ボーイ・イン・ザ・シンデレラ   作:しらかわP

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いつもご感想ありがとうございます。
祝日なので投稿できました。


29th stage : “Yes! Party Time!!”

IUの本選当日、夕方から始まる本番に向けてステージの調整を行うスタッフと、最大のパフォーマンスに向けて心身を整える参加アイドル達。

 

相も変わらず詩緒と颯は雑談を交えつつストレッチや、歌と踊りの確認を行っていた。

周囲の集中力も凄まじく、ピリピリとした空気の中ではさすがにひそひそとしか話ができない状況だったが、時折小さく笑った様子を見せているためリラックスができていることが伝わった。

 

「あんたたち、相変わらず一緒にいるのね」

 

いつの日かと同じように声を掛けてきたのは夢子だが、今の関係性は前回会った時とは異なっていた。

夢子と連絡先を交換していたので、たまにではあるがやり取りを行っていたので、メル友くらいには親しくなっており、臆せず話しかけて来られることから詩緒や颯に並ぶコミュ力強者であることも窺える。

 

「あ、夢子ちゃん。今日もよろしくねー」

 

お気楽そうに返事をしたのは颯で、夢子もピリピリしていた心持ちだったが、幾分と毒気が抜かれたように感じた。

調子が狂うなぁ、と自分自身の髪を撫でて眉間に皺を寄せるが、おかげでリラックスできたと思うと口端がわずかに上がる。

 

「あー、うん、よろしく、颯。凪がいないのにお気楽なものね。まあ双子で出られなくて気の毒だとは思うけど、私は容赦しないから」

 

その言葉に颯は目を丸くして驚いていた。

その隣でクスクスと詩緒が笑っており、夢子としては気に入らない。

 

「何よ? 詩緒、あんたも大事な本番前に気が緩みすぎなんじゃないの?」

 

詩緒にも苦言を呈する夢子。

自分の発言で笑っている詩緒に少し苛立ちを覚えて、思わず噛みついてしまう。

 

「夢子ちゃんってばはーちゃんにわざわざ宣戦布告なんて優しいんだなって。僕にも気を引き締めろーって言ってくれて、ありがとう」

 

すると夢子は恥ずかしそうに顔を赤らめてそっぽを向いた。

 

「フンッ! あんたたちは真正面から徹底的に叩かないと私の気が済まないのよ!」

 

もちろん彼女の主張は半分本音だが、もう半分は気持ちが落ち込んでいないか友人としての心配から来ているものでもあった。

あんまり素直ではない夢子に苦笑いをしながらも、これからアイドルアルティメイトの頂点を決める戦いの前とは思えない朗らかとした雰囲気が漂っていたが、周囲の騒めきと共に夢子の表情が険しくなる。

詩緒と颯はどうしたのかと首を傾げつつ夢子を不思議そうに見つめると、彼女の視線が二人の後方に注がれていることに気が付いた。

軽く振り返る直前で、詩緒は肩にポンと手を置かれてビクッと身体が強張った。

 

「やあ、ウタ! 調子はどうだい?」

 

若くしてトップオブトップと呼ばれるアイドル界のスーパースターであり、前回のIU制覇者の玲音がそこにいた。

男子にしては低身長の詩緒とは頭一つ分くらいの身長差があり、詩緒は少し見上げないと彼女の目を見ることはできない。

 

「玲音さん、おはようございます」

 

玲音は、詩緒が見せる笑顔に満足気に頷いた。

 

「今日は即席のメンバーで作り上げるステージだ! しかも本選まで多くの人数からいくつもの予選を勝ち抜いてきた実力者たちと一緒にだよ。楽しみでしょうがないね!」

 

彼女にそう言われると、詩緒もこれから上るステージがほとんど初共演となるアイドルとのライブになることを意識する。きっと良い経験になるし、そんなメンバーで送るステージの事を考えると確かにワクワクする。

 

「前回もここから見た景色は格別だったよ」

 

玲音の感想を聞いて詩緒はようやく彼女が前回に引き続きIUへ参加した意味を理解した。

ただステージの上を楽しみたいという純粋な想いが彼女にはあり、そこへ到達するための手段は何でも良いのだ。

 

IUでは本選まで進むような実力のある人たちと本気で、言うなれば自己中心的に作り上げる舞台が玲音の片隅に残っているのだろう。

初めて出場した時は誰かに薦められたり、事務所の方針だったりしたのだろうが、二回目の出場を決めた理由は前回のIU本選のステージが忘れられないからに違いない。

 

彼女はおそらくアイドルとして最高のステージを創り上げることに余念が無いのだ。

 

「ウタ、今日は一緒に最高のステージを作ろう!」

 

詩緒は差し出された手を取ると、玲音に握り返される。

この人には勝ちとか負けとか関係ないんだ、と詩緒は握った手から感じ取った。

良いものを作る気でいるし、良いものが出来ると確信しているし、IUの制覇は端から眼中に無い。

彼女の持つ熱量に気圧される。それはまるで気迫を放つようなプレッシャーすらに感じ、詩緒は足が竦むような思いだったが、何とか踏み止まる。

 

「はい、良いステージにしましょう」

 

笑みを浮かべて言葉を返すと、不思議と威圧感は感じなくなり、自然と玲音に張り合える詩緒の姿があった。

 

緊張感から、ごくりと生唾を飲み込み、その様子を見ていた颯だったが、近くにいるもう一人のアイドルの桜井夢子は面白くなさそうだ。

私は眼中に無いってことかしら、と考えて沸々と煮え滾ってくる腹の内を必死に抑え、詩緒と玲音の間に割って入る。

 

「玲音さん、今日のステージを作るのは貴女じゃないわ。もちろん詩緒でもなく、この私、桜井夢子よ! 玲音さんも詩緒もまとめて叩き潰すから、私の引き立て役をお願いね」

 

挑発どころではない威勢の良さに玲音は一瞬ぽかんとして、詩緒はとんでもない喧嘩になるかと思い、あたふたと慌てふためいた。

やがて玲音が小さく笑うと、夢子をその視界に初めて捉える。

 

「威勢がいいね。今まで強く啖呵切ってきた相手はいたけど、君はアタシの記憶に残ってくれればいいんだけど」

 

その挑発を挑発で返す。

玲音はアイドルとして売られた喧嘩は買うタイプの人間でもあるし、相手のやり方に合わせるので、夢子の敵意を自身の敵意でお返しする。

相手の土俵に合わせて戦ったうえで完膚なきまでに実力差を見せつけるので、なおさら性質が悪くもある。

 

夢子はほとんど詩緒と変わらない身長なので、彼と同様に玲音との身長差もあって見下ろされるが、怯まずに睨み返していた。

夢子は十分に威嚇してから詩緒の方へ振り向いた。

 

「ばーかっ!」

 

「ええっ!?」

 

突然投げかけられたシンプルな罵倒に詩緒は狼狽える。

夢子は踵を返すとそのまま三人から離れて行った。どうやら本番に備えて集中力を高めるようだと詩緒は解釈したが、颯が最後に見たのは顔を赤らめて複雑そうに眉間を皺に寄せる夢子だった。

 

似たような表情をした人を以前見たことがあるな、と夢子について邪推しそうになった颯だったが頭を振って思考を無理矢理にでも切り替える。

そんなことよりも玲音、詩緒、夢子の三人だ。

 

五次予選で上から目立っていた順番はこの並びで間違いなく、故にこの会場でのトップ3となることは明白であった。

颯が最終選に残るにはこの三人の壁を一人でも崩す必要があるのだが、やはり控室にいる他のアイドルと違って一線を画す存在感があった。

 

自信をもたらすのはいつだって練習と実績である。

三人ともそれらをコツコツと積み上げていったことが窺える。

特に詩緒は約一年前、アイドルになり立ての頃はあれほど頼りなかったのに、今やプロジェクトメンバーの中でも一、二を争うくらいに頼もしい。

持ち前の人当たりの良さ、女性のような容姿の男性というキャラクターも相まって、デビューしてから有名になるまでのスピードは、メンバーや美城プロ所属アイドルの中でもずば抜けて早かった。

要するに詩緒のファンは多く、そういったファンの応援も、観客ありきの賞レースでは必ず強みになる。

 

玲音は言わずもがな、パフォーマンスの面で詩緒や夢子と比べても頭一つ抜けているし、アイドル界の絶対王者的な存在でもある。

 

夢子も以前から名前は聞いていたが、ここ最近では飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドルである。勢いだけで言えば詩緒にも引けを取らず、一回のライブで勝敗を決するというのであればノリに乗っている方が有利と言ってもいい。

 

そんな三人の中に付け入る隙があるのか、颯には分からなかったが、凪の分をその小さな背中に背負っていることを自覚すると、静かに闘志をその瞳に宿すのだった。

 

☆ ☆ ☆

 

本番が始まる五分前になると、一万を超える観客席はギャラリーによって既に埋まり、男女問わない客層がこのイベントの幅広さを如実に表していた。

アイドルの祭典に集うのは推しを応援するために集ったアイドルオタクたち。

それ以外にもアイドル業界自体が好きでIUを毎回楽しみにしている推しという推しがいない客もわずかに足を運んでいた。

それらを横目にして関係者席に座るのは、出演者から直接招待を受けた友人や同僚、業界で有名なプロデューサーやプロダクションの社長など、さまざまである。

関係者席の片隅に招待されている詩緒と颯の招待者は七名と、他の招待者に比べるとやや多い。

 

「わーお、さすがにアイドルアルティメイトの本選だけあって凄い熱気ですね」

 

会場は既に喧騒で包まれていた。

凪としてはこのステージに立てなかった悔しさというものを特に感じてはおらず、客として見るという立場に心地よさを抱く。

自分の事を俯瞰の視点から見直してみると、IUに参加したのは二人に誘われたからであって、トップアイドルの称号を得るといった崇高な目標は持ち合わせていない。

むしろ颯と詩緒の二人を集中して応援することができる今の立場の方が自分の性に合っているとすら考えている。

 

「それにしても二人とも凄いんご! IUって結構レベルの高い賞レースって聞いてたんですけど……」

 

「そうですね。常務も同じプロジェクトから二人も本選に出るのは初めてって言っていましたから」

 

あかりの言葉に神保が補足する。

美城プロからのIU覇者は未だおらず、今回勢いに乗る詩緒が美城内では最有力候補であるが、連覇を狙う玲音も出場しているので一筋縄ではいかない。

真剣な面持ちで開演を待つ一同であるが、その一団の中から一般の会場にも負けないくらいの一際大きな絶叫が鳴り響いた。

 

「ウタちゃーん!! はーちゃーん!! うおおおおおおお!!!!」

 

何やらお手製の法被や鉢巻きで身を固め、ペンライトを取り出してギンギンに輝かせており、招待客の中で一際どころか空に飛んでいるくらい浮いているのはりあむであった。

 

一般席の方からもざわざわとどうしたのだろうかと注目を浴び始めていたが、ウタちゃん、はーちゃん、というワードと招待席の方向から響く声という情報で、夢見りあむだということに大半の客が気付いた。

どっと会場が沸いて笑い声や彼女を応援する声が聞こえる中、詩緒と颯を一通り鼓舞して満足したのか、スッと収まる。

 

「……発作?」

 

隣で驚愕していたちとせはついつい聞いてしまったが、本心は引いておらず、凄いな、とりあむを称賛していた。

千夜は、失礼ですよお嬢様とちとせを注意して、りあむに対して素直に称賛の言葉を並べたが、周囲の状況を見て迷惑になりますので、とやんわり注意してからやや距離を置かれた周囲の招待者に神保と謝罪する。

 

「まあ発作みたいなもんデスね。たまにりあむサンは変なスイッチ入るんで。あと元々アイドルオタクっていうのもあって、久しぶりにお客サン側で来たので気合入ってるんじゃないデスかね? や、知りませんけど」

 

適当なことをちとせに答えるのはあきらだ。あかりと共に三人での活動がメインになっているため、りあむについてどこまで知っているかという通称りあむ検定もその級数を着々と上げているところだ。

 

ライブでステージに上がった時の倍くらい声が出ているりあむを横目に、あきらもペンライトを鞄から取り出していた。

 

「あきらちゃんも?」

 

「そうデスね。前から興味あって、アイドルの応援してみたかったんデスよ。りあむサンに指南してもらって、今日はあかりチャンと一緒にペンライト装備みたいな」

 

さすがにお客さんとしてはライブ初心者のあきらやあかりはしっかりオシャレをしているので、りあむのように上部Tシャツ、下部ジーンズなどの運動するような恰好ではなく、法被を着たり鉢巻きを巻いたりなどもしていない。ペンライトを控えめに振るに止めるようだ。

 

「あかりちゃんもかぁ……」

 

ちゃっかりとペンライトを握るあかりがあきらの奥にいるのを確認して、ちとせは呟く。

するとあきらが予備のペンライトを一本ちとせに渡す。

 

「ちとせサンも振るくらいなら、一緒にどうかなって」

 

「ありがと♪」

 

フリフリと手に取ったペンライトを軽く振り、その綺麗な残光に見惚れてステージへとあらためて目を移す。

 

謝罪を終えた神保と千夜もいつの間にか戻っており、その手には全員と同じくペンライトが握られていた。

 

その後、司会から諸注意などのアナウンスがあり、中継が開始されたようでその様子もモニタリングされている。

審査員の紹介が終わり、いよいよIUの本選が始まる。

 

☆ ☆ ☆

 

「りあむちゃん、めっちゃ盛り上げてくれるじゃん」

 

ステージの横で既にスタンバイしている颯が詩緒に言う。

ね、と相槌を打つ詩緒。二人に緊張の色は見られない。

 

参加者はどういうポジションでステージを動き回るかは基本的に自由であるが、悪目立ちしないようにしなければならないうえに、目立つにはステージの中央へ移動する必要がある。

移動については自分のエゴを押し付けつつも共演者とのコミュニケーションで自分に有利になるように振る舞わなければならないが、考えながらステージを作る人は少ない。

 

本番前ということもあって集中を高めているからか、二人の口数も徐々に減っており、IU本選のステージが始まる。

 

「始まった!」

 

会場が暗くなり、スタンバイが完了したところで一曲目のイントロが、燦燦と照らし出されるステージと共に鳴り響いた。

 

これまでに聞いたことないくらいの大きな歓声が、そのイベントのレベルと人数の多さを顕著に表していた。

パフォーマンスの良さなどでここまで上がってきたアイドルは経験の少なさゆえに、歓声に食われてしまい、存在感を失っていく。

 

そんな中で、徐々に人々の目を惹き付けるアイドルが現れる。

追い上げるのは難しそうなアイドルがちらほらと出てくる中、特に客の心を掴んでいるのは三人。

 

言わずもがな一人目は玲音で、パフォーマンス、スタイルの良さ、自信に満ちた表情、ステージへの貢献度が明らかに高い。

 

二人目は夢子。

とりあえず玲音とは戦わないように意識しており、玲音から遠いポジションを無難に選択している。

経験の高さが窺えて、玲音とは逆方向からセンターへとじっくり移動していた。

玲音と左右から注目を引っ張って来られるだろうと常に考えながらも強いパフォーマンスを維持している。

 

三人目は詩緒だった。

詩緒のファンがなぜリピートや固定で付いていることが多いのかというと、ファンを巻き込むことに長けているからである。

パフォーマンスが多少乱れていようと、熱心に応援してくれるファンに対して目線を向けて笑顔を返す。ファンが手を振っているなら、振り返してくれる。

彼と同じステージにファンを引っ張って来るため、同じ空間にいるんだというライブ感を最大限引き出すことができるのが、詩緒の最大の武器である。

そのためファンは彼に視線を送り、手を振る。結果的に注目を浴びるのだ。

 

そんな詩緒は会場を動き回りながらファンとの交流を楽しんでいるようだ。

恐らく賞レースであることは既に忘れており、ファンが最高のステージだと思ってもらえるよう無意識に全体へ目を配っている。

 

一曲目が終わる頃、カメラに抜かれたステージの中央には玲音、詩緒、夢子の三人がいた。

 

その少し後ろで颯が一瞬奥歯を噛んだが、すぐに笑顔を浮かべた。

まだ一曲終わっただけであり、まだまだ上位三人には食い込める。

 

☆ ☆ ☆

 

MCの時間は参加者の自己紹介で、エントリーナンバーと登録名を呼ばれたら前へ出てそれぞれアピールをすることができる。

このアピールタイムで注目を引ければ、次のタームでいろんな人の注目を浴びることができ、参加者も空気を読んで彼女たちを中心に次のステージを作る。

賞レースのIUでそんなことをするのは、愚策と思われるかもしれないが、賞レースである前に一つのライブなのだから、盛り上げていかなければならないことを考えると、無理にアピールしていこうとするのはマイナスの印象を与えかねない。

 

最初のMCでは玲音が自己紹介をする。

 

「ようこそ、最高のステージへ! 一夜限りのこのメンバーと、その全てを飲み込む玲音の世界を見せてあげるよ! 他の誰でもないアタシが満足するライブに付いて来て!!」

 

歓声が沸き上がる。

後ろで見ているアイドルのほとんどが玲音の背中しか見えていなかっただろう。

MC明けの二曲目のイントロが鳴り響いた。

 




長くなりそうだったので次回に続きます。

私事で恐縮ですが、ワンダーエッグ・プライオリティというアニメが面白くて今季週一の楽しみになっています。
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