ワンパンマン世界に怪人TS転生だって?   作:八虚空

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三十三話 空賊スカイ団

 多重影分身モドキを習得した私はやっとA級賞金首をターゲットに狩りをしようと動き始めた。今なら多少、格上だろうと逃げるだけなら簡単だし爆裂流のゴッサムや幻影飛翔剣の山賊レベルの相手なら得るものもあるしね。

 そう思って何件か独力で賞金首を退治したんだけれど、A級でも下位はB級と個体としての力量は変わらなかった。違うのは人数と装備。バンパイア傭兵団の魔道具バージョン的な物を身に着けてた。空飛ぶ絨毯とかね。研究素材として一応、確保してる。

 これなら最初からいけたわね。どうやら階級ばかりに目が行って必要以上に慎重になりすぎていたらしい。師範代レベルの武術の達人はA級でも上位なんでしょう。最初のB級依頼、本当に外れだったのね。私じゃなかったら端金で死地に追いやられていたんじゃないかしら。

 

 でも金稼ぎとしてならともかく、目的は戦力アップ。A級でも上位のターゲット、高名な犯罪グループを狩らなきゃならない。

 美味しいのは本格的な知識が不足してる魔法関係。錬金術は科学的知識で大体は説明がついちゃうから、今の私じゃまだ魔道具を作成できないし二重に旨味がある。

 

「それで近隣の有名所、空賊スカイ団を狩ろうって訳ね」

「……何故。それで俺がカーミラ、貴様に協力しなければならん」

「貴方が暴れて破壊した爆裂流の道場の再建代を誰が払ったと思ってんのよ」

「ちっ」

 

 S級賞金首でこそないけど空賊スカイ団には敵に回してはマズい相手がいるかもしれないと借金をカタにゴッサムも無理矢理、参加させる事にした。扱い辛いけど、ゴッサムは眷属の中じゃヘルウェッティィ族並の強者だからね。修行途中の清流拳のジェントルに抜剣術のソウルや現代兵器で武装したバンパイア傭兵団じゃゴッサムには勝てない。

 

「貴方もねパパイヤ。今度、逃げたら容赦なく身体に埋め込んだ爆弾を破裂させるから」

「あの。もう無駄な抵抗はせんので体内に仕込んだ爆弾を取り外して欲しいなって……」

「活躍したら考えても良いわ」

 

 同じく動員したパパイヤは例の幻影飛翔剣の達人であるハゲ山賊。

 放っておくのは勿体ない戦力だと眷属にしたら即座に逃亡しようとしたので心臓と脳に小型の爆弾を埋め込んだ。バンパイアだし爆発してもその程度じゃ死なないけれど、元人間のパパイヤなら首輪になる。これで駄目だったら、もう一回、吸魂しようかなと考えてたし。それを察したから逆らわないだけかもしれないけどね。

 

「カーミラ様。バンパイア傭兵団および武術連盟の一部、それと便乗してきた傭兵団の準備、整いました」

「ありがとうノイ。……それで、嗅ぎつけてきた傭兵団は白だった?」

「はい。スパイの線はないかと。情報は武術連盟経由で漏れたものと思われます」

「ちっ。ジェントルとソウルが世話になってるから一枚噛ませてやったのに。オカゲで無駄に手間と費用を浪費したわ」

 

 空賊スカイ団の保持している空船や技術者を確保する為に外様の傭兵達には略奪を禁じ割高な報酬を約束して手付金を支払ったから、今回の討伐は結構な出費が掛かっている。一部は宝石や貴金属を生成する事で賄うにしても血液が原料になるからリソースが削られる事に変わりはない。バンパイア傭兵団が作戦の為に用意した幾つもの大型ヘリを物欲しそうに見ていたし。大きく動いた今回、情報はある程度、拡散してしまうと覚悟した方が良いでしょうね。

 これでターゲットの賞金首共が大した実力を持っていなかったら大赤字だ。

 

「良いわね、可能な限りターゲットは生きたまま拿捕する事。そうじゃなきゃここまで戦力を集めた意味がないわ。故意に殺害したと判明したら違約金を分捕るから。そう他の傭兵団にも伝えなさい」

「了解しました」

 

 敬礼するノイを引き連れ、私達もまた大型ヘリに乗り込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「姐御! バンパイア傭兵団と武術連盟が手を組んだっつーのは確かだったみたいですぜ。ローマ帝国産と思わしき純科学製の大型ヘリが複数接近してきやす」

「へぇ。たかがA級賞金首にたいする対応じゃないねぇ。こっちの情報が漏れた形跡は?」

「少なくとも姐御の存在は知らないんじゃねえっすか?」

 

 木造製の空飛ぶ船の甲板上で如何にもな海賊姿の男が双眼鏡を片手に背後で仁王立ちをする女に告げた。

 顔に残る大きな傷を隠そうともせず、むしろ誇らしげに晒す巨乳の女は赤くハデな衣装で自らの存在を隠そうとする素振りすらない。

 これはラウンドナイトの本拠地、キャメロット近郊の賞金首ではあり得ない態度であった。天変地異すら個人で起こしうるS級ナイトが何人も屯する大都市の傍で後ろ暗い犯罪者は息を潜めて隠れ潜むのが常だからだ。

 

 その超越者集団に名指しで賞金を掛けられ、それにも関わらず堂々と振る舞うなど彼我の力量差すら測れない阿呆か、もしくは。

 力量差など笑って踏破しようとするようなド阿呆かだ。

 

「あの無敵艦隊を沈めたエルドラゴを相手にするにゃ戦力が足りないでしょ」

「違いねえ」

 

 馬鹿笑いする手下の声に機嫌が良さそうにニヤリと笑った女は大声で号令を掛けた。

 

「ヤロウども、時間だよ! 嵐の王、亡霊の群れ、ワイルドハントの始まりだ!」

 

 女性の声に不自然に大気が荒れ狂い黒雲に太陽が陰っていく。

 遙か未来。かのアーサー王や北欧の神オーディンとすら習合されて同一視された嵐の化身。

 フランシス・ドレイク。

 時系列も作品世界すらも無視して彼女は確かにそこに存在していた。

 

「アタシの名前を覚えて逝きな。テメロッソ・エル・ドラゴ! 太陽を落とした女ってな!」

 

 大航海時代。誰もが見果てぬ夢を海の先に求めた時代において。

 世界帝国の地位をスペインから奪い取ったイギリスの英傑が今。

 

 千年の時を遡って歓声を上げた。


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