五等分の家庭教師   作:ドラしん

5 / 5

こんにちは!ドラしんです。

今回から本格的に5つ子ちゃん達との絡みを書こうと思ったのですが思いの外長くなっちゃって急遽話を分けることにしました。

打ち込んでいて思うんだけど、皆のキャラってこんな感じだったっけ?何か自信無くなっちゃうな。

軽いキャラ崩壊起きてるかもしれませんが、温かい目で見ていただければ幸いです。

それでは第5話始まります。


どうやら他の姉妹からの好感度も高い様です①

 

 

「よし、では今回はここまで。号令」

 

「起立。礼。着席」

 

聞き慣れた鐘の音と共に授業が終わる。

 

結局俺はこの授業に集中する事が出来なかった。

 

原因は勿論五月だ。食堂で見せたあの表情とすれ違いざまに見せたウインクが頭から離れない。

 

何故俺がこんなに好感度高いのか分からないが、問題は残りの姉妹だ。

 

さすがに最初から姉妹全員に好かれてる訳ではないだろう。

五月だけであってほしいものだ。

 

後ろでは五月がクラスメイト達から質問攻めにあっている。

 

五月とお近付きになりたい男子で殆どではあるが、真面目な五月の性格上きちんと全員の質問に答えるだろう。

 

「五月ちゃんて彼氏あるの?」

 

出た。絶対この手の質問はされると思ったわ。

 

まぁ俺には関係ない。

 

「彼氏ですか?いないですよ」

 

あれ。照れるかと思ったのに意外とすぐ答えたな。これは予想外だ。

 

五月の言葉に「やったー!」と騒ぐ男達。フリーだと分かってより一層やる気が出たのだろう。

 

そして男子が次の質問を口にしようとしたその瞬間、五月が先に口を開いた。

 

「でも、気になる人はいます」

 

五月の言葉に、男子達の動きが止まった気がした。

 

「…え?」

 

「い、五月ちゃん…それって好きって事?」

 

「ふふっ、それは秘密です」

 

五月の返答に騒がしくなる男子達。

 

よっぽどショックだったのか、「終わった…」や「俺の青春が…」等絶望している男子が複数出始めた。

 

中には「大丈夫だ。まだチャンスがある」や「好きって決まった訳じゃない」といった不屈の精神を持つ強者もいた。

 

まぁ金持ちで美少女でスタイルが良いという非常に珍しい人種だから諦めたくない気持ちも分からんでもない。

 

だがそういう事はせめて本人のいない所で言おうぜ。

 

多分ガッツリ聞かれてるぞ。お前らの声。

 

「ち、ちなみにその相手は…」

 

「勿論秘密です」

 

…まぁそりゃそうだよな。

 

好きか否かの質問の答えが秘密なら当然この質問にも答えないだろう。

 

にしてもまさか五月にそんな人がいるなんてビックリだ。

前世の時はそういう話一切無かったからな。俺が知らなかっただけで前世にも居たのかもしれない。

 

一先ず背中に突き刺さっている視線は五月の物じゃないと思いたい。

 

三玖がいたら自意識過剰とか言われるかもしれないが、食堂での表情とウインクを見せられたらどうしても意識してしまう。

 

「…1回クールダウンしよう」

 

とにもかくにもこのままこの場所にいるのは体に悪い。

 

そう思った俺は立ち上がると、そのまま教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

人気の無い屋上。

 

そこに俺は一人佇んでいた。

 

どうにも五月の目を意識してしまう自分がいる。

 

確かに前世ではあいつらの事は好きだった。勿論友達としてでは無く異性として。

 

だが俺が全員を好きになってしまいあいつら全員俺に好意を寄せていたから姉妹同士で騙し合い、傷付け合う事になってしまった。

 

すぐに一人に絞らなかった俺に責任はある。でも、選べなかった。

 

俺はあいつらの笑顔が好きだ。

 

でも、俺のせいであいつらの笑顔が消えたのなら俺はあいつらの隣にいる資格は無い。そう思ってしまったんだ。

 

それだったら全員平等に…だから俺は、誰も選ばなかった。

 

我ながら馬鹿な考えだったと思う。

 

でもそれくらい俺は全員が平等に好きだった。一人に決められない程。

 

あいつら全員と過ごせればとも思った。でもそれは現実的じゃないし何よりあいつらが許さないだろう。

 

今、あいつらが好きかどうかと聞かれれば間違い無く好きだ。これは揺るがない。

 

でも俺は前世と同じ二の舞を演じない様にあいつらと深く関わらないと決めた。

 

きっと俺はこの先も、答えを出せないだろうから。

 

「…後5分か…」

 

折角一人だしこのまま授業が始まるギリギリまでここにいよう。

凄い落ち着くし。

 

にしても風が気持ち良いな。頭がボーッとする。

 

「…もっと前まで行ってみるか」

 

この心地良い風をもっと堪能したい。

 

その一心で俺は吸い込まれる様に屋上のフェンスに向かい歩き始めた。

 

「うおっ…結構気持ち良いな」

 

フェンスに掴まり外を見渡す俺。

 

頬を撫でる風が心地良くて心が癒やされるようだ。

 

そしてほんの好奇心に押され軽く身を乗り出したその時、屋上の扉が開かれた。

 

「…え?」

「…あ…」

 

首だけ扉の方へと向けると、見覚えのある少女と目が合う。

 

その少女は俺の姿を見るやいなや、目に涙を浮かべながらこちらに向かい勢い良く走り出す。

 

「だ、ダメぇぇぇー!!!!」

 

叫びながらこちらに走ってくる少女の様子と言葉を見聞きして俺は気付く。

 

ああそうか…今の俺って傍から見たら…

 

ーーーー飛び降りようとしてる人だもんな…

 

「ま、待て!別に俺は…」

「上杉さぁぁぁん!!逝っちゃ駄目ですぅぅぅ!!!」

「ぐおっ!!」

 

猛スピードで突っ込んできたかと思ったら凄い力で腕を引っ張られ少女に抱き締められたまま地面に倒れる。

 

特徴的なデカイリボンを揺らしながら俺の上に乗り涙を流しながら口を開く。

 

「危ないじゃないですか!!」

 

離さないと言わんばかりに強く抱き締められる俺。

 

女の子特有の甘い匂いと共に柔らかい感触に包まれた俺は頭が真っ白になっていた。

 

「人の気配がすると思って来てみたら飛び降りようとするなんて…私…私っ…!…」

 

「ち、違うんだ!別に俺は…」

「言い訳なんて聞きたくありません!!」

「いや、だから…」

「私は絶対に離しませんよ!!」

「あの…」

「あー何も聞こえません!!」

「いいから話を聞けデカリボン!!」

「あっ!あっ!あーっ!!リボンはっ、リボンだけは引っ張らないでー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し経ち、お互い体を離し冷静になった所で改めて話をする。

 

目の前に頬を少し膨らませながらこちらを見つめるデカリボンこと中野家四女、中野四葉に向き合いながらまずは事情を説明する事にした。

 

「…それで、風を感じようとしていて別に飛び降りようとしていた訳ではないと?」

 

「…そうだ。第一俺に飛び降りる理由なんて無いし、そんな度胸もねぇよ。全部お前の勘違いだ」

 

「…それはごめんなさい。でも、あんな所見たら誰でも勘違いしますよ!」

 

「…そこはすまん」

 

四葉の言う事は最もだ。確かにあの状況なら勘違いしてもおかしくない。

 

だが、俺が気になっているのはいくら他人との距離感がバグっている四葉でも初対面の奴に対してあそこまでやるのかどうかだ。

 

…あーでも確か前世では5年前に京都で会った女の子は四葉だったんだっけか。

 

当然この世界でも京都に行った際に女の子と出会っている。

 

時々「もう時間…」とぶつぶつ呟きながらトイレに行っていた事以外は前世と変わらなかった。

 

となればあの女の子は四葉である可能性が高いが、そうだとしても果たしてあそこまでする必要があったのだろうか?

 

そしてもう一つ。

 

「…とりあえず名前は?」

 

「あ、今日から転校してきた中野四葉です。クラスは違いますけど、よろしくお願いします」

 

「ああよろしく。それで四葉。何故俺の名前を知ってるんだ?」

 

「…!…」

 

そう。気になっているもう一つはこれだ。

 

五月の時は事前にクラス全員の名前と顔写真を見てきたと話していたがクラスの違うこいつはそうはいかない。

 

もしかしてこいつ…

 

 

 

 

「あ、え、えーっと…ほら、5年前に京都で会った女の子!覚えてませんか!?」

 

「…え」

 

 

 

 

 

うぉぉぉぉい!!?前世ではあれだけ隠してたのにあっさりバラしやがった!?

 

マジかよ!え、どうしちゃったの四葉!?

 

「あ、ああ…もしかしてあの時会った女の子って君?」

 

「そうです!!今でも昨日の事の様に思い出します…上杉さんと一緒に京都を見て回った夢の様な時間が…」

 

京都での出来事を思い出しているのだろう、顔を少し赤らめながら思い出に耽る四葉。

 

四葉ってこんなキャラだっけ?と思いつつ俺は四葉の頬を軽くぺちぺちと叩きながら現実へと戻す。

 

「おい。戻ってこい四葉」

 

「…はっ!私は何を…」

 

前世と違う四葉の様子に俺は困惑しながらも話を先に進める為に口を開いた。

 

「一先ずお前が5年前に俺と会った女の子だという事は分かった」

 

「はい!ですから私嬉しかったんですよ?上杉さんと再会出来て」

 

うっとりとした表情を浮かべながらこちらを見つめる四葉。

 

…何か前世の時と比べて箍が外れている様な気がするのは気のせいだろうか?

 

「ここで会ったのも何かの縁です!このままお話でも…」

「待った。もう授業が始まる時間だ」

 

ふと携帯に目を向けると授業開始まで残り2分を切っていた。

 

時間が無い。早く戻らなくては。

 

そう思った俺は会話を切り上げるべく再び四葉に目を向けると、四葉がとんでも無い事を言い出した。

 

「え、1時間ぐらい良いじゃないですか」

 

「馬鹿、そんな訳にいくか。しかもお前転校初日に授業サボる気か?」

 

いくらなんでもそれは許す事はできない。元家庭教師としてな。

 

「むぅ…」

 

「頬を膨らませてもダメだ。行くぞ」

 

俺は不満そうにこちらを見つめる四葉を無視しそのまま屋上を去ろうとする。

 

しかしその瞬間不意に腕を掴まれると背中に柔らかい感触が広がった。

 

「…!…お、おいっ…」

 

「…ごめんなさい…少しだけ…もう少しだけこのままで…」

 

抱き締められているのだとすぐに分かった。

 

しかもさっきの様に力強いものでは無く包み込む様に優しく。

 

懇願する様に震えた声で言う四葉の様子に、突き放す事は出来なかった。

 

「…」

「…」

 

続く無言の時間。

 

背中に感じる暖くて柔らかい感触とチャイムが鳴らないかの不安が入り混じって2つの意味でドキドキしている。

 

まだチャイムが鳴っていないという事は抱きつかれてから全く時間が経っていないという事実。

 

体感ではもう5分ぐらい抱きつかれてる様な感覚だ。体の暑さといい精神的な疲労といい。

 

それにしても四葉ってこんなに甘えてくる奴だったか?

抱き付き癖がある奴だったか?

 

いや違う。距離感は近くてもさすがにここまででは無かった。

 

何故か前世の時よりも高い俺への好感度は、こうゆう形で精神的なダメージを負わせてくる。

 

一体俺が何をしたというんだ…

 

「…ふぅ…よし、これでバッチリです」

 

四葉はそう言うと満足そうな表情を浮かべながら俺から離れていく。

 

体感では数分くらいだったけれど実際は数十秒程の出来事。

 

抱きつかれた時の感触と暖かさが今も残っている。

 

「ごめんなさい突然…でも、これで次の授業も頑張れそうです!」

 

「…そうか、それは良かったな。次からは俺無しで頑張れ」

 

何故授業を受けるのに俺との抱擁を経由する必要があるんだ。

 

前世から思っていたが本当にこいつの思考回路は理解出来ん。

…まぁそれは他の奴らにも言える事だが。

 

「にしし、それは嫌です!またお願いしますね?それではもう授業が始まるので上杉さんまた会いましょう!それではっ」

 

「お、おい四葉!」

 

四葉はそう言うと、俺の呼び掛けに無視する様に屋上から去っていった。

 

「…本当に嵐の様な奴だな」

 

突然来たかと思えば好きな事やって有無を言わさず去っていく。

 

こういう所も前世と変わらない。

 

「…はぁ…くそ、頭から離れねぇ」

 

四葉に抱き締められた時の様子が鮮明に蘇る。

 

あの時の温もり、心地良さを思い出すと自然と体が熱くなってくる。

 

意識しては駄目だと分かっているのに体が反応してしまう。

 

前世のままであれば何事も無かったのだがこれは予想外だ…

 

「…ってこんな事してる場合じゃない!」

 

こんな所で考え込んでる暇なんてない!早く行かなきゃ授業が…

ーーーーーーーキーンコーンカーンコーン。

 

「…あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ…今日はいつも以上に疲れた…」

 

結局あの後先生に叱られた俺はしょんぼりしながら授業を受け気付けば放課後。

 

昼食の時まではいつもと同じだったがそこで五月と出会ってからごっそり体力が持っていかれた気がする。

 

五月と四葉からの好感度が何故高いのかという問題をずっと考えてはいるが一向に答えは出ず、一旦保留にした俺は帰る前に朝らいはから本を借りる様に頼まれていた為図書室に来ていた。

 

「にしてもまさからいはから頼まれるなんてな…」

 

朝、らいはから歴史の分かる本が沢山ある所知らない?って聞かれたもんだから前世の記憶を頼りにうちの学校の図書室ならいっぱい置いてあると言ったら借りて来て欲しいと頼まれた。

 

可愛い妹の頼みを断れず引き受けたが、らいはが歴史に興味あった

なんて少し意外だった。

 

これはやり直してみないと分からなかったな。

 

「…久し振りだな。図書室」

 

中を見渡し俺はぽつりと呟く。

 

前世は勉強やらで良く利用していたこの図書室も、この人生では全く来ていなかった。

 

というのも中学の時に落ちこぼれの天才という不名誉な称号を付けられてからは、俺に対するクラスメイトからの視線がより一層冷たい物になった。

 

バカにするような目。腫れ物を見たかのような目。可哀想という同情の目。それは様々だった。

 

それは高校に入ってからも変わらずで、中学が同じだった奴が俺の事を言いふらし、瞬く間に俺の名が広まった。

 

小学生の時が優秀だったから調子に乗って勉強も運動も手を抜いたらこうなった。小学生の時は親の力や先生の力で勉強も運動も良く見せていた。中学の頃は手当たり次第に女に手を出すクズだった。等関係の無い物も含め尾びれ背びれが沢山ついた状態で噂をが出回ってしまっている。

 

運動はそうだが勉強は手を抜いた事何てないし当然うちの親にそんな権力も無い。先生だって常に皆平等に接していたし女に手を出すなんて以ての外だ。

 

だがここで俺が必死に弁明した所で聞く耳を持たないし火に油を注ぐ行為となるだろう。

 

その為俺は否定する事無く今を過ごしている訳だ。

 

俺が図書室を利用していないのは、まぁ図書室に限らずだがすれ違う人皆俺の事を不愉快な目で見るから俺は1秒も長く学校に居たくなかったからというのが理由だ。

 

勿論心配を掛けたくないから親父やらいはにはこの事は言っていない。

 

こればかりはらいはと歳が離れていて良かったと思う。

 

歳が近ければ嫌でも俺の噂を耳にするだろうからな。

 

とにもかくにも早く終わらせよう。確か歴史のコーナーはこっちだったな。

 

俺は早く用事を済ませる為足早に目的地へと向かう。

 

そして目当てのコーナーに差し掛かったその時、俺の視界に見覚えのある姿が映った。

 

「…」プルプル

 

「…」

 

高い所にある本を目一杯手を伸ばして取ろうとする背伸びした少女の姿。

 

もう限界なのだろう。表情こそは変化は見られないが伸ばしている腕が震えてしまっている。

 

特徴的な首に掛けた青いヘッドフォンと片目を覆った長めの前髪。そして四葉や五月と同じ顔。

 

そこにいたのは前世、俺が家庭教師で教えていた生徒の一人である中野家三女、中野三玖の姿だった。

 

「…何やってんだか」

 

一生懸命手を伸ばすも一向に届く気配は無い。

 

踏み台使えば良いのに。

 

「…むぅ…もうちょっと…」

 

俺の存在に気付いてる様子は無く一心不乱に目当ての本までの僅かな距離と格闘する三玖。

 

このままスルーという手もあるがそれはさすがに気が引ける。

 

仕方ない。助けてやるか。

 

三玖は基本的に他人に興味を持たない奴だったし別に本を取るぐらいで進展するとは思えないから大丈夫だろ。

 

「欲しいのこれか?」

 

俺はそのまま三玖に近付くと、手を伸ばした先にある本を取り渡す。

 

「…あ…」

 

すると三玖は俺の顔を見るやいなや顔が赤くなり、恍惚の表情でこちらをじーっと見つめてくる。

 

気のせいだ。まさか本を取っただけで好感度が跳ね上がるなんてそんな訳が無い。それじゃあまるで惚れやすい軽い女みたいじゃないか。

 

顔が赤いのもただ恥ずかしいだけだと俺は信じてる。

 

「…やっと…会えた…」

 

ぽつりと呟いた三玖の言葉は良く聞き取れなかった。

 

一先ずこの場を離れた方が良い。そう思った俺は近場にあった歴史の本を数冊適当に取るとその場を離れようと動き出す。

 

「…じゃあ俺はこれで」

 

「…!…待って!」

 

…しかし、それは許されなかった。

 

俺が動き出したと同時に三玖は素早く動きガシッと腕を掴んでくる。

 

俺はお構い無しにそのまま行こうとするがあら不思議、全く体が動かないでは無いか。

 

…あれ?三玖ってこんなに力強かったっけ?

 

「ま、まだ何か用が?」

 

俺は潔く諦め三玖と向き合う。

 

大丈夫だ。少し会話するだけだ。

三玖からの質問に答えるだけで良い。

 

「…名前…」

 

「…名前?」

 

「名前教えて?」

 

…あぁそうか。五月と四葉が俺の名前を知ってたから感覚が麻痺しかけてたけど普通は知らないよな。初対面だし。

 

「…上杉風太郎だ」

 

「そっか…」

 

 

 

 

「ありがとう!フータロー」

 

「…!…」

 

その瞬間、満面の笑みでこちらを見つめる三玖に思わず胸が高鳴った。

 

予想外だった。三玖が初対面の奴にこんな表情をするなんて…

 

俺、顔に出てないよな?…ちゃんとポーカーフェイスを保ててるだろうか?

 

「…?…フータロー?」

 

三玖が懐かしい呼び名を口にしながら心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。心なしか顔が近い。

 

一先ず一旦距離を取らなくては…

 

「だ、大丈夫だ。心配するな」

 

俺はそう言いながら数歩後ろに下がり三玖との距離を取る。

 

その時に三玖が「あ…」と名残惜しそうに声を漏らしたのは俺の気のせいであってほしい。

 

「それでまだ何か用があるのか?」

 

正直言えばこのまま本を借りて帰りたい。

 

用事が無い方がありがたいんだが…

 

「うーんと…」

 

三玖は俺の質問に頭を悩ませる。

 

別に無理して捻りだそうとしなくても良いぞ。

 

「…無いなら俺はもう」

「ある!あるからっ」

「…あぁはい…」

 

帰ると言おうとした瞬間三玖から鋭い眼光が俺に飛んでくる。

 

それはまるで逃さないと言わんばかりに俺を捉えて離さない。

 

とてもじゃないが帰れる雰囲気では無さそうだ。

 

「…!…フータロー、その手に持ってるのって!」

 

質問の内容を思い付いたのか、花が開いた様な明るい表情を浮かべながら三玖が口を開いた。

 

少し興奮気味に三玖が指を指した先には俺が手に持っている歴史関連の本達。もとい適当に取ったから戦国武将についての本ばかり。

 

そういえば三玖は歴女だったな。戦国武将の知識なら前世の俺に負けない程の。

 

「ああこれか。歴史関連の本だよ」

 

「フータロー歴史好きなの?しかも戦国武将…」

 

「これは俺のじゃなくて妹から歴史関連の本を借りて来てって頼まれたから借りるだけだ。まぁ俺自身も興味が無い訳じゃないが」

 

いざ調べてみると戦国時代は面白い逸話が多く、気付けば俺も武将に興味を持っていた。

 

これは紛れもなく三玖の影響だろう。

 

「そっか」

 

嬉しそうに笑う三玖。

きっと俺が武将に興味があるのを見て喜んでいるのだろう。

 

今度は俺が質問をぶつけることにした。

 

「あのさ」

「三玖」

「…えっと」

「自己紹介まだだった。私中野三玖、中野家の三女。だから三玖って呼んで」

 

こりゃまた唐突だな…

 

俺が一方的に三玖の事を知ってたから気にしなかったがそういえば三玖の自己紹介を聞いてなかった。

 

危ない危ない。名乗られてないのに三玖って呼ぶ所だったぜ。

 

「分かった。えっと…三玖は…その、好きなのか?」

 

少し目線を反らしながら言う俺。しかし、ここで気付く。

 

…しまった!三玖は武将好きな事をあまり知られたくない奴だからつい恐る恐る聞いたけどこれじゃ何が好きなのか分からない。

 

これじゃ三玖が答えられるはず…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!…好きっ!」

 

 

 

 

 

 

 

…えっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

流れる沈黙。

 

目の前には顔を赤くしながら真っ直ぐこちらを見る三玖。

 

一方の俺はどう反応したら分からずただただ放心状態だった。

 

「…ふ、フータロー…?…」

 

…待て待て待て!三玖は今何に対して好きと言った?

 

まさか…俺の事か!?…

 

…いやいや待て待て落ち着け俺。そんな事がある筈ないだろ。

 

ただ本を取ってあげただけで恋愛に発展する訳が無い。それはさすがに自惚れすぎだぞ俺。

 

三玖が武将好きなのか聞かれる事を予想して答えた可能性だってある。

 

うん、きっとそうだ。そうに違いない。

 

「す、すまん三玖。つい主語が抜けてしまって良く分からない聞き方になってしまった」

 

「…え?…あっ…」

 

「俺が聞きたかったのは三玖が武将好きなのかどうかだったんだが…」

 

「…!…あ…あ…」

 

え?え?何か顔真っ赤にして慌て始めたんだが!?

 

何だよあの「マズイ…早とちった」みたいな反応は!

 

くっ…いや、まだだ。まだ間に合う!

 

「もしかして、三玖もそれを想定して答えてくれたのか?」

 

「…!…そ、そう!私、戦国武将大好き!」

 

よしよし。やっぱりそうだ。三玖は分かっていたんだ。

 

少し汗をかきながら慌ててる三玖の様子が気になるがもうそういう事にする。

 

「や、やっぱりそうか!いいよな戦国武将って奥が深いし!」

 

「そう!やっぱりフータローは分かってる」

 

あははははと俺達の乾いた笑い声が図書室に響く。

 

図書室では静かにする事がマナーではあるが幸い俺達以外の人はこの場にいない。

 

知らぬが仏という言葉がある様にこの世には知らない方が良い事もある。

 

まさに今がそれだと言えよう。

 

とりあえずこれ以上三玖が自爆する前に俺は退散しなくては。

 

「じゃあ今度こそ俺は…」

「フータローは!」

「…!…」

 

俺の言葉を遮るようにして言う三玖の張った声に思わず口を閉ざす。

 

三玖の顔に目を向けると、さっきまでの赤面していた様子から一変して少し不安そうにこちらを見つめている三玖の姿があった。

 

「…変だと思ってない?女子高生が戦国武将好きだなんて…」

 

…なるほど。こういう所は前世と同じって訳か。

 

周りの皆がイケメンの俳優や美人のモデルの話で持ち切りな中三玖は髭のおじさん。

 

客観的に見れば変だと思われてもおかしくない部類。

 

だが別に俺は変だと全く思っていないし、過度な接触はしないと決めたがこいつらの悲しい顔を見たい訳じゃない。ただ全員一緒に笑っていて欲しいんだ。

 

となればまたあの時の様に認めてやろう。三玖の全てを。

 

「変じゃねぇよ」

 

「…!…」

 

「そこまで好きになれる、夢中になれる物があるって事は凄い事だぞ?周りの目なんて気にする必要無い。別に良いじゃんか、女子高生が武将好きでも」

 

俺の言葉に不安そうな三玖の表情が変わっていく。

 

そして、前世の時にも言った一言を三玖に放った。

 

 

 

 

「自分が好きになった物を信じろよ」

 

 

 

 

前世でもこうして三玖が不安そうにしていた時掛けた俺の言葉。

 

あの時は家庭教師をやるに辺り信頼関係を作らなければいけなかったから内心変だと思っていた本心を隠して言っていた。

 

でも、今は違う。

 

心の底から自分の本心でこの言葉を言う事が出来る。

 

「…フータロー…」

 

ホッとしたような安心したような表情でこちらを見つめる三玖。

 

前世では驚いて目を丸くしていたが今回はリアクションが違うんだな。

 

まぁあの時と場所も流れも違うから当然といえば当然か。

 

「…ふふっ…やっぱり、フータローはフータローのままだ」

 

ぽつりと嬉しそうに呟いた三玖の言葉は今度は俺の耳に届いた。

 

三玖の言葉の意味は良く分からないが、表情を見る限りさっきまで抱いていた不安はもう無くなっているようだ。

 

それでいい。楽しそうに嬉しそうにお前達が笑っていれば俺はそれで良い。

 

「じゃあ、もう大丈夫か?三玖」

 

「うん。ごめんね?いっぱい引き止めちゃって。ありがとう、フータロー」

 

「気にするな。じゃあな」

 

俺はそれだけ言うと、三玖に背を向け歩き出す。

 

呼び止められないという事はどうやらこの場を去ることを許してもらえたらしい。

 

何故この世界では初対面のはずの三玖があそこまで気さくに話し掛けてくれるのか、嬉しそうな笑顔を沢山俺にくれるのか俺には分からない。

 

ただ一つだけ分かるのは五月や四葉に続いて三玖からの好感度も高いという事だ。

 

何故こんなに3人からの好感度が高いのかは分からない。

 

別に悪い訳では無いんだが…このままあいつらとの距離が縮まってしまいそうで怖い。

 

…後は何事も無ければ良いんだがな。

 

三玖の物であろう熱い視線を背中に感じながら俺は、残りの姉妹二人への不安を募らせるのであった。

 

 

 

 





次回、二乃と一花が登場!

お楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。