ボーイ・イン・ザ・シンデレラ   作:しらかわP

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3rd stage : “Like the star coverd by cloud.”

翌日から詩緒の生活は一変する。

まず放課後にレッスンがあるため、学生生活を続けながらも美城プロダクションへ行かなければならない。

 

トレーナーは美城プロ専属だがプロダクションが擁する芸能人の数が多いため忙しく、週に一回くらいしか面倒を見てもらえず、その他は自主練習である。

出社は強制ではないが、ダンスで後れを取っている詩緒は毎日のようにレッスンルームを借りているのだ。プロデューサーに言えばだいたい予約してくれる。

 

意外と体育会系で辛いから辞めていくんだろうな、とレッスンを行いぐでぐでになった身体で詩緒は考える。

 

「ウタちゃん大丈夫?」

 

一緒に自主練をしている颯がドリンクを差し出してくれる。

メンバーの中で唯一の男子であるにもかかわらず運動神経がドベな詩緒は、とにかく他の人の足を引っ張りたくない一心で毎日レッスンルームに通って、少なくとも二時間以上はダンスの練習をしているのだ。ちなみに今日で三週間連続出勤。

 

颯は詩緒に付き合ってあげているというよりも、自身の研鑽のために毎日レッスンルームに来ており、凪はその付き添いみたいな感じで一緒に練習する。

 

りあむとあかり、あきらもほとんど毎日顔を見せるが、千夜とちとせは少し頻度が落ちる。

ちとせは生まれつき病弱であるとのことで調子の悪い日は練習を控えるし、千夜はちとせが行かないのであれば自分だけ練習に行くということはない。

 

今日来ているのは千夜とちとせ以外ということなのを詩緒は確認して、颯にお礼を言いながらドリンクを受け取った。

 

「ウタちゃん体力無いからあんまり無理しない方がいいんじゃない?」

 

颯が気遣ったつもりで言うが、気遣うなら体力が無いとはっきり言わないでほしいと詩緒は思った。

言外に、男子のくせに、と言われているようで自然と肩も落ちてしまう。

もちろん颯の言葉にはそういう含みを持たせたものなど一つもないのだが、そこは彼の自意識の問題である。

 

ただ、無理しないでと言われても同期のアイドル、またプロジェクトメンバーの一員として情けない姿をお客さんの前に見せるわけにはいかないという思いもある。

現状で一番パフォーマンスが劣っているのは詩緒なわけで、彼自身にもその自覚はあるのだ。

受け取ったドリンクを一口含み、喉を通して颯に向き直る。

 

「足、引っ張るわけにはいかないから」

 

颯は詩緒の気迫に圧されて一瞬たじろぐが、うーん、と気難しい顔をして同じように圧をかける。

 

「無茶すると、逆にみんなの足、引っ張ることになるんだからね! ほどほどにしてよ!」

 

体調管理の面で迷惑がかかるという正論で詩緒の主張を突き返す。

強い口調でそう言われてしまえば詩緒も言い返すことはできず、ごめん、としおらしく謝るのだった。

 

「はーちゃん、いじめ、よくない」

 

注意する颯と落ち込んでる詩緒の構図に茶々を入れるのは凪だ。

颯は否定したかったが、落ち込むを詩緒を確認すると言葉を詰まらせてしまう。

 

「凪ちゃん、全然そんなんじゃないよ。颯ちゃん、ごめんね」

 

詩緒としては、颯がそんなに気にすることでもないため、すぐに謝ることにした。

どちらかと言えば心配をかけた彼が悪いのだと自分自身でも分かっている。

 

「はーも強く言っちゃってごめん」

 

その言葉を聞いて颯も謝った。

特にどちらも謝る必要は無いと言えば無いのだが、空気が悪くなりそうになったらこうすべき、という対処法が謝罪という行為だったに過ぎない。

 

「てぇてぇなぁ……」

 

しんみりと口にするのはりあむ。

いつの間にか動画を撮っていたあきらは、アップしていい? と二人に聞いていた。

SNSへのアップはさすがに恥ずかしいと二人が断ると渋々と引き下がったが、しっかりと保存したようだ。

 

「でも、ウタちゃんがたくさん頑張ってるから、私たちも頑張ろうと思えるんですよね」

 

フォローを入れるあかりに他のみんなも一様に頷く。

もう一息入れようかなと思ったところで、レッスンルームにノックの音が響いた。

誰かが許可を出すまでもなくガチャリと開けたのはプロデューサーの神保で、後ろにはちとせと千夜も付いてきていた。

ちとせと千夜は、ほぼ女の子だけの空間に勝手に入っていった神保にデリカシーを問うような目を向けたが、彼は気付かない。

 

「ちとせさん! 千夜さん! お二人も揃ってどうしたんですか?」

 

嬉しそうに声をかけるのはあかりだ。

全員が揃うことは珍しいことでもないが、神保もいるためどうやら大事そうな話だということは部屋にいた全員に伝わっている。

 

「こいつが私たちに集まれと連絡をしたのです」

 

千夜が神保を指差して、気だるげに話す。

仮にもプロデューサーである立場の人間に対する態度ではないが、誰もそのことを咎めない。神保本人も許容しているようなので、今となっては気にしている人の方が少ない。

だが詩緒は千夜の神保への毒吐きに慣れず、そわそわした様子で苦笑いをしているばかりだ。

実は詩緒も千夜から良い風に思われていないことは感じ取っていて、おそらくは男性からちとせに対する接し方を主に気にしているようだと予想している。

 

彼の予想は当たらずとも遠からず、世の男性はちとせに対して邪な目を向けいているものだと思っており、神保はあまり信用されていないし、詩緒に対してもちとせ絡みでの警戒を解いていない状態である。

 

ただし詩緒としては初対面の時、ちとせには苦手意識を持っているため、彼女に対して警戒を一切解いていないし、ちとせからも詩緒に対してはぐいぐい距離を詰めに行くので、千夜も注意しづらい。

 

纏めると、ちとせは詩緒と仲良くしたいが、詩緒はちとせのことを避けている。

千夜は、詩緒がちとせに近づくのを是としていないが、ちとせが詩緒と仲良くしたいのに避けられているのを見て、どう立ち回るべきかを確立できていない。

つまり千夜は詩緒について悶々としていたのだった。

 

「やっほー、ウタちゃん」

 

「こんにちは黒埼さん」

 

「ちとせでいいって言ってるのに」

 

「大丈夫です」

 

来て早々詩緒に絡むちとせであったが、冷たくあしらわれているのにめげずに話しかけるなんてメンタルが強いな、と周囲からは認識されていた。実際にメンタルは強い。

 

「ほら呼んでみなよー」

 

「いえ、大丈夫です」

 

詩緒とまともに会話できないメンバー二人として少しばかりの溝を形成しているが、他メンバーとしてはそこまで気にするようなことでもない。

というのも、ちとせがめげずにコミュニケーションを取ろうとしているので、情に厚い詩緒ならもうすぐ受け入れてしまうだろうという見解がメンバー間で一致しているからである。

優しくてちょろい性格というのが全員の共通認識なのであった。

 

そんなやり取りをずっと続けていき、追い込み漁のようにちとせは詩緒を壁際に追いやっていた。

 

「あ、あの……」

 

「ちとせって呼んで」

 

身長はちとせの方が高く、女子高でイケメンの美女が可愛い系の女子に迫っているような絵面になっている。

あきらとりあむはチャンスとばかりに動画撮影に励んでおり、颯とあかりは赤面しながらも一部始終を見逃さんばかりに刮目していた。

 

千夜はまた嫌われますよお嬢様と内心で思っただけで助言らしいことは一切しない。あとで詩緒に謝るくらいだ。

 

「キマシタワー」

 

マイペースを貫くのは凪で、ネットで見かける百合厨発言をかましまくる。絶対にツッコミ待ちだが誰も触れることはなく、最後は自分で、ウタちゃんは男子やろがいと呟いていた。

 

「ほら、はやく」

 

その間にも、ちとせが詩緒に迫る。

詩緒はなぜ自分でも意地を張っているのかわからないが、頑なにちとせを名前で呼ぼうとしない。

視界の端に千夜が映って助けを呼ぼうとするが、目が合った瞬間に首を横に振られたので諦めた。

 

「あの時のこと、まだ許せない?」

 

そういうわけではないと否定するが、ちとせのことをまだ信用していないのだ。

 

「ごめんね。もうしないから、私と仲良くしてよ」

 

じっと目を向けられて、顔に熱が上ってくる。

ちとせは美人だ。透き通るような肌、見透かされているような蠱惑的な瞳、人に非ざるかのような神秘的な髪に、整えられた全身のバランスとしなやかさ。

 

詩緒は赤面し、ぎゅっと目を瞑り、震える声でようやく彼女の名前を口に出した。

 

「ち……ちとせさん」

 

瞬間、ぱぁっと千夜もあまり見たことないくらい、にこやかな表情になり詩緒を抱きしめた。

 

「かーわいいーー!!」

 

「うわっ! ……千夜さん」

 

身動きが取れず困り果てた詩緒は千夜に助けを求めると、やれやれといった様子で二人に歩み寄り、ちとせを説得し始める。

千夜は、涙目赤面の詩緒を可愛いだなんて思ってないし、弱弱しく助けを求められて胸がキュンとするはずがないと自分に言い聞かせていた。

 

「お嬢様、そんな強引なやり方では余計に嫌われてしまいます」

 

「えー、だって可愛いんだもん。千夜ちゃんもそう思うでしょ?」

 

頬を膨れさせるちとせの問いに、千夜は詩緒をちらりと盗み見て間を置く。

 

「……いいえ、水上さんは男子ですから」

 

内心では男子だけど可愛い、という感想を抱いているのだが誤魔化した。

男子だからという理由で誤魔化すには無理があるなと自身でも思っている。

 

千夜の説得の甲斐もあり、ちとせは詩緒を解放する。

詩緒は逃げるようにちとせと距離を取って神保の近くに位置を取る。いつでも神保から助けてもらえるようにするためだ。

 

「黒埼さん。詩緒くんの嫌がることはやめてくださいね」

 

神保からも注意が入り、ちとせは渋々首肯した。

この時ばかりは千夜もプロデューサーに協力するのであった。

 

「Pはなにゆえここへ来たのでしょう?」

 

そう言えば、と話を戻すように凪が疑問を口にした。

確かに自主練習中にプロデューサーが全員を呼んでくるなんてことは滅多に無い。

そもそもプロデューサーが普段何をしてるのかも分かっていないし、特段気にしてもいないメンバーたちであった。

神保は一つ咳払いをすると、部屋にいる全員に聞こえるくらいの声量で話し始める。

 

「ええ、来月からライブのスケジュールをいくつか押さえておりますので、皆さんに共有しておこうと思いまして」

 

「ライブ!?」

 

食いつきがいいのは颯で、彼女は詩緒と並んでオーディション組でありアイドルにかける思いも人一倍強い。

色めき立つ彼女たちが落ち着いて話の続きを聞く態勢に戻るも、プロデューサーである神保の話はたったそれだけらしい。

 

「今日はそれをお伝えしに来ました」

 

と言って、数秒間の沈黙に包まれた空気を作り上げる。

 

「……それだけ?」

 

「ええ、後日あらためて資料をお配りするので、把握しておいてください」

 

後は帰る時間には気を付けるよう注意するだけで、お疲れさまでした、と退室していった。

 

☆ ☆ ☆

 

「私たちが来た意味とは何だったのでしょうか……」

 

諦めるように呟いたのは千夜だ。

 

「まあ私はようやくウタちゃんに名前で呼んでもらえたんだし、来た価値あったけどねー」

 

従者に対して主はご機嫌なご様子。

こんなにニコニコと嬉しそうなちとせを見るのもメンバー間では珍しく、男子なのに可愛い詩緒の物珍しさだけではなく、それ以外にちとせを惹き付けるものがあるのだろうと考えられている。

それは揶揄い甲斐があったり、男子特有の下心が無かったり、歌唱力が高かったりといろいろとあるのだろう。

ただ恋愛的な情緒は感じられず、純粋に小動物を愛でるような愛情、か弱い男子を弄ることができるという支配欲なんかが満たされることが、本物のお嬢様であるちとせが特に気に入っている部分なんだろうと千夜は分析していた。

自分もよく無茶な振りをさせられるので、その点では大層同情している。

 

「普段も名前で呼んでほしかったら、あまりベタベタしないでください」

 

変化があったのは何もちとせだけでなく彼女らの人間関係も当然変化していくもので、当初困惑して逃げてばかりの詩緒はある程度嫌なことを嫌と言い返せるようになったし、全員の呼び名も初対面より十分距離の近いものに変わった。

他人行儀が目立つのは千夜くらいだ。

 

「照れちゃって♪」

 

「そりゃ、照れます……。ち……黒埼さん、何もしなかったら美人さんだし」

 

「今、ちとせって言おうとした?」

 

「……してません」

 

ちとせは、にやぁ、と嫌な笑みを浮かべて詩緒を見つめる。

さすがに揶揄われてると分かり居心地が悪くなってくると同時に、他のメンバーからも注目されていて恥ずかしさが込み上げる。

 

「……千夜さん」

 

決まって助けを求めるのはちとせと一番関係の近い千夜になるが、最近ではすぐに注意してくれなくなってきたので、詩緒はもう千夜に頼るのも控えようかと思っていたりする。

そんな最近の千夜は最初こそ首を横に振るが、いつも見兼ねて一言注意してくれるのが優しいところだ。

 

「お嬢様、もう名前で呼んでもらえなくなりますよ?」

 

「それは困っちゃうね」

 

さっきの名前呼びしそうになって訂正したのと、美人って言われたことが余程お気に召したのか、まったく困っていないどころか嬉しそうに言うものだから、千夜もため息を吐くしかなかった。

 

「ちとちゃんさ、ほんとウタちゃんのこと好きだよね」

 

りあむが苦笑いでちとせに話す。

二人はメンバーの中では最年長の同い年のため、どちらかというと全員を引っ張っていく立場にあるべきなのだが、りあむは最近メンバーからの扱いが雑になり始めたし、ちとせも自由奔放な行動が多く、どちらもしっかりと頼られるような存在になっていない。

 

「りあむちゃんは好きじゃないの?」

 

「はぁ? ぼくがウタちゃんのこと好きって当たり前だし、ていうか他のみんなもめっちゃ推しだし、むしろこんなぼくと一緒にいて申し訳ないというか、それでも優しくしてくれてマジで聖人、いや女神! もう死んでもいいやって何十回か思ってるからね?」

 

りあむの感情のどこに触れたのか分からないが、急に眼の色を変えて喋りだす彼女に対して急に冷静になってしまったちとせは、ああそう、と塩対応だ。

 

「いや、死なないでくださいよ、りあむさん!」

 

メンバーの中でも特に真面目なあかりがりあむの発言を真に受けるが、あきらが冗談であることを伝える。

 

「あかりちゃんも天使なんだよなぁ……」

 

そう呟き、一人満足そうにこくこくと頷くりあむ。

 

「りあむサン、あんまりネガティブな発言すんのやめてください。あかりチャン真に受けちゃうんで」

 

あきらがやんわりと注意するとりあむは、あきらちゃんに怒られるの、イイ……とマゾっぽい発言をしたが、そこは全員からスルーされる。

 

あきらは続いてちとせと詩緒の間にも割って入り、

 

「ちとせサンも、ウタのことあんまりいじるの良くないよ」

 

「あきらちゃんがそう言うなら善処するよ♪」

 

千夜は瞑目して、私が言った時にも善処していただけますか? と心の中でお願いしておいた。どうせ千夜の言うことは聞き入れられず流されていることの方が多い、というのは本人も自覚しているところなのだった。

ちなみに善処すると言っただけで詩緒いじりが軟化することは無いのだろう、とも千夜は思った。

 

「それよりライブだよ! ライブ!」

 

一連の流れは露知らず、ライブのことで頭がいっぱいになっていた颯がみんなの前に出て目を輝かせている。

 

「すっごい楽しみじゃん!」

 

場所はどこかなぁ、どのくらいお客さん来るかなぁ、何曲くらい歌えるのかなぁ、新曲貰えるのかなぁ、と探し出せば尽きることのない期待がぽろぽろと溢れ出している。

 

「僕は不安だけどなぁ……」

 

普段からダンスの自主練ばっかりしていても、元々の体力が無いことと運動神経の悪さから詩緒だけが不安を口にする。

 

「どうも辛口評論家の凪です。ウタちゃんはダンスがへたっぴですからね。ぴえん」

 

「ぴえん」

 

颯爽と現れた辛口評論家の言葉を詩緒が繰り返す。

ぴえんのごとく、凪も詩緒も悲しみの表情をお互いに浮かべ合う。お互いのつくる表情が可笑しくなったのか、くすくすと二人で笑い合っていた。

 

「てぇてぇなぁ……」

 

りあむはそのシーンを心のフィルムに永久保存し、おおよそアイドルがしてはいけない顔で二人を凝視していた。

 

「りあむさん顔ヤバいよ?」

 

先ほどまで期待で胸いっぱいの颯が現実に引き戻されるくらいにはりあむの顔が犯罪チックで気持ち悪かったらしい。

あきらは急いでスマホで撮影していた。

 

「りあむサン、この顔あとでSNSにアップしていい?」

 

「バカあきらちゃんバカ、そんなのデビュー前に出されたら、清楚系で売って、ラクして稼ごうと思ってたのにバカなオタクにバカにされる未来しかなくなっちゃうじゃん。今後永久その画像が出回って、ネットのフリー素材みたいな扱いになるのは、ガラスハートで豆腐メンタルのぼくに耐えられるわけないからね」

 

あかりが清楚の部分に首を傾げる。

彼女の中では、りあむはその言葉からかけ離れた存在であることを示していた。

そもそもバカを連呼してるし、ステージに立ってもいろいろと取り繕えない未来しか見えない。

 

「えー! はー的に、りあむさんは清楚で推してくよりも面白系の方が合ってると思うけどなぁ。絶対バラエティ向けだよ。あとイジラレキャラ」

 

颯もりあむのイメージを大きく損ねているとして清楚じゃないことを強調する。

こんなに否定されて、りあむは泣きそうだったが颯自身に貶そうとした意図はなく、むしろ活躍できる場が明確に設けられているはずだという助言的なものを貰ったのだが、当然気が付くはずもない。

 

「ぴえん!」

 

ボロクソに言われたと勘違いしたりあむはそう言って、凪と詩緒の輪に入った。

三人揃ってぴえんしており、悲しげな表情を浮かべては静かに笑い合う謎のグループが誕生していた。

 

「ユニット名は『ぴえん通り越してぱおん』」

 

凪がぱおんの顔で三人のユニットを作り上げる。ちなみにただの変顔だ。

 

「バラドルの匂いしかしないね……」

 

「清楚とは程遠いですね」

 

最初の構想とはだいぶずれてるね、と我に返ったのはりあむ。

雰囲気だけ的を射ているような感想を言う詩緒。

 

「いや清楚とバラドルは対極にはいないよ、ウタちゃん」

 

冷静にツッコむ程度にはほとぼりは冷めているらしい。

そんな生産性のない会話をしていたら、颯でさえライブについてあれこれ考えることを放棄してしまったのだった。

当の本人はライブに対する情熱をいったん胸の内にしまい込んでいたことに全く気が付いていないのである。

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