視力強化の魔法を介さなくても視線が合う距離にまで接近したというのは、私にとってイコールで攻撃範囲に捉えたという意味に等しい。
【縛】
「っ!」
流石に数キロ先の人間を魔眼越しに呪い殺すブルーノには及ばないが、呪術はヘルウェティイ族から十分に学ばせてもらった。
こうやって身体を不可視の束縛で拘束するくらいは訳ない。格下殺しに特化している呪術で格上のフランシス・ドレイクをずっと封じる事は不可能だが、数秒の間、動作を遅らせるだけなら問題にはならない。
「『強化装甲腕』展開」
吸血鬼の基本異能である無機物生成でオークションで買い取った黄の重装歩兵のパワードアーマーの腕部分を生成する。
分解しても全身を一から作成できる程にパワードアーマーの仕組みを理解する事は出来なかったけれど、現物のあった腕部分のみならば正確に部品を組み立てれば作動するのは確かだ。理論が理解できなくても正確にトレースすれば同じ物は作成できる。研究開発で間違いなく遅れを取るからあまり推奨できない利用法だけどもね。
瞬時に右腕を覆った装甲は煙を吐き出して稼働し始める。内蔵した小型バッテリーは現代社会の大型船舶をも動かす事が可能なオーバーテクノロジーの結晶だ。
まあ、5,6世紀に現代機器を作成しているローマ帝国産の物はどれもオーバーテクノロジーなのだけどね。そう考えればスマホの電池で船を動かすくらいは大した事はないか。
「『爆裂槍』生成」
装甲に覆われた右腕の先に血液を材料に槍を生成する。切っ先は前世の戦時国際法で禁止された兵器であるナパーム弾。
ナフサと呼ばれるガソリンの一種にナパーム剤と呼ばれる増粘剤を加えてゲル状にした焼夷弾で、親油性の為に人体や木材に付着すると水を掛けても消化できないという非人道兵器だ。おまけにナパーム弾は燃焼の際に大量の空気を必要とするので直弾付近にいると酸欠による窒息死や一酸化炭素中毒死の危険もある。
そう、邪魔なモブ海賊を一掃するのに相応しい性能ね。
フランシス・ドレイクでさえ呼吸できなきゃ多少は影響を受けるはず。むしろ武装強化の特化型だったら一撃で瀕死になってもおかしくはない。まあ、そうなっても私が吸い殺すまで生きてれば良いんだから問題ないわ。
それじゃあ。
「死ね」
延々とカルバリン砲で砲撃され続けた恨みを込めて私は槍を投擲した。
◇◆◇◆
荒れ狂う海。暗雲漂う空。亡者達の叫びが如き暴風。死に誘う冷たき雨。
これがフランシス・ドレイクの原風景だ。彼女が宝具を振るう度に世界は塗りつぶされ大航海時代へと巻き戻る。
幾ら周囲を見回そうと陸地は見えず、空を仰ぎ見ようと星は雲に覆い隠され、現在地さえ把握できない。
減っていく一方の水と食料。航海図にすら乗っていない航路。不安と絶望に顔を歪める船員。
供に出港した四隻の僚船は既に亡者の船と化した。お前らも仲間になれと、お前らの結末はこうなるのだと見せ付けるように後を憑いてくる。
無謀だったのだ。そうフランシス・ドレイクの親友でありエリザベス女王へと彼女を引き合わせた副船長トマス・ドウティの声がする。
世界一周を生きたまま成し遂げた船長など、いない。死ぬぞ。
そう死に際に忠告したトマスの目をフランシス・ドレイクは覚えている。反逆罪で処刑される事が決まった人間とは思えない澄んだ目をしていた。
彼がいなければ彼女が船団を結成する事は出来なかった。見果てぬ夢を語り合った唯一無二の友であった。
その親友を殺して彼女は航海に出た。迎えた海はまるで冥界のようだった。
逃げる事も進む事も出来ない。泣いても許しちゃ貰えない。そんな中で出来る事は強がって笑う事ぐらいだった。
「いいじゃないか、かかって来な」
満足に動かない身体でフランシス・ドレイクはカーミラに笑いかけた。
生前と同じように。何時ものように。
「ここが命の張りどころってね!」
刹那に散る花火のように生きる。それがフランシス・ドレイクという女だった。