パラララッと軽い音とは裏腹にカーミラの作成した大型ヘリは時速360キロの速度で目標の空中船舶に接近していた。
最大速度ならともかく、250キロのスピードが推奨巡航速度の機体がさらに100キロオーバーのスピードで平然と飛び続けているのはワンパンマン世界独自の法則。気による運動エネルギー強化の影響故だ。鍛えれば生身の人間が隕石を砕く事すら可能となるこの世界では機械さえ使い手によって性能が異なってくる。
大型ヘリの操縦者であるバンパイア傭兵団の人員は災害レベルで虎クラスの怪人に過ぎないが、虎クラスの怪人は相性と状況次第ではA級ヒーローすら打倒可能な怪物である。この程度の超常現象は訓練さえ積めば容易く行ってくる。
気による機体性能の強化はスピードだけではなく縦横無尽な変速軌道をも可能とする。現実では反則級のヘリ運用が可能なのだ。
この物理法則に喧嘩を売る変速軌道の大型ヘリが3機。奇襲をするように雲海の中から唐突に空中船舶、フランシス・ドレイクの愛船『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』へと襲い掛かったのだ。
そう、つまり―――。
たかが時速360キロ程度のスピードで一直線に突っ込んでくるバンパイア傭兵団はS級並の力量がある英霊にとってこの上ないカモであった。
◇◆◇◆
急激な魔力の高まりと供に晴天だった空が暗雲に包まれていくのを見て、奇襲が失敗したのを悟って私は舌打ちをした。
流石は高名なA級賞金首、空賊スカイ団。危機察知に天候操作と面白い余技を持っている。そう内心で評価をしているとヘリの内部にいるにも関わらず、凜としたハスキーな女の声が聞こえてきた。
『アタシの名前を覚えて逝きな。テメロッソ・エル・ドラゴ! 太陽を落とした女ってな!』
何処かで聞いた覚えのある声と台詞に途轍もない怖気と寒気が走った。マズい。私は何かを決定的に間違えた。
幸運な事に私は三つに分裂して各ヘリの副操縦席に座っている。分身学習によって学習能力が向上可能かテストしようなんて呑気な真似をしていたのが功を奏した。咄嗟にヘリの進行方向をねじ曲げて可能な限りの気で防護をしておく。あまりもの急激な方向転換は通常の物理法則下ではきりもみ回転をしただろうけれど、ワンパンマン世界なら気合いで何とでもなる。
ドンッ。そう世界が震えて、一拍置いてシュイーンと甲高い音が響いた。
おかしな事に火線は遠目に見えていたガレオン船のカルバリン砲からだけじゃなく、周囲に浮いた幾つもの小舟からも放たれている。
いったい何時の間に現れたのよ。
カルバリン砲は長さ335センチで重さが2トンある15世紀から17世紀の欧州に登場する大砲だ。
およそ18ポンド(9キロ未満)の重量の弾丸を発射する近代兵器。有効射程は500メートルあり、90メートル先の厚さ15センチの板を貫通可能な、いわば一昔前の時代遅れな兵器となる。
5,6世紀で時代遅れも何もないが、文句はローマ帝国に言って欲しい。既にあの国は現代兵器を大量生産してるのだ。カルバリン砲なんてハッキリ言って産廃。
こちらの大型ヘリに積んである歩兵用小火器の方が余程ヤバい。対戦車用のビルを破壊可能なロケットランチャーまで用意してるからね。
だから空飛ぶガレオン船にカルバリン砲があるのを見ても何とも思わなかった。簡単に避けられるし、気でヘリコプターを防護すれば弾ける。まるで無意味だと。
そう、あのガレオン船が単純に錬金術や魔術で飛行可能となってるだけなら問題はないのだ。
本番はヘリでガレオン船に接舷してからだと。下手に殺傷して乗組員の魂を取り込めなくなったらマズいとゴッサムにパパイヤだけじゃなく武術連盟にも声を掛けた。
そう、私は常識で判断してしまったのだ。
一面を覆い尽くすような火線は砲弾の姿が見えず、まるでビーム攻撃だった。
有効射程は500メートル所か、地平線の先まで届く。少なくとも十倍の5キロ以上はある。
気で覆ったヘリコプターの装甲はガリガリと容易く削られ、熱でドロリと溶け始めている。咄嗟に緊急回避で直撃を避けなくては消し炭になっていた。
「ちょっとは物理法則、仕事をしなさいよ!」
ワンパンマン世界に常識を期待した私が間違っていた。