ヒント!答え合わせ!
【米花のライダー】
・和鯖
→ 徳川幕府将軍

・ミステリーや推理小説には関係がない
→ そうだね

・15歳ぐらいの少年の姿
→ 公武合体政策による婚姻時期が一種の最盛期

・甘党
→ 史実の家茂は殆どの歯が虫歯になるほどの甘党だった

・役名:清水慶
→ 父がかつていた「清水徳川家」+家茂と改名する前の名前「慶福(よしとみ)

・初登場回
→ 高齢の書道の教師が家茂への授業中に粗相をしたのを察してわざと水をかけ、粗相を隠し暗に不問とした逸話+初登場回の犯人の名前に「葵」が入っている

・大阪に縁がある
→ 家茂は長州征伐の最中に大坂城で没した。享年21歳

・大切な女性がいた
→ 和葉と名前の似た皇女、政略結婚で一緒になったが仲睦まじかったと伝わる妻の存在。金魚は彼女への贈り物だった

大奥でも多分吸収されたけどそこら辺は記憶が曖昧な、後ろから数えて二番目の「徳川」……村正おじいちゃんが刺さる刺さる。
まあ、彼は並行世界で召喚された徳川なので、汎人類史の徳川とは少し違うとこがあるのかもしれない。
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