ワンパンマン世界に怪人TS転生だって?   作:八虚空

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九話 ワンパンマン世界に人間いない説

 怪人一族ゲルマン人の襲撃は幸いなことにあれ一度きりだった。生き残りを出さなかったのが良かったらしい。

 ワンパンマン世界じゃ下級兵士なんて消耗品だしね。どっかで野垂れ死んでも気に何てしない。部下が死んで心を痛めるような人物、ヒーロー以外じゃ人間だろうとほぼ出てこなかったし。うーん、原作のヒーロー協会も腐敗しちゃってるわね。私が協会に生け捕りにされてしまったら口では言えないような事をされそう。実際、本部に災害レベル鬼を実験の為に何人も捕獲していたり、弱くて見目の良い怪人を愛玩動物として販売していたりするし。

 

 血液のある限り無制限に眷属を生み出せるなんて奴隷階級としちゃ最高の逸材ね。しかも災害レベル虎と程々に強いと。

 うん、例え死んでも降伏するのだけは止めておきましょう。

 

「スゥー、ハッ」

 

 パァンと拳を突き出せば良い音がして軽い衝撃波が走った。記憶にある型を真似て反対の腕で鞭を振るうように腕をしならせて振り下ろせば、まるで剣で切りつけられたかのような跡が地面に刻まれていく。

 なるほど。確かに気は身体機能を強化するみたいね。血液で強化された身体を持つ吸血鬼ならば人間よりも強化率は高い。

 これが原作で人間じゃ怪人には敵わないと武術家達が絶望していた理由か。

 

「凄い。爆裂流をこんなに簡単に習得するなんて」

「カーミラ様ならば当然の事。比べる事自体がおこがましい」

 

 シノンにノイが何故か偉そうに誇っているのだけれど原作のジェノスを思い出すわね。従者って皆こんな感じなの?

 

「攻撃に重きを置いた武術流派、爆裂流。確かにこれは天狗になっても仕方ないかもしれないわね」

 

 魂を吸い取ったカマセ隊の一人が体系立った流派を多少は修めていたから気の習得と併せて訓練してみたけれど、大当たり。武術は吸血鬼と相性が良い。

 吸血鬼は血さえあれば無機物も生成できるし高位の怪人になるほど硬度も上げられる。剣を利用した流派も修めてみたいわね。

 他に原作では登場しなかった魔術の類い。超能力以外の明らかな異能。いや怪人フェニックス男が似たような異能を使用していたか。精神世界の共有に死者蘇生。あれは怪人固有の生態染みた異能ではなく、体系立った魔術の一端だった可能性もある。欲しいわね。

 

「決めた。私もキャメロットに行くわ」

 

 村に居たままでは強化も頭打ち。危険だけど原作まで隠れ潜むより技術を磨いて研鑽した方が何倍も良い。

 そう宣言すると畏まりましたと特に異論も無くノイは従った。付いてくる気ね。

 

「ええっ! 村の防衛はどうするんですか!?」

「何人か眷属を置いていくわ」

「カ、カーミラ様。誰を……?」

「ふむ。武術の研鑽に興味がある人員を優先するわ。人間に頭を下げる事になるけれど、付いてくる?」

「なっ。頭を下げる……など。でもこのままの強さでは失望を。しかし」

 

 特に人間種族への偏見が強いノイが葛藤してるけれど、他の眷属はノイほど隔意がないのよね。何でかしら。

 単にキャサリンやリリシアに対する嫉妬? でもシノンとは意外と打ち解け合ってるし。戦友だから。いや、格上の存在としてシノンが私やノイを敬ってるからか。

 そういえば身体を重ねたからかキャサリンやリリシアは私に必要以上に畏まったりしないわね。そういう女としてのしたたかな部分が気に食わないのかも。

 

 半端に語学を学ぼうと交流を深めたから逆に不快に思ってしまったか。せっかくの眷属候補を密かに始末されては敵わない。ノイも連れて行こう。

 

「ノイ。これからもハーレムは増やし続けるわ。人間だけじゃなく純粋なバンパイアの眷属もね。貴女、下手をしたら埋もれちゃうわよ?」

 

 悪戯っぽく笑うとノイは愕然として顔を上げた。ちょっと涙ぐんでる。可愛い。

 

「強くなりなさい。私は女好きだけど強者には敬意を払うわ。特別になりたいのなら奉仕の術を学ぶだけじゃなく圧倒的な強さが必要なの」

 

 そもそも数百年も経てば現存してる眷属は全員死んでいても何もおかしくないしね。私ですら生き残れるか怪しいくらい。

 人間の眷属化すら手間取って研究が進んでいないのに眷属の不死化は相当な時間が必要になる。多分、眷属が死ぬ方が早い。

 

「いっそ私より強くなれば力尽くで好きに出来るしね」

「なぁ!? そ、そんな事は、あり得ませんし実行しません!」

「フフッ。そうかしら。怪人ってそういう生き物でしょ?」

 

 笑ってノイを見ると真っ赤になってうつむいていた。お? 性癖に刺さったか?

 ノイの人間に対する態度を和らげるにはそういう路線で行ったら意外と何とかなるかも。

 ふむ。毎回、私が全員を相手にする形だったけれど。試しにノイにキャサリンとリリシアを抱かせてみるかな。面白そうだし。

 

「うわぁ。邪悪な笑顔……。本当にキャメロットに連れて行っていいのかな。でも強力な一族が人間側に付くか怪人側に付くかの瀬戸際な気がするしなぁ」

 

 うーんと悩むシノンを見て、やはり人間と怪人の分別などその程度のあやふやなものなのだと理解した。

 明らかに人間には怪人の血が流れているんじゃないかって描写がワンパンマンにはある。サイタマという例外を除いても鍛えれば災害レベル竜と張り合える人間の素質は異常だ。人間種族には元から複数の怪人のDNAが混ざっているのだと解釈すれば色々と納得できる。

 怪人を丸呑みにする豚神とか鉄よりも堅い筋肉を持つ超合金クロビカリとかのS級は、そうじゃなかったら普通に怪人化してるんじゃないの? それ以外にどんな理由が?

 

 そのくせ、ちょっと外見が人間離れしていたら怪人だと騒いでヒーローを引退して逃亡しなきゃいけなくなるのよね。ワンパンマン世界は分からない……。

 やはりアレか。民意を配慮してんのか。ヒーローは人気商売だと原作でも言い切っていたしね。人間種族滅亡の危機なのに。

 

「人気。いや、この時代なら金や食料に物資。無機物を生成できるバンパイア一族ならそっち方面を賄える可能性もあるわね」

 

 戦闘力だけではなく、生産者としての強みを持てば有利な立場に立てる。

 科学方面はまだ早いとしてもそっちの道に興味を持つような眷属もキャメロットに連れて行くべきかもね。

 

 何だかんだで都会に上京するようで楽しみ。やはり文明は良い。


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