「ベディヴィエール卿、流石です。ローマ帝国の誇る空中戦力を、戦闘機を全て一方的に撃墜してっ!」
「勝てる。勝てるぞ、この戦争」
「ああ。円卓の騎士がいる限りラウンドナイトは負けない!」
希望に満ちた顔で戦場を眺める部下にベディヴィエールは苦い顔で首を振った。
「いえ、防衛ならともかく侵攻は無理ですね。円卓の騎士が最低3名はガリアを守る必要がある。ゲルマン人との戦争に唸る獣の対策。現状維持が我々には限界です。戦線を抱えすぎている」
違う。ローマ帝国を滅ぼさないよう戦力を手薄にされた疑いすらもある。
そうベディヴィエールは内心で呟いた。元々アーサー王は権力志向の薄い人物ではあるが戦争での人死にを憂う心優しい人物でもある。王の差配ではない。
おそらくは宮廷魔術師のマーリンが裏で糸を引いている。何かを待っているのだ。
だが、何を? 未来予知の出来ぬ己では深淵の魔術師の狙いが分からない。
そうベディヴィエールは溜息を吐いた。
「何、辛気くさい顔をしてんだ? 今回の大金星だろ」
ズンと地響きがして、ぬうっと巨大な獅子が顔を向けてきた。円卓の騎士が一人ユーウェインと相方である災害レベル竜の怪人であるアイオンだ。
体高3メートルの獅子という災害レベル竜にしては小柄な体格の獅子が、ガフッと噛み千切ったのであろう戦車の砲塔を吐き出した。
ブワッと吹き掛けられた息に思わずベディヴィエールがうわっと悲鳴を上げると、ガハハとアイオンが笑った。からかわれたのだ。彼の知性は人間と変わりはしない。本物の動物のように獲物を見せびらかすような趣味は……ちょっとしかない。
「おいおい。戦闘機を撃墜するような騎士がビビるなよ。可愛いもんじゃんか」
「円卓最弱の私には恐ろしいですよ。ちょっと踏み付けられただけで死んじゃいますって」
「いやいやいや。戦闘機をどうにか出来る奴なんて……そりゃ何人かいるけど、部下を守り切るのは難しいぞ。誇って良いと思うんだが」
首を傾げるユーウェインをベディヴィエールは苦笑して見た。
円卓最弱。この自称は決して間違っている訳ではないのだ。
S級ナイトなら、いやA級ナイトの上位ならば単独で災害レベル鬼を討伐できて当然だとラウンドナイトでは言われている。それくらいの騎士達がアーサー王の配下として辣腕を振るっているのだ。ちょっと昔の選定の剣をマーリンに唆されて抜いた頃のアーサー王では考えられない事だ。
喜ばしい事ではあるが、まかり間違って円卓の騎士に選ばれてしまったベディヴィエールには大きなプレッシャーとなってその事実がのし掛かっていた。
彼は円卓の騎士にも関わらず、災害レベル鬼に勝てないのだ。
その過去が無くした腕を見る度に戒めとして心に刻み込まれる。今回の戦果で勘違いしてはいけない。自分は単に槍を投げるのが少し上手いだけの、何処にでもいる普通の騎士に過ぎない。そうベディヴィエールは思う。
遠槍流という投げ槍を専門とした流派がキャメロットにはある。飛距離で投げ槍の威力が変わらない特殊な技巧を教える流派で、極めると数十キロ先でも狙撃可能だと謳っている。身体能力に自信のなかったベディヴィエールは目が良かった事もあり、この流派を極めるまで修練し続けて、一端の騎士になったつもりだった時期がある。
遠槍流の他の門下生は数キロ先に槍を投げる事は出来ても動く的に当てる事は出来なかった。目標が遠すぎて槍が届くまでに避けられてしまうのだ。
ベディヴィエールはその問題を槍に特殊な回転を加える事で補った。的が避けようが槍に追尾させれば良い。それだけの事を何故、出来ないのか。ベディヴィエールは首を傾げたものだ。
新たな遠槍流の奥義ともいえる追尾回転を発明したベディヴィエールは天才だともてはやされた。
技巧として追尾回転を習得したものは他にもいたが、これは単に野球でストレートしかなかった世界にカーブという変化球が加わっただけの話だ。ベディヴィエールがどうやって百発百中の命中率を叩き出しているのか、遠槍流の師範代にさえも理解できなかった。
天才だと持ち上げられて、その気になったベディヴィエールは意気揚々と災害レベル鬼の怪人を討伐に出向いて、片腕を失った。
威力が足りないのだ。虎までならともかく、鬼を倒すには圧倒的に威力不足なのだ。
他の門下生は当たりはしないが、直撃すれば災害レベル鬼だろうと重傷を負うような威力を出せていた。
だが、ベディヴィエールは必ず当たる代わりに、多少のダメージを負わせるのが精一杯だった。
そして遠距離狙撃に拘らなければ的に着弾するまでの距離が短くなるほど当てやすくなる。
『ああ……腕が、僕の腕がっ。助けてくれ。頼む、頼むっ!』
泣きながら怪人に命乞いをするベディヴィエールを駆け付けた同じ遠槍流の門下生達が次々と槍を投げる事で救った。感動的な逸話だろう。
だが、安心して顔を上げたベディヴィエールが見たものは白けたような顔でこちらを見る同門の門下生達だった。
大変だったなと口では慰めるが、こんなものかと目が語っていた。こんなものを自分達は持ち上げていたのかと。
それを今でもベディヴィエールは憶えている。
「ローマ帝国には実は感謝しているんです」
あん? と疑問の声を上げるユーウェインにベディヴィエールは感情の籠もらない声で続けた。
「私が活躍できるような敵を用意してくれて」
戦闘機はマッハ1で高速飛行して驚異的な機動力を誇る、ただの鉄塊だ。その程度の防護ならベディヴィエールにも突き破れる。
こちらを爆撃しようと強力な武装を積み込む程、ベディヴィエールには撃墜しやすい鴨となる。
アーサー王の最初期の仲間であるという以外に円卓に選ばれた理由が欠片も分からなかったベディヴィエールが戦闘機を見た時、彼の顔には自然と笑みが浮かんでいた。今のような。
その凄絶な笑顔を見たアイオンは一歩、後退った。
災害レベル竜の怪人である彼がベディヴィエールに一瞬、気圧されたのだ。
「へえ」
ニヤッと笑ったユーウェインはそれでこそ円卓の騎士だとアイオンから飛び降りざまにベディヴィエールの背中をバシッと叩いた。
が、彼は災害レベル竜の怪人同士の争いに介入できるような騎士であり、身体能力が一般兵とは比べ物にならない。
「くふっ! っ! ……っ……っ!」
「あ、わり」
身悶えして震えるベディヴィエールに、確かに接近戦は厳しいかもなとユーウェインは肩を竦めた。