現状、七ヶ月の鍛錬で幻影飛翔剣にそこそこ熟達したのと、人間の眷属化に手応えを感じ始めていたのを除いて魂を参照する事での強化は特にない。
安全なB級依頼を好んで受けていたから、あのハゲ山賊以外にろくな獲物がいなかったのも理由の一つね。
怪人もそこそこ退治していたから生態として異能を持った怪人も何人かはいたけれど。金の亡者の怪人が持つ、金持ちを見分ける物欲センサーとか。怪人ならず者が持つ、強そうなオーラを発する強者擬態とか。戦闘には寄与しない異能が多い。一応、何かの役に立つかと習得してはみたものの、イワンの嫉妬エネルギーとエネルギー過剰放出による肉体強化とは比べ物にならないショッパイ異能ばかり。
エネルギー過剰放出による肉体強化は気を習熟したら効率が良くなったし、血液のストックを消費しないでも気で代用できるし、一瞬の放出に抑えれば燃費も気にならない瞬間加速が可能だったりと、凄く便利な異能だって判明した事で私の中でイワンの株が上がり続けている。うん、イワンは褒美として眷属に迎えてあげましょう。キャサリンと約束もしてるしね。
人間の眷属化に魂を使用すると記憶や技術の参照元がなくなるから不便だけれど、イワンの事はもう生まれて死ぬまでの記憶を根掘り葉掘り調べ尽くしたし、問題ない。
怪人のDNAの調査とか科学での解析はまだ私には出来ないけれど、魔術に関係すると思われる魂の仕組みに関してはそこそこ詳しくなってきてると思う。眷属の吸血鬼を血から発生させて直ぐに血を吸って体内に魂を取り込んだり、どうでも良い下っ端犯罪者の魂を素に吸血鬼モドキの肉人形を作り出して、また魂を吸い取って解析したりと試行錯誤を繰り返した。
おかげで見た目だけなら人間に見える元人間の怪人を発生させる事は出来るようになっている。
腕力が異常に強い癖に肉体は普通の人間より脆いとか失敗作続きだけれど、自動で組み上げられる眷属のバンパイアをそっくりそのまま真似した怪人なら、近いうちに自力で生み出せるようになる。バンパイア以外の怪人を生み出したかったら、ゼロから肉体を生み出すより怪人細胞みたいに怪人に変貌する血液を飲ませた方が安定しそうね。そっちは難易度が違い過ぎるから、まだまだ時間が必要だと思うけれど。
おそらく、人間の眷属化は最初から出来るようなイージーモード。私を送り込んだ神様の保障付きだしね。
それ以上を求めると最初に選ばせて貰ったチートの一つ。使い魔作成に該当するんでしょ。千年間の時間と引き換えのチートが易々と手に入るなら苦労はしない。
あと、人間の中に魔法を自力で使えるようになった賞金首がいたからちょっとした手品なら出来るようになってる。
指からライターの火を出す。そよ風を吹かす。掌に水滴を溜める。野宿の際に下の土を少し軟らかくする。
その程度の事しか出来ないけれど、魔力や魔法があるのは確か。これがドルイドの精霊術なのか、ピクト人の魔法なのかは知識不足で分からないわね。
それで、私が安全なB級依頼ばかりを引き受けていたのは単にチキンって理由だけじゃない。
幻影飛翔剣を習得しきれていないのも研鑽の時間が足りなかったからって一面もある。私が幻影飛翔剣を後回しにしてその時間、何をしていたかって言うと。
「ワン・ツー・スリー。回って、ワン・ツー・スリー」
「もっと一撃に命を込めろ! 防御など考えるな! 一撃で相手の息の根を止めろ!」
「おら、気を失って倒れるな。邪魔だ! ヤカンを持ってこい。水をぶっ掛ける!」
カマセ隊の隊員が習得していた爆裂流の道場で指導を受けていた。
本当にカマセ隊の武術家は手習いに過ぎなくて、魂を参照するだけじゃ爆裂流の深奥には全く届かなかったのよね。記憶には結構、凄い達人が多くて中途半端なのは勿体ないと道場の門下生となった。
S級ナイトの一人、鋼の肉体を持つ漆黒の女パロミデスが爆裂流の達人らしいし門戸は広い。入るだけなら紹介状もいらず紛れ込むのは楽だったわね。
「カーミラさん! お手拭きです、どうぞ!」
「キモい。その布、貴方の汗の臭いがするわ。デレデレと私の胸を見てないで真面目に訓練したら? 二度と、私に話し掛けないで」
「ありがとうございます!」
銀髪赤眼の巨乳美女な私は道場の門下生となった時から大人気で注目の的になっている。女なら一夜の相手をして上げても良いけれど、むさ苦しい男に付き纏われて正直ウンザリ。あしらおうとキツい口調で罵れば一部の豚が喜んで一層纏わり付いて来るようになった。まあね、気持ちは分かる。
夜道で襲い掛かって来てくれたら逆に美味しく新鮮な血を飲めるのだけれど、変に礼儀正しくて一線は越えてこない。せいぜい立ち稽古中に身体に触ろうとスケベ顔で向かってくるくらい。いや、もう死刑で良いんじゃないかしら。
パロミデスに憧れて門下生となった数少ない女門下生と仲良くなれていなかったら爆裂流の道場はこの世から消えていたわね。
「カーミラ、雑魚に構ってないで俺と立ち稽古をしろ。今日は俺が勝つ」
「へぇ。ボコボコにされて泣いてた雑魚がイキってるわね。何、私と貴方が対等だとでも思ってるの?」
「爆裂流以外の流派を頼みにしている貴様が俺より格上のつもりかっ! 死にたくなかったら、その口を閉じておけ」
メラメラっと怒りに燃える大男ゴッサムがそう言って隅のリングを指さした。簡易なヒモで覆われただけの板張りのリングだが、一種の結界になっていて内部の衝撃を外部に通さない仕様となっている。攻撃の威力が高い爆裂流の必需品魔道具だ。錬金術で比較的に安価で作れるらしく大量に出回っている。
こういう不可思議なアイテムを当然のように用いたり、単なる一武術流派のトップ程度の男が災害レベル鬼である私と渡り合えたりと色々とバグっているな。
ゴッサムは他流派との親善試合や闘技大会で何度も勝ち上がっているような武術界でも有名な男だが、当然S級ナイトのパロミデスはこの男の比ではない。
以前、爆裂流に遊びに来たパロミデスに勝負を挑んで痛い目を見たらしく、それ以来この男は強い女というものを毛嫌いしている。それでS級ナイトの卵と賞賛された私にも突っ掛かってきたのだ。面白いから幻影飛翔剣を利用して散々いたぶって遊んでやったら道場で出くわす度に勝負を挑まれるようになってしまった。
止めてよね。成長スピードでアンタが私に勝てる訳ないじゃない。
実際、魂の記憶を利用しない普通の鍛錬であっても私は爆裂流を中々のスピードで習得していっている。
流石に幻影飛翔剣ほどの習得速度じゃないけれど、何人もの魂を吸収した私は武術の才能も高いのだと思う。ま、普通の新人と比べたらの話だけど。
「おお、『男の中では最強』ゴッサムが、『女キラー』カーミラとやるってよ」
「何だと! あのホモホモしいゴッサムがガチ百合のカーミラとヤってる!?」
「おい、向こうでカーミラがSEXしてるらしいぞ!」
「何だって!?」
本気で皆殺しにしてやろうかな。こいつら。