最初に訪れた樵の村、いやバンパイア村落に追加の眷属を誕生させてから私はキャメロットに舞い戻った。
何時までも遊んでいるとヘルウェッティィ族からの美味しい依頼が他に流れるからね。諜報の専門家は私以外にもいるし、化学製品も魔道具で再現できなくもないし。
それでしばらくは真面目に仕事を熟して。好い加減、本格的に戦力強化へ邁進しようと意識を切り替えた。
流石にワンパンは不味い。相手がS級だろうと逃亡すらも出来ないのは問題外。
感覚的なモノに過ぎないけれど耐久力と回復力が災害レベル竜なのは間違いない。パロミデスが相手だろうとワンパンで倒されたのはやっぱり変なのよね。吸血鬼としての特性はラーニングしたモノと比べて飛び抜けている。身体のコウモリ化も器用の向上や基礎異能の練度向上で迅速に分裂できるようになったし一匹の強さも増してる。血液タンクのおかげで当初の3倍はコウモリの数も多くなってるし、眷属が血を吸う度に少しずつ強化されていってるし。忘れてたけれど、そういうチートも神様に貰っていたのよね。吸魂と比べて地味だけれど。シンクロ強化とでも名付けるかな。
で、話は戻るのだけど、そこまで頑丈じゃないから私がパロミデスのビンタで大ダメージを受けるのは分かる。ゴッサムもパロミデスの通常攻撃でズタボロにされてたし。でもゴッサムが耐えられたのに私が耐えられないってのは筋が通らない。ゴッサムの生まれながらの頑強さ、その素質はラーニング済みだ。
男と女の違いや体格なんて細かな違いは影響しない。筋力の重さなんて常識的な概念はワンパンマン世界では無力。私とゴッサムの肉体的な強度はイコールか私が若干、上回っているでしょう。
休暇を満喫しながら、じゃあ何でこんなに私が打たれ弱いのか考えていたんだけど。原因は一つしか思い浮かばなかった。
即ち、精神力の差。
ワンパンマン世界で最も重要な要素が私には不足しているのだ。
「何てこと。この世界じゃ精神力次第で物理的な限界をも凌駕可能なのに。そこが最も欠けているなんて」
そもそも怪人は精神的な強者という訳ではないけれども。
ワンパンマン世界でのインフレ要素。成長リミッターの解除と怪人化の秘法。この二つは死を乗り越えるか、死を潜り抜けるかで道が分れる。この二つは似てるようで大きく違う。成長リミッターの解除は覚醒であり、怪人化の秘法は進化であると言い換えても良い。
進化とは即ち逃避だ。
他の生物より大きくなることで生き残った恐竜は一見強くなったように見えて、実は同じ大きさでの縄張り争いから逃げている。本質的には身体を小さくする事で生き残ったネズミとの違いはない。生存競争をより有利にする為に現状から逃避する生きる為の手法。それこそが進化なのだ。
だから怪人の進化の際、そう例えば。怪人である転生フェニックス男が着ぐるみの内部に入り込んだ虫のような機械にクスグリ殺されるのを避ける為に、ヒヨコのような大きさと実力に弱体化するなんて事が起こり得る。これも進化の一形態。退化と進化は紙一重なのだ。
トレーニングの延長線である身体能力の強化に過ぎないリミッター解除とは大きく違う。こっちはバトル漫画の覚醒と同じだ。人間としての性質を変えないままに個体としての強さだけがバグみたいに強化されるのだ。だから実はマントを羽織っているのにサイタマは空を飛べなかったりする。寿命も普通の人間と変わらないだろう。
……その割に精神世界へとノックして侵入して来たりするが。これは戦慄のタツマキの超能力ではサイタマに干渉できなかったのと同じ理屈かな。強靱すぎる気が世界への影響すらも遮断したのでしょう。ギャグ漫画だからって身も蓋もない理由じゃなければ。
サイタマはそういう常識を無視する頭の悪さも強さの秘訣なのよね。
原作で竜以上の怪人になったガロウがもう一歩で成長リミッターを外せる所まで来ていたのに、最後の最後で常識的な枠組みに収まってしまったのはそういう常識に囚われてしまったからでもある。下手に武道を学んでいたから人間の限界ラインが見えてしまっていたのよね。それが自己流で師匠のいなかったサイタマとの違い。あっちは競い合うライバルすらいなかったから、これくらいが人間の限界だって知識すら希薄だった。
だからジャンプで月にまで到達できるような身体能力にまで到達した側面があるのだ。
「つまり、成長リミッターを解除するだけじゃサイタマ程には強くなれない?」
ありそうね。ライバルとの競い合いすらも駄目だとか厳しすぎる。本当にサイタマは例外なのか。
もし、サイタマ以外の人間がサイタマ並の実力を備えるなら、二人は成長リミッターを解除した人間が必要でしょうね。普通は自己鍛錬のみで肉体を極められる人間なんていない。サイタマは中国の仙人のような求道者的な側面があるのよ。
「いえ、私は成長リミッターの解除も怪人化の秘法も頼らないと決めた。精神力なんてあやふやなモノを鍛える為に実戦を繰り返し窮地に陥るのは本末転倒。ロジックが足りない」
そう。精神的な弱さが原因で打たれ弱いなら、精神的な弱さを抱えつつも打たれ強くなれば良いだけ。
心の強さが戦闘の強さだなんて現代戦では嘲笑の的だ。精神論で現実は変わらない。
「痛みの緩和は既に出来てる。それでも意識が落ちたのは許容できる刺激を超えたからか、人間だった頃の常識が身体の破損を受け入れられなかったのか。錯覚、幻肢痛。後者ね。一定以上のダメージを受けると精神が死を錯覚して、強制シャットダウンをすると考えるとらしく思える」
それなら拷問を受けて痛みに慣れるのは意味がないな。そういう外部刺激では常識を変えられないし、バンパイアは容易く肉体を作り替えたり再生するから痛覚は鈍く出来る。それが、精神的な脆さが原因で死んだバンパイア(血統書付き)のように成長を阻害してる面も否定できないけど。
「あ、ヘルウェッティィ族のカインがやってた分身。あれを参考に体内に思考する脳を増やしたり、二人に増えて過ごしたりすれば人間としての常識も崩壊するかも」
科学者としての仕事も忙しいし、単純に手数を増やすのは有り。何で思い付けなかったのか。
試しに限界分裂数まで肉体を増やしてみよう。カインは一時的な分裂が限界だったけど、私は眷属を生み出したように生命体すらも作り出せる。常時稼働させる事も可能でしょう。偽物じゃなく、どっちも本物だから、自分殺しが起きるか? いやでも、吸魂で自分自身の魂を吸い取れたら……。禁忌に近い。でも、やっぱり試してみる価値は高いな。
「自分の複製は無理でした」
「肉体の常時分裂は可能だったじゃない」
「凄い負担だけれどね。科学者としての仕事を出来る気がしない」
「脳はちゃんと人数分あるのに」
「魂が薄く人数割りになってるせいかしら」
「コウモリ時に高度な思考が出来なくなってたのは魂に原因があったのね」
「でも戦闘行動は本能的に可能よ」
「9人が限界なのかしら」
「今はね。これも研鑽次第で増やせるわ」
魂が繋がってるから完璧な意思疎通で連携可能な災害レベル鬼の怪人が9体。
ふふっ。思わぬ戦力アップじゃない?