忌み子の少年は魔女の弟子になるようです   作:影ノ月

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満月の夜に

約1年の月日がたった。

「ほーら朝だ、起きろオズ!」

早朝の森に、フライパンの音が響く。

「あとちょっと~」

「イム、電気ショック食らわせてこい」

「あーい」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

魔女の悲鳴は森全体響き渡った。

 

「うぅ…何もあそこまでしなくてもいいじゃん!」

「毎朝毎朝、起きてこないオズが悪い」

「でも、早朝電気ショックはひどいと思う」

「じゃあ髪の毛燃やされるのと、水の中に沈められるのどっちがいい?」

「メアが『お母さん朝ですよ(イケボ)』とか言って起こしてくれたらすぐに起きるんだけどなー」

「おーいお前ら、明日からフルコースをご所望だとよ」

「嘘です嘘です。さすがの魔女でも精霊6体同時は死んじゃう」

「じゃあちゃんと起きることだな」

「うー…息子がお母さんに優しくない…」

「誰が息子だ」

そんな、ちょっと物騒だが、平穏な朝の食事が行われる。

ここにいるのが普通の人間なら、ただただ平和な朝で終わるのだが、残念ながらここにいるのは魔女と忌み子だ。

純粋な平穏なんてこの2人には存在しなかった。

「さて、メアは今日も魔力は安定しているのかな?」

「あぁ、おかげさまで随分と」

「ただ、君はこれから当分は魔力が上昇し続ける。なにか異変があったらすぐ伝えるように」

「ハイハイ、そこはエキスパートの魔女に任せるよ」

この1年間で『偽りの魔女 オズ』に色々と実験されてわかったことは主に2つ。

1つ目は能力について。

メアの魔力の増減は、あるものを基準に一定の周期で繰り返されていた。

それは『月の満ち欠け』であった。

メアの魔力は、新月から数えて日を追う事に魔力が増大し続け、満月の日にピークを迎える。

そして、満月から新月に向けて日に日に減少し続ける。

この能力をオズは『ルナ』と名付けた。

2つ目はメア自身のこと。

『ルナ』の影響もあってか、メアの魔力量は相当な大きさだった。

MAXであれば既にオズにすら引けを取らないほどに。

それほどの器を持っていたとしても、それを超えて溢れる量の魔力を発生させる『ルナ』の異常性を改めて認識させられた。

満月の日から前後3日、約1週間の間は魔力が限界を超えて、メアの意思に関係なく溢れ出す。

6体の精霊を持ってしても吸い尽くせない量の魔力が、無尽蔵に溢れ出す。

本来魔力とはうちに秘められるものであり、形のないものである。

それを外へと放つ際に、形が与えられ初めて魔法として機能する。

となれば、器から溢れ出した魔力はどうなるのか?

答えは簡単であり、それぞれがそれぞれの形を持って、1種の災害となる。

それは炎、雷、氷、風、一切を問わない。

溢れ出した魔力量に応じて、数多の現象へと変わり当たりを破壊し尽くす。

いくら魔女と精霊がいるとしても、無尽蔵の魔力とそれより発生する災害に対応するのは骨が折れる行為である。

よって、半年ほど前にオズはマジックアイテムとして1つの指輪を作り出した。

マジックアイテムと言うよりは、1種の呪具に近い。

装着したものの魔力量が一定数以上になると、それ以上の魔力を際限なく吸い尽くすというものだ。

初めは効力が全く足りず、すぐに壊れたが、オズの試行錯誤によって、2ヶ月ほど前にようやく完成した。

「しかし、メアの器はどこまで大きくなるかねぇ」

「ん?どういうことだ?」

「魔力の器は天性の部分も多いが、子供から大人になるにつれてある程度大きくなるものなんだ。ただ、メアの器は正直子供にしては異常なほど大きいから、これ以上大きくなるのか不安なんだ」

「成長段階で、大きくならないこともあるのか?」

「そうだね、稀にそういうタイプもいる。元のサイズに関係なく、ほとんどそこから成長しないのもたまに聞くね」

「でっかくならないとどうなる?」

「基本的には、成長してもしなくてもあまり困りはしないんだ。魔力の生成量はその人の器の大きさに比例するからね。だが、メアの場合はちょっと話が違う」

「器を超える量の魔力が生成されてるから、器がでかくならないと、この指輪を外せないってことか 」

「うん、ただ『ルナ』についてはまだまだ分からないことが多い。こっちの魔力量もメアの器に比例するとしたら困るね」

「今後に期待ってことか」

「あとは、メア自身が魔力の発散方法を覚えるとかかな」

「並大抵の魔法じゃ、ほとんど効果ないし、効果ある魔法なんてそれこそ地形崩壊レベルの魔法だろ?」

「なに、攻撃魔法だけが全てじゃないよ。そこら辺も、これから手取り足取り教えていくよ」

 

 

 

 

「まず魔法というものがなんなのか、これを理解してもらう必要がある。メア、君からしたら魔法はどんなものだい?」

「人智を超えた力?」

「残念なら不正解だ。魔法とは人知を超えたものではない。むしろその逆、既知の追求さ」

「どういうことだ?」

「魔法というのは、森羅万象の追求。理の再現そして理の体現者が精霊というわけさ。だから理論上は魔法使いは精霊には勝てない」

「魔法を鍛えることは…世界を知ること?」

「大正解だ!やはりスジがいい!」

「魔術を極めることは世界の真理に近づくことだ。即ち思考の魔術師は、神の座にすら届きえる」

「そこに至ったやつはいるのか?」

「伝説上、過去に1人だけそこに至った者がいる。ソロモンというものだ」

「オズでも、まだ届かないのか?」

「そうだね、恐らくだが、今の魔女たちは私も含めてその座には遠く及ばないだろう。我々にはそれぞれの専売特許があるものの、あの座に座るものはその全てを使えるものだろうからな」

「そうか、じゃあ1から教えてくれ」

「応とも!魔女が直々に教えるんだ、それなりの魔法使いにはなってもらうよ?」

魔女の家に招かれてから1年の月日がたち、ようやくメアの魔法の練習が始まった。

 

 

 

「イメージは自分の中に流れる魔力を、魔法陣を通して形を与える感じ」

「自分の魔力を…魔法陣に通す…、形を与える」

オズの指導を受け、メアは己の内に流れるものを操ろうとする。

時折、魔法陣から僅かな火がついたかと思えば、すぐに消えてなくなる。

それの繰り返しだった。

2日、3日経ってもそれは変わらなかった。

朝日が昇り、落ちるまで毎日練習を続けた。

そしてついにその日が来た。

 

 

「やった…!ついに、火がついた状態を維持できるようになったぞ!」

「よし!よく頑張った!だが、もう日も落ちる。今日は早めに帰ろう」

「そうだな、ドルム。なんたって今日は…」

満月だからな、そう言おうとして空を見上げたメアは、絶句した。

月が、空が、紅に染っていた。

 

ドクン

 

メアの中で何かが溢れ出す。

魔力だ。

オズの作った魔法具を意にも介さない程の魔力が溢れ出す。

「あ…が、」

「おい!どうしたメア!空が…今日は『紅の夜(スカーレットナイト)』か…!」

炎が、水が、風が、雷がこの世の森羅万象が荒れ狂う。

メアから漏れだした魔力が、形を得て無尽蔵に辺りを荒地へと変える。

「…仕方がない」

メアが漏れた魔力の一部を吸い取り、ヴァーナドルムはその姿を変質させる。

 

精霊獣化

『闇の精霊 ヴァーナドルム』

『黒龍帝 ヴァーナドルム』

 

「断絶されよ」

ヴァーナドルムがその言葉を放つと、周りに黒いモヤが現れ、メアを取り囲み閉じ込めた。

「メアを結界の中に閉じ込めた。しばらくは俺がここで持ちこたえる。イム!テオラ!オズを探して連れてこい!」

「「わかった(りました)!」」

その言葉を合図に、イムとテオラもメアの魔力を吸い取り、姿を変える。

 

精霊獣化

『雷の精霊 イム』

『轟雷精 イム』

 

『風の精霊 テオラ』

『精霊王 テオラ』

 

「行ってくる」

イムに手を握られ、雷の速さで2人はオズを探し森の中へ消えた。

「世界に満ちた精霊達よ。精霊王 テオラの名のもとに命じます。偽りの魔女 オズの居場所を教えて」

 

(知らなーい)

(偽りの…誰?)

「違う…」

(朝なら見たけどなー)

(今日は見てません)

「これも違う」

(街で買い物してるよー)

「見つけた!イム!街です!ここから南西の街にいます!」

「よしきた!振り落とされんなよ!」

 

 

 

 

「街だ、どこだ…?」

「この姿だと危険です。イム、姿を消しましょう」

街の外れに着いた2人は姿を消し、街に散らばる精霊たちの声を頼りに街を探索する。

「どこだ、どこにいる」

「…もしかして、イム!視覚じゃなくて魔力探知を!」

「…!そういう事か!」

そう言うと、イムは大地に手をつき魔力を流し込む。

「くそ、人が多すぎる」

「一人一人を見る必要はありません。オズはあれでも魔女です。他の人とは根本が違うはずです」

「どこだ…どこにいる」

 

 

「見つけた…!テオラ、掴まれ!」

テオラがイムの手を取ると、再び雷の速度で動き出した。

 

 

 

「よーし、いい買い物が出来た。ちょっと遅くなってしまったか…早く帰ろう。…ん?この魔力は…」

オズが急速に接近する強大なふたつの魔力に気づいて、振り返り、イムとテオラを迎えた。

「急にどうしたんだい?精霊獣化もして」

「メアが暴走した!お前の魔道具も全く機能してない!」

「今はヴァーナドルムが精霊獣化して、メアをこの世界から断絶された結界内に閉じ込めていますが、それもどれだけ持つか分かりません」

「わかった、すぐ戻ろう」

「よし、じゃあ姿消して俺に掴まれ」

「そんな事しなくても大丈夫だよ。それにこっちの方が早い」

「は?」

イムがオズの言葉に呆気に取られていると、オズの足元から突如として魔法陣が浮かびだした。

「私は魔女だよ?自分の家への転送魔法ぐらい常備してるさ」

魔法陣から光が溢れ出し、オズ、イム、テオラの3人を包む。

「『テレポート』」

オズのその言葉を最後に、3人は街から消失した。

 

 

 

「よし着いた。やっぱり帰りはこれの方が楽だね。っとそんなことよりも、メアはどこだい?」

「いつもの場所だ。すぐに着く」

「ならここからは君に掴まっていこうかな」

 

 

 

 

 

 

「ドルム!オズを連れてきたぞ!」

「遅い!オズ、どういうことだ。お前の魔道具が一切機能してないぞ!?」

「ヴァーナドルム、結界を解いてくれ」

「…わかった」

ヴァーナドルムが結界を解くと、闇の中からメアの魔力が再び溢れ出し、災害へと変わる。

「すごいな、私の魔法具がオーバーヒートする程に魔力が増幅し続けている。こんな現象は初めてだな」

「やはりこれは、『紅の夜』が関係しているのでしょうか?」

「『紅の夜』?何を言っているんだいテオラ。今日は新月じゃないか」

「?何をだって空が…」

そう言おうとして空を見上げたテオラは、言葉を見失う。

確かに紅に染まっていたはずの空が、紅く輝いていたはずの月がそこにはなかった。

「なんで…だってさっきまで」

「おい!メアが!」

空を見上げ、呆然としているテオラをイムの声が現実に引き戻す。

テオラが空からメアに視線を落とすと、先程まで溢れ出していた魔力もまるで嘘だったかのように消えてなくなり、息を切らしたメアが地面に倒れていた。

「あ…」

魔力が著しく低下したメアからの魔力供給がなくなり、イムやテオラ、ほかの精霊たちも精霊獣の姿からただの精霊の姿に戻っていった。

「これは…本当に新月なのか?メアの魔力量も新月の日とほぼ同じだ。どういうことだ、オズ」

イムが、メアの魔力量を確認し、オズを問いつめる。

それに、オズはフゥとひと呼吸おいて口を開いた。

「これが、私の偽りの魔女としての力さ」

「偽りの…なるほど。究極にまで極められたい嘘は本物と区別がつかないということか」

「そういうことだよ、ヴァーナドルム。私の能力は事実改編。もっとも、できることには限度があるけどね」

聞きたいこと、調べたいこと、それはまだいくつもあったが、その場にいた誰もがメアのことを第一に考えその全てを明日に先延ばしにして、メアを家へと運んで言った。

 

 

 

 

 

「あ…うん…」

「起きたか、メア!」

「イム…?」

メアが目を覚ましたのは翌日の昼過ぎだった。

オズの力で『紅の夜』から新月への改編。

それに伴って、メアの体内では莫大な量の魔力が変動していた。

『紅の夜』ではまるでそこがなく無限のように溢れでていた魔力が、一瞬にしてなくなったのだから、メアの肉体にかかる負荷は計り知れない。

「大丈夫かい、メア?体の痛みとか倦怠感とか…」

ベッドの横に座っているオズが、優しくメアに問いかける。

その姿はまるで、風邪で寝込んでしまった子供の看病をする母のようにも見えた。

「大丈夫だよ、オズ。ただちょっとダルいかな」

「多分それは、魔力の欠乏だね。あれだけの魔力変動があったのだ、仕方ないさ。さぁご飯を作ってある。昨日の夜から何も食べていないんだ。食べなくては治るものも治らないよ」

「ああ、ありがとう、オズ」

 

コンコン

 

席に着き、さぁご飯を食べようとしたその時、家の扉がなった。

本来ならばただ出ればいいだけだ。

だが、ここは魔女の住まう森の中。

こんなところに、来客なんて来るはずがない。

緊張が走る。

戦えないメアを庇うように魔女と6体の精霊が前に出る。

「そんなに、警戒しなくても良くない?アタシとアンタの仲じゃん」

扉の向こうにいるそれが、まるで中を見通したかのように声を上げる。

それは確かに、女性…それも10代後半から20代前半の若い女性の声だった。

異常だ。異常すぎる。

こんな森の中にそんな若い女性が入ってこれるはずがない。

「何しに来たんだい。次元の魔女」

ただ1人その扉の向こう側の人物を知る魔女が、冷たく声を返した。

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