本格的にアーサー王に肩入れすると決めてから、私はずっとヘルウェティイ族と行動を共にしている。
ヘルウェティイ族はラウンドナイトの諜報・暗殺を手掛ける暗部であり情報機関だからね。私の特性を活かすなら彼らの仲間になるのが手っ取り早い。
正直、災害レベル鬼の私でようやく戦力として数えられる練度だからノイ達バンパイア傭兵団は足手纏いにしかなってないけれど。彼女達、半分怪人化してるわね。仲間の怨念の積み重ねによる歴史がヘルウェティイ族を強化してる。血化粧という仲間の遺体や強敵から採取した血を利用した身体強化呪術の効率がエグい。特にローマ帝国との戦争では誰もがA級以上の戦闘力を持つと思って良いくらいね。
バンパイア傭兵団が結成されて一年。9人のメンバーはノイと副長のサード以外は2巡くらいメンバーが死んで入れ替わっている。死線を潜った事でノイとサードの戦力は災害レベル虎でも上位にまで成長してると思うけれど、集団戦闘の専門家が直ぐ傍にいるのだ。バンパイア傭兵団をヘルウェティイ族に指導して貰えるよう頼んである。
地獄を生き抜いてきただけあって、バンパイア傭兵団は誰もがヘルウェティイ族の許で指導を受けることに抵抗がなかった。ノイすらも。よっぽど、無力感を覚えていたんでしょうね。
引き換えにローマ帝国関連依頼を優先的に受けるよう約束したけれど、最初からそのつもりだったし問題ない。
問題なのは、ローマ帝国が予想以上に手強かった事。
「ちっ、もう感知された。赤のバイク隊が迫ってきている。カーミラ、今のうちに錬金術師の魂を吸い取っておけ」
「OK。無理を言って悪いわね」
「これで貸し借りはなしだ。呪いで死ぬのを免れた事には感謝しているが、俺は貴様の眷属になったつもりはない。今もまだヘルウェティイ族だ」
「分かっているわ。カイン」
好都合な事にヘルウェティイ族は血化粧で驚異的な力を授かる引き換えに呪いに汚染されて身体が段々と壊死していく。
中にはブルーノのように完全に克服するようなS級の人材もいるが、多くのヘルウェティイ族は無理をして苦しみの中で死んでいくか、戦線離脱して腐った身体を抱えて病床で呻きながら生きるかだ。セインツに頼めば浄化して貰えるだろうけれど、彼らはローマ帝国側だ。ヘルウェティイ族は意地でも頼らない。
だが、解呪は専門外であるピクト人やドルイドの応急処置では余命を伸ばす事しか出来ない。聖杯は円卓の騎士か、相当な大手柄を上げないと使用許可が下りず、一般兵は近付く事すら許されない。
何度かトリスタンに頭を下げて治療して貰う事もあったらしいが、治しても治しても自ら呪われに行くヘルウェティイ族に流石のトリスタンも怒ったようね。今では高額な料金を請求するようになった。それで、一部のヘルウェティイ族が病床で倒れたままなのを知って、バンパイア一族の眷属に誘った訳。
相性が良かったのか、バンパイアとなれば呪いに汚染される事もないと、既に10人近くが私の眷属と化している。このまま行けば、バンパイア一族がヘルウェティイ族をそっくり乗っ取れるかもしれないわね。呪術の知識や暗殺技術もタップリ学べたし大満足。
まあ、眷属だろうと自由意志があるから私の指示なんて聞きゃしないけれど、今回みたいにローマ帝国へ潜入して科学者もとい錬金術師の魂が欲しいと言ったら手伝ってくれるくらいの関係にはなれた。ローマ帝国の錬金術師は元から暗殺ターゲットだしね。
「貴様ら、ろ、ローマ帝国に逆らって、平気だと思っているのか!? 悪い事は言わん。私を解放しろ! 神の火で焼かれたくなければ!」
「核兵器を神の火呼ばわりは止めた方が良いんじゃないの? またセインツに苦情を言われるわよ?」
クスクスと錬金術師を無理矢理に宙吊りにして私は牙を見せ付けた。
ホームレス帝のように強力な神通力を授かっている訳じゃないけれど、セインツもまた神、地球意思の力の一端を振るう者達だ。自然を荒らす核兵器に良い感情は抱いていない。ローマ帝国軍にセインツの従軍神官が混じっていないのは内部でも相当な争いがあるから。ローマ帝国も一枚岩ではないのだ。
「ミュータントの化物め! お前らには何時か神の天罰が下るだろう!」
「アハ」
あまりにも面白い事を言った錬金術師を笑って私は彼を吸い殺した。
知ってる? 私こそが神の天罰だって事をね。フフッ。
「来たぞ」
神の天罰は下らないが、ローマ帝国の怒りには触れたらしい。ギャガっとバイクに乗ったまま豪邸の二階にまで飛び上がったローマ帝国の特殊部隊、赤のバイク隊が空中で銃を構えたのが見えた。
窓越しにあった視線が苛烈な意志を伝えてくる。人の守護者。正義の執行者だ。
ローマ帝国のヒーロー協会。それが赤・青・緑・黄・黒、五色のレンジャー部隊。
赤はバイク。青は戦闘機。緑は戦車。黄は重装歩兵。黒は悪魔憑き。
帝国軍でも選ばれた一部のエースだけが所属するローマの守護者達。
その中でも感知と即応性に優れたヘルウェティイ族の天敵が赤のバイク隊である。
「人間の生体反応はない。フルバースト使用許可」
「「了解」」
キュィーンと光る銃口が屋敷に向けられて、携帯可能な銃とは思えない威力で屋敷毎、私達を吹き飛ばした。
「ペッペ。あー、酷い目にあった」
「下水道をコウモリ形態で通った程度で泣き言を言うな。赤のリーダーはS級ナイト並の実力を秘めている。俺達の実力では敵わん。無事に済んだだけ御の字だ」
二人という少人数でローマの帝都に侵入したのはこうやって最初からマトモにやり合う気がなかったから。
拡張に次ぐ拡張で迷路のようになっているローマの地下下水道は潜入に慣れているヘルウェティイ族くらいしか案内できない。
私もヘルウェティイ族の魂は眷属として放流したから、完全には覚えきれてないのよね。何か異界化しつつあるとかで、偶に道筋が変化するらしいし。
「でも囮として身体半分だけを自立行動させるとか器用な事をするわね。頭が痛くならない?」
「面倒だが、右手で絵を描いて左手で手紙を書いて足でサッカーをする程度の難易度だ。問題ない」
「そうね。私も今度、挑戦してみようかしら」
おかしな事だが、本当にその程度なら普通に出来るようになっているのよね。
たぶん、ヘルウェティイ族に由来する器用さの向上が起きたんでしょう。暗部としての特殊な鍛錬が異常なほどの精密動作を可能とする。
今の私なら米粒に絵を描く事も普通に出来る。
それでもベディヴィエールの所業は頭がおかしいとしか表現できないけれど。
「あ、そういえば宝石とか貴金属を流通させるルートをヘルウェティイ族は持ってる?」
「大丈夫だが、あの緊急事態で火事場泥棒をしていたのか?」
「まさか」
顔をしかめたカインに笑って私は答えた。
「無機物生成よ。錬金術師の知識があれば血液から宝石だろうと生み出せそうなの」
「それは……」
あまりの反則ぶりにカインは溜息を吐いた。
「鉛を黄金に変えるのが錬金術士の最終到達地点の一つじゃなかったか?」
バンパイアのチートさが、また一つ判明したわね。