ローマ帝国。ローマ市内。
現代社会並の科学技術で守られたその都市は至る所に監視カメラがあり、現代兵器で武装した兵士が絶えず巡回する中世とは思えない様相の風貌の街並みだ。
行き交う人々はコーカソイド、白人が多く、怪人めいた特徴のある存在は一人もいない。ローマでは人間か確認をする為に検問所で常に体内をスキャンしているのだ。
これがキャメロットなら鋼鉄の皮膚の持ち主や3メートル越えの身長の大男や身体に鱗が生えている人間が当たり前のように彷徨いている。知性と協調性があれば人間だと大雑把に分類しているキャメロットとローマでは文化が大きく違うのが分かる。戦争状態に突入する前から二つの文明圏では様々なトラブルがあった。ローマ帝国の言う蛮族とは怪人を受け入れた人間国家の事を言っているのだ。
ローマ側の言い分は国内へ怪人陣営のスパイや危険分子を入り込ませる危険性を許容できないと言うものだが、キャメロットから見れば人間だって突然変異で怪人と化す世界で何を馬鹿な事をと笑ってしまうような言い草であった。怪人だろうとその気になれば人間のスパイを利用可能なのだ。怪人一族ゲルマン人は知性を持った歴とした一種族だ。人間の土地を支配下に置いたら、住んでいた国民は二級市民、最低でも奴隷待遇として労働力に用いる。無差別な虐殺など滅多にしない。利益にならないからだ。
その点だけで見ると発見した怪人は一族諸共、皆殺しにし続けているローマ帝国の方が遙かに野蛮だ。
結局は本能的な忌避感が理由なのだ。基本性能が圧倒的に弱い人間種族が技術が発達していなかった古代に、身体能力の格差が原因で各地に隠れ潜んで暮していた鬱屈とした感情が未だに本能に刻まれて忘れられないでいるのだ。
人間種族全体に宿る太古からの怪人への怨念。これが地球意思すら悲鳴を上げた人間の暴走の理由なのかもしれない。
「グォオオオオッッ。俺の偏差値が30だからって馬鹿にしやがってよォォォッ。そんなに学歴が大事か、アアン!?」
「うわあっ。怪人だ、逃げろぉ!」
「キャァァッ!」
だが、そういう本能に根ざした偏見でローマ帝国が怪人を忌避するのは仕方ない一面もある。
片っ端から異端として異種族や自然発生の怪人を排除していった結果、ローマ帝国の人間が最初に見るスタンダードな怪人は人間からの突然変異が殆どなのだ。
時間経過で冷静になった後ならともかく、突然変異で怪人になるというのは種から逸脱する程に感情が昂ぶって暴走した挙げ句の事である。まず間違いなく会話の通じない狂人めいた言動を取っている。オマケに怪人特有の自分本意な思考や強化された肉体から来る全能感で気が大きくなり、周囲に多くいる無力な人間を馬鹿にしていたぶろうとするのだ。
しかも力関係が逆転しなければ、いや自分の立場を教え込まれようが更生する怪人は一部だ。これで共存しろなんてのは無理難題というものだ。
実は人間と共存する可能性が最も高いのは最初からそういう生命体として生まれた異種族型の怪人なのである。
そして、ローマ帝国はそういう怪人達こそを片っ端から滅ぼしてきた。もうローマ帝国は後戻りの出来ない程に修羅の道を突き進んでしまっていたのだった。
「あ、ああっ」
「おう? おい、ションベン漏らしたそこのガキ、てめぇの偏差値は幾つだ?」
「ええっと……」
「安心しろよ。お前の返答で俺の行動は変わんねえから」
ニィと笑ったモヒカン頭の怪人はゲラゲラと笑いながら座り込んだ子供を嘲笑った。
「偏差値が低けりゃ俺の仲間だ。お前も俺の一部にしてやる」
「た、高かったら……?」
「お前の脳味噌をすすって賢くなるのさ」
ベロンと口から舌を伸ばした怪人が子供の身体を巻き取り、空中に浮かせた。
キヒヒヒヒと笑う怪人はとても元人間だとは思えず、子供は泣き叫んだ。
「助けて。誰か、誰かーっ!」
救いを求める子供の声はローマ市内に大きく響き渡り、当然の如くその声は―――人の守護者へと届いた。
「平気か?」
「え? う、うん」
一瞬で怪人の伸ばした舌を切り裂いて子供を救出した黄の重装歩兵はそう言って子供を地面に降ろした。
色持ちはローマ帝国の誇る決戦兵器であり、単なる一兵士だろうとA級の実力を誇る。
だが怪人と化したモヒカン男は地味に肉体を鍛えた武闘派であり、種族を逸脱した事で災害レベル虎の実力を持つ。
A級の実力でも相性次第では危険な相手なのだ。
「痛ってぇな。兄ちゃんよぉ。俺の舌の落とし前、どう付けてくれんだぁ?」
「既に再生してるようだがな」
「バァーカ。目には目をって言葉、知らねえのかぁ?」
俺と同じ目に遭わせてやるよと、げひた笑みを浮かべるモヒカン男に黄の重装歩兵は丁寧に訂正の言葉を言った。
「目には目を、歯には歯をと定めたハンムラビ王は復讐しろと唆しているのではなく、こちらがやられた以上の過激な報復をするなと諫めているのだ。馬鹿が」
「てめぇ、俺を馬鹿だと言いやがったな!?」
「馬鹿だから仕方ないだろう。この馬鹿が」
「仏の顔も三度までだぜ!?」
怒り狂ったモヒカン男が猛烈な勢いで突っ込んでくるのを正面から受け止めて、黄の重装歩兵の男はもう一度、重ねて言った。
「仏の顔も三度までは温厚な人でも無礼を繰り返せば怒るという意味だ。馬鹿め」
「てっめ」
「何よりな」
ヒュィィンと黄の重装歩兵の男が纏った鎧、パワードアーマーが光りを発しメキメキと肉体を強化する。
そう、この重装歩兵の男はパワードアーマーの力を利用せずにモヒカン男の突進を受け止めたのだ。素の身体能力が怪人を大きく凌駕していたのである。
「子供に危害を加えるんじゃない。この馬鹿が!!」
「あびゃ?」
モヒカン男の肉体を強靱な身体能力で押し潰し、肉塊に変えて、黄の重装歩兵の男は話を終えた。
これがローマ帝国の誇る決戦兵器の一人、黄のリーダー……と言う訳ではない。
単なる十人隊長だ。この男レベルの実力者が後何人か黄の重装歩兵隊には存在しており、それを統括するのが黄のリーダーなのだ。
ローマ帝国は史実でも原作でも伝説でも滅びる運命にある。
だが、それはローマ帝国が弱い理由にはならない。