ワンパンマン世界に怪人TS転生だって?   作:八虚空

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二十七話 バンパイア傭兵団の仕事風景2

「今回の任務は敵中で孤立した味方の部隊を逃すためアングロ・サクソン七大王、嫉妬のエンヴィーが繰り広げるヘドロモンスターの足止めだ。遠距離から一方的に銃撃して爆弾で広範囲を焼き払う。移動の足であるヘリコプターは絶対に死守しろ。コウモリ形態では敵に堕ちたバンパイア一族に纏わり付かれて逃げ切れん」

「聞いたかお前ら。了承の声は!」

「「了解しました」」

 

 バンパイア傭兵団の隊長ノイと副長サードの声にバンパイア達は直立不動で返事をした。

 初期の舐め腐った発言をしていた部下の姿はない。そもそも初期の部下の生き残りはサードくらいしかいないし、ヘルウェッティィ族に厳しく教育された結果、部隊行動で上官に刃向かう愚かさを嫌と言うほど理解させられている。上官が正しいか間違っているかは問題ではないのだ。命令が上官の意思通りに遂行されない軍隊など烏合の衆と変わらないのである。有能な命令違反をする部下よりも、命令を忠実に熟す無能な部下の方が戦場では頼りになる事もある。

 

 それを実体験として嫌になる程、ノイは味わわされた。

 今のノイならば舐め腐った発言をした部下がいたら躊躇わずに一発、銃撃して黙らせるだろう。どうせ、その程度ではバンパイアは死なないのだし。

 

「アッハハ。何してんですかノイ隊長。まるで本当にちゃんとしたリーダーみたいですってぇー」

「ノイちゃ~ん。無理しなくても良いんでちゅよ~」

 

 ちょうど、今のように。

 

「問答は必要ない。撃ち殺せ」

「「はっ!」」

 

 携帯したガトリング砲を担いで移動中のヘリコプターから敵に取り込まれたバンパイアをターゲットに弾をばらまく。

 銃撃の反動はバンパイアの強力な筋力で押さえ込めるが、ヘリコプター自体が反動で傾いてきりもみ回転しそうになり、それを背中から巨大なコウモリの羽を生やしたノイの現部下が空中から押さえ込む。そこをかつてのノイの部下が急襲しようとして、ノイとサードの早撃ちが頭部と心臓を穿った。

 泥で構成された身体が崩れ銃撃されたバンパイア達は残らず落下していく。これが本来のバンパイアなら再生して襲い続けてくるので継戦能力はノイ達の方が上であった。

 

「これで4度目か。仕留めても仕留めても復活してくる。カーミラ様が考案なされていた不死化の秘術を既に嫉妬のエンヴィーは実用化済みか」

「化物ばかりで嫌になりますね」

「だが、カーミラ様は僅か2年で実力がS級ナイトに迫りつつある。ヘルウェッティィ族と渡りを付け勢力的にも無視は出来ない存在へと成長した。科学者としてなら既にキャメロット随一だ。バンパイア一族は決して無力な存在ではない。我らも多少なりとも貢献しなければ。奴らのように足を引っ張る訳にはいかん」

 

 ふん、と敵に堕ちた部下をノイは罵った。

 ハッキリ言って敵になってくれてスッキリした気分である。下手に味方だと考えるからストレスが溜まるのだ。敵の罵声だと思えば気にはならない。

 

「隊長、巨人王を僭称するイスバザデン2世がどうやら退却の妨害をしている様子です」

 

 キィキィとコウモリ化してばらばらになっていた身体を頭部のみ実体化させてバンパイア傭兵団の哨戒を担当していた部下が報告しに来た。

 科学技術が発達してないキャメロットで上空からの哨戒が可能なバンパイア傭兵団は遠隔視の魔術師並にラウンドナイトに頼りにされ始めている。同じく飛行可能なライバル魔術師がいるので唯一無二ではないが、トランシーバーで即座に本部と情報交換が可能である事もあり、バンパイア傭兵団は戦略上必要不可欠な部隊と化しつつあるのだ。

 まあ、ライバル魔術師も念話で似た事をやっているが。

 

「災害レベル竜に至らぬ身で巨人王など片腹痛い」

「おい、フィフス-スリー。カーミラ様も災害レベル鬼の上位だ。口には気を付けろ」

「はっ失礼しました!」

 

 円卓の騎士を中心に物事を考えると災害レベル鬼が大した事のないように思えてくるが、一勢力の王として災害レベル鬼は十分にその資格があるのだ。

 同じ巨人族の雑兵にも鬼クラスの実力者が混じっているせいで失笑されてしまうのだが巨人族の女王となったオルウェンもまた同じく災害レベル鬼である。竜と鬼の間には怪人だろうと理不尽に感じてしまうような隔たりがあった。

 

 前王である巨人王イスバザデンが規格外であったのだ。円卓の騎士が数人係で挑むような災害レベル竜は伝承のラスボスとして謳われるような存在ばかりである。

 そいつを個人で打倒してしまう上位のS級ナイトすら何人も生まれる人間種族はやはり何かがおかしい。太古から続く怪人一族が片っ端から人間に滅ぼされて姿を消していく未来が訪れるのも納得がいくだろう。

 

「僭王イスバザデン2世はラウンドナイトに任せておけ。我らは時間を稼ぐ事に専念する」

 

 津波のように迫り続けるヘドロモンスターの群れに焼夷弾をばらまきながらバンパイア傭兵団は空中から一方的に攻撃し続けた。

 武装庫のように扱われているヘリコプターから爆弾を持ったバンパイア達が空中から敵に投下し続ける。消えない炎は確実に敵を焼き払い周囲を火の海とし有効な足止めとして機能していた。生き返ると言っても恐怖心が欠片もない訳ではないのだ。

 

 そろそろ日も暮れる。真夜中はバンパイアの時間だ。他種族の索敵能力が低下する中、バンパイア達はソナーで正確に敵の位置を読み取れる。

 そうノイ達がほくそ笑んでいた時、ヘリコプターにジャンプで飛びかかってくる影があった。

 

「よう。良い物、持ってんじゃねぇか。俺にくれよ」

 

 返り血で真っ赤になった身体を振り回し、体内から幾つもの剣を飛ばしてきた巨大な体躯の男をノイ達は険しい顔で睨んだ。

 アングロ・サクソン七大王が一人、強欲のグリード。

 無機物を取り込んで複製、強化する怪人一族ゲルマン人の武装供給者。難民に過ぎないゲルマン人が一人残らず武装して軍のように襲い掛かってくるのはコイツの功績が大きい。絶対にローマ帝国の兵器を取り込ませるなとカーミラが厳命した相手だ。

 

「爆破しろ」

「はっ!」

 

 自分達では抵抗しきれないと判断したノイはヘリコプターに積んだ爆薬に火を放たせた。帰りの足が消えるが、ゲルマン人に現代兵器を渡すよりは良い。

 

「勿体ねえな、クソ」

 

 弾け飛んだヘリコプターを見て心底、惜しむ顔をしたグリードが全身から銃口を生やした。

 マズルフラッシュの光を発してばらまかれた弾が次々とバンパイア達の全身を穴だらけにしていく。既にグリードは幾つかのローマ帝国産の兵器を取り込んでいた。

 

 災害レベル鬼の気を込められた銃撃は防げるようなものじゃない。一方的に身体を撃ち抜かれたバンパイア達は落下して、途中でコウモリにばらけて逃げ始めていく。

 不老不死の代名詞であるバンパイアの不死性を甘く見てはいけない。全身に穴を開けられた程度では彼らを殺す事は出来ない。

 それを忌々しそうにグリードは見て、太陽レーザーの奇襲を身体を捻る事で何とかやり過ごした。

 

 片腕をもがれた苦痛に歯を食いしばって耐えグリードは背中に爆弾を生み出し落下地点を変えて何とか生き残った。

 2度、追撃として放たれたレーザーはグリードの身体を削るだけで致命の攻撃とはならない。

 重傷ではあるがアングロ・サクソン七大王の一人、怠惰のスロウスの治療を受ければ後遺症も残らず戦線に復帰してくるだろう。

 

「惜しい。やっと一人、アングロ・サクソン七大王を始末できると思ったのですが」

 

 円卓の騎士ガウェインはそう言って溜息を吐いた。もう日が沈む。陽光エネルギーの残量も心許ない。

 深追いして戦線を崩壊させる訳にもいかないと彼は僭王イスバザデン2世を葬った太陽の残光を宿した剣、ガラティーンを振るって血を落とした。

 

 神秘的な見た目ではあるが、彼の愛剣は太陽光と相性の良い鉱石で作られただけの人造物であり、エクスカリバーやロンギヌスの槍といった本物の伝承上に現れる聖剣聖槍の類いではない。その事に少し思う所のあるガウェインの心を反映したように剣から太陽の光が消えた。

 

「ちっ」

 

 心を反映して効力が変わる自らの異能にガウェインは舌打ちをして戦場を後にした。

 清廉潔白な騎士。太陽の力を宿す光り輝く者。

 そうであるかを心の底から常に審判され続けているガウェインに気の休まる時はない。

 邪念を抱いているかを常に他者に分かる形で判別し、相応しくあらねば途端に弱体化する異能などガウェインは欲しくはなかった。

 

 戦場で血に濡れるのが騎士なのだ。その戦場で崇高な志を常に抱ける程、ガウェインは聖人ではないのだ。

 自分の異能と同じ仕組みで使い手を強化していた選定の剣カリブルヌスを問答無用の暴力で打ち砕かれたアーサー王が、ガウェインは少し、羨ましかった。


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