「ふんぬァ!!」
爆裂流の雄ゴッサムが拳を振るうと空気が爆発したような爆音を奏でた。特殊な気の配分と卓越した肉体操作で拳が炎に包まれ燃え上がっている。
これが爆裂流の達人が至る境地。爆裂炎上拳。爆竹のような音が鳴るだけの攻撃など爆裂流では未熟者の証なのだ。
炎が拳に纏わり付こうと爆裂流に精通すると火傷はしない。気で炎に対する耐火性が上がっているのだと思う。
パロミデスのように達人を超えて名人の領域に到達すると溶岩の身体を持つ怪人を素手で一方的に殴り殺せるようにすらなるらしい。ビームとか撃たれても武術で逸らせるのは原作のS級ヒーロー、バングと兄のボンブが証明している。こんな攻撃くらい武術家ならば常識なのよね。
「フフッ」
それを私は馬鹿にしたように笑って無防備に受ける。当然、炎を纏った拳は私に直撃するが、景色が揺らめくように私の姿は掻き消えた。
残念、残像だ。
ゆらりと特段に早くもないスピードで放たれた私の拳は、しかし幾つもの軌道を描いてゴッサムに直撃する。こちらは幻覚。
特殊な足運びで間合いを悟らせず、トントンとゴッサムの周囲360度から足音が響く。これが飛翔。
身体操作と気の操作を突き詰める事で現と幻の境を操る。
これぞ、幻影飛翔剣。
剣術の一つだけれど、剣がない程度で無力化は不可能。私も人間の身体能力で到達できる限界距離までコウモリを広範囲にばらまいて無差別攻撃をしていなかったら逃げられていたでしょうね。逃げ場の少ない交易路が戦場で幸運だった。
「ヌガァ! カーミラ、本気でやれぇ!」
私の拳が何度も何度も全身に叩き込まれているのに微塵も効いてないようでゴッサムが
幻影飛翔剣もあの山賊だったら数十の幻覚を操れるのに私は十も行かない。身体能力の差で飛翔こそ私の方が上回ってはいるけれど。
練度不足だと言外に突き付けられて眉をヒクつかせながらも、ゴッサムの要望通り威力を増して上げた。
本当なら肘から鎌を生やした拳と斬撃のフルコースをお見舞いしたいけれど曲がりなりにも爆裂流は素手の流派。半殺しにするなら、素手でやれって怒られる。
だから問題ないようにイワンの異能、エネルギーの過剰放出による肉体強化の応用を利用する。攻撃するタイミングで肘からエネルギーを一気に噴射する事で一撃の威力を飛躍的に高める気力放出。肉体の強化はされない代わり、災害レベル鬼の怪人であるバンパイア女王の私の腕が折れる程の威力を持つ攻撃を繰り出せる。
この攻撃なら、頑固なゴッサムも泣いて喜んでくれる。
「アッガガガ」
爆裂流の威力増強も併せた全方位からの拳の爆撃にゴッサムが血達磨に整形されていく最中、それでも反撃として繰り出された燃える蹴りが偶然、私のいる位置に届いた。
偶にゴッサムの攻撃が幻に惑わされないで私に直撃する事がある。本人は直感の一言で済ませるから、対策の立てようがない。
「グゲァッ」
ガードは成功したのに燃え盛る蹴りは私の腕をこじ開けて内臓を破裂させた。空中に吹き飛ばされた私は追撃に入るゴッサムの姿を見て、咄嗟に気力放出で着地点をずらす。何人もの私が板張りの道場に着地する中、ゴッサムは吹き飛ばした軌道から予想しただろうズレた着地点にいた幻の私に拳を叩き付けた。
「脳筋が変に頭を使うから、こうなるのよ」
「ぬぉおお!?」
お返しに気力放出で加速した蹴りでゴッサムの息子を蹴り潰してやって立ち稽古は終了した。
「ひぃ。流石は『女キラー』カーミラ。男には容赦がねえ」
「誰か師範代を呼んでこい。セインツ程じゃないが、治療を出来るはずだ。これはあまりにも可哀想だ」
「おいおい。誰もがサグラモールみたいに気での自己治癒が得意な訳じゃねぇんだぞ。最悪のパターンも考えてやれよ」
「突っ込まれる側なら潰れても支障ないんじゃね?」
「お前、何言ってんの?」
「ん? 女の顔を狙うようなアンタラが、何が可哀想だって?」
「そうよね。セクハラも酷いし」
「ゴッサムのせいで女門下生の立場が悪かったけど、カーミラさんが来てくれて本当に助かったものね。強さは正義よ」
「綺麗で気持ちいいしね」
「ちょっと待った。貴女、私から離れてくれる?」
「あっ」
道場中の注目を集めていた立ち稽古を終えた私は歓声で迎えられた。
パロミデスに一方的に確執を持ってるゴッサムのせいで爆裂流では男女の間に亀裂が入っている。あんなでも武術界でトップレベルの武術家だから信奉者も多い。パロミデスに憧れて女性もよく入門してくるのにセクハラに耐えられなくて女門下生が少数しか残らないって事態になってるくらい。
まあ、そのおかげで私も美味しい思いが出来てるから、良いけれどね。
「ふぅー。未だにゴッサムに苦戦しちゃうとはね。私の爆裂流の成長って本当に順調なの?」
そう私は爆裂流の師範代である爺さんに尋ねた。パロミデスと共にキャメロットまで旅をしてきたサラセン人、イスラム教徒へ。
いや、この世界だとサラセン人はサラセン人で宗教は関係ないかもね。キリスト教とセインツは何か微妙に別物っぽいし。そもそも時系列的に創始者のムハンマドが生まれてないからイスラム教だって誕生してないし。
セインツとは別の体系の奇跡の行使者。それがサラセン人だと覚えときゃ良いかな。
「順調すぎて怖いくらいじゃ。立ち稽古の度に研ぎ澄まされていく技の冴えにゴッサムも焦っておる。お主が色々と幅広く技術を追い求めていなければ既にその拳に炎を宿していたじゃろうな」
「ふぅん」
やはり成長スピードは早いのか。魂の記憶の模倣ってズルだけじゃなく、複数の人間の魂を集める事で才能すら高めていけるという予想は正しいみたいね。
じゃあ、とゴッサムを治療する師範代の爺さんを見て私は聞いた。
「パロミデスに勝てるようになると思う?」
カッと目を見開いたゴッサムと私の視線に爺さんは難しい顔をすると一言だけ告げた。
「それは怪人に人間は勝てるのかという問いと同じじゃ」
才能と鍛錬によって人間は怪人に勝てるようになる。
だが、普通は素の戦闘力で怪人を人間が上回ることはない。それどころか怪人は鍛錬などしないにも関わらず、S級だろうと勝てるか怪しい災害レベル竜や竜以上の怪物として生まれる事がある。
パロミデスに勝つなら、人間の限界を超えろと爺さんは言ったのだった。