ワンパンマン世界に怪人TS転生だって?   作:八虚空

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十一話 円卓の騎士トリスタン襲来!

「みんなー、今日はトリスタンのライブに来てくれてありがとぉー!」

「スタンちゃ~ん。こっちを向いてー」

「ウォォッ。お前ら声出せ。いっせーの!」

「「T・R・I・S・T・A・N」」

「もういっちょ!」

「「「T・R・I・S・T・A・N」」」

 

「声援ありがとぅ! 私にも皆の声、聞こえてるよぉー!」

 

 ワァァーーっという歓声が五月蠅い程、石畳のキャメロット城に木霊した。

 そう、このアイドル会場のような場所が伝説に謳われるキャメロット城であり、アイドルのようにフリフリの衣装を着て踊っているのが円卓の騎士が一席、トリスタン卿なのだ。

 

 トリスタンの伝承はアーサー王伝説とは元は別の逸話であるが為に矛盾している事も多いが、それでもトリスタンはリオネスの王子、王族であることが明記されており。出生前に父親が亡くなったか浮気したかでいなくなったことから母親にトリスタン、悲しみの子と名付けられるようなシリアス系のキャラだ。

 その実力は高く円卓の中でも最高峰の騎士と謳われたランスロットと並ぶほどであり<ドラゴン殺し><狩人><狡知にたけた者><メランコリー><楽師>と数々の異名を誇っている。

 また、アイルランドの王族であるイゾルデ姫と仮想敵国の王族同士であるにも関わらず恋に落ち、叔父であるマルク王の許へ花嫁として連れて行く最中に関係を持ってしまう昼ドラめいた悲恋の逸話が有名で、死に際にイゾルデ姫の顔を一目見ようとした程のドラマを展開する……。

 

「トリスタンちゃん、頑張ってー」

「イゾルデちゃん、ありがとぉー」

 

 キャーっと最前列で友人のトリスタンを応援しているらしいイゾルデ姫を見て、私は考えるのを止めた。

 

 魂を幾つも吸い取った事でその中でも最高峰の頭脳の持ち主と同程度に向上した頭脳が前世の知識を詳細に思い出させ、自分ながら賢くなったなと思っていたのだけれど、どうやら気のせいだったらしい。最初に魂を吸い取った村人の頭の出来が思ったよりも良くて密かに喜んでたのだけど、所詮は村人に過ぎないしね。

 いやー、トリスタンの逸話を間違えて覚えてたなんて前世の私って馬鹿ね。アハハ。

 

「女王。俺に贈与された知識じゃトリスタンは陰鬱で生真面目な男だったはずなんだが」

「ソウルの馬鹿。そんな愚直に聞いちゃ駄目よ。ここは空気を読んでトリスタンちゃん可愛いって言っとけば良いの」

「そういうものなのか……」

 

 私に質問してきたソウルをそうエレナが諭すのを聞きながら、なるほどと私も頷いた。

 そもそもアーサー王伝説は元の世界じゃ架空の話だったんだし気にしても仕方ないのよね。うん。トリスタンはアイドルだった。それだけの事。

 

 12人の円卓の騎士が一席。S級ナイトのトリスタンがアイドル? いや、ワンパンマン世界なら十分あり得るか。

 

「カーミラ様、運が良かったですね。吟遊詩人トリスタン様の音楽祭が生で聴けるなんて。滅多にないんですよっ」

「シノン。この催しは毎回、やってるの?」

「はい。キャメロットに怪人の被害が及ばないよう歌唱魔法で建築物に防護の祝福を施してるんです。都市内部なら武装にも影響が及ぶので戦略的価値すら含む、大規模な魔術儀式なんですよ!」

「あっ、ちゃんと意味があるのね」

 

 ビックリした。ワンパンマンの原作でアイドルやYouTuberが歌ったり踊ったりしながら怪人を退治したりするから、何の脈絡もなく円卓の騎士の一人がアイドルをやってるのかと思った。

 そうか、吟遊詩人か。トリスタンは楽師として竪琴を演奏する場面もあるし、確かに変じゃ……ないか? コジツケじゃない?

 

 煌びやかなシルクの舞台衣装は大目に見るとしても、あのトリスタンが手に持ってるマイクとか周辺に置いてあるスピーカーとかは何処から出てきた。

 今は中世だぞ。時代背景を無視するんじゃない。

 

「あのね、シノン。トリスタンが持ってるのは何?」

「マイクですよ? 魔道具の一種です」

「なるほどー。まどうぐなのかー」

 

 進みすぎた科学は魔法と変わらないって言うしね。一周回って現代のマイクが中世に魔法の道具として出て来る事もあり得るんだろう。多分。

 真面目な話、ワンパンマン世界だしねぇ。ないとは言い切れない。

 

「みんなー、ノリが悪いぞーぅ? もっと大声で、さぁ一緒に!」

「「おい! おい! それそれそれそれ!」」

「もう一声!!」

「「「うーっ、はい!」」」

 

 何かファンもオタ芸のような一糸乱れぬ芸術的な踊りを披露してるんだけれど。

 これがキャメロット。なるほど。伝説になるだけはあるわね。末恐ろしい。

 

 

 

「うーっ、はい!」

「エレナ……気に入ったの?」

「はい。出来ればトリスタン様に弟子入りしたいのですけど、良いでしょうか!」

「…………好きにして、いいわ」

 

 宿屋に泊っても尚、騒いでいたエレナに確認してみたら案の定、トリスタンのファンになっていた。

 文化侵略で眷属の一人がラウンドナイトに持って行かれた。

 戦わずして敗北する。これがS級!

 

 なるほど。尋常な相手じゃないわね。場合によっては冗談みたいな手段で気付いたら陣営毎、敵に寝返っていたなんて事もあり得る。

 エレナを筆頭にいずれバンパイア一族にアイドルグループでも結成させてみるか。

 目には目を。アイドルにはアイドルを。

 

 歌唱力こそが戦場を支配する世の中が、もしかしたら訪れるのかもしれない。

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