ノイのバンパイア傭兵団からの報告で、私と同じ災害レベル鬼が雑魚のように消えていく地獄が展開している対ゲルマン人戦線について知り、私は安全なキャメロットに引き籠もろうと密かに決意した。幻影飛翔剣の達人である山賊は意外と世の中を正しく認識していたっていうか、怪人特有のプライドの高さが知識としては分かっていても認めなかったというか。少なくとも高く見積もってA級ナイト上位程度の幻影飛翔剣すらマトモに習得しきってない私じゃゴミのように消し飛ばされる戦場だってのは理解したわ。
ビビってはいたけれど、引き続き傭兵稼業を続けていくつもりでいるバンパイア傭兵団を尊敬してしまう程度には私はチキンである。
カマセ隊も思えば決して勝てない怪人に突撃していく蛮勇さを持ち合わせていた。ギャグキャラだけど有能なB級ナイト部隊だというのは本当なんでしょう。単独ではC級ナイトクラスの実力の人員が集まってB級でも有望な部隊だと認められているってのは一種の偉業ね。補充人員は燻っているC級ナイトから幾らでも補充可能。命の安い中世では思ったより良いシステムなのかもしれない。
「配下チートに関しては私の上位互換っぽいアングロ・サクソン七大王もいたし、ちょっとでも強くならないとマズいわね」
基本、災害レベル虎でも下位の怪人バンパイアのみが配下の私と違って、泥での取り込みにさえ成功すればどんな強者だろうと無制限に配下に出来るかもしれない嫉妬のエンヴィーは天敵だ。本格的に敵対してしまえば無限に眷属を生み出せる真祖の吸血鬼はエンヴィーの良い餌にしかならないだろう。
こういう一筋縄ではいかない力を持っているから災害レベル竜が支配しているゲルマン人の中でもアングロ・サクソン七大王の一人にまで至れたのでしょうね。
「そして、そのゲルマン人を追い散らしたフン族」
確かフン族はローマ帝国と戦争しにここら辺まで遠征して来るのよね。アーサー王もローマ帝国と戦争してる。
にも関わらず、ローマ帝国はゲルマン人の西ゴート族を傭兵として雇って戦い続け、最後には説得してフン族を追い返している。結果的には滅んだけれど、ローマ帝国も只者ではない。
アーサー王に関しては伝説と史実が乖離してるから、どう転ぶか分からない。
伝説通りならアーサー王はアングロ・サクソンにもローマ帝国にも打ち勝ってヨーロッパの支配者へと反乱さえなきゃ成り上がってる。史実通りならゲルマン人に負けてアングロ・サクソンが王国をブリテンに作り上げる。そう、このゲルマン戦線、キャメロットがアングロ・サクソン七大王に蹂躙される可能性があるのだ。
ローマ帝国は暗君ホノリウスが西ローマ帝国を実質的に支えていた将軍スティリコを処刑した事で西ゴート族のアラリック1世と敵対関係に陥り、滅びの道へと歩を進める。アラリック1世は理性的な人物で給金をホノリウスに踏み倒されても、一族を蛮族だと不当な言い掛かりで処刑するような西ローマ皇帝と交渉しようとしたが、侮蔑と挑発の返答と会談といって騙し討ちするような西ローマ皇帝ホノリウスに愛想を尽かしてローマ市内に攻め込んだ。
西ゴート族はゲルマン人の一派。怪人だとしたら恐るべき忍耐の持ち主だ。
やはり史実と伝説とは乖離している。史実よりならローマ帝国はアーサー王には負けていない。
アーサー王が反乱で没落した後にアングロ・サクソンがブリテンを支配したのかと思ったけれど、恐らく違うでしょう。ゲルマン人がブリテンを支配して七王国を作り上げるにはアングロ・サクソン七大王が全員生きている必要がある。戦争に負けたにも関わらず、あの円卓の騎士から密かに全員が生き残れるとは思えない。一部のアングロ・サクソン七大王が生き残ったのならば怪人の性質上、自分を頂点とした王国を作りに必ず動く。七王国は成立しない。
「世界線の違い。キャメロットが勝てば伝説寄り。ゲルマン人が勝てば史実寄り」
そもそも伝説にしか登場しないアーサー王と円卓の騎士が登場する以上、伝説寄りだと判断しても良いのだけれど、キャメロット崩壊の象徴である反逆の騎士モードレッドがいなかったり、ローマ皇帝が史実に登場する暗君ホノリウスだったりと首を傾げる事が多い。アーサー王伝説に登場するローマ皇帝はルキウス・ティベリウスだ。
他にもアングロ・サクソンを倒していないのにアーサー王のガリア遠征が成功してフランスあたりの土地を征服済みだし。
ブリトン人のアーサー王がローマ帝国にガリア人扱いされてるのはこのせい。どっちかというとローマ帝国の支配から蜂起して独立したと見られている。
過去にローマ帝国の英雄カエサルに敗れて苦汁を飲まされていたヘルウェティイ族なんか一族を上げてアーサー王に従っているし。呪殺や暗殺されたローマ帝国の士官は多いらしい。こりゃ原作における忍者的な位置にヘルウェティイ族はいるな。もしくはアサシン。
残酷竜を封印していたセインツや残酷竜の子孫を自称していたデスボーンの竜盟九闘士の前組織だと思われる竜盟会とワンパンマンの原作に関係する組織や、巨人や湖の乙女や有名な魔女モルガンの姉妹達、9人の魔女とか勢力図が混沌としていて先読みが出来ない。
モルガンとよく混同されているアーサー王の異父姉であるモルゴースがいるし。ガウェイン、ガヘリス、ガレス、アグラヴェインはこの世界だと彼女の子供だ。
逆に魔女モルガンは妖精モルガンという名も持っていて、湖の乙女との関わりやケルト神話の女神モリガンとも同一視されたりと考察するほど頭が痛くなってくる。
実際に情報を探ってみれば魔女だ妖精だと既にこの時代から真逆の評価をされていて、モーガン・ル・フェイの実態が掴めない。伝説級の力を持つ魔女だってのがハッキリしてるくらい。こりゃモードレッドが生まれるか分かんないわね。伝説の島、アヴァロンを統治する9姉妹の長女である優れた医術を持つ心優しい歌姫の可能性が出て来た。
「アングロ・サクソン七大王とローマ帝国の二正面作戦をアーサー王は取った。だが、キャメロットはガリア支配で経済的に豊かになりつつあり、崩壊の原因となったモードレッドもいなくてランスロットとグィネヴィアが正式に結婚して盤石な体制となっている。アーサー王はグィネヴィアの姉妹であるギネヴィアを王妃とした。おまけに不老不死をもたらすエクスカリバーの魔法の鞘を盗まれていない! 明らかに変だ。アーサー王伝説におけるキャメロット破滅フラグという物がことごとく取り除かれている。聖杯探索で死ぬ予定の円卓の騎士すら生還して戦力が減らない。13の円卓の席では伝説に登場した騎士の方が多くて足らず、S級ナイト相応のA級ナイトなんてものまで生まれる始末」
なるほど。アーサー王が二正面作戦に踏み切る訳だ。戦力は足りていると判断したのでしょうね。
このまま本当にヨーロッパを支配する新たな大帝国の王に成り上がっても変じゃない。不老不死の王を抱く大帝国だ。歴史すら変わるのでは?
いや、ここはワンパンマン世界。現実の歴史通りにならなくて良いのか。ワンパンマン世界は統一政府によって統べられている。このままアーサー王が全世界を支配しても教科書の内容が多少変わるだけで原作通り。原作時間軸にアーサー王が生存していても実は不自然じゃない……の?
キャメロットには老いを克服する武術流派まである。円卓の騎士が寿命で死ぬ事すら期待できないかもしれない。
そもそも聖杯も既に持ち帰っているのよね。聖杯に注がれた飲み物を飲むと、傷や病気が治り、不老長寿をもたらすというアーティファクトの杯。え、もう寿命は克服しているの?
「マズい。本当に勝てなくなる。サイタマの出現前にアーサー王によって怪人が駆逐……」
されるか? 巨人の女王と元円卓の騎士の婚姻を認めたアーサー王が怪人だからと無差別に排除するか?
「思い違いをしている? 地球意思の目的が人類の排除ならば突然変異で生まれる怪人はもっと強くても良いはず。地球意思ですら、アーサー王の覇道を認めているとしたら」
確か未来予知が可能となる第3の眼を習得した超能力者サイコスは未来を見て発狂してこう言った。
【世界征服に意味はない。人類は、ホモサピエンスは調和が出来ていない。食って糞して交尾して増えるだけ増えて何もしない。滅ぼさなければならない】
そう言って、彼女はヒーロー協会を追い詰める怪人協会を結成した。一人の人間が作り上げた組織にしては異常に強力無比な組織を。
どんな未来を見たのかは不明だが、おそらく地球意思の影響化にあったと思われる。
世界征服に意味はない。既に試した事があるかのように断言している。
調和とは発見した怪人を基本的に残さず滅ぼしていた原作の人類を批判しているのか?
増えるだけ増えて何もしない。これは可能性を狭めていると言いたいの? だが、何をさせたい?
生命の目的である生きる事ならば人類以上に上手くやっている生物はいない。
環境汚染で環境が激変しようと地球自身にとっては問題ないだろう。単に住む生物が一旦全滅して新たにやり直すだけだ。いや、ワンパンマン世界において、人類は恒環境生物と呼ばれている。環境さえも自分達の為にコントロール出来る特殊な生物。たとえやり直しても人類だけは滅びないと予測した? いや、逆か? 既に一旦生物が全滅してやり直している最中なのに、科学力で人類が無理矢理に生存し続けていたとしたら?
怪人とは進化した汚染環境に適応した生物群の総称なのか?
だとしたら次世代の生物の正当な進化を阻む、前時代の環境を否定した生物が人類。ホモサピエンスという事になる。
なるほど病原菌。害悪文明か。ワンパンマンの原作に最初に登場した怪人ワクチンマンの言葉通り、人間ってしぶとすぎて一周回って気持ち悪いな。
地球の目的は生命の進化だとして。科学力で問題を乗り越える人類はアウトか……。いや、それとも単に宇宙に追い出したがっているだけか? 地球環境を悪化させて進化の終点に到達した人類を惑星外に巣立たせ、新たな生命体の可能性を探っている。コジツケだけれど、納得できてしまうわね。
「生命の進化を地球は目的としてるのに、例外のバグとして個体の強さが飛び抜けたサイタマが種族としての強さを追い求めている怪人を一方的に打ち負かす。なるほど、腹が立つでしょうね」
状況推測はこれで正しい気がする。単に人類を地球意思が何の意味もなく滅ぼそうとしてるより、人類の瑕疵が原因で地球に滅ぼされようとしてるって方が納得がいく。
そうなると。
「アーサー王は地球意思の期待を背負って、イナゴのように安全な地と食料を求めて暴れる怪人ゲルマン人と科学文明で環境汚染を繰り広げているローマ帝国と対峙して調和をもたらそうとしている理想の王。こういう事?」
私がこの地に送り込まれたのは人類を滅ぼす為ではなく、アーサー王に助力して原作のような失敗をしないよう導けって理由。かもね。
…………。様子見を継続しよう。誰を敵に回すべきか、また白紙になった気がする。
どう転ぼうと良いように強くならなきゃ。