「グゥッッ」
メインローターを破壊されたのか、真っ逆さまに墜落していくヘリの中で私は重度の火傷を少しでも治療しようと操縦席に座っていた眷属を無理矢理に引き寄せた。辛うじて生き残っていた眷属は熱で癒着した衣服を肉ごと自ら引き裂き、吸血し易いよう配慮をしてくれている。この献身と忠誠心は人間上がりの眷属にはない長所ね。その分、融通が効かない面もあるけれど。
「ジュルッズズ。一人分の血じゃヘリの復旧までは無理ね」
私のヘリはゴッサムとパパイヤに運転手の眷属という接舷後の近接戦闘用に編成された部隊だ。多面的な襲撃で迎撃される可能性を少しでも減らす為に機体を多めに投入したけれど血液資源の無駄にしかならなかったか。いや、ならば逆に。
「眷属なら兎も角、無機物なら衣服と同じく私の構成要素の一種なはず」
散らばったコウモリを本体に集める感覚でヘリコプターを取り込む。よし、イケる。
多少のロスはあれど、生成した無機物は保有血液へと再び変換できた。急に中空に放り出されたパパイヤが悲鳴を上げてるけど、ゴッサムは既に背中へコウモリの翼を生やしている。状況判断が速い。
「パパイヤ、遊んでないで幻影飛翔剣でヘリの残像を生み出して的を絞らせないで。ゴッサムは爆裂炎上拳でヘリを急加速して軌道をずらして回避を……」
「ぐだらん。それでは時間稼ぎにしかなるまい」
「時間稼ぎをしろと言ってるの!」
相変わらずゴッサムは一々こちらに反抗してくる。武術家としては一流でも、部下としては三流ね。
ソウルやジェントルがもう少し流派を学ぶ時間があれば眷属内でゴッサムが最上位の力量を持つなんて助長しそうな事態は避けられたかしら。今でも私と対等な立場にいるという誤解を頑なに解かない。
「俺は敵の殲滅へ向かう。邪魔をするな」
「ハッ。遠距離攻撃手段すら持たない脳筋が何を言ってるの? 足手纏いはいらないのよ?」
「貴様から先に始末してやろうか」
ヒリついた空気は味方ヘリの急変貌によって途絶えた。何者かの攻撃かと分身体と意識の波長を合わせて状況を探る。なるほど、土壇場でのヘリコプターの武装化ね。生成物は後付けでも改造可能と。流石は私、冴えてる。
支援攻撃があるなら多少は接近戦に持ち込める可能性もあるか。爆裂流の習得も済んでいるしゴッサムは自由にさせましょう。
「命が惜しければ引っ込んでなさい。パパイヤ、貴方は攪乱役ね。逃げたら殺すから」
「ふん。ジョークにしては笑えんな」
「け、剣以外の幻影はちょっと難易度が高いなって。いや、やります! やりますとも!」
渋るパパイヤに起爆スイッチを見せて脅迫した後、私は12人へと分身した。このうち実体を持つ分裂体は3体、残りは幻影飛翔剣の幻影だ。血液量で計算して一人9分の1はないと弱体化するのよね。血が足りない。
それ以上に血液量を減らすと後付けで習得した異能や技術が使用できなくなってしまう。もっと血液を保持できれば良いのだけど、血液タンクは吸血鬼にとってのHPみたいなものだから、長い年月を生きて少しずつ大きくするかS級や災害レベル竜を取り込むかしなくてはならない。原作で登場する豚神みたいな奴をね。
実はアングロ・サクソン七大王に耐久特化みたいな奴がいるから狙ってるんだけど、拠点から動かないから手が出せないのよね。
下手にラウンドナイトへ情報を与えてしまうとこちらが吸収する前に殺害されかねないから秘匿している。他のアングロ・サクソン七大王と違って放っておいても脅威にならないし。あの怠惰のスロウスは。
善良な怪人か。やっぱり探せばいるところにはいるのよね。他の比較対象が悪すぎるだけかもしれないけれど。
怪人は悪辣な程、強力な傾向が高い。精神性によって強さが変わるワンパンマン世界の法則を度外視しても手段を選ばない方が強いのは道理。ま、だから善良な怪人は弱々しくて淘汰されるのかもね。
私だって後先を考えず民間人を襲って吸血すれば分裂しても能力は弱体化しないし。自意識が完全に分れて多重人格者と化すリスクを呑み込めば竜の怪人である黒い精子の真似事だって可能。流石に11兆の群体へ増えるのは無理があるけど、数百万くらいなら本編前に到達できるはず。
もし、サイタマを敵に回してでも人類を淘汰しなきゃならなくなった場合の切り札ね。ふふっ。
「そうね。仮想敵を考えれば強くてもS級一人くらいは乗り越えなくちゃならないか」
相手はA級賞金首。殺害しても何処からも苦情が出ない、私が求めていた強力な個体。
諦めるのはまだ早い。
「英霊フランシス・ドレイク。本物か偽物かなんてどうだって良いわ」
重要なのはその強さだけ。ただの帆船を空中要塞と化す卓越した武装強化能力。
その力をローマ帝国産の現代兵器に流用したら、どうなる?
「貴女は私の
私は確固たる意思でそう言葉を発した。
フランシス・ドレイクのカルバリン砲は銃弾の弾丸を視認して避ける事が可能な災害レベル鬼の私でも反応できない。だから操縦するヘリコプターが容易く打ち落とされるのは仕方のない話。そもそも戦闘機レベルの攻防が繰り広げられる戦域にヘリコプターを持ち込んだ私が愚かだったのだ。
魂を取り込んだ錬金術師は緑の特殊部隊である戦車隊付きの兵器研究の専門家だったから砲弾関係の知識には詳しいのだけど、戦闘機は青の領分で情報を秘匿されているから大まかな原理しか分からない。赤のバイク隊に配備されてる超強力な携帯武器や黄の重装歩兵隊のパワードアーマー、黒の悪魔付きの呪われた子供達など不明な事柄はまだまだ多いのよね。
おまけに最重要議題の核兵器関連は三賢者と呼ばれる博士達が仕切っていて普通の錬金術師では情報にアクセスも出来ないらしいし。
まだまだ私の科学力はS級の水準には達していない訳。足りない実力を補える程の頭脳じゃない。
そう、私は戦い方を間違えていたんだ。
『右2-5砲塔旋回20度左上』
『左1-3砲塔旋回10度下』
『敵本船は継続して支援ヘリを狙撃中』
分裂した私と言葉少なに思念交換をしながら飛行を続ける。ピクト人の視力強化の魔法と錬金術の分析観測で砲塔の向きは事細かに分かるのだけれど、回避に忙しくて意識の波長を悠長に合わせている暇もない。
高速で羽ばたき続ける背中のコウモリの翼が熱い。限界まで速度を出してはいるけど、音速には届いていないわね。地上ならマッハ1近くは出せるのに。
「風の精よ。怒りを静め我に道を示したまえ」
せめて周囲の荒れ狂う嵐を沈めようとドルイドの精霊術を行使するが、フランシス・ドレイクの支配の方が強いのか風は勢いを増すばかり。まあ、元はB級並の術者から手に入れた力だ。推定S級の実力を持つフランシス・ドレイクの天候支配を破れなくても仕方ないか。
フランシス・ドレイクのカルバリン砲を回避するのは難しい。発射されて1,2秒で目の前に現れる砲弾を避けられる程、私は空中戦闘に慣れてはいない。
でも、回避不可能なのかと言えば話は違う。威力も射程もスピードも素晴らしい攻撃ではあるが、直線で進む砲撃は予測が容易い。砲塔の向きに注意をしていれば射線は何となく分かる。ここら辺はレーダーと誘導ミサイルを開発しているローマ帝国の方が上ね。流石に文明レベルを個人で全て覆すのは無理があったか。
脳裏に三次元的な地図を描き隙間を掻い潜るイメージで飛行する。物理的に避けるのではなく予測して事前に回避する。戦闘機のパイロットが空中戦闘で当然のように行うテクニック。これが出来ないからこそ、ヘリコプターは空中戦闘ではカモになってしまうのよね。
そういう空中戦闘のスペシャリストが戦闘機パイロットでローマ帝国でもかなりのエリートなのだけど、それを銃弾並の速度の投げ槍で落とすベディヴィエール卿は何なのかしら。考察する程に彼の超人ぶりが目に付くのだけど。
まあ、そういう点に注意して機械的な制約がなくなって速度と機動が上がった飛行で絶えず射線を避け続ければ私でも何とかやり合える。幻影の分身に砲弾が着弾してもすり抜けるだけだし、向こうは攻撃を無効化されてるのか当たっていないのか判断を迷うでしょうね。
最初からこうすれば良かった。訓練もしていないヘリコプターの性能強化なんて通じなくて当然なのだ。それならば慣れ親しんだ飛行と幻影飛翔剣で吶喊した方が勝率は高い。
下手に手札が多くなったせいで血迷ったわね。私だけで襲い掛かれば基礎能力を大幅に強化する血化粧だって使えたのに。今は血が足りないから分身の方へリソースを振り分けている。
フランシス・ドレイクのガレオン船と宝具によって呼び出した小舟は併せて五隻。
砲弾は本船が10発、出現した小舟が6発ずつ発射している。フランシス・ドレイクの傍に浮いている4つの砲塔が厄介だ。魔力で宙に浮いているのか照準を柔軟に変更してくる。その上、徹甲弾やミサイルの直撃を船が受けているのに微塵も動揺せず狙いを定めている。
気による武装強化能力の魔力版だと思われる力は砲撃の威力強化だけではなく、船体の防護にも使用されているのか木造だと思しきガレオン船はミサイルを受けても物ともしない。偶に船体に穴が空く事もあるけれど、そこから炎上する事も飛行に障害が発生する事もない。宝具によって呼び出された小舟は最初から幽霊船のようにボロボロだし、船の形をしていれば機能に問題は発生しないのかも。
つまり、船体への攻撃は全くの無駄。
「攻撃はフランシス・ドレイク本人に叩き込まなければ意味はないのかもしれないわね。それか船員へのダメージが船の機能に影響している?」
弱点部位は船上の船橋で、有効ダメージは船上の甲板。他はダメージ無効。
ギミック系のボスみたいな感じかしら。
「支援ヘリに情報共有を……遅かったか」
後方に感じていた分裂体の命の灯火が消えた。意識の波長も感じ取れない。
私達が分れつつも繋がりを保ち続けている集合的無意識の海へと沈んだわね。こうなると深く集中しないと分裂体の情報や内包した魂をサルベージ出来ない。
戦闘経験のフィードバックも直ぐには難しいわね。戦闘中に成長なんて少年漫画的な要素は期待できないか。
「でも、この距離なら届く」
私は明確に視線の合ったフランシス・ドレイクとにこやかに笑い合った。