『世話になる』
そこで俺の意識は再び覚醒した。
ベッドの上で俺は目覚める。
さっきまでのは夢…?
だとしたら、性格が悪いにも限度があろう。
あぁ、もういい
さっさと出ていこう。
「あ、目覚めたか!良かった!」
その声で、俺の早とちりだったと自覚する。
「驚いたよ。話が終わったら急に倒れるんだから」
「肉体的にも、精神的にも相当披露していたんだろうね」
「さぁ、なら食べよう!朝食はできてる。食べないことには回復しないからね。」
そう言って目の前の女…『偽りの魔女 オズ』はテーブルを指さす。
そこには、皿とその上に何かが置かれていた。
「これは…?」
俺がそう聞くと、オズは酷く驚いた表情をした。
「…え?普通に朝食だけど…?」
「まさかとは思うけど、私の料理を料理として認識できてない!?」
「料理って、飯って認識であってるか?」
「そこから!?」
オズが何にそんなに驚いてるのか俺には全く分からない。
これも、魔女と人間…ましてや俺との違いなのだろうか。
「食べてるものは、人間と変わらないはずなんだけど…」
「俺が食べてたのはパン?って呼ばれてたやつだ」
「なんか色も変だし、味も吐きそうなものだったけど」
「それカビてない…?」
そう言った後、オズはすごい大きなため息をついた。
「とりあえず、食べよう」
「色々言いたいことあるけど、食べてたからによう」
そう言うとオズは椅子に座った。
だがその時、私も人間ブッ潰そうかなって言ったのを俺は聞き逃さなかった。
「ほら、持ち方が違う!こう!」
「そんなこと言われたって使った事ないんだって!」
「えぇ、そうでしょうね!だから『今』教えてるんじゃない!」
「さっき食べてからにするって言ってなかった!?」
「言ったけど、道具をちゃんと使わないやつを見ると爆殺してやりたくなるの、私!」
「なんかめっちゃ物騒なこと言ってるこの人!?」
そんな悶着があってようやく食事を終えた…。
「ああ、全く作法が出来てない!一体どう生きてきたらこうなるんだ!」
「これから私がちゃんとお前に作法を教えてやるからな!」
「あ、はい…」
俺はと言うと、食事中からいらだちを全く隠せてない魔女に圧倒されていた。
「…で、作法のことはしょうがないとして、聞きたかったことを聞こう」
大きなため息をついて、真剣な顔になった魔女が真っ直ぐ、俺の顔を見つめる。
「今聞きたいのは大きく2つ」
「1つ、君がそうなるまで人間共に畏怖された能力」
「そしてもう1つ…」
より一層真剣な面持ちになった魔女が、鋭い目付きで俺を見つめる。
息が詰まる。
何を聞かれるのか、俺自身が分からなかったからだ。
自分の呪いとも言えるこの能力について聞かれるのは、分かっていた。
だが、俺にほかに何を聞くのだ?
分からなかった。
そして、魔女は口を開く。
「もう1つは、君の名前だ」
呆気にとられた。
あんな真剣な顔をして?
あんな真面目な雰囲気を出して?
聞いてきたのが俺の名前?
名前くらい普通に聞いてくればいいのに…
まぁもっとも…
「そんなものないよ」
「…はい?」
オズは…拍子抜けしたような声を出していた。
「俺に、名前なんてものは無い」
「名前が…ない?」
「そんな…、そんな馬鹿な!」
「いくら君が人間に嫌われていたからと言っても親は?」
「生まれた時に…いや、その前には名前は決まってるはずだろう!」
俺は何も答えない。
ただ真っ直ぐ、オズの目を見る。
『そんな事まで言わせんのか?』と。
オズもそれに気づいたのだろう。
それ以上は何も言わなかった。
「仮に、俺に名前があったとしても、人間に与えられた名前なんか、もう名乗るつもりもない」
俺は、ぶっきらぼうにそう言った。
本当にそう思った訳では無い。
もし、名前があったのなら、俺はそれを名乗っていたかもしれない。
だが、それでも俺がそういったのは…
ただ、オズが俺に向けてくる哀れみ目が嫌だったからだ。
「そ、そうか…。ならどちらにせよ、名付けはしなければいけなかったということか」
「名前なんていらないだろ」
「これからここで暮らすのに、名前が無いと不便に決まってるだろう」
「そうだなー、『アテナ』」
「男だ」
「んー、『ヘラ』」
「男だ」
「えー」
「どうでもいいだろ名前なんて」
「良くない!…とにかく良くない!」
「えぇ…」
「君の、悪夢のような日々を忘れさせるためにも必要だろう」
そう言ったオズは、ハッとした顔をこちらに見せた。
「『メア』というのはどうだろう」
「メア…悪夢、ナイトメアからか?」
「安直すぎたかな、アハハ…」
初めてまともな(?)名前が思いついて自信があったのだろうか…。
オズは、人差し指で頭をポリポリとかきながら照れを隠してる。
「数秒前に悪夢を忘れさせるって言ってた気がするけど」
「それは…、私が間違えてた」
「忘れる必要は無い」
「君が与えられた悪夢を、今度は返してあげなくてはならないのだろう?」
「メアって名前…ダメかな?」
オズは、目をキラキラさせながらじっと見てくる。
「ハァ…、これ以上まともな…いや、まともじゃないけど。名乗っても恥ずかしくないのが出てくる気がしないしな…」
「じゃあ!」
一層目を輝かして、オズが食い気味に声を出す。
「それでいいよ。今日から…今この瞬間から俺の名前は『メア』だ」
「んん…ヤッター!」
「これで『私が』君の名付け親ってことだね!」
「それ目当てかよ…」
「私にとっては、かなり重要な事だよ」
少し呆れ気味の俺に、幸せの絶頂にいるオズはおよそ、噂に聞く恐ろしい魔女とは思えないような笑顔で言った。
「改めて、これからよろしくね、メア」
「ああ、よろしく、オズ」
「あ…」
今の今まで、鬱陶しいくらいうるさかったオズが、
急に静かになり両手をブンブン振っている。
どうした、とうとう気でも狂ってしまったかと思っていると。
「あーもう!これ以上私を幸せにしてどうするつもり!?」
訂正、狂ってる。
「これ以上幸せにしても、今日の晩御飯が豪華になったり、優しく魔法を教えてあげるくらいしかしてあげないんだからね!」
続報、結構してくれるらしい。
そして悲報、何に喜んでるのか分からない。
「ついに、メアが名前を呼んでくれた」
小さな声で、オズがそう言ったのを聞き逃さなかった。
ああ、俺は1度も名前を呼んだことがなかったのか。
それはちょっと悪い事をしたなと思いながらも、
「で、名前の件はこれで終わりでいいんだろ?」
「え?あ、うん」
「まさかとは思うけど、満足仕切っちゃった?」
「え?あーそ、そうだね!名前の件は終わったから、次は君の能力についてだね!」
明らかに忘れていたオズに、俺は目の前の女が本当に魔女なのか、真面目にわからなくなってきた。
「じゃあ、次は俺の能力か…忘れてたよな?」
「そ、そんな…忘れてたわけ…」
「満足しきってたよな?」
「…はい」
図星を突かれ、言い訳をしてたオズがしょんぼりしている。
「なぁ、お前…ほんとに魔女なの?」
俺は、コレに会ってからずっと疑問だった事をついに口に出した。
「えぇ!?そこ疑問に思う!?」
「俺の魔女のイメージと、オズがあまりにもかけ離れてるから」
「メアにとって、魔女ってどんなやつなの?」
「圧倒的な力を持って、残酷な思考を持ってて、ポンコツじゃないやつ」
「まさかと思うけど、メアって私の事ポンコツ認定してる?」
「答えなさいよぉ!」
「そういうとこだよ、オズ」
やっぱり、コイツ魔女じゃないんじゃないかな…。
「あーそうかい!わかった、わかりましたよ!
見せようじゃないか、君の言う圧倒的な力をさぁ!」
「ポンコツじゃないことを証明しないんだ…」
「うるさい!外に出なさい!見せてあげる!」
「ああ、その方が、こっちとしても都合がいい」
「さぁ、魔女の力を見せてあげる!」
「俺も、俺の力を見せる」
オズが、天に手をかざす。
天に魔法陣が黒い魔法陣が現れ、オズは口にした。
「『天罰』」
天の魔法陣から雷が降り注ぎ、大地を破壊した。
「どうだい?ちょっとは驚いたかな?」
確かにすごい力だった。
今の『俺一人では』到底出せない一撃だった。
「次は…俺の番だな」
内に秘めた力を解放する。
今まで抑え続けた、内なるものを解き放つ。
「なんだ…?この力…身体から魔力が溢れ出てる?」
「この子の器は相当な大きさだったはずなのに収まりきってない」
確かに俺の力は大きい。
だが、俺はその使い方を知らない。
だから…
「来て…くれ…!いるんだろう!」
俺がそう叫ぶと、どこからともなく光の玉が宙に現れた。
「あれは…準精霊?」
「やっぱりいたか…俺の力ならいくらでも持って行っていい。だから見せてやれ!魔女に!」
その瞬間、光の玉が強く輝きだした。
「準精霊が、メアの魔力を吸い続けてる。だが、どんなに魔力を吸っても準精霊だ、たかが知れてる」
「顕現しろ!」
俺のその言葉を合図に、光の玉は人の姿へと変わっていった。
「な!?精霊…?いや、あれは…精霊獣!?」
「喰らわせろ!『天撃』!!!」
天より雷撃が降り注ぐ。
それは大地を引き裂き、抉り、消し飛ばした。
誰も何も喋らない。
壮絶な一撃の後に沈黙が続く。
それを破ったのは魔女だった。
「メア…君は精霊と契約を交わしていたのかい?」
「契約?なんだそれ」
「こいつらは、俺が気がついたら側にいたんだ。
で、俺の力が抑えきれなくなったら、こいつらに吸い取ってもらってた。」
「なるほど、契約を交わしている訳では無いのか」
「だが待て、抑えきれなくなるというのは?」
「それが俺の能力、定期的に力が増減するんだ」
「定期的に…か。それの周期はわかっているのかい?」
「わかってたら苦労しない」
なるほど、とオズが頷くと俺から、人の姿から光の玉に戻った精霊に視線を移した。
「姿が元に戻っているということは、やはり限定顕現か」
「メアの能力についてはこれから研究するとして、この精霊たちを野放しにするのはもったいない」
「どうだいメア、彼らと契約をしてみては?」
俺は、すぐに答えることが出来なかった。
精霊たちと一緒にいることは、とてもいい事なのは違いない。
だが、巻き込みたくなかった。
これから俺は力をつけていく。
人間に復讐する。
それに、巻き込みたくなかった。
だから、ここにいる精霊に俺は視線を移した。
すると、精霊は森の中へと消えていった。
「見ただろ?やっぱり俺に契約なんか…」
「どうやらそういう訳では無いようだよ?」
俺の発言を遮り、オズは精霊が消えていった方向を指さす。
俺も、オズの指さした方向を見る。
そこには、さっきの精霊だけじゃない。
6体の精霊がそこにいた。
「お前ら…全員ついてきていたのか」
「驚いた。こいつらと言っていたから、複数体いるとは思っていたけど、6体か」
「これは契約も大変そうだ」
オズは、森から出てきた精霊を見てニヤリと笑って、俺に再び語りかけた。
「さぁメア、契約するのかい?」
俺にもう、迷いはなかった。
「ああ!こいつらと俺は契約する!」
「さぁそうなれば早速始めよう!確か家にその類の本があったはずだ」
バラバラバラバラ
ガッシャーン
ドゴ-ン
ギャ-
「や、やぁ待たせたねぇ」
もう俺の中で、オズのポンコツ判定は覆らないだろう。
「さて、契約の準備が整ったよ。メア、そっちの準備は大丈夫かい?」
地面に魔法陣を描き終えたオズが、声をかけてくる。
「問題ない。さぁ始めよう」
そう言って俺は、オズの描いた魔法陣の中心へと移動する。
「儀式が始まったら、私は何も手を出せない。君一人でどうにかしないといけない」
移動中に、オズは俺に忠告してきた。
俺は、大丈夫とだけ言って魔法陣の中心に立った。
魔法陣が、色鮮やかに輝き出す。
そして俺は、その言葉を口にした。
「お前たちの力を貸してくれ
俺にはまだ力がない 制御もできない
お前たちの力が必要だ
俺に払える対価があるかわからない
お前たちに見合った契約者になれるかわからない
それでもいいなら
こんな俺でもいいなら
俺と契約して欲しい
俺を手伝って欲しい
俺にはお前たちの力が必要だ」
そんな契約の詠唱とはお世辞にも言えないような言葉で、精霊達に問いかけた。
酷い話だ。
答えは既にわかっているはずなのに、
つい先程、見せてもらったはずなのに、
俺は…
魔法陣の光が一瞬強くなり、その後消えていった。
「すごいな、6体同時契約成功だ」
その場でずっと沈黙に徹していたオズが口を開いた。
どうやら成功したらしい。
俺は地面にしゃがみこむ。
ほっとしたからなのか、全身の力が一気に抜けた。
「まったくだらしないなー」
俺の声でも、オズの声でもない声が聞こえハッと顔を上げる。
「なんだ?変なもんでも見たような顔して」
俺の目の前には鳥…とはちょっと違うが、空を飛ぶ何かがいた。
「メア、それが精霊だよ。契約時に君の魔力をごっそり持って行って、準精霊から精霊へと進化したんだね」
「全員、今までの光の玉から変わってるのか…」
「おう、6体全員精霊に進化してる」
「そうか…で、名前は?契約したからには名前を覚えておかないと」
「俺が『闇の精霊 ヴァーナドルム』
残りが、『光の精霊 パシフィス』
『炎の精霊 セシル』
『水の精霊 ラルバ』
『雷の精霊 イム』
『風の精霊 テオラ』
だな」
「計6体これからよろしく頼む」
「色で大体察していたが、本当に六元素揃っていたんだね」
精霊たちの名前を聞いたオズが口を開く。
「六元素?」
俺の質問に、オズは指をたて、ドヤ顔で説明し…
「魔法に精霊術、世界を構築する6つの元素の事だ」
「魔法ってのはそもそもが、世界そのものの真理探究だからな」
説明する前に、イムが先に説明した。
指をたてドヤ顔で説明しようとしたオズは、そのまま固まっていた。
内心ダサ…と思ったが、声に出すのはさすがに可哀想だと思ってやめといた。
「メア…口に出さないことは、とてもいい事だけど目が痛いよ…」
「さて、メアには家の片付けをお願いしようかな!」
泣きそうになってたオズを慰めて、数十分たって何故か、そんなことを要求してきた。
「はいそこ、散らかしたのお前じゃんみたいな顔しない!」
「わかってんなら自分でやれよ、みたいな顔もしない!」
「私は、契約やら魔法やらで散らかった外の修復してからやるから先お願い」
ハァと大きなため息をついで、俺は家に向かって歩を進める。
その姿を見送り、オズは精霊に顔を向ける。
「さて、彼について何か知ってることがあれば教えて欲しいな、えっと…」
「ヴァーナドルムだ」
「すまないね。魔女と言っても一気に7人の名前は覚えられないんだ。明日までには覚えておくよ」
「で、なにか有力な情報はあるかな?」
「さてね、準精霊の頃は理性などほぼないに等しかったからね」
「私は偽りの魔女だ。嘘が通じるとは思わないことだね」
「なるほど、嘘偽りに関してはエキスパートということか」
「そういうことだ。で、嘘をついたということは何かあるんだね?」
「…月だ」
こうして、俺の知らない場所で魔女と精霊による、俺の力の会議が始まった。