出会い頭の一斉掃射を辛うじて躱したヘリコプターの副操縦席で私は大混乱に陥っていた。
転生したのは間違いなくワンパンマン世界のはずだ。神様直々にそういう説明をされ、サイタマの存在する未来まで見せて貰っている。
確かにアーサー王や円卓の騎士が存在する事に若干首を傾げはしたが、その程度ならあり得なくはないだろうと納得できた。ワンパンマン世界の過去には残酷竜を封じた封印師とかいるし。超能力者や予知能力者、バンパイアに死者蘇生と基本的に何でもありの作風だ。ワンパンマン本編で『世界の脅威に対抗する為、中世時代から理想の王が目覚められたのだ!』とかモブが言い出してアーサー王や円卓の騎士が登場しても読者はふーんと流すだろう。
というか、流氷で凍り付いていたのを蘇生したって体で既に原始人スッポンっていう原始時代の人間を本編に登場させてたわね。
まあ、だからラウンドナイトは普通に受け入れられた。魔法に呪術も似た物が本編に登場していたし、忍者と同じような集団が隠れ潜んでいる可能性もあるなと展開予想をして楽しんでいた。だが。
「視力強化<ストレングスアイ>」
数キロ先の光景をピクト人の魔法で視力を強化して確認すると、標的のガレオン船に海賊帽を被った女が見えた。赤い胸元の開いた上着に白いズボンと黒いブーツ。赤髪の巨乳で顔の中心を大きな傷跡が斜めに走っている。前世で見覚えのある顔だ。
ガレオン船に乗った顔に大きな傷を持つ赤髪の海賊姿の巨乳美女。
自称、テメロッソ・エル・ドラゴ(恐ろしき悪魔)。
真名は恐らくフランシス・ドレイク。推測が当たっているなら16世紀に暴れ回った海賊の船長。遠方の空中船舶に乗るあの賞金首は無理だ。どう足掻いてもワンパンマンには登場できない。
何故なら彼女は『Fate/Grand Order』というアプリゲームに登場するサーヴァントの一人だからだ。
サーヴァントとは人類史に残る功績を上げた史実および創作上の人物の逸話が形となって現れた存在。死後の英雄が信仰によって昇華された英霊の一側面。
世界の外側にあるという英霊の座に登録された本体からコピーをした虚像を召喚しているが故に、時間軸を超越してサーヴァントが存在できるのは確かだ。Fateシリーズの作中でも未来の英霊というのは登場していた。
だからワンパンマン世界の5,6世紀に居てもおかしくはない? この世界の16世紀にもフランシス・ドレイクはいるだろうって?
馬鹿! おかしいに決まってるでしょ! 色々と妥協して16世紀のフランシス・ドレイクが5,6世紀の欧州に召喚なり転移なりしていたとしても!
容姿は絶対に違う! 著作権の壁があるわ! 怖くてワンパンマンの作者も『FGOのフランシス・ドレイクっているでしょ。実は作中の過去編に登場させようと思ってて。え? 全く同じ容姿でですけど?』なんて冗談でも言えないっての! 炎上するから!!
じゃあ史実準拠なんだろって? 史実のフランシス・ドレイクは男だ!
つまり。目の前にいる賞金首は特大のイレギュラー。
私、カーミラと同じ世界に混入した異物な訳か。
一先ずの結論を出すと私は即座にFGOのフランシス・ドレイクの情報を思い出し始めた。確か切り札的存在である宝具は愛船であるガレオン船だったはず。
周囲に展開している小舟も彼女の宝具効果によるものと考えて良いだろう。対軍宝具。元は海賊でありながらもスペインの無敵艦隊を葬ったイギリスの艦隊副司令官へと成り上がった彼女の逸話が形となった力だ。個よりも群での戦いにこそ本領を発揮するタイプ。
だが、フランシス・ドレイクの最も恐ろしい点は宝具ではなく……。
「っ!」
科学者の頭脳を手に入れたオカゲで私の思考速度は大幅にアップしている。混乱していたのは十秒にも満たなかっただろう。
だが、カルバリン砲の次弾を装填するには十分だったらしい。特徴的な発光が大砲から漏れ出ている。
少なくともFGOのアプリゲームでは宝具の連射は基本的に不可能だったし、Fateシリーズでも魔力リソースの問題でマスターが干からびると禁じ手だったはず。
弱体化したサーヴァントではなく生前の本体なら連射可能な奴もいるが、それは神代出身や豊富な魔力を持つ一部の英霊だけであって、生前のフランシス・ドレイクなら魔力すら持たないはずだ。宝具連射なんて出来るはずが。
いや、余計な情報に惑わされるな。冷静になれ。
近代とはいえ軍事兵器が一発しか撃てないはずがないんだ。大砲も銃も弾がある限り継戦可能。当たり前の事だ。
ビーム兵器めいた攻撃はフランシス・ドレイクの魔力による威力底上げだろうが、弾丸は恐らく普通にカルバリン砲の物を使っているんだ。ワンパンマン世界独自の法則、使い手による兵器の性能強化。それを恐ろしい程の練度でやっているに過ぎない。
つまり敵に魔力切れはない。攻撃間隔は手動で大砲に弾を詰め込んだら即座。
「冗談でしょ」
超遠距離からの一方的な宝具の飽和攻撃? それはもう現代の軍隊がやる事よ。
個人武勇の力量を競う聖杯戦争のキャラクターが使って良い概念じゃない。最強の代名詞であるギルガメッシュでさえ頑張れば刀剣が届く距離で戦ってるの。
それを空中飛行する船でキロ単位離れた距離から、十秒間に何発も掃射してくる? 持久戦も可能?
「なんてインチキ」
私の泣き言は一発でも直撃すれば沈む破滅の光りに遮られた。