昔昔……いやべつに昔でもなんでもない、とある時代の現在。
 魔女と呼ばれる女性種族が普通に人やエルフのようにともに暮らしていた頃のこと。
 エルフは絆を、魔女は愛を、ドワーフは情を、人は欲を象徴とした時代に、彼らは居た。
 Aランク冒険者クラン『栄光のツバサ』。
 リーダーにユリアン(人)を据え、
 バッファーのゾマ(エルフ)、
 タンクにダウザ(ドワーフ)、
 遠距離魔法攻撃にリエラ(魔女)。
 彼らはバランスの取れた仲間達だったが、ある日に言い出したユリアンのゾマ追放宣言により、今回の話は始まった。

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ほぼ台詞だけ劇場。


追放ものは、追放しちゃうよりもまずそいつが居ない状態で魔物と戦ってみるべきだよね

「ゾマ。テメェは今ここで、パーティーから除名させてもらうわ」

「え? あ、うん、わかった。お疲れ。あ、おねーさんビアーひとつお願い」

「はーい」

「ハッ、“なんで”だぁ? テメェの役立たずさを───待て待て待て! なに簡単に受け入れてんだコラァ!!」

「だってユリアン、きみ一度言い出したらこっちの話なんて聞かないじゃないか。付き合ってられないよ、追放だ除名だって言うならこっちだって望むところだ」

「な、な、な……! ててててめぇ! 誰のお陰で今まで甘い汁吸ってこられたと───!」

「財産管理してきた僕のお陰だよね。一日目にして、パーティー全員の財産全部、勝手に使い切ったリーダーくん」

「ふるぐっ!? ……ぐ、くっ……! ハッ! 言うじゃねぇか……! 戦闘面じゃ役に立たねぇてめぇが! クエストだ、ダンジョン攻略だ、稼いでんのは俺やダウザやリエラだぜぇ……!? てめぇに分配する分はいつだって多すぎるって思ってたんだよ! だからよぉ───」

「戦闘面の話と結成当初にきみが仲間の金使い込んだ話は関係ないよね? なに得意顔で言ってるの? ほら言い訳聞かせてよ関係ない話はいいからさ」

「だぁうるせぇ!! 役立たずが口答えしてんじゃねぇ!」

「へぇ、役立たず。ダウザとリエラがモンスターの動きや意識を引きつけたりしなきゃ当てられもしないくせに、よく言えるよねそういうこと。恥ずかしくないの? 人のこととやかく言う前に、自分がどれほどパーティーに貢献出来てるかをもっと考えた方がいいよきみ」

「るっせぇ! うるっせぇよ! るっせるっせぇくそったれ!!」

「うるさいって言うなら、いや、会話したいならそもそも叫ばないでようるさいなぁ……。いっつもきみがそんなんだから、依頼主や交渉人との話し合いが上手くいかないんじゃないか。きみがいつも通りキレてさっさと出て行ってから、僕らがどれだけ話し合いに苦労してるか知ってる? 知らないよね?」

「あぁ!? 俺の交渉はいつだって完璧だっつの!」

「だから叫ばない。うるさい」

「うるせぇ! いいからテメェは追放だ!」

「だからわかったって言ったでしょうが。お疲れ。もう無関係だから話しかけないでよね、ああもうやっと肩の荷が下りる」

「んだとコラァ! つーかテメェ自分の役立たなさ棚に上げてよくもンなこと言えたなコラァ!!」

「あのねぇユリアン。僕、きみに勝手にこのパーティーに入れられただけだよ? 最初に言ったよね、きみに協力するつもりも、なんだったら関わりたいとも思わないって。そしたらきみ、勝手に申請なんて出しちゃって。リーダーの許可が無ければ抜けられないっていうから今まで仕方なく付き合ってたのに、よくもまあそんなこと言えるね。恥ずかしくないの?」

「ぬぐっく!? は、っ……はぁっ!? 俺がてめぇを!? 俺っ………………あ。───だだだとしてもテメェが役立たずで、人に偉ッそうに言える立場じゃねぇって話だろうが!」

「そもそも僕はバフデバフ担当で、戦闘面ではからっきしだって言っといたろ? その代わり、そっち方面だったら誰にも負けるつもりはないって。ダウザもリエラも納得してたのに、なんできみ今さらそんなこと言い出してるのさ」

「てめぇが戦闘にちっとも貢献出来てねぇからだよ! だから追放だゲヘヘハハざまぁみろ!!」

「お疲れ」

「悔しがれよてめぇ!!」

「うるさい。注文が多い。あとうるさい。むしろ僕はようやくきみの許可が出て大変嬉しい。あとうるさい。それとうるさい。ついでにうるさいよきみ。あぁ、あとうるさい」

「うるせぇ! 何度も言うな!!」

「ビアーひとつお待たせでーす」

「どうもです、はいお金。……んっんっんっ……ぷはー!」

「ゴキゲンに一杯いってんじゃねぇよ!! 話聞けゴラァ!!」

「あぁもううるさいなぁ……で? ダウザとリエラも賛成なのかな」

「ハッ、ンなこと訊くまでもねぇだろうが。当ォ~然、この俺様と同じで───」

「……ム。ゾマが抜けるなら俺も抜ける。ユリアン、貴様とはここまでだな」

「は、はぁ!? ダウザ!? んでテメェここにっ……! あ!? リエラも……!?」

「ム? ギルド酒場に集合と言ったのは貴様だろう、ユリアン」

「はぁ~……まぁたユリアンの我儘が始まったのー……? 私もう疲れたー……ゾマ先輩、こんなのほっといて早く新パーティー作りましょうよー……」

「はぁ!? 新、パ……って、はぁ!? リエラてめぇ、なに言って……」

「私そもそも、ユリアンのパーティーになんか入ったつもりも、ユリアンをリーダーと認めたこともありませんでしたから。ユリアンって呼べってしつこくうるさく言ってきたから言っただけですし、そもそも先輩追放とか有り得ません。出てけってんなら私も一緒に出ますから」

「ふざっけんな許すわけねぇだ───あっ!?」

「ム。これが除名許可の書類か。PTリーダーにしか渡してくれないというあの伝説の。どれ、俺の名も書こう」

「あっ、ダウザ先輩、私も私もっ! ちゃ~んとユリアンの文字に似せて書いてくださいねー? 受理されなかったら最悪ですからねー」

「ちょ、てめっ! 返せよコラ!」

「せんぱ~い~、ユリアンがしつこいです、お願いします」

「……はぁ。“-身体強化-”(グロウ)

「だわっと!? お、おいダウザてめぇ! なんだその速さ! てめぇ鈍臭いばっかの筈じゃ……!」

「ム? いつも通りだろう。ゾマがバフをかけてくれただけだ。貴様にはかかっていないようだが」

「はぁ!?」

「ぷふふー! あっれーユリアン様ぁん、いつもの素早さはどうしたんですかー? 俺様の高速連撃からは……誰も逃げられねンだよッ! が決めセリフのユリアン様ァン!」

「は、は? はぁ? はぁああ!? なっ……ンだよ! じゃあ……今までバフかかってたから素早く動けた……だけだとでもいうのか!? かかってないだけで、俺とダウザでこんだけの差が……!?」

「現実って悲しいですよねー……だいじょぶですよ、きっといーことあります。あ、でも私たちが可哀想にも、かーわーいーそーうーにーもっ! ユリアン様に除名追放される現実は変わりませんので、これから一人で頑張ってくださいねー? なんたってユリアン様はA級ギルド『栄光のツバサ』のリーダーさんなんですからっ! ……ギルメン一人だけですけど! ぷふふー!!」

「なっ……な、な……!」

「あ、ほらほらダウザ先輩、ユリアン様がナナナ症候群になってる内に、さっさと提出しちゃってください。あ、交渉なら先輩ですよね、お願いしちゃっていいですか?」

「ん、わかった。任せてリエラ」

「えへへー、さっすが先輩頼りになりますっ♪ ……さぁダウザ先輩、ここからは死力を尽くしてでもこのエイコーのツヴァサさんを止めますよ。私達がこのドグサレPTを抜けるために必要な死闘です」

「ム、任せろ。タンクとしての役割は確実にこなそう」

「それじゃあ私は魔女としての役割をこなします。突っ込んで全力で暴力を振るうだけしか脳が無い、そもそも攻撃当てられないリーダーさんを引き付けとかなきゃですし」

「ふざっけんなてめぇらそこどけ! てめぇらグルだったのか!? てめぇら全員で俺をカツごうとしてんだろ! あんなヤツが役に立つわけがねぇ!」

「ム。“-挑発-”(このブサイク)───!!」

誰がブサイクだてめぇ殺してやるぅううううっ!!

「わお、相変わらずダウザ先輩の挑発、エグってるぅっ♪ ……まあでも、ユリアン様ったらその顔で超絶美男子とか言い出す始末ですし、もう少し美的感覚とか養ったほうがいいですよ?」

「ンんだとゴラテメェちっと顔が整ってるからってチョーシこいたこと言ってんじゃねぇぞクソアマァアア!!」

「ム。こらリエラ、ヘイトを取るんじゃない」

「あちゃ、ごめんなさいダウザ先輩。もっかい挑発お願いします」

「ム。落ち着くのだ、“-挑発-”(粗なる者よ)───!」

誰が()チンだてめぇブチ殺してやるぅううううっ!!

「わぁ、そうなんですかユリアン様。そういえばソワソワしながら遊郭に遊びに行ったのを見かけたあと、帰ってきたと思ったら部屋に閉じこもってしくしくめそめそしてたことが……」

「ム。いつも一人で別部屋を取って無駄遣いをしていたと思えば貴様、そんなことを」

「★≦∋●Θ▼*%#~~~ッ!!?」

「うわあ……もうなに言ってるのかわかりませんね。とりあえず……“-動くな-”(バインド)。こっち来ないでください、涙と鼻水と涎と口調が汚いです」

「───!! ×◆§∈¶ーーーッ!!」

「お待たせ二人とも。問題なく受理されてパーティー解散になったよ」

「ム。面倒をかけたな、ゾマ」

「いいよいいよ、ユリアンの相手の方が疲れたでしょ」

「ほんとですよー、この人いっつも人の話聞かないで、自分の言いたいことだけ言ってば~っかなんですから。あ、ところでところでっ、ですよ先輩っ♪ 新しいパーティーのことなんですけ───」

「てっ……てめっ! てめぇらぁっ! なにを勝手に───」

「…………“-五月蠅い-”(サイレント)

「ムムグッ!? ───、───!?」

「もう、関係ないんだから口ださないでくださいよー。何様ですか? えぇと、ユリアンさん……?」

「!? !?」

「ム。ゾマ、新しいパーティーの名前なんだが、“タンクとバフと後輩魔女”でどうだろうか」

「なんか私すっごいおまけ感出してませんかー!? だ、ダメですダメダメ! 認めませんからね!? 名前はこうです! 魔女と愉快な仲間た───ち……ゆ、愉快? あのー……先輩? ダウザ先輩? お二人って愉快でしたっけ」

「あ、それ訊いちゃうんだ……」

「ム。俺は愉快だぞ。巷でも声の神、トゥモカズ=スギィータに声が似ていると評判だ」

「や、確かにすっごく似てますけど。似てますけどね? それって愉快ですか?」

「ム……ゆ、愉快ではなかったのか?」

「愉快っていうよりは天然ってだけだと思いますよー? まあ、面白いってところはあるかもですけど。ところで先輩? 先輩せんぱぁい♪ 結局名前、どうします? どうしちゃいます?」

「パーティーの名前かぁ……ていうか二人は僕と一緒でいいの?」

「ム。むしろ俺はお前とリエラと旅をしているつもりだった」

「もちろん私もです。一目でわかりましたもん、あ、このリーダーこれっぽっちも役に立たない奴だ、って」

「ム。同感だ。だが偏見するつもりはなかったから付き合ってきたが、もはや擁護も出来んレベルだ」

「私は擁護するつもりもありませんでしたけどねー。……と、ところで先輩? パーティー名なんですけど、いっそのこと、その、あの、ままま“魔女の隣に立つ者”、とか……!」

「ム。魔女は常から己の名の隣に立つ者は、生涯の伴侶と認めた者のみに───」

「わばぁばばばばば馬鹿じゃないですか!? ヴァカじゃないですかダウザ先輩! なんで言っちゃうんですかそういうことほんっともう信じらんないです! こいうのはあとでそっと真実を知って、先輩がハッとして私に問いただしてくるシチュとかがなんというかこうクるんじゃないですかー!!」

「ム。わかった、すまなかったから魔女帽子で叩くのはやめてくれ。あと前から訊きたかったんだが、魔女というのは腕や胸は露出多めでロングスカート系の黒衣を着ているものじゃなかったか?」

「ぷふふー! 違いますぅー!! 魔女は大事な人にだけ素肌を多く見せるんですぅー!! 想いが叶ったら、少しずつ“私はあなたを警戒しません、あなたに身も心も明かします”って意味で露出を増やしていくんですぅー!!」

「? じゃあリエラが僕の前だと顔を赤らめながら肩とか見せてくるのは」

“-魔女コークスクリュー-”(デーモニッシェア・シュラーク)!!

「うわぁっ!? ちょ、あぶっ、危ないからリエラ!! あと魔女とかじゃなくて悪魔的ななにかを感じたよ!?」

「魔女の恥じらいと勇気を人に暴露しちゃう先輩なんて殴られちゃえばいーんです!! なんですかなんなんですか先輩のばかー!! 魔女ですよ!? 私魔女なんですよ!? 初めての気持ちにもやもやしたり振り回されたりしてる可愛い後輩(しかも魔女)さんに、もっとやさしくしてください! 具体的には大好きなので私をお嫁さんにしてください!!」

「えっ……僕てっきりリエラはダウザのことを好きなんだと思ってた」

「あーりーまーせーんーかーらーぁあああ!! ダウザ先輩は、行けて義理兄ポジです!! たまぁに、“あ、なんかほんのちょっぴり頼りになるかも。でも普段がなぁ”なんて呆れられるポジですから!!」

「あ、それなんかわかるかも。うんうん、ダウザはなんか、義理のお兄さんって感じだよね」

「ム、ムぅ……そ、そうか?」

「そんなことはいいですからー! せへっ……先輩ぃい~~……っ!!」

「あぁ、うん、ごめん。……うん、僕でよければ喜んで。魔女の愛を受け入れます。あ、でも僕、誰かと連れ添うことになったら、自分の全部をそこに置こうってずっと決めてたんだ。だから急に結婚、とかじゃなくて恋人から始めたいんだけど、いいかな」

「───…………………………ハイ。ぁの……あの、あのあの。ふちゅっ……ふつつかもの、ですが。魔女のすべてをもって、あなたに尽くしますから、あなたも尽くしてくれると……うれしい、です」

「うん、任せて」

「───!!」

「ム。ゾマ。魔女の告白、尽くし尽くされの問答で、“任せて欲しい”は“生涯お前だけを愛する”を意味する。受け入れるとパスが繋がって、魔力の共用が始まり、……ムウ、その。互いの“好き”が増幅されるそうだ」

「……ええっと。それって」

「ム? お前は魔女に対して、最上級の愛の告白をしたことになる。好きだ、愛してるは当然ながら、俺のものになれ、お前を抱く、可愛い奴めなど、まあそれらを一気に言ったようなものだな」

「ちょっと待って!? 好きだ愛してるからのぶっ飛び様がおかしい!!」

「ム……情報は武器だと豪語するお前ならば、知っていると思ったが」

「だ、だって魔女の、リエラのことだからってなんでもかんでも調べたりするの、気まずいし悪い気がするだろ……!」

「ム。今ので全て完了した。尽くし尽くされの問答に任せろを伝え、パスが通り、魔女が幸福を感じた時に、さらに魔女を気遣い思いやる言葉を伝え、それを魔女が心から喜んだ時、魔女は」

「だからそういうことを勝手にべらべら喋らないでくださいー!! ……は、はのっ、せんぱひ」

「え? う、ん? なに? リエラ」

「ぁの……わひゃっ……わはひ、なら、その……先輩なら、いつでもその……い、YES……ですから……!!」

「………………。…………うん?」

「!!」

「ム。ゾマ、魔女の常時YES問答に対しての“うん”や“はい”等の返答は、ほぼ発情スイッチを押したようなもので───」

「りゃからそーゆーこといわないでくらひゃい!! うぅううう……~……!!」

「ム……ゾマ、リエラが発情した。責任を以って部屋に連れ込むといい。防音魔法は忘れるな」

“-黙ってくださいこのばか-”(サイレント)!!」

「ム!? ……、…………」

「~……あ、あの、せんぱい、違いますからね……? 相手が誰だろうが肯定されたら発情するとかそんなんじゃなくて、んんっ……! せ、先輩だから、好きな人だからこうなっちゃうんであって、魔女っていうのは自分たちで言うのもおかしなくらい、種族レベルで一途なだけですから……! は、は……はしたない、だなんて……思わないでくださいっ……! おねっ……おねがい、します……!」

「───……いや。うん。好きになってくれて、僕を思って発情までしてくれるなんて男冥利に尽きると思う。嬉しいよ、ありがとう、リエラ」

「ぁ───、…………」

「(ム。魔女の発情発言の全肯定は、即ち魔女の存在そのものの全肯定だ。そうなれば発情どころの騒ぎではない。全身全霊を以って愛したい、愛し合いたいと本能から求めるレベルだ)」

「ごめんダウザ、いつも通り“ム”から始まっていろいろ言ってくれてるんだろうけど、なにも伝わってこないんだ……、リ、リエラ? あれ? どうかした? 急に腕に抱き着いてきて……って、リエラ、その、む、胸がその、当たって……!」

「……せんぱい…………すき……すきです……。いっつもさりげないところで助けてくれるせんぱいが、伸び悩んでた時にやさしく相談に乗ってくれた先輩が、一緒に成長のための道を探してくれたせんぱいが……わ、私に笑いかけてくれるせんぱいが……すき…………好きです…………大好きぃ……っ!」

「え、や、や……あれはなんというか、実際バフやデバフだけで、戦闘に貢献できてるかって僕も悩んでいたから、せめて僕以外が気持ちよく戦えるようにって、その……きっかけは、確かにそうだったんだけど。……一緒に努力して、成長出来て、純粋に喜んで笑ってたきみが可愛くて、見とれちゃったこともあって。だから……それはきみが可愛いからとかそんな理由じゃなくて、きみに僕が、きちんと恋をしたからって理由で。……好きだよ、リエラ。僕はきちんときみが好きだ。魔女だからじゃない。当然魔女なきみも好きだけど、いろいろひっくるめて、僕はリエラっていう女の子のことが好きだ」

「せn、……………………ふわぁああ……!!」

「(ム。リエラが両手で両頬を包んで足をぱたぱたし始めた。幸せすぎて抑えられなくなった時にやり始める魔女ダンスだな。恋された魔女にあれを見せられた男性は、裏切られることは生涯無いとされている。よかったなゾマ。お前の愛の未来は安泰だ。ただし浮気をすれば全身全霊を以って……嫉妬されるそうだ。がんばれ。一説では涙目で頬を膨らませながら浮気追及してくる魔女はそれはそれは可愛らしいそうだが、それよりも罪悪感が圧倒的勝利を掲げてしまうそうだから、色恋で魔女に勝てる男なんざい居ない、という語源はそこから来るのだろうなぁ)」

「……ダウザ?」

「(ム。気にするな。恋する魔女は劇的に魔力量が上昇し、限界突破もするという。その影響だろうか、ユリアンが動けないまま沈黙を強制され、なにも出来ないでいる。俺の沈黙効果も随分と強化されているようだが……敵対心からくる魔法ではなかったため、そこまで苦しくはないな。ユリアンは今にも窒息しそうなくらい、強制沈黙効果と行動制御で苦しんでいるが)」

「……騒がしくしちゃったし、酒場出ようか。っとと、パーティーの名前も決めないとか。ユリアンにいろいろ干渉されると面倒だし、結成書だけでも提出していじくれないようにしちゃおう」

「……せんぱぁい……えへへ、せんぱい、せんぱーい……♪ なんかもう、“夫婦とタンク”でいいんじゃないですかー……?」

「わあ、とろけるふにゃふにゃ笑顔でなんてことを」

「(ム? 待て。タンクは常に前にだ。その流れで行くなら、名付けは“タンクと夫婦”。これは譲れん)」

「リエラ。ダウザの沈黙治せない?」

「えー……? えへへー、私欲で魔女の魔法を願うならー、対価が必要だ~って、せんぱいなら知ってますよねー?」

「じゃあ、今日の夕食、おかずを一品あげるから」

「先輩の大き目の肌着でお願いします」

「うん。じゃあ───え? はだっ───え? ……リエラ? おかずの話だよね?」

「はい、おかずです」

「………」

「………」

「……あ、あー……そっち系の話? あの、匂いとかだったら、僕が抱き締める、とかじゃだめかな」

「!? なだっ、なななっ、抱きっ……!? せ、せんぱいに、直接抱き締められながら、イタせと……!?」

「あははははうんちょっと待とう? いったいなんの話だっけ?」

「……あ、あの、あのあのっ……せせせんぱひ……! あのっ! あ、の………………! ~……は、はひ……! そそ、そっちで……お願いひまふ……!」

「…………おーい……」

「そ、そうですよね、そうですもん。わわ私はもう、先輩に身も心も尽くすと誓ったんですから……! な、なんですかだだだ抱き締められながらイタすくらい……! いたっ……イタ……!! ~~~っ!!」

「ダウザ。リエラってこんなにポンコツだったっけ。僕今この時の十数分くらいで、知らないリエラをものすんごい知った気分なんだけど」

「(ム。お前が視界に居ないリエラなどこんなもんだ。好き好きオーラを隠そうともしないぞ。ユリアンが傍にいると嫌悪感が勝つようで、そんなそぶりも見せなかったが)」

「ダウザ。その妙なゼスチャーはなんなの……ごめん、これっぽっちも伝わらない」

「(ム……リエラは)」

「? リエラ?」

「(ム。お前のことが)」

「……僕?」

「(ム。いつでも抱きしめたいくらいに大好きだ)」

「……どしたのダウザ。急に自分の肩を抱くようにして。もしかして寒い?」

「(…………ムウ。これは───、?)」

「………」

「(ムウウ!? ま、待てリエラ! 俺はきちんとお前の愛を証明しようとだな!)」

“-海老の脱皮級に柔らかくなれ-”(ガードブレイカー)

「(ムウウウウ!? やめろ! お前の魔術はいちいち加減がなっちゃいないんだ! 柔らかくしたってことは魔術で攻撃はしないんだろうが、だからってだな───げひゅんっ!?)」

「うわわすごい音っ……!! 鎧を着てるのに、背中の肌を直接叩いたようなっ……!!」

「(んんんんんんんん!!【激痛】)」

「乙女の愛を他人が語ろうとしないでください。それは、私が先輩に与えるためにあるものなんです」

「えっと、リエラ? それ口にしちゃったらダウザが叩かれ損になることなんじゃ」

「私が言うならいいんです! わ、私、先輩のこと大好きですから! ほんとにほんとに大好きですから! なんなら子作りなんかせずにずっとずうっと二人きりでいたいくらいです!」

「あ、リエラはもしかして男女の営みとかは嫌いな方?」

「先輩限定で大好きです! いつかその、えと、先輩のご立派様を私のお大事様に迎え入れて、ともに頂に昇り果てるのが夢といいますか……!! そ、そしたら先輩のご立派様からどぷどぷと放たれる“-素-”(MOTO)が私のお大事様の奥の奥、赤ちゃんの部屋を熱く白く情熱的に染めて……! きゃうううんっ♪」

「“いいますか”じゃないよ言いすぎだよ!? そこまで訊いてないから!」

「あの、先輩、私やさしい先輩も好きですけど、時にはその、男性の本能のままに、荒々しく、あたかも“-獣-”(ジュウ)のように襲ってくださるのもやぶさかではないといいますか……!」

「だから“いいますか”じゃないよ!!」

「(……ムウ。とりあえず、周囲の視線が痛い。背中も痛い。さっさと出よう)」

「ダウザ? 外指差してどうし───あ、そ、外ね外! うん出よう!」

「ふふっ……先輩、また一から頑張りましょうね。Fランクからの出発ですけど、私と先輩とタンク先輩が居ればランクアップなんてあっという間ですよ! なにせ邪魔するクズが居ませんから」

「(ム。確かにいちいち指図が鬱陶しかったな。あれは指示とは言わない。状況に合わせた的確な行動もとれず、ただ好き勝手に突っ込むだけではリーダーの資格はない)」

「それはいいけど、ダウザの声、ほんとどうにかならない?」

「魔女の“-呪-”(しゅ)はそう簡単には解けないものなんです。私の気がとても、と~っても緩んだり逸れたりしない限りは、魔力が勝手に呪に干渉してしまうので」

「(ム。ならばゾマよ。こうだ、こう。手を取れ)」

「? ダウザ? 手? ダウザの? ……ああ、リエラの? ……掴んで? 引っ張って?」

「ひゃあっ!? ちょ、先輩っ!?」

「えと、抱き寄せる? で…………魔女帽子を取って……こう? 額に……キス? ……んっ」

「!!!!!!!!!!!!!」

「───ム? おお治った」

「え? こんなので? ……って、リエラ? ……リエラ!?」

「きゅぅうううぅぅぅぅ……」

「……目ぇ回してる。魔女ってこんなのでいいの?」

「ム。“相手”を作る前の魔女などそんなものだ。それから様々を経験して、露出の多い妖艶傲慢魔女が出来上がっていく」

「その場合の相手っていうのは」

「ムゥ。そうだな、大体が魔女に頭を下げてフッている。そういったフラれた魔女が、寂しさを紛らわすために妖艶傲慢になっていくのだ。生涯を愛するつもりが、愛が重すぎて相手に逃げられるわけだ。悲しいことだ」

「愛が重い…………うん、僕それくらいじゃなきゃ満足できないと思うから、きっと相性がいいと思うよ」

「ム? そうか。大事にしてやるといい」

「うん。───あ、ところでユリアンも治ったと思うんだけど───」

「ム。あそこで気絶している。一歩遅かったようだな」

「まあ、喋れたらまたうるさかったと思うし。パーティー設定で干渉したくないパーティー、または人物にユリアンって書いておいたから大丈夫だと思う」

「ム、ならばよし。まずは宿でも取るか」

「一部屋でいい?」

「ム? なにを言う、二部屋だ。クランハウスはそのままユリアンのものだが、俺達はもはやあのクランを抜けた。新たなクランハウスを建てるまでは安宿で稼ぐしかないだろう」

「なら余計に一部屋でいいじゃないか」

「ムゥ……俺はお前のためを思って言っている。想いが成就したばかりの魔女は独占欲と恋と愛が強い。なにより、異性だろうが同性だろうが、他人が傍に居ることを極端に嫌う。いいか、お前はこれからリエラが満足するまでたっぷりと愛してやれ。いいか、よくある上から目線の“これはお前のためを思って”なんて生易しいものじゃあない。魔女の愛は、重い。それと向き合え。攻略しろ。でないと、魔女は満ちぬ愛に飢えて暴走する」

「暴走…………すると、どうなるの?」

「ム……堕ちる。愛を求めて、誰でも、というわけではないが、愛を求める対象が緩くなる。多くは最初に恋をした相手の特徴と似ているものを求めるという。そんな悲しい愛の求め方など、リエラにさせるな」

「お義兄ちゃん、してるんだね」

「ム。当然だ。俺は求められた役回りを立派にこなす男だ。“タンク先輩”らしいからな」

「何気に気に入った? それ」

「ム」

「……ところでどうしてそんなに魔女に詳しいの?」

「ム? ム。母親が魔女だ。様々なことを教えられてきた。幼少の頃から口酸っぱく言われていることがある。質問され、発言する時はひと呼吸考える時間を拾って、それから喋ろと」

「あぁ! ム、ってそのためのなんだ!」

「ム、その通りだ」

「ダウザって父親似? 母親似?」

「ム。父親似だ。母が“私の遺伝子が仕事してない……”と時折落ち込むくらいには父親似だ」

「魔女もいろいろあるんだね……」

「ム。その通りだから、リエラのことは深く、広く、たっぷりと愛してやれ」

「そうだね。じゃあリエラが気絶している間にいろいろ準備するかな」

「ムゥ……言葉だけを聞くと相当に怪しいな」

「言っておくけど、気絶している間にリエラに触れるつもりなんて、これっぽっちもないからね?」

「そんなことはゾマならば当然だ、信じている」

「わお、ムが無かった。ありがと、考える必要のないその信頼は、絶対に裏切らないって誓うよ」

「ム。しまった、つい。母の教えを破るなど、俺もまだまだだ」

「まあまあ。じゃあ部屋取りに行こうか。リエラは僕がおぶるとして、っと……うーん、僕ももうちょい体鍛えないと」

「ム。いい考えだ。協力は惜しまん」

「ありがと」

 

 ───その後、彼は宿で二部屋を取り、タンクと分かれて部屋に入った途端、魔女にベッドへ押し倒されたそうな。

 ゴウランガ! なんというワザマエ! 魔女=サンは気絶したフリをしていたのだ───!!

 けれども純な彼女は行為方法は知っていても、相手に嫌われるようなことがしたいわけではない。夢はともに頂に到り、“-愛-”(アモーレ)を注いでいただくことなのだ。

 そこに愛への侮辱は要らない。魔女にとって、愛とは───もっとも大切であり、大事なものなのだから───!!

 

「あ、ふえっ!? せんぱふにゅうっ!?」

 

 しかし女に押し倒されたとあっては、草食男子とて総食男子へとジョブチェンジするというものです。

 彼は彼女を押し倒し返し、じっくりたっぷりねっとりもったりぺっとりどろぉりと愛しました。深く深く、愛し愛され、やがて指では届かないお大事様の果てまでも。

 やがて気絶しても愛を試され続けた魔女は真実の愛を受け取り、愛に溺れ、恋を浮き輪にし、好意の大海原を泳ぎ続け、ついには結婚したといいます。

 真実の愛を知り、それを絶えることなく供給され、注がれ続けた魔女は深淵の魔女へとクラスチェンジし、末永く幸せに暮らしたといいます。

 

 

   -f i n-

 





 ……なんだこれ。(挨拶)

 関係ないけど、アニメ-バキ大擂台賽編のOPを歌詞無しで全部理解出来た人、何人いるんでしょうね。
 テンポとか好きで、一度聞いてからというもの気が付けば頭の中でイントロ流れてるんですよね。でも歌詞がわからない。こういのってデジタルミュージックで買うと、なんで歌詞ついてこないんでしょうね……。
 細かいところの歌詞がわからないのはもちろんのこと、永久find myselfあたりはもう全然無理で、永久体の線引き結果論にまぁリターンマッチとかよくわからん空耳になってました。
 そしてOPの海皇や海王の演舞が大好きです。……演舞?


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