「待っていたぞパロミデス。俺は今日、お前を凌駕する」
「…………。その前にアンタは誰なのよ。爆裂流の門下生なのよね?」
「アッハ。ゴッサム、貴方。名前すら覚えられてないじゃない。知ってる? それ自意識過剰って言うのよ」
まさかのパロミデスの言葉に思わず失笑してしまった。なるほど、ゴッサムはパロミデスにとってその程度の相手だったのね。
私達の発言にゴッサムのこめかみからブチブチブチっと音がして真っ赤になったゴッサムが咆えてパロミデスに吶喊した。
爆裂流の独特な空気を爆破する音を奏で、全身を炎に包まれて。
ふむ。身体の一部ではなく全身の爆裂炎上拳。確かにちゃんと鍛錬は続けていたらしいわね。強くなっている。
「やっぱ門下生なのね。殺したら爺さんが五月蠅いし、手加減しなきゃか」
「なめるなァ!!」
おそらく攻撃の威力のみで考えるなら私以上の爆裂流の一撃をゴッサムは繰り広げ、それを涼しい顔でパロミデスは無防備に受けた。ダメージはない。
逆にあまりにも攻撃の威力が高かった為にゴッサムの腕の方が折れている。惨い格差だ。
「おおおおぉおぉぉぉっっ!!」
「再生スピードが速すぎる。怪人?」
腕が折れようが構わずゴッサムは攻撃を続行し続け、腕を引いた時には骨折が完治している事もあり攻撃が途絶えない。
その異様な回復力にパロミデスも僅かに目を見開いた。
「ゴッサムはバンパイア一族に迎え入れたから、急所を狙わなきゃ死なないわ。多分」
「ふぅーん。貴女が原因なのね」
「暴走してるのはパロミデス、貴女のせいだと思うのだけれど……」
このままじゃ事件の黒幕扱いされると私は首を振って否定した。
道場の再建代を弁償するくらいならともかく、問答無用で殺されるような気がするからパロミデスは怖い。脳筋女め。
「俺を見ろぉおぉぉっっ!!」
殴りかかっているにも関わらず、無関心なパロミデスにゴッサムが懇願するように咆えて。
そのゴッサムにパロミデスは仕方なさそうに構えた。
「よく見ておきなさい。これが本物の爆裂流」
キュゴっと音がしたような気がする程、一点にパロミデスの気が収束し、褐色の腕が熱せられた鉄のように赤い灼熱の色に染まった。
ゆっくりと突き出されたように見える拳は炎を纏わず、ただ拳の内部に膨大な熱量を秘め、ゴッサムの腹部に当たって弾けた。
パァアンとゴッサムが拳の威力と炎の勢いに身体を真っ二つにされて地に落ちる。
指向性を持った炎はゴッサム以外には影響を与えず、板張りの道場は燃え後すら残ってない。恐るべき練度の爆裂炎上拳。
「ねぇ。これ、本当に死なない?」
身体を真っ二つにされて燃やされたゴッサムが血反吐を吐いて再生しないのを見て、パロミデスは私に再確認した。
私はパロミデスとゴッサムを交互に見て、先程の発言を訂正した。
「ゴメン。私が間違ってた。急所を狙わなくても死ぬわ」
「ちょ!?」
血液のストックを攻撃の威力で消し飛ばされたゴッサムを見て、早急に強くなろうと私は改めて決意した。
死に際のゴッサムを吸血して魂を確保した私をパロミデスが疑わしそうに見ていたので、その場でゴッサムを再び眷属として新生させた。
全身の爆裂炎上拳。あれをラーニングしたかったのだけど仕方ない。
意識を取り戻したゴッサムが再びパロミデスに襲い掛かり、それを今度は足を消し飛ばす事で対処したパロミデスが今度は私の番と私に向き直った。
「貴女も早く来なさい」
「……ねえ、私もやらなきゃ駄目? 別に私は何もしてないのだけれど」
「馬鹿に刃物を持たせちゃ駄目でしょうが。監督責任を怠った貴女も同罪。いや、それだと爺さんも当てはまっちゃうか。仕方ない。一発、先に殴らせてあげるから、私も一発殴り返すわ。それでチャラね」
子供に飛び掛かられたら大人が本気でゲンコツを落としても良いと笑顔で言い放つパロミデスを、大人としての忍耐力で私は付き合って上げる事にした。
「分かったわ。動かないでね」
「ええ」
その場で微動だにしないパロミデスの至近距離にまで私は近付き、マジマジとパロミデスの容姿を観察した。
躍動感あふれる黒人系の美女。肩に掛かるくらいの長さに結ばれたポニーテールの濡羽色の髪にDカップくらいのそこそこ大きな胸にくびれた腰と同じくそこそこ大きいお尻。
うん、イケる。
「………………。ねえ。胸を揉みしだくのが貴女の攻撃?」
「持続攻撃だから耐えてね」
「へぇ」
ニコリと笑ったパロミデスに胸を千切れるかと思う程の力で抓られた私は真面目にやろうと距離を取った。
多少のセクハラなら笑って許すし、いいわね。将来的にパロミデスも眷属にしたい。
本気で挑んでみよう。現時点の私がS級ナイトにどれくらい抗えるかも確認しておきたいし。
そう思った私は血液のストックを加工せずに指先から溢れ出させ、身体にペイントのように塗り始めた。
ヘルウェッティィ族に伝わる特殊な呪術模様。血化粧。
私の血に宿る恨み辛みの思念が身体を蝕み、引き換えのように身体能力が大幅に向上する。肉体再生と同時発動する関係で消耗は大きいけれど、エネルギーの過剰放出で身体を強化するより何倍も効率が良い。あっちは気力放出に特化して訓練した方が良いわね。
「む。ブルーノの一族?」
「関係者よ。ヘルウェッティィ族にも私の眷属になった人間が何人かいてね。まあ私はブルーノ陣営の客将的な立ち位置かしら」
「面倒ね。そういう派閥政治とは距離を置きたいのに」
うへぇと別の意味で嫌気が差したラウンドナイトの武術界の大御所がうめき声を漏らした。
ラウンドナイトの円卓の騎士の中で、素手で戦うのは彼女とペリノア王の二人。ペリノア王は流派を修めている訳ではなく、単に本気で戦ったら武器が壊れるので仕方なく強靱な身体能力で暴れているだけのサイタマタイプの理不尽だ。話もあまり通じないし武術界からは怪人と変わらないと距離を置かれている。
結果としてパロミデスは武術界の期待の星+広告塔として盛大に利用され尽くしている。奇跡を操るサラセン人でもあるし色々と気苦労が絶えない立場。
派手に爆裂流の道場が崩壊したのに彼女以外のラウンドナイトが来ていないのは場合によっては何もなかった事にする為にワザと見逃されているのでしょうね。
あちこちに配慮して動かないとならないラウンドナイトは思った以上に政治色の強い組織なのだ。
「武器の使用は構わない?」
「いいわ」
パロミデスの許可を得た私は肘から鎌を生やした。対戦車、対艦船用の徹甲弾に用いられる金属であるタングステン製。
包丁の形にしたら25年に一度しか研ぐ必要のない切れ味が続くという炭化チタンや、大量破壊兵器の材料にもなるレアメタルのレニウムなんかも扱えるようになりたいけれど、まだローマ帝国じゃ実用化されてなかった。代わりにワンパンマン世界独自の金属があって、そっちがタングステン以上にローマ帝国に重要視されて発掘され続けている。
ミスリル・オリハルコン・アダマンタイト・ヒヒロイカネ・ダマスカス鋼なんかのファンタジー金属を。
しかも怪人の骨や鱗が上記のファンタジー金属すらも超える生体鉱物の可能性があるのだから、やってられない。
タングステンはこの世界だと安価に利用できる低品質金属という訳。
その低品質金属で形成された強靱な鎌にヘルウェッティィ族の暗殺殺法に由来する技術で気を丁寧に染み込ませる。これで更に強度が跳ね上がる。
次にパロミデスに強化された脚力で飛翔して接近する。幻影飛翔剣の技術を接近する為だけに用いる事で余計な負担を負わずに威力の底上げを図る。練度の低い魔法の類いは邪魔なだけだから使用せず、気力放出で一撃の威力を底上げし爆裂流の炎を鎌に纏わせる。
これが現状の私の最大の一撃。血炎気翔閃。
ギュガッと白色に熱を放射する鎌がパロミデスの腕に直撃し―――、一筋の傷跡を残して折れた。
引っ掻き傷。それが私の全力を受けたパロミデスのダメージ。
「思ったより、やるわね」
痛みを感じたパロミデスが笑顔で平手を私の頬にお見舞いし、私の意識を刈り取った。