孤高のザクファイター、ドアン大元帥が、何故GBNで戦い、何故少女と出会ったのか。全てのGBNプレイヤーへ送る、未来のメッセージ。
本番の前に描かれる、その物語。
つまりまあリハビリです。

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ぶちかませ!ドアンパンチ!

 ガンプラ・バトル・ネクサス・オンライン。略してGBN。ガンプラを使ってバトルしたり遊んだりできるこの夢のオンラインゲームにおいて、自分だけが楽しもうとする不肖な輩がいた。そう、ガンダムゲームである以上マナー違反のクソ野郎はいるものなのだ。今ここで戦っているこのダイバーは格下の雑魚狩りでストレスを発散する人間の屑である。もはや救いようがない。アルケーを使い暴れ回る極悪非道の雑魚専ダイバー。もはや救いはないのだろうか? 貧弱一般ダイバーは彼らに蹂躙されるしか道はないのか? 

 アルケーに跳ね飛ばされダウンする一般ダイバーのかわいそうなデルタプラス。強化パーツによってチューンされたガンプラに無強化で勝てるわけがない。ましてや初心者では……絶望に打ちひしがれるデルタプラスのダイバーだが、そこに新たな機影がまた現れた。

 その機体色は緑であり、無骨な動力パイプが全身に走り、肩には追加装甲とトゲトゲした肩パッドが取り付けられており、その頭部には丸い閃光が一筋走る。その姿は武器を持っていないザクⅡのそれであった。

「やめろ! このゲームはそのような非道な遊び方をするものではない」

 デルタプラスとアルケーの間に割って入り、デルタを庇うように立つザク。その身体はやけに細身であった。彼はオープンチャンネルの通信を使い目の前のアルケー使いを説得しようとする。だが無理。そこで聞き入れてくれるような相手ならばそもそもこんなことをしていないだろう普通。

 

「……正気か? そんな武器も持ってないような貧弱そうなザクでよ、舐めてるのかよ?」

 

 割って入ったザクに対して逆上したアルケーがGNバスターソードを構えて襲いかかる。まずい! 最低限の武器すら持っていないこのザクではどうしようもない! ヤバイぞザク! どうするんだザク! 

 と、デルタプラスのダイバーが慌てていることも知らず、なんとこのザクは身体をひねりバスターソードをかわしその頭部に一撃鋭いパンチを叩き込む。怯んだアルケーの胴体にさらに一撃叩き込み、身を丸める相手を回し蹴りで吹き飛ばす! 

 まだまだ追撃は終わらない。地面から砂埃を巻き上げながら転がっていくアルケーの軌道にすぐに追いつき、もう一回蹴り付け宙に吹き飛ばす! パーツをばら撒きながら吹き飛んでいく相手、だがまだ攻撃は終わらない。それを追うように飛び上がったザクが拳に力を溜め……

 

「子供たちを! 殺させはしない!!!」

 

 迫真の叫びと共にそれを解放。アルケーの胴体をとらえた強烈な正拳突きが炸裂する。アルケーは爆炎を撒き散らしながら吹き飛んでいきそのまま爆発四散して消滅した。

 

「どうだ。これがモビルスーツの格闘術というものだ!」

 

 そう言ってポーズを取るザクはどこか勇ましく見えた。実際のところ勇ましい。この最高に勇ましいザクを見たデルタプラスのダイバーはもちろん彼の素性が気になる。何故なら彼こそは勇ましい勇者だからなのです。

 

「助けてくれてありがとうございます。あなたは一体……」

 

「私の名はドアン大元帥。この武装を持っていないザク……その名もザクⅡ・ドアンカスタムでGBNを楽しんでいる男だ」

 

 ドアン大元帥……そう名乗った男は質素な服を着ている武骨な姿をしていた。しかしその瞳には何か優しげなものを感じるとデルタプラスのダイバーは思った。と思う。

 

「俺の名前はエスバと言います。ありがとうございました、ドアン大元帥さん」

 

「フフフ……礼には及ばんさ。私が首を突っ込みたかったから突っ込んだだけだからね。また機会があればまた会おう」

 

 デルタプラスのダイバー……エスバは彼……ドアン大元帥と別れを告げる。そう、このドアン大元帥こそGBNでドアンザク最強伝説を築くであろう、最強ダイバーなのだ!!! 

 


 

 ドアン大元帥の戦いは続く。ドアン大元帥は孤独である。彼にはチームメンバーと言える存在がいない。フリーのダイバーだ。野良でチームを組んだり、他のフォースに雇われたりなどして戦ってきた。しかし彼とてフォースを持っていないわけではない。フォースを持っていないと色々と不便な為、彼はフォース『ククルス・ドアンの島』を設立していた。彼はソロフォースだった。

 フォースネストの形は無人島で、元ネタであるドアンが住んでいた島を意識していた。彼はドアンの大のファンボーイであった。男らしい格闘によるファイティングスタイル、深いバックボーン、Gジェネにおける明鏡止水への覚醒、エクバにおけるワンチャンを狙える性能、その全てが彼の大好きな要素で構成されていた。

 そんな彼が駆るザクⅡ・ドアンカスタムは執拗な改造が施された魔改造機であった。見た目はほとんど通常のザクと変わらない。ここは彼が一番拘ったところである。側から見れば、ちょっと細身のザクでしかない。

 細身であることも、ドアン登場回の作画の乱れを表現している。しかし中身は通常のザクとはまるで異なる。まずドアンの類稀なる格闘技術を再現する為、彼はモビルトレースシステムをこのザクに搭載した。

 これにより人間のような滑らかな動きを可能にし、それこそ劇中のドアンが乗っていたザクのような滑らかな動きと巧みな格闘戦ができるのだ。それだけではない。

 彼はこのドアンに『覚醒』機能を搭載した。覚醒というのは機動戦士ガンダム・エクストリームバーサスシリーズにおけるEXバーストの通称である、というのが現代における主な使い方。由来については各自調べてもらいたい。

 彼はエクストリームバーサスシリーズにおいてのドアンザクの強さに惹かれた。何がすごいって序盤ボコボコにされても覚醒で全部ぶっ壊せる可能性まで残してるんだぜ。ヤバイ。その爆発力を表現する為彼は特殊な加工と特殊なアイテムを惜しみなく使い、ダメージを受けるたびにエネルギーが溜まりそのエネルギーを解放することでとてつもないパワーを得ることができるシステムをガンプラに搭載したのだ。

 格闘攻撃が強くなるファイティングバーストを基本に、射撃が得意になるシューティングバースト、生存能力に長けるエクステンドバースト、トランザム以上の加速を実現するモビリティバースト、味方にパワーを与えるリンゲージバーストの5種類のパワーアップを持っており、基本的にファイティングバーストで敵をボコボコにして勝つのがドアン大元帥の基本戦法である。

 先ほどお見せしたアルケー戦ではファイティングバーストで格闘攻撃を強化した上でモビリティバーストに切り替え相手の後ろに回り込むほどのスピードを得ていたのだ。そうこのゲームはGBNであるためエクストリームバーサスシリーズのルールには縛られない。

 バトル中や覚醒中にすぐに何の覚醒を使うか切り替えることができ、モビリティで加速してからファイティングでボコボコのバキバキにして破壊するなどという芸当も可能なのだ。これができるようになるまで彼は地獄のようなガンプラのブラッシュアップと強化パーツ収集に勤しんでいた。

 その他のミッションすらロクに進めずに。何故からはここまでドアンに入れ込んでいるのか。要するに彼は狂っていた。自分が、そしてドアンが最強であることを証明するためだけに彼は汗水垂らしてドアンを強化していたのだ。それこそGPDの時からずっと、彼はこのザクのみで必死に戦っていた。

 GBNが開始してからもしばらくの間は自らの乗機の強化だけに勤しんでいた。だがようやくそれも終わった。一年前、ようやく彼の求めるザクが完成した。この完成したザクさえあればあらゆるものを粉砕できる。実際今に至る一年間、ドアン大元帥と彼の駆るザクは無敵だった。

 小手調べにとありとあらゆる有名フォースにソロで対戦を申し込んだが、対戦を受けてくれたフォースとの戦いでは連戦連勝。練度の高いチーム相手に一人で無双し、連携をとってくる相手の懐に潜り込み全て破壊し、一人一人が強力な相手ならば真っ向から全て殴り壊した。彼のパワーの前では近頃話題のチーターですらもはや相手にはならなかった。

 来る日も来る日も乗機を強化してきて良かった。数々の敵と戦い修行してきて良かった。彼にとって実戦はもはやベリーイージーモードの一人用テレビゲームでしかなかったのだ! それはプレイヤー戦のみが対象ではない。

 数々の難関ミッション……巨大モビルアーマー、ビグザム、ネオジオングなどとの戦い……プレイヤーの作成したクリエイトミッション……ハシュマルが山ほど出てくるミッションであったり、デビルガンダムに数々のラスボス機体が取り込まれたやべーやつと戦うミッションであったり、様々なガンプラが組み合わさった異形の竜のような怪物ガンプラが現れるミッションのような実際のところクソゲーとか言われそうなミッション……

 しかし彼はその全てを粉砕した。拳のみで。そう拳だ。彼には拳があった。その拳で全てを粉砕した。狂気であった。あらゆる怪物を素手で粉砕する怪物がそこには存在した。だが彼はぼっちである。

 そう忘れてはいないだろうか。彼はソロなのである。いくら強くても彼には仲間が居なかった。ドアンのために全てを捧げた彼には仲間が居なかった。いかんせん暴れすぎたせいで今から仲間を募ったところでドン引きされてチーム組んでくれるような相手がいないのだ。そう彼は別に常にソロでやりたいわけではない。彼は悲しみを背負っていた。

 その後行われた対マスダイバーの有志連合にも彼は呼ばれ、もしかして仲間を作るチャンスでは? と企んでいたが彼に近寄ってくれるダイバーはいなかった。彼はさらに悲しみを背負った。その悲しみをマスダイバーとの戦いに向けた。リクたちが必死に戦っている裏で彼は全てを破壊していた。

 ムシャクシャした彼は熱い演出でビグザムが倒されそうなところに自分もひっそりとビグザムにドアン正拳突きを喰らわせ気持ち良くなることで悲しみを緩和しようとしていた。

 その後も基本的に彼の扱いは変わらなかった。たまに戦力として他のフォースに雇われたり、他のフォースとソロで対戦することはあっても横のつながりは皆無だった。彼は願った。ソロでもいいけど横の繋がりが持ちてえ……と。

 思い切って上位ランカーに気さくに話しかけてみようと思ったがそもそも会う機会を逃した。彼は有志連合戦の集まりで彼らに話しかけておけば良かったとひどく後悔した。

 そんな彼に新たな幸運が舞い込む。そう、GBNの存亡をかけた第二次有志連合戦である。ELダイバーの処遇をかけた魂の戦いであった……のだが。今回に限って彼は無理なゲームプレイと仕事の無茶が祟り体調を崩していた。交流するチャンスでもあり自分の強さをアピールするチャンスでもあったこれを逃した彼は絶望した。

 結果レイドボスバトル戦には間に合いバグで生まれた超巨大レイドボスの一体と戦いこれをボコボコに粉砕した。半分八つ当たりのようなものであった。

 そんなこんなで彼は今もバトルとブレイクデカールがなくなった今でも沸く迷惑プレイヤーをぶん殴り冒頭のように罪のない人々を守るようなプレイをしていた。人助けをするとなんだかんだで他プレイヤーとの会話ができる為、他ダイバーとの交流に飢えていた彼にはピッタリの場所だった。

 そんな彼がザクを走らせモビルランニングをしていると、なんと自分のフォースネストの砂浜に謎の少女が倒れ込んでいるではありませんか。お前は誰だ。不法侵入ですよ不法侵入。

 とりあえずザクを仕舞い込み話しかける。こういうところで紳士的なのが人気の秘訣。

 

「そこの君……私のフォースネストで何をしているのかね? ……そもそもフォースネストには許可しないと入れないはずだが……」

 

 取り敢えず触れずに話しかけるところから始め、次に顔を確認する。薄い水色の髪に赤に近い茶色のメッシュが入った、可愛らしい少女だ。ここでドアン大元帥に電流走る。トゥールールルルー(デンリュウの鳴き声)。

 まさかこいつは噂のELダイバーでは? 先の有志連合戦で勝利を勝ち取ったビルドダイバーズが対策法を見出したELダイバーでは? 

 そう思ったドアン大元帥は取り敢えず自らの島にある小屋に運び込み目覚めるまで寝かしておくことにした。起きた。

 

「どーも皆さんこんにちはーっ! ネプテートちゃんですっ!」

 

 起きて早々変なことを言い始めた。なんだこいつ……困惑するドアン大元帥。取り敢えず話しかける。

 

「君は一体誰なんだ? 何故私の島にいたんだ?」

 

「だからネプテートちゃんって言ったじゃん! この島にいた理由はわかんないけどー、まあ漂流って感じじゃないかなー」

 

 なんて適当なやつなんだこいつは。こいつほんまもう……と呆れる大元帥にネプテートと名乗る少女は続ける。

 

「あれ、ガンプラだよね? ねえ! そうでしょ? カッコいいね! 素手ってのもまたいいよね! 憧れちゃうなー、尊敬しちゃうなー」「……続けたまえ」

 

「……私をリアルに連れてって!」

 

 こうして孤独のザクファイタードアン大元帥の、電脳少女ネプテートと共に行く新たな戦いが始まる。彼にとってELダイバーの知識はほとんどゼロ。果たして彼は彼女と上手くやっていけるのか? それとも追い出してまたソロになるのか? そしてその先に待つ新たな危機……ガンバレ! ザクファイター!!! 




(続か)ないです。同じ世界線の別作品なら書くかもしれない


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