ボーイ・イン・ザ・シンデレラ   作:しらかわP

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10th stage : “Their summer is colored in a special.”

車に揺られること数時間。

目的地の旅館には昼過ぎに到着する予定である。

 

車内では相変わらず会話をする声が続いているが、詩緒を含めた数人は寝ている。

神保は各々自由に過ごしているのをバックミラー越しにちらりと見た。

 

ちとせと千夜、凪はサービスエリアを離れて皆が先に寝てから、静かに寝て静かに起床した。あきらも先ほど起きた。

あきらは周囲の様子を確認すると、寝ているメンバーに対して写真を撮り始める。

 

隣に座っているあかり、凪に寄り掛かる颯、詩緒は寄り掛かってくるりあむから逃れるように傾いており、この二人はまるでドミノ倒しを連想させるようなポーズをしていた。

あきらは許可を貰ったら後でアップしようと思い、撮った写真を全部保存しておく。

 

目的地が近くなると自然に起床するという謎の能力がまず詩緒に発動して、うーんと伸びをすると、隣のりあむも目を覚ましたらしく、グイっと手を伸ばした。

その手が詩緒の頬に当たり、ぐにゃりと彼の頬を歪める。

 

あ、ごめん、と寝ぼけ眼で謝ったりあむだったが、手を下ろした拍子に今度は詩緒の局部をぐにっと歪ませた。

わっ! と叫ぶ詩緒を見てりあむは、久しぶりに驚いたような声を聞いたな、と考える。

詩緒が慌ててりあむの手をどかし、りあむさんの変態、と小声で囁いた。彼の顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。

りあむは新たな喜びに目覚めそうになったが、ごみぇん、と舌足らずに謝る。いつの間にかその手に握っていたスマホで恥ずかしがる詩緒を連射撮影していた。

 

「え、りあむさん! やめてください!」

 

カシャシャシャシャ……と続くシャッター音に全員が何事かと音のする方向を向く。

危ない瞳の色のりあむが嫌がる詩緒をスマホで連射撮影しているという傍から見れば微笑ましいのか犯罪チックなのか分からない状況だが、とりあえず詩緒が嫌がっていたので皆で止めた。

 

「外にスマホ放り投げればよかったのに」

 

冗談めかしてちとせが言った。

ちとちゃんってたまに過激だよね、とりあむが苦笑いしており、その隣の千夜は、お嬢様は彼にとって過激というより刺激的でしょうね、と素知らぬ顔で考えていた。

 

その後、落ち着きを取り戻した車内だったが、メッセージアプリのグループにりあむが撮った羞恥を感じる詩緒の写真が投下される。

むすっとした表情でりあむを見つめたら、その顔も撮られたので、開き直ってピースをする。

次々に投下される詩緒コレクションをせっかくなので自分で保存し、SNSに『りあむさんに勝手に撮られたシリーズ』と題して投稿した。

 

「そういえばウタチャン、りあむサン、これアップしていい?」

 

あきらは、詩緒とりあむの寝顔ツーショットを二人に見せて許可を取ると、あかりと颯にも同じように許可を取り『車内で寝てるアイドルの皆さん』という一文と共に投稿。

ちなみに颯の写真のアップを最初に許可したのは、なぜか凪だった。

 

「あ、見て、海だー!」

 

颯が窓の外を見て太陽に照らされて輝く海にテンションが上がる。

海を見ながらしばらく走行を続けて、ようやく目的地に着いたようだ。

 

日焼け止めを塗り直して、車を降りる。

荷物をもって石造りの長めの階段を上がっていく。

ちとせが荷物を重そうに運んでいるのを見た神保が手伝い、上まで代わりに運んでいた。

千夜はすみません、と本来の自分の役割を押し付けてしまったことに対する罪悪感から謝罪の言葉が出た。

 

「もう二人ではありませんよ」

 

神保は千夜とちとせにそれだけ言うとずんずんと先に登っていった。

半袖ではあるが、Yシャツとスーツでこの暑さをものともしていないような姿は社会人の鑑のようでもあり、仕事が恋人のような狂人にも見えた。

 

旅館の部屋割り通り、引率の神保と詩緒の部屋、ちとせと颯とあかりの部屋、りあむと千夜とあきらと凪の部屋に分かれた。

今日のところは移動のみで以降は自由時間のようだ。

レッスンなどが目的の合宿ではあるが、今は夏休みなので遊びも大事であると神保が伝えたところ、全員海に遊びに行くことにしたらしい。

若い世代らしく思い出作りにも力を入れてほしいと思う神保だが、ここまで運転してきた疲れもあり、メンバーには引率できず申し訳ないと感じてはいるが、自分は少し休むことにした。

 

「何か困ったことがあったら言ってください。私は少し休みますので」

 

彼は早速スーツから浴衣へ着替えると、彼女たちを見送り、浴場へと向かった。

 

☆ ☆ ☆

 

アイドルメンバーがサンダルに履き替えて海へ向かう。

詩緒が男らしく諸々の荷物を持とうとしたが、千夜やあかりが分担することを申し出て結局男らしさを示せなかったが、どちらにせよ示せなかったに違いない。

 

ちとせの手伝う姿を千夜は心配そうに眺めるが、最近は調子良いんだ、と以前に言っていた言葉を信じて彼女を見守ることにした。

 

午後の三時、陽は傾き始めたが、未だに燦燦と照りつける日光は熱いほどだ。

海岸まで着くとまずは場所を確保する。パラソルを備え付けて日差しもしっかりと避けるようにした。

 

その後、詩緒以外のメンバーは近くにあった更衣室へ着替えて行き、彼は一緒に着替えに行くわけにもいかず、荷物番を申し出る。

 

しばらくして全員戻ってきたタイミングで詩緒も着替えに更衣室へ行く。

着ているものを全部脱ぎお着替え袋に詰めて、海パン一枚を履き、さっさと浜辺へ出ていく。

帽子で熱中症対策しており、現在の装備をあらためて確認すると、海パン、帽子、お着替え袋の三点セットである。

 

海に入ると日焼け止めクリームは流れてしまうので、海に入る気満々の詩緒は日焼け止めを塗るのはいいかと考える。

田舎と言えど海水浴場で、今のシーズンには観光客などもそれなりに多い。

ライフセーバーも数人いて監視を行っているくらいだ。

 

先ほどもアイドルメンバー一行はその容姿の可愛さ、美しさからビーチにいる人の視線を釘付けにさせていたのを詩緒は知っている。

ちなみに詩緒が待ってる間、自分が注目されていたことには全く気付いていなかった。

 

自分たちのスペースへ戻っているところ、女性のライフセーバーに止められる。

簡潔に言うと上の服を着なさいということだった。

 

詩緒が他の客の注目を集めていることにはすぐに気が付いたらしく、近くの人が話している会話が、上半身裸の官能的な女がいる、というような内容だったので確認してきてみれば確かにいた。百聞は一見に如かずということを実感したライフセーバーの女は現在詩緒に注意しているのだが、詩緒も引かずに男であるとの一点張りだ。

 

胸が大変に平坦なのは一目で理解できるが、それにしても男と偽るものなのかと疑って、ようやく男に見えなくもないと思い始める。

確証が持てないので処遇をどうしようか決めあぐねていたが、とりあえず痴女だと勘違いされても本人が困るだろうし、タオルを貸して上半身の一部を隠しながらメンバーがいる場所まで連れて行くのを手伝った。

 

その後、詩緒は男性だということが一緒にいたメンバーの証言で明らかになったのだが、彼女たちにとっても詩緒が変に注目されているのを看過できない。

 

すると千夜が思い出したと言って、神保から預かっていたという詩緒が着るための女性用スポーツ水着とパーカー、パレオを取り出した。

詩緒は悩んだ挙句にスポーツ水着の上とパーカーを選択し、下は男性用の海パンのままという、ちぐはぐな格好になる。

 

下もスポーツ水着だと局部の膨らみが隠せないので、嫌ならパレオも着用しておくようにとの意図だろうが、準備が良すぎてメンバーは少し引いていた。

 

現状であれば、問題ない格好に昇華することのできた詩緒をライフセーバーの女性は眺めて、満足そうに頷くと持ち場へと戻っていった。何か困ったことがあれば頼ってくださいとのことだった。

その後のメンバーからの評価はやや酷なものだ。

 

「ウタちゃんが上裸だと目立ちすぎ、悪い意味で」

 

「男の人にめちゃめちゃ見られてるの自覚した方が良いデスよ」

 

「ある程度女性の気持ちを把握するべきだと思います」

 

それぞれりあむ、あきら、千夜からの説教。

詩緒はどうすればいいのかよく分からなかったので、愛想笑いで誤魔化した。

 

☆ ☆ ☆

 

「僕、待ってるから皆は遊んできていいよ」

 

と言われてしまえばメンバーは気を遣ってしまうし、詩緒とも遊びたい。

でも誰かは荷物を見ていなきゃいけない訳で、自分がその一人になるのは嫌でもある。

プロデューサーの神保を呼べば解決なので、メッセージで呼び出してその繋ぎに荷物を見ている提案を詩緒がした。

 

また彼は女性用水着で遊びに行くのも少しだけ抵抗があった。

いつもスポブラを着けているとはいえ、それは男性用だし慣れたものなのだが、水着となると変に意識してしまい、緊張感があることに気が付いたのだ。

だからパラソルの下、日陰に隠れて目立たないように心がけていた。

 

「ちとせさんと千夜さんはいいんですか?」

 

詩緒一人じゃ心許ないし、ちとせは照り付ける日差しは苦手だし体力も弱い方だという理由で、千夜は主人の傍を離れるわけにいかないという理由で、詩緒と待機していた。

実際は詩緒が一人になってしまう状況をつくらないようにすることが大きいウェイトを占めている。つまり単純に気を遣ったのだ。

 

「ありがとうございます」

 

気を遣っているのなんか、すぐに彼にバレる。これは気を遣ってくれてありがとうということだ。

そういう敏感さを周囲の男性にも向けてほしいものだと二人は思ったが、同性ゆえの警戒心の無さがやはりあるのだろう。

絶対、何回か男性から告白されてるだろうに、と想像して少しだけ呆れてしまう主従コンビ。

特に海など開放的な場所に足を運ぶような輩はすぐに声をかけてくるに違いないし、詩緒一人では嫌がっても連れ去られてしまいそうだし、男と主張しても確かめるとか言われて結局被害を受けそうなので、あらためて考えても一人にはできないなと考える。

 

「まさか、上を着なさいって言われるとは思ってませんでした……」

 

しょんぼりとした様子でさっきあったことを振り返る詩緒。

 

「まー、ウタちゃんのこと知らない人から見たら普通じゃない?」

 

「そうですね、私も最初は女の子かと思ってました」

 

実は今でも男子扱いをし切れていない部分がある二人である。

ちとせのボディタッチが多いことがそれを示しているし、千夜も気を抜けばいつもと違う距離感で接してしまうこともある。何か教えるときとかは特にそうだ。

 

話しながら詩緒は海で遊ぶメンバーの様子を眺めていると、あかりがこっちに気が付いてぶんぶんと腕を振る。

三人とも控えめに手を振り返して答える。

 

詩緒は思いついたようにスマホを取り出すと、動画の撮影を始めた。

千夜が急にどうしたのか問うと、思い出作りという返事をもらった。

未だに千夜は男子であるというだけで、邪な目的があって水着美少女たちの動画を撮影しているんじゃないかと疑うが、詩緒の場合純粋な思い出作りと分かり、邪推した自分にちょっとだけ嫌悪する。

 

しばらく撮影しながら見守っていると、三人の男性で構成されているグループがあかりたちの方を指差しながら何やら相談しているようで、詩緒たち待機組は何か嫌な予感を覚えた。

その予感が的中したようで、彼らがメンバーの方に向かっていく。

 

「ちょっと行ってきますから二人は待っててください」

 

詩緒はそう言うとスマホを千夜に預けて、小走りで彼らの元へと向かって行った。

見ててハラハラはするが、別に普通に断るだろうし、問題ないと思っていたのだが、詩緒が飛び出していったことで余計に不安を抱えてしまった。

 

とりあえず千夜は様子見しようと思い、スマホでの撮影を続けながら成り行きを見守ることにした。最悪、千夜が出ていって組み伏せれば問題ないと彼女は考えているが、神保が許すはずないことまで気が回らなかった。

 

急に話しかけられたメンバーは明らかに動揺しており、ナンパだと気が付くと距離を取りつつ断っている様子で、そこに詩緒が割って入った。

可愛い子が増えたと勘違いしている男性から少し下品な笑みがこぼれる。

 

何かをお互いに説得し合っている様子で良い空気感とは程遠い。

何を話してるんだろう、と千夜は思ったが次第にその空気感は穏やかになっていき、最後は詩緒の相好も崩れる。

男性たちは手を振って去っていき、詩緒もお辞儀をした後で手を振り返してお別れしていた。

 

「どんな手品を使ったんでしょうか?」

 

「きっとアイドルにしか使えない魔法でしょ」

 

メルヘンチックなちとせに相槌を打って、千夜は笑顔で戻ってくる詩緒に労いの言葉をかけたのだった。

 

☆ ☆ ☆

 

空が真っ赤に染まった頃、疲れを癒していた神保がラフな格好で迎えに来た。

六時手前となれば辺りが暗くなるのも近く、心配で様子を見に来たのだが、同時に神保はこの時間までぐっすり寝ていたということを素直に話して謝っていた。

 

いつもお疲れ様、そしてこれから戻るところだったから休んでいてよかったのに、ということをメンバーが伝えると、神保は嬉しそうに微笑んだ。

 

とりあえずアイドルには更衣室で着替えてもらい、神保は重たそうな荷物を持って先に戻っていった。

 

メンバーたちはシャワーで流した髪をわしゃわしゃとバスタオルで拭い、各自の荷物と神保が持ち切れずに置いていった荷物を持って、旅館へ帰る。

 

結局、全員が海ではしゃいでびしょ濡れになり、疲労感はかなり蓄積されている。

詩緒や颯、りあむは欠伸が止まらないし、ちとせや千夜も珍しくそういった姿を見せていた。

 

「楽しかったですねー♪」

 

そんな中で久しぶりに来た海水浴場に興奮しっぱなしのあかりがニコニコと感想を言った。

実家の林檎農家を手伝っていたというだけあって、体力は多いらしい。

 

それぞれ部屋に戻ると、明日から本格化するアイドル活動に備えて食事を取って休憩するように神保が部屋を回った。

 

海でべた付いた海水を流すため、旅館の大浴場にメンバーが向かう。

神保は海辺には出たが、休憩した後にちょっと迎えに行く程度だったので汗もそれほどかかず、詩緒は一人で男湯へ入ろうとすると、どこ行くの? とりあむに腕を掴まれたが、間もなくして、そういえば男だったと掴んだ手を離した。

 

「やー、ごめんごめん」

 

「心配しすぎですよ。生きてて今まで大丈夫だったんですから……多分」

 

何か不幸なことを思い出したのか不穏な一語を足すと、逃げるようにして男湯の脱衣所に入っていった。

その後、男性の驚いたような声が聞こえてくる。まあそうなるよね、と肩を竦めて凪が女湯の脱衣所に入っていったことで、他の全員も心配を余所に脱衣所へ入ることにした。

 

男湯では他にいる男性客が、内心でなんで女子が来たのかと考えていたが、詩緒が服を脱ぐと、男かよ! と口には出さないものの、その驚愕からツッコミを入れる。

浴室で身体を洗う詩緒は、基本的に、長めの髪と綺麗な背中しか見えないため、他の人の目には官能的に映り、彼が泡泡にした身体を流す光景に息を呑んでいた。

しばらくすると、男性客はそそくさと出ていって詩緒一人になってしまう。

 

「貸切状態だー」

 

一人で大浴場を独占した貴族みたいな詩緒は静かに湯船に浸かって、疲れた体をしっかりと癒す。一人は少し寂しくもあり、隣のお風呂場ではどんな話をしているのかなと思いを馳せてしまう。

別に女湯に行きたいわけではない、と誰にするでもないのに心の中で言い訳した。

 

こちらはすっかり静まり返ってしまったのに比べて、壁を隔てた隣の湯ではよく知っている声がワイワイと楽しそうにしているのが聞こえてきた。

ちょっと羨ましいと思う感情とは別に、よくわからないがムッとしてしまうような気持ちにもなった。

何で少しイラついているんだろう、と不思議だったが振り切るように頭を左右にぶんぶんする。

しばらくしてポーっとしてきたので、隣から伝わる賑やかな雰囲気を背に浴場から出るのであった。

 

☆ ☆ ☆

 

部屋に戻ってきた詩緒は一人ではなかった。

何やら若いお兄さんが複数人おり、詩緒に肩を貸すような形で部屋まで運んできた。

 

一瞬何事かと思ったが、部屋に戻ってきた詩緒の瞳があんまりにもトロンとしており、逆上せた様子だったのをすぐに察した。

 

連れてきてくれたお兄さんに話を聞くと、廊下でフラフラしていて危なかったので連れてきたとのこと。

実は海岸でメンバーに声をかけてきた男性グループで、詩緒が穏やかに追い返した人たちなのだが、どうやら一緒の旅館に泊まっていたらしい。

 

「わざわざありがとうございます。うちのアイドルがご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」

 

神保が深々とお辞儀をすると、男性たちは言葉に詰まりつつも、気にしないで、と言ってくれた。

上気してふにゃふにゃの詩緒も彼らに振り返り、小首を傾げる。疲労も相まって首が座っていないらしい。

 

「ありがとう、ナンパのお兄さんたち」

 

そうやって笑顔を見せながら、またねと手を振ると、男性たちは照れつつも手を振り返して彼らの部屋に戻っていった。

 

他のメンバーから聞いた話によるとナンパを撃退したらしいが、今の人たちだろうかと勘繰った。詩緒もナンパのお兄さんと呼称しているところ見たらそうなのだろう。

その割には良い人たちだったと感心するも、詩緒が未だにフラフラした様子だったので、布団に寝かせて団扇で扇ぐ。

 

するとすぐに穏やかな寝息を立て始めたので、よく寝る子だなと思いながらそっとしておく。

食事までに時間はあるが、一応用意してもらう時間を遅らせてもらおうと神保は食堂に足を運ぶことにした。

 

☆ ☆ ☆

 

詩緒が目を覚ましたのは一時間くらい経った後である。

部屋は神保と二人のはずなのにどこか活気があるので、メンバーが来ていることがぼんやりと分かった。

 

「あ、起きた」

 

詩緒の寝姿を観察していたらしい凪が一言発すると、全員が詩緒に注目する。

ゆったりと起きた詩緒の浴衣がはだけており、肩をがっつりと露出する姿を見たりあむがサムズアップして、優勝と呟いた。

 

「逆上せちゃったんだって? あのお兄さんたちに変なことされてない?」

 

心配そうに聞いてくるのはちとせで、お兄さんたちがたまたま来て詩緒が部屋にいる経緯を話してくれたらしい。

最初はナンパ目的だと疑いの目を向けていたが、特にそれ以上絡んでくることなく去っていったのでお礼だけしておいたとのこと。

 

「良い人たちでしたよ」

 

簡潔に答えると、ホッと胸をなでおろした様子の他メンバー。

 

「先にお風呂出てたんデスね」

 

あきらが得心したように言う。

詩緒を待っていたのに、いつまでも来なくて心配していたらしい。

 

「うん、先に戻っちゃってごめんね」

 

逆上せたなら仕方がないと許したが、詩緒の様子が少しおかしいことに気が付く。

どうかしたの? と問えば、何でもないよ、と普段通りに答えるのだが、いくらか問答を繰り返しているとやがて、楽しそうだったよね、という言葉を詩緒から引き出した。

 

詩緒の態度におやおやと納得した数名は、にやりと嫌な笑みを浮かべる。

さすがに詩緒もこの笑顔の意味に気が付いて、これから揶揄われることを悟った。

 

「一人で寂しかったんですか」

 

「これからはウタちゃん改め構ってちゃんでいきましょう」

 

「そういうことは、はーに言ってくれないとなぁ」

 

「#意外な可愛い一面 見つかったね」

 

詩緒は夜ご飯の話題に変えようとしたが、時すでに遅く、生温かい目で全員から見られてまた逆上せるような感覚を味わい、そして不貞寝する。

お腹も空いてきたメンバーは冗談だよ、と詩緒を宥めて食堂へ向かうことにしたのだった。




どこを描写してどこを削るか、いつも悩みます。

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