詩緒と颯、凪の三人はIUに参加してからというもの、より順調なアイドル活動を送ることができていた。
オーディションへのモチベーションがそのまま仕事へのモチベーションとなり、ライブや撮影、収録など様々な現場で高い評価を得ているため、次の仕事にも繋がる。
一度は意欲を失いかけたものの、ここ最近では活力をすっかり取り戻し、当初よりも貪欲にハイペースで仕事に取り組んでいる彼らの姿勢を、間近で見ている神保やプロジェクトのメンバーは素直に応援したい気持ちであったが、それと同時にいつどこで磨り減るのかが心配でもあった。
神保の取り計らいもあってなるべく詩緒、颯、凪の三人で行動させるように仕事を選んではいるが、土日ですら休みが少ない中活動を続けていけば、ストレスの発散が間に合わなくなるだろう。
そんなことを懸念していた神保であったが、詩緒たちは上手に息抜きができているようで、むしろ会社の同僚にも見習わせたいくらいだと思った。
仕事の合間にちゃっかりと近くの屋台へ行ったり、カフェに行ったり、他にもアクセサリーや洋服を見に行ったり、ふわっと姿を消すことが多々ある。
三人はスタッフに伝えて、手の空いている大人がいる時は付き添ってもらいながら遊びに行き、休憩終わりの十分前に帰ってきてしっかりと仕事をこなしていくため、周囲のスタッフも全く問題視していない。
電話の呼び掛けなどには、ほとんどワンコールで応えるので不安になるようなことも少なく、神保とのやり取りも密に行っているので彼らの直の上司と連携が取りやすいのも安心できるポイントの一つであった。
彼らはそうして業界での評判が伝播して知らず知らずのうちに信頼を得ており、IUへの参加中や世間からの支持という要素もあり、先方としても起用するには優秀な人材だと言えた。
そんな彼らは今日も撮影の休憩中に渋谷の街を散策していた。
「今日はどこ行く?」
詩緒が二人に尋ねる。
そこまで時間は取れないので、帰りの時間も考慮しながらスマホで周辺のマップをチェックしている。
久川姉妹は他の事に夢中になると抜けてしまう所があるので、この中では年長者でもある詩緒がタイムキーパーの役割を担う。
「はーは甘いの食べたいな~」
「はーちゃんは本当に甘いの好きですね。たくさんお食べ。凪は妹を甘やかします」
詩緒もスイーツが好きなのでいつものように提案されても特に反対することなく、むしろ颯が提案してくれることを有難いと思っていた。
「何食べる? パンケーキ……は昨日食べたし、クレープもその前食べたね。フレンチトーストとか?」
詩緒は指折り数えながら前回食べたもの、その前食べたものを思い出していく。
スマホで検索した近場の店舗の情報に目を通していると、美味しそうなフレンチトーストの写真が見えたので、提案している。
どうやら彼らのマイブームは都内のスイーツ巡りらしい。ちなみに以前はショップ巡りだった。
「いいじゃん、フレンチトースト! ていうか写真のやつ美味しそう!」
詩緒が二人にスマホを向けると、颯は目を輝かせて画面の写真に見入っていた。
「フレンチ。とても高級感あふれる響きですね。ブルジョワ、パリジェンヌ、ボンジュール」
とりあえず高級そうな単語を並べている凪だが最後に、じゅるり、とわざわざ呟いていることから食べたいという意思表示が窺える。
場所も近いので、そのまま歩いて店に行く。
若者中心の渋谷ではアイドルの中でも勢いに乗る三人を知っている人は少なくないようで、
すれ違う人たちが、きゃっきゃっとはしゃいでいる様子の三人を見ては、もしかしてと振り返ったり、SNSに投稿したりと、それなりに注目を浴びる。
当の三人は休憩中だしすぐに現場に戻るからと考えて、特に変装もしておらず、注目されていることにも気付いていないようだった。
それよりもフレンチトーストに脳内リソースを割き、近くには他にも専門店があるようで、このお店も美味しそう、など楽しく話し合っている。
歩いて五分程度で目的のお店に到着した。外装が多少大人びたような雰囲気で一瞬尻込みしたが、詩緒が率先して店内に入った。
若い女性の店員が出迎えて、三人を見ると少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに営業スマイルに戻し、詩緒たち三人を席に案内する。
「フレンチトーストを三つと、僕はカプチーノをお願いします」
それぞれにおしぼりとお冷が配られたタイミングで詩緒が注文を切り出す。
二人は飲み物どうする? と気を遣う紳士的な対応は、颯と凪に詩緒が男の子であることを再認識させる。
基本的に詩緒の性別を忘れがちであるが、一緒にいて楽しいし、たまに年上として引っ張ってくれるような頼れる部分も垣間見えるので、ちとせが惚れてしまう理由も分からないでもない、と二人は納得していた。
「じゃあ、は……私はミルクティー!」
「ストレートティーを所望します。ストレートなティーなので、ただただお茶ですね」
昼下がりの可愛らしいお客さんに、店員はニコニコしながら丁寧に対応する。
このお店に中高生だけで来るには少しお高めの値段がメニューの横に記載されており、ややハードルが高く、周囲の客層も見たところ主婦やOLが多いため、詩緒たちは幼さゆえに少し浮いているような雰囲気だった。
その場の雰囲気にそぐわないだけでなく、美少女かつテレビに出るほど有名人であることも手伝い、周りからかなり注目されている様子だ。
三人はそんな周囲のお客さんの視線など気にすることもなく談笑しながら注文したメニューが来るのを待つ。
その後、数十分でお目当てのフレンチトーストが提供され、写真と変わらない出来映えに満足しながらそれぞれで写真を撮る。
颯はついでとばかりに三人で食事をする様子を自撮りした。
どうやら食べ終えてからSNSにアップロードするらしい。
フレンチトーストをナイフとフォークで一口サイズに器用に切り分け、いただきますと言いながらフォークで刺して口へと運ぶ。
「んん~! 美味しい!」
颯が口に入れた瞬間に唸りを上げて舌鼓を打った。
もきゅもきゅと咀嚼するたび、パンに染み込んでいるオリジナルの調味液が程良い熱を通されたことで、口の中に香ばしさと控えめな甘さをふんわりと感じさせる。
「ね。凄いふわふわだし、飽きない甘さで食べやすいね」
詩緒は颯に同意したうえで、まるで食レポのような感想を言う。
「控えめな甘さでとても良いですね。でも凪は蜂蜜シロップ」
凪は一口食べてから甘さが物足りなかったのか、それともシロップを試したかったのか分からないが、かつて朝の情報番組の料理コーナーで見たように、自分の目線よりやや高い位置からシロップを適量かけた。
そして一口食べてじっくりと味わってから飲み込み、ストレートティーで喉を潤す。
「ただのお茶と良く合いますね」
紅茶をただのお茶と形容する凪には現在情緒が欠けているようだが、味覚音痴というわけではなく、その組み合わせを楽しむだけの余裕があった。
「生クリーム付けても美味し~」
終始幸せそうな颯は頬っぺたにクリームを付けるほど夢中になっていた。
頬にクリームが付いていることを詩緒が指摘すると、取って、とお願いされたためおしぼりで拭ってあげる。
その時、あまりにも自然に顔を寄せてきたので、ちとせの影響かお嬢様然とした振る舞いも様になってきたのかも、と詩緒は颯の表現の幅が広がったことに関心を抱いた。
そもそも銀髪のロングヘアという浮世離れした容姿が異国のお姫様のような雰囲気を醸し出しているし、お嬢様であるちとせとはまた違った神秘に包まれており、魅力的に映って見える。
彼女の隣には双子の姉がいて、顔は瓜二つなのだが容姿はお互いに寄せていないため、纏う雰囲気は丸っきり異なる。
そんな凪の鼻先には生クリームが付いており、そういうところは双子なんだな、と詩緒は微笑ましく思った。
「なーちゃんも鼻にクリーム付いてるよ」
詩緒は自分の鼻先を指差して凪のどこにクリームが付いているかを教えると、彼女は指先でちょんと鼻に触れ、指に付いたクリームを確認し、わーお、と呟きながらぱくりと舐め取った。
「ちゃんと取れました?」
凪も詩緒に顔を近付ける。
詩緒がじっと確認すると、クリームがまだ微妙に残っていたのでおしぼりを手に取り、颯と同じく綺麗に拭き取る。
凪は苦しゅうないとでも言わんばかりに、満足気に鼻を鳴らした。
ネットでは不仲やら様々な憶測が飛び交っているが、今この場にいる全員は彼らの仲が良さそうであることを疑わない。
食事を終えて席を立とうとしたところで店員がやって来た。
サインをいただけないかとお願いされる。
店員は色紙と油性ペンを持ってきていた。
詩緒たちは顔を見合わせ、アイコンタクトで問題ないでしょうと伝え合い、すぐに詩緒が二つ返事で了承した。
一人一枚、色紙にサインを書いて店員に渡し、席を立つ。
「ごちそうさまでした!」
お会計を終えた詩緒はサイン色紙を持ってきた店員に笑顔を向けて店を出る。
店員の女性は三人の写真が載る雑誌を帰りに買おうと心に決めるのだった。
☆ ☆ ☆
本日、IUの本選出場をかけたオーディションが行われる。
詩緒、颯、凪の三人は欠けることなく予選を突破していき、今まさに会場まで足を運んでいた。
社内でも三人の活躍は広まっており、同時に実力のあるアイドルとしての指針でもあるため、企業からの評価も上がっていた。
ただの事務所推しのアイドルというだけではなく、IUの四次予選を突破したことで努力や資質を認められているのだ。
「今日を抜ければようやく本選だー!」
颯が握りこぶしを突き上げてやる気を見せる。
彼女の普段の仕事ぶりは現場のスタッフや局のプロデューサーからも気に入られており、凪と共に順風満帆な様子だ。
今勢いに乗っている彼女たちからはパワーが漲っており、前回の予選で同じ会場だった颯と凪のパフォーマンスを詩緒は見ていたが、本選は固いと思えるほど目立ったものであった。
「頑張ろうね! 三人で本戦出よう!」
二人の勢いに負けないように自分も鼓舞する。
控室には詩緒たちと同じように予選を突破してきたライバルたちがいるため油断はできない。
披露するパフォーマンスはその日のコンディションによって大きく左右される。
体調が悪ければ言わずもがな、わずかな感情の起伏でも影響が出るので、上手くアピールするには焦りは禁物である。
「頑張るぞい。本選で会おう」
凪は両拳を胸元で作り可愛らしいポーズを取った。
「いや、本選で会おうって、予選会場一緒だし……」
呆れた颯が苦笑しながらツッコミを入れる。
ずっと三人でいるため特に他所属のアイドルとは交流はないが、控え室で楽しそうに団欒しているのが他の参加者には面白くないらしく、出場者の一人が三人に近付いて仁王立ちした。
「ちょっと、うるさいんだけど。仲良しごっこなら余所でやってくれる?」
控室の空気が一気にヒリついて、その場にいるアイドルのほとんどが凍り付く原因の中心地に注目していた。
注意を受けた三人がそちらを見て一瞬ぽかんと呆けた。
目の前に立っているのは栗色のロングヘアをサイドテールに纏め、アイドル衣装なのかノースリーブに臍だしのトップスに、ストライプ柄のアームウォーマーを身に付けており、ボトムスはホットパンツという春先ではあるがまだわずかに冷える季節には少々露出の多い美少女である。
呆けていた三人だったが、詩緒が一早く立ち上がって頭を下げる。
「ごめんなさい。配慮が足りませんでした」
素直に謝ったことで、美少女の方も追い討ちをかけづらかったが、詩緒はここだけは訂正したいと強い口調で反論してしまう。
「でも仲良しごっこじゃないです。はーちゃんもなーちゃんも尊敬するライバルだし、誰が落ちても恨みっこなしでやってます」
言外に、こちらの事を何も分からないのに決めつけられるのは心外だ、とわずかに苛立たせていることを美少女が悟る。
美少女にとっては詩緒たちが目障りだったのもあり、オーディション前に乱してやろうという気持ちもあったので、売り言葉に買い言葉で乗ってきた詩緒に驚いたものの、このまま口論を続けることにした。
「本当にそうなの? 本当は腹の内で落ちろって思ってるんでしょ?」
彼女は嫌な笑みを浮かべて詩緒を煽る。
「思ってません。あなたの事はそう思ってますけど」
詩緒の眼付きも鋭くなる。
颯は喧嘩している二人を見ておろおろしていたが、凪は落ち着いており、詩緒の刺々しい態度は初めて会った頃のちとせに対する態度と似ているな、と考えていた。
「ちょちょちょ、ウタちゃんもういいって!」
見兼ねた颯が、詩緒のボルテージが上がり切る前に止めに入る。
肩を叩かれた詩緒は何とか留飲を下げた。
「ふん、まあいいわ。その程度の覚悟じゃ本選に上がるなんて土台無理な話だから、ここまで来れたのだって奇跡みたいなものでしょ、貧乳ちゃん」
「え?」
なおも刺々しく悪口を言う少女に対して、颯が怪訝な顔をする。
「いや、あんたじゃなくて……」
反応した颯に対してあんたには言ってないと訂正するが、颯はなおも苦々しい顔を止めない。
訂正もしたのにその言葉にそんなにも引っかかるということに疑問を感じた少女は、凄まじい地雷を踏んだのではないかと身構えたが、どうやら詩緒もぽかんとしている様子だったので、さらに疑問符が浮かぶ。
「残念、彼女は男の子です。こんなに可愛い子が女の子なはずがない」
それまで静観していた凪が詩緒たちの後ろから声を掛ける。
思考がフリーズした少女はじーっと詩緒を見つめて、はぁ!? と声を荒らげた。
「もしかして水上詩緒!?」
詩緒は業界で知らない人の方が少ないが、メディアでは男性と紹介しているものの、実際に見てみるとやはり男らしさが無いので詩緒と認知されないことも多い。
驚愕にわなわなと震えている少女の様子を見てすっかり毒気が抜かれた詩緒は、ふぅと一息ついた。
「貧乳なのは当たり前なので、いいんですけど……覚悟ならあります。アイドルになった瞬間から全部本気でやってきたつもりなので。もちろん、IUも優勝するつもりでやってます」
彼の眼差しは真剣でそこに中途半端な思いはない。
本気で楽しんで、本気で頂点を目指しているのが伝わってきたため、少女は言葉に詰まった。
「あっそ! とにかく、あんたには負けないから!」
それからスタスタと去っていく少女を三人で眺めていると、オーディション呼び出しのアナウンスがかかる。
☆ ☆ ☆
オーディション会場では五次予選の参加者全員が一つの部屋に集まり、何組かに分かれて審査が行われる。
五次予選の課題曲は組ごとにバラバラで、課題曲のジャンルによっては表現の得手不得手が分かれたりするので、どの課題曲を与えられるかの運要素も多少はある。
トップの組の颯は始まる前のいざこざでそれなりに緊張が解れたのか、難なくパフォーマンスをこなしていた。
レッスンでトレーナーに教わったことや、自主練習で得たものをフルに活かして最後まで組の中で目立っていた。
自分でも納得のいくものができたのか、ニコニコと笑顔で満足そうである。
参加者側の目線から見ても本選出場の指針になるようなパフォーマンスだったと言えるだろう。
続く詩緒は三組目の中での披露となっているのだが、その組には先ほど言い合いになった少女がいた。
少女の対抗意識剥き出しの視線を受けて、詩緒も彼女には負けないと気合を入れる。
激しい曲調のポップソングが流れて審査が始まる。
少女は啖呵を切っただけあり、その組の中でも一、二を争う実力を持っているようだ。
もちろんその一、二を争っている対抗馬は詩緒であり、お互いがお互いに意識をして歌とダンスに集中している。
バチバチにバトルする二人に周りの参加者は付いて行けず、二人とその他の差が浮き彫りになり始めた。
まるで他の参加者が主役二人のための引き立て役になっているかのような錯覚にすら陥る。
待機している他の組のアイドルだけでなく、審査員すらも身を乗り出しそうなほど引き込まれていた。
チェックするためのペンが止まり、気付いた時には少女と詩緒の番号に大きく丸が付いているだけだった。
しかし当の二人は冷静ではない。
目の前の相手を叩き潰さんと全神経を集中させてアピール合戦を繰り広げている。
いつものライブであれば、詩緒はステージ作りのためにメンバーとの連携や、アピールのタイミングなどを考えて行うのだが、今は完全に独りよがりのパフォーマンスでだった。
そしてついに経験の差が表れる。
詩緒は仕事とレッスンを詰め込んだスケジュールをこなしたことで、多彩な表現の中から的確なものを無意識に選択した。
少女は自分の実力に自信があったはずだが、徐々にステージの上から押し出されるような感覚に内心で焦り始めていた。
その焦りが表面に出るまで時間はかからず、最後の十数秒は見ている全員の目が詩緒に釘付けになった。
少女すらステージを彩るバックダンサーに落とし込み、独壇場を作ったのだった。
☆ ☆ ☆
五次予選が終わり、お互いを労いつつも帰る準備をしていると、件の少女がやって来た。
指を差す凪と、身構える颯だったが、詩緒はハイな気分が無くなったのかやけに冷静の様子だ。
「あ、お疲れ様です」
気付いた詩緒が笑顔で挨拶する。
今回、勝敗が付くのだとしたら明らかに詩緒に軍配が上がっており、本人たちもそれを自覚しているのだから、少女としても面白くない。
「……私は『桜井夢子』。あんたのこと認めてあげる」
夢子と名乗る少女は負けを認められるタイプだ。
パフォーマンスの出来を見ていた限りでも相当な研鑽を積んでいる努力家であることは明白であり、同じく詩緒にもその努力を感じられたので、考えを改めたようだ。
「今度も僕が勝ちます」
ぎゅっと握手を交わすと出会った時とは一転して和やかな空気が生まれる。
「さっきは仲良しごっことか色々言って悪かったわね」
自分の言葉を撤回して、謝罪をする。
それだけ、と言って踵を返すが、詩緒が引き止める。
「何?」
少しだけ面倒くさそうな夢子だったが、最初に出会った頃の刺々しさはもう無い。
「連絡先、交換しましょう」
あまり他事務所の友人をつくらない詩緒が言い出すのは珍しいなと、久川姉妹は目を丸くしたが、何だかんだ意気投合しているみたいだったので特に何も言わなかった。
その後、颯と凪とも交換して少しだけ話して打ち解けると、夢子は帰っていった。
「いやー、それにしても今日のウタちゃんは凄かったね。過去一番くらいの凄さだった!」
颯の絶賛に詩緒が疲弊しきった表情で振り返る。
「え、そう? 夢子さんに勝ったは勝ったけど、今までで一番疲れたかも……」
たかが一回のパフォーマンスであったのに、今までで一番疲れたというのも無理はない。
彼の夢子に勝ちたいという想いが強すぎて、普段ならパフォーマンス中の楽しい瞬間が一度も来なかったためである。
鬼気迫るパフォーマンスの裏では微塵も楽しいと思えなかった気持ちがあり、精神をいつもより削ってしまったようだ。
そして忘れることのない疲労を引きずってその日を終えた。
その後、しばらくして本選出場者が発表されたが、三人の内、凪の名前だけがそこには無かった。
次回に続きます。