「クリスマスが今年もやってくる♪」
そのフレーズの後、フンフンと鼻歌を歌いながら上機嫌な様子を隠そうともしないのはクリスマスイベントを控えた詩緒だった。
「あはっ♪ ウタちゃん、上機嫌ご」
隣で座って聞いていたあかりも、そのうち一緒に鼻歌を歌いながら、左右に揺れてノリノリだった。
「うぉおおおお! 何だこれ!? てぇてぇなぁ!」
悶絶しているのはりあむで、久しぶりに詩緒に会えたことと、推しと推しが仲睦まじくしていることに感情が昂ってしまっている。
傍から見れば厄介なオタクそのものであるが、特に水を差すようなプロジェクトのメンバーではない。
「この八人でラジオって初めてじゃない?」
あきらがマスクをみょんと引っ張りながら言う。
ちなみに公開収録も八人全員が初めての経験である。
「仕事になるか怪しいものですが……」
千夜が懸念するのも無理はない。
彼らのテンションがいつも以上に高いし、ちとせすら浮足立っているからである。
気持ちは分かるけれど、仕事なのだからもう少し落ち着きをもって適切に進行してほしいというのが、千夜の内心である。
公開収録の前後にはライブパフォーマンスもあるし、裏方のスタッフは今日も忙しなく動き回りそうだと考えているのは、先程から鼻歌交じりでのんびりとしているように見えていた詩緒である。
彼はプロデューサーもいないソロの活動を通して、プロとしてどうあるべきかを他の出演者や製作スタッフから学んだりと、それなりに経験を積んできたことで少しだけ思慮深くなったらしい。
本日の進行の流れは全部頭に入っており、準備もできているため、えらくのんびりと構えているのだった。
それに今回のイベントの進行はほとんどメンバーへ投げていて、ギュッと纏めてしまえばA4用紙二枚くらいに納まりそうなものである。
「まさかサンタコスとは、凪の知られざる能力が目覚めてしまったようです。異能ですね。忠敬ではありません」
詩緒が思わず、歴史上の人物だと誰も思っていないことをツッコむ。
すると颯もやって来て、相変わらず凪の変な発言に反応する詩緒に、別に反応しなくてもいいことを伝える。
「それにしても、なーのサンタ衣装は間違いじゃなかったんだ。まあクリスマスだけど、この衣装は見た目寒いよねー」
凪の予言に対して素直な反応を見せた颯だが、すぐに切り替えて全員の衣装を見比べる。
今日は詩緒もミニスカートということで、下にストッキングやらの防寒着は用意しているものの、お臍は出ていたりと、露出が少し目立つ。
プロデューサーやスタッフもアイドルが身体を冷やさないように暖房を付けたり、毛布の用意をして対策を取っている。
ただ颯が注目しているのはそういった露出ではなく、胸元を覆っている衣服の膨れ具合であった。
りあむは言わずもがなで、颯もついつい視線が吸い込まれてしまうほどの大きさだ。その身長からどうしてそこだけ育ってしまったのか尋ねたいところである。
詩緒も言わずもがなで、相変わらずのつるぺったんだが、そんなことがどうでもよくなるほどサンタ衣装が可愛らしく決まっている。
そもそも性別の壁すら破壊してしまっているので、彼の胸の大きさ云々については当然注目すべきポイントではない。
「自信無くすなー」
色んな魅力を持つ個性的なメンバーと衣装を合わせるのは久しぶりだし、楽しみであったが、久しぶりゆえに自分と比較してしまい、彼らの魅力をあらためて思い知るのだった。
「はーちゃん、自信無くすって?」
どうしてなのかと詩緒が問うと、颯は自分に強い個性が無いというのだった。
メンバーの皆を見ているとチャームポイントを見失うらしい。
ただ、他のメンバーから言わせてもらえば颯も十分に個性が強い。
「いや、颯チャンこそ活発で綺麗な銀髪で双子って #個性の欲張りセット じゃん」
「個性の欲張りセット!?」
何それ、と思わず声を荒らげた颯だったが、他のメンバーも納得しているように頷いている。
「だから、颯ちゃんは自分を認めてもいいんじゃない? いつもアイドルに真摯に向き合ってる颯ちゃんが一番かっこいいよ」
リーダーのちとせが颯を励ます。
久しぶりに会うちとせはユニット活動の反動なのか、成果なのかは分からないが、以前よりもよりリーダーらしく見えた。
ただし、ちとせはちとせで、自称ヴァンパイアの末裔でプロジェクトメンバーで随一の美しさを誇る女性なので、こちらも強い個性と言える。
結局のところプロジェクトミーティアとは神保が集めた強個性集団なのかもしれないと、詩緒は密かに考えて、口に出すのは止めておくことにした。
「恋人がサンタクロース♪」
その代わりに詩緒は楽しくなって、歌い出す。
彼の歌が上手いので、メンバーの皆はずっと聞いておきたいところだったが、歌詞が今の自分たちの衣装とぴったりだったので口を挟まずにはいられない。
「恋人はぼくでしょ?」
ドヤ顔でりあむが自分を指差した。
ただしこの歌によるとサンタクロースは背が高いため、一瞬で否定されたりあむがいじける。
「まあ背の高いサンタクロースが務まるのは私くらいじゃないかな♪」
にんまりと悪戯な笑みを浮かべたのはちとせで、確かにこの中では一番背が高いので適任だろうが、詩緒は自分が男として見られていないと思っているので、簡単にスルーしておいた。
久しぶりのメンバー同士の談笑で、一生この時間が続けばいいのに、と詩緒も仕事を忘れそうになりながらも開演のブザーが鳴り響く。
相変わらずリハーサル無しの一発勝負なんて無茶なことをするし、今までそんな無茶をさせられてきたなと振り返る。
ステージの裏ではメンバーが早速、注意事項などのアナウンスをする。
会場から響いていたファンのざわめきは静かになり、アナウンスに聞き入る様子が裏側まで伝わってきた。
アナウンスが終わると会場は暗くなり、来るぞ来るぞと期待の声が聞こえ始めた。
数秒後、イントロが流れて会場が沸く。
アイドルの登場でさらに会場は沸き、メンバーはその広さを埋め尽くすファンに少しだけ驚いた。
会場を見た時、確かに広いなとは思っていたが、人が埋まるとこんなに壮観なのかということ、同時にこのキャパをこのメンバーで埋められたという感動に言葉が詰まりそうになったが、今はライブのパフォーマンスの時間だ。
アイドルとして、プロのパフォーマーとしても下手なものは見せられない。
大きな会場としては、実にミュージックJAM以来である。
投票で惨敗した苦い経験をしているので、ファンには格好付かなかったけど今は胸を張って、ここまで来れたとファンに対して言えそうだった。
☆ ☆ ☆
ライブパフォーマンスが終わってラジオの公開収録パートに入る。
未発表の曲を初披露したことを伝えると、会場からは拍手が起こった。
「拍手の音も入るんだ?」
ちとせが、へぇと感心したように言う。
「ウタちゃんが話している時は静かにしろよオタクたち」
早速、炎上上等とばかりに客に啖呵切っていくりあむに野次が飛ぶ。
「りあむさん、それ僕がずっとすべってるみたいになるから、お客さんには反応してほしいんですけど」
詩緒がぼやくと、確かに、と颯が笑う。
その後も、りあむとそのファンを全員で宥めながら話を展開していき、とても良い雰囲気で観覧も楽しめている。
開始からわずか十分くらいでトレンドに入るくらいにはネットでの注目も高く、話が随所で盛り上がるので、お便りがなかなか消化できずに余ってしまいそうな点が懸念事項であった。
一つのテーマでも八人集まれば、トークがなかなか終わらないので、痺れを切らしたスタッフがカンペに『そろそろ次のお便り』と書いて、アイドルに見せる。
「続いてのお便り行きます?」
そのカンペに気が付いたあかりが隙を見てそう言うと、そうだねとあきらが同意しながら次のお便りを手に取った。
これからまた盛り上がりを見せそうだったトークが切られたので、颯が不思議そうな顔をするが、凪がカンペを指差して気付かせる。
「ほんとだ、カンペ!」
気付かなかったの!? とついつい詩緒が驚いて叫んだが、嫌味な感じに聞こえないのも普段の行いやキャラクター性の賜物だろう。
「一枚目のお便りの途中でカンペ出ることある?」
呆れたようにちとせが言い、渋々といった感じで次の話題へと移る。
あきらが、全員の名前の後、こんにちはと読み上げて、メンバー全員も、こんにちはと挨拶をした。
「『毎年クリスマスになると最寄り駅が色めいて、毎年残業で仕事に帰る僕にとってはまさに地獄そのものです。ただ、相手がいる人にとっては出費も嵩む時期だと思いますので、こういう時は独り身で良かったのかもしれないと思うのですが、皆さんはクリスマスプレゼントがあるなら何が欲しいとか、誰に渡したいとか、ありますか? ちなみに僕はこのクリスマスイベントのために二週間前から何とか時間を作ってやるという意気込みで仕事を調整したので、チケットが当たればそれが最高のクリスマスプレゼントになりそうです。』……だって。この人今いるのかな?」
あきらが読み終えて軽く感想を呟く。
チラリと観客を見回すが、分かるはずもない。
「実は今日、急に先方から納品物が届いてないという報せが来て、慌てて地方まで向かい直接納品して、帰りの新幹線の中でクリスマスを過ごす羽目になったり……」
凪が無駄に詳細なネガティブシチュエーションをぺらぺらと話すと、観覧席から苦笑が聞こえる。
悲しすぎるとメンバーから同情の声が飛ぶが、別にそうなったかは定かではない。
「もしかしたらチケットが取れなかった可能性もありますからね」
冷静に千夜が分析する。
その後、詩緒が観覧席に向けて、このお便りくださった方いらっしゃいますか? と尋ねてみると真ん中あたりで一人だけ挙手する客がおり、その周辺から俄かに騒めきが起こった。
おお~、と感嘆の声を漏らす他の客と、良かったぁ! と盛り上がるアイドルのメンバーたち。
結局、クリスマスプレゼントの話題に戻るまで五分くらい掛かり、それぞれがどういったプレゼントが欲しいとか、誰にあげたいとかを語り合う。
「ぼくは金が欲しい。みんなも欲しいよね?」
りあむが先陣切って獣道を進んでいく。
あきらからは、アイドルがあんまりそういう夢のないこと言わない方がいいデスよ、と心配して注意したようだが、冗談だよ! とりあむはすぐに撤回した。
さすがのりあむも冗談らしく、そもそも最近はアイドルの収入も安定しているので、おねだりするほど困ってもいない。
「あー、まあ、あれだよ。欲しいやつ。あれ」
照れているのか、やけにしどろもどろなりあむを珍しいと思うメンバーであったが、そんな恥ずかしいものかと聞くのも何だか悪い気がして聞くに聞けない。
そんな中、詩緒が一人だけ納得いったようにうんうんと頷いている。
「ウタちゃん分かるの?」
ちとせが彼の様子を見て尋ねると、何となく、とはにかんだ笑顔を見せる。
可愛い、という言葉は口にせずに心に秘めて続きを促す。
「りあむさんが考えてるの多分あれですよ……。なんか真面目に言うと恥ずかしいですけど……」
詩緒も少し照れ始めたので、颯が客に対して、聞きたいよね? と煽ると観覧から、聞きたい! と声が返ってくる。
皆さんの声もラジオに乗っています、と凪が状況を伝えて笑いに変える。
数秒くらい渋った詩緒だったが、観念して話し始める。
「あの……メンバーの皆と遊んだり、一緒に仕事したりする、時間が欲しいです……」
ウタちゃん! と表情を明るくさせるのがあかりだった。とても嬉しかったのだろう。
詩緒の恥ずかしがる理由に、なるほど、と得心した他のメンバーは、意見が同じだったであろうりあむの反応を窺ったが、彼女は、え? という表情をしており、明らかに違う意見を考えていたことが伝わってくる。
「さ、ささ、さすがウタちゃん! めっちゃ分かってるぅ! エモ!! 神!!」
「答えが想像していたのと全然違くて、困り果てながらも、さらに斜め上の答えが返ってきたので、推しを崇め奉るりあむさんがこれです」
慌ててりあむが立ち上がって表情を輝かせながら支離滅裂なことを叫んでいるのは、解説した凪の言葉どおりで、要するに詩緒がそんなことを思っていると知って興奮しているからだった。
「もちろん、今日来てくださった皆さんがこんなに笑顔になってくれることも、僕にとって本当にかけがえのないプレゼントです」
まるで告白するみたいに顔を真っ赤にしていたので、自分ではクサいことを言っているのだと自覚しているようで、恥ずかしい理由も腑に落ちたが、これを本心で言っているかどうかがファンにとっては重要なことだ。
もしかしたら演技で言ってるんじゃないかと疑う人もいる。
「詩緒くんはこれ本心で言っていますよ。話す内容について台本とか無いですし、裏でもこんなこと言っていますし、皆でいるとちゃんと楽しそうにしています」
しかし、あんまり冗談を言わない千夜が、ここまで詩緒の発言を補強しているのだから間違いないのだと観覧している客は理解した。
そして詩緒の株がやや上がった。
「まー、皆も同じような感じだと思うけどね。アイドルやってて、今更あれが欲しいとかこれが欲しいみたいな物欲は無くない?」
ちとせが会話を引き継ぐような形で話題を戻す。
確かにそうだ、とメンバーが欲しいプレゼントは、ファンや皆といる時間、ということになり観覧から拍手が起こった。
その後は、時間を掛けながらも安定したトークで場を盛り上げ、イベントは恙無く進行していった。
☆ ☆ ☆
クリスマスという聖なる夜に一仕事を終えたアイドルたちは、現在事務所で打ち上げをしていた。
補導されるという時間の都合上、あと少ししかいられないが、ピザとクリスマスケーキを食べながら談笑するという過ごし方をしている。
ただし、わいわいするだけでなく、SNSでエゴサーチをしており、どうやら今日の反省会も兼ねているらしい。
「結構、評判イイじゃん!」
「いいね! #ミーティアクリスマス会 とか #ティアマス会 とかトレンド入ってる」
颯やあきらはネットでの評判に思わず顔がにやつく。
ちなみにネットニュースやまとめの記事にもされていて、掲示板の伸びも凄いとのこと。
しかしながら、それでも全員の表情は浮かない様子だった。
メンバーの皆がニコニコしている詩緒を見ては少しだけ胸が締め付けられるような気持になる。
「ウタちゃん……」
りあむが心配そうに声を掛けるが、詩緒はどこ吹く風であり、逆に皆に心配をかけてしまっていることに罪悪感を覚えていた。
「りあむさん、そんな顔しないでくださいよ。まだ決定したわけじゃないですから」
泣くほど、とまではいかないが少しだけ寂しそうな様子であり、残念そうに眉目を歪める。
こういう空気になっているのはクリスマスイベントの最後に発表されたお知らせが原因であった。
好評だったイベント関連の記事に混ざる『水上詩緒、シンデレラガール総選挙不参加』の見出し。
発表されたのはクリスマスイベントの終了直前で、なぜあのタイミングだったのか、など不平不満が連ねられていた。
ネットを通して『不参加ならなぜ美城のアイドルとして活動させているのか』、『当然の処置』などの様々な意見が飛び交い、一部収拾の付かない状態になっている。
不参加の理由は明白で、詩緒が男性だからという理由に尽きる。
決定するのは『シンデレラガール』なのに、男性が獲得したらそれは違う、というのが社内の会議で決定したことであった。
最近では特に活躍をしている詩緒であったが、かなりの注目が集まる舞台で、視聴者の混乱を招くことを防ぐためという理由も兼ねている。
神保は徹底的に抗議し、今もなお参加を認めてもらえるように進言しているが、意見は通っていない。
詩緒がアイドル部門にとっていかにイレギュラーな存在であるのか、あらためて窺えるが、知名度や人気は今も右肩上がりで、いまさらアイドル部門以外に配属するのは難しい。
神保は何度か、詩緒が男性のいる別部門に異動してもらえないか、という打診をされたことがあるが、詩緒まで通さずに拒否している。
とりあえず、この場は打ち上げということもあって和やかな雰囲気で終わり、解散した。
神保は今後の仕事の調整を考えながら、気分転換がてら後片付けを行っていた。
彼は、詩緒がいかにして総選挙へ参加できるかも考えていたが、正直言うと八方塞がりでもあった。
彼が参加できれば上位に食い込める確率は限りなく高い。
そうすればプロジェクトのメンバーもさらに何段階か知名度が上がり、プロジェクトの地位を確立できる。
神保は自身が見出したアイドルのために出来る限り尽力しようと決めていたのだ。
上手くいかないことに次第に怒りが沸いてくるのを感じて、物に当たりそうになったが、不意に扉が開くことで思いとどまった。
「プロデューサーさん」
神保は扉の方向に振り返り、いつになく神妙な面持ちの詩緒がそこに立っているのを見た。
「まだいたの? もう十時を回るから早く帰りなさい」
神保が少し強い口調になってしまったのは、先ほどまでの自分の感情に引っ張られていたからだろう。
言い過ぎてしまったかもしれないと反省しようと深呼吸して詩緒を見ると、彼もまた強さを感じさせる瞳で神保を見ていたのだ。
「何で僕に言わなかったんですか?」
何を、と聞く必要もなかった。
発表まで何も聞かされていなかったのはファンやメンバーだけでなく、詩緒自身も同じであったのだ。
神保が、それは、と言い淀む。
「僕に関わる事なら、僕にまず言うのが筋なんじゃないんですか?」
神保は詩緒の強い口調を今まで聞いたことがない。
それに彼が言っていることはもっともで、反論の余地もなかったが、神保は言い返してしまった。
「参加できるように、選挙が始まる直前まで粘ったんだけど、駄目だった」
話し合いにならない言い訳がましい発言に、詩緒は溜息を吐く。
「僕が言ってるのはそういうことじゃないです。僕は絶対に参加したいなんて言ってません」
神保はきょとんとする。
彼の言っている意味が分からなかった。
「待ってくれ。君が参加すれば上位は狙えるし、プロジェクトの地位も確立するはずだよ。社内でも融通が利くようになるし、メリットしかない」
相変わらず言い訳がましく、会話が成立するような状況ではない。
初めて見る神保の姿に、詩緒はそっと目を逸らした。
「だからって僕に相談しない理由にはならなかったと思いますけど……。早めに言ってもらえれば、ファンの方をがっかりさせることもなかったし、僕だって期待しませんでした。結局のところ、プロデューサーさんがどうしても僕を参加させたかったからですよね? それで勝手に粘って、結局ダメで、突発的な発表になっちゃって……。最初から参加できないって言っておけば荒れることもなかったと思います」
そう言うと、詩緒は少しの間だけ瞑目した。
神保は詩緒の肩が小刻みに震えているのが分かって、言葉を失う。
詩緒は目を開けて、普段のような笑顔を作ってみせると、変なこと言ってごめんなさいと深く頭を下げる。
顔を上げた彼は目尻に涙を浮かべていたように見えて、神保は心配そうに手を伸ばしたが、掛ける言葉が見つからなかった。
「今日はありがとうございました。素敵なイベントで楽しかったです。またやりましょうね」
まだ煮え切らない思いを抱えた様子で詩緒が部屋を出る。
普段ならプロデューサーのやりたいことを肯定して、文句なくこなす詩緒だが、今回はファンが愕然としている様子を目の当たりにしているのも、注意させてしまった要因の一つであり、詩緒本人でも気付いていないが、プロデューサー抜きで別の大人と現場へ行くこともストレスになっていたようで、今回のケースに至ってしまったのだ。
神保は、詩緒の事を考えているつもりだったが、その実、自身のエゴで今回の事態を招いてしまったのだとようやく気が付いた。
その時にはすでに遅く、彼はアイドルたちが聖夜を祝福し終えた部屋に一人残されているのだった。
創作というのは二次創作でも難しいことが多いですね。