秒速1500メートルで目標へとばらまかれる最速の徹甲弾APFSDS、マッハ5以上の速度で目標まで飛翔する極超音速ミサイルと最先端の現代兵器は速度面でフランシス・ドレイクの宝具を大きく上回っている。ある意味、当然ね。世界一周を偉業として讃えられた時代の兵器と、民間人が旅行として気軽に行える時代の兵器を比べているのだもの。
頻繁に飛ばしすぎて、さほど気にされなくなった北朝鮮のミサイルの最高速度はマッハ15だったと言えば時代の違いが分かるでしょう。
だから近接戦闘を諦めた段階で戦闘の軍配はこちらに上がると私は判断していた。
そう、ワンパンマン本編で深海王がミサイルの直撃に耐えられるシェルターをぶち抜いていたり、ローマ帝国が円卓の騎士に苦戦していると知っているにも関わらず安易に判断してしまったのだ。
「ガレオン船って木造の帆船だったわよね」
「間違いないかと」
「じゃあ、何故あの船はミサイルの直撃を耐えられるの?」
当たっている。もう、何度も徹甲弾の嵐やミサイルの雨を降らしている。それにも関わらず、フランシス・ドレイクの愛船はその威容を保っていた。
アレは船というよりは空中要塞と言った方が相応しい気がするわね。
「……船体の一部に穴が開いています。無敵ではないはずです」
「そうね。ここが海水の浸水しない空中でなかったなら意味があったかもね」
笑ってしまう程にA級賞金首、空賊スカイ団は強い。強すぎる。
現代兵器は強力な反面、燃費が悪い。僅か一秒に何発も撃てるという利点が今、最悪の欠点として私の前に立ちはだかっていた。
「カーミラ様、現状を引き延ばすしか出来ない我々をお許し下さい」
涙ながらに襟首を引き千切り首筋を晒す最後の眷属の献身に私は苦笑するしかなかった。
受け取らない訳にはいかない。私は彼らの女王なのだから。
「そうね。次はもうちょっと頑張りましょうか」
「はっ」
こうして、私は広い鋼鉄の箱の中、一人になった。
破滅の光りが私を終わらせる少しの間だけ。
◇◆◇◆
「遠距離戦闘で勝ち目はないのね」
宝具に消し飛ばされて鉄屑となったヘリに分身の生命反応を感じられなかった私は溜息を吐いた。どうしよう。現状を打破する手段がない。いっそ、コウモリに化けてバラバラに散った方が助かる確率は高いんじゃ。
そう、背後の荷物を見殺しにすれば、まだ何とかなるかもしれない。
「だから早く外に行かないとマズいんだってばー!」
「ハハ、そうだな。笑っちゃう程、ヤバいみたいだから嬢ちゃんは大人しく座ってな。今、大人が大事な話し合いを」
『その話し合いって、勝ち目ないからバンパイアの親分の餌になりましょうって終末カルト的な妄言ですよねー? ルビーちゃん、ドン引きなんですけどー』
私の搭乗しているヘリには協力者である武術連盟と急遽乗り込んできた傭兵達が乗り合わせている。
最初に墜落したヘリの搭乗員はゴッサムにパパイヤと死にそうにない面々だし何とかなりそうだけど、こいつらはヘリが墜落したら普通に死んじゃいそうなのよね。
目覚め悪いし、別組織と関係悪化しそうだからバンパイアにしてやるってジェントルとソウルから説明させたんだけど、もめるもめる。簡単には纏まりそうもない。
ちょっと、気になる娘が一人、バンパイア傭兵団のライバルだって説明されたから死なせたくはないのだけども。
いや、逆にひょっとしたらひょっとする? 単なるそっくりさんだと思ってたけれど、フランシス・ドレイクがいるっぽいし。
「おいおい。そこの変な棒。俺の本音を言うなよ。武者震いが止まらなくなるだろっ」
『うわぁ。この人、面白いくらいに震えてるんですけどー。本当に武術家なんですー?』
羽の生えた星が先端に付いてる奇妙な棒が独りでに喋ってはソウルの連れて来た抜剣術の門下生をからかう。
空中に浮いた奇妙な―――ステッキ。無機物の癖に溌剌とした軽快な声。私は、あの杖を知っている。
「もうルビー駄目だよ? 死ぬのが怖くない人なんていないんだから」
『そ、ですね☆ 周りの強面の傭兵が怖くて、小学生に真っ先に絡んでくるような人に度胸があるわけありませんでした☆』
「ちょいちょいちょい! 誰が怖くて子供に絡んだだと!?」
プラチナブロンドに真っ赤な瞳、ピンク色のフリフリの服。円卓の騎士であるトリスタンのアイドル衣装を見てるから違和感を抱かなかったけれど。
傍らの杖と併せて捉えるとあの衣装はアイドルというよりも。そう、魔法少女の衣装。
「ねぇ、貴女……」
「俺は単に! 可愛い娘がいるから仲良くなりたかっただけだ!!」
『うわぁ』
「うわぁ」
ある種の確信を持って少女へ声を掛けようとすると、仁王立ちした変態に遮られた。
まあ気持ちは分からないでもないから、殴るのは止めて上げましょう。時間もないし。
「あのね」
「! ついに強制的な吸血をっぉお? 何という美女。これは血を吸われても役得なのでは? いや、血を吸われる際に合法的に抱きつけるなら、むしろ得しかない!」
何故かキス顔でこちらに飛び掛かってきた変態を裏拳ではたき落とすと、私は少女へと声を掛けた。
「急で悪いんだけど、貴女の名前を聞いても良いかしら」
「ふぇ?」
注目されるのに慣れていないのか、あわあわと手足を動かした後、少女は意を決した顔でその名を告げた。
「い、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」