十代は出ません
「今日はよろしくお願いしますよ、遊佐くん」
「こちらこそお願いします」
俺は結局講師になる話を承諾した。
そして今日は講師としての初勤務であり予定はアカデミア3年生の実技デュエルの試験官。
担当はブルー寮で一緒に行うのは佐藤先生だ。
「いやぁ、校長に話が通って良かった。私も君を推薦した一人なんですよ」
「佐藤先生が!?」
「私も元はプロでしたが身体を壊してしまいリーグ昇格を諦めた身……君の気持ちは分かります。君の道を開く助けになればと思いまして」
「ありがとうございます佐藤先生、頑張りますよ」
とまぁ、俺自身は実際プロ云々はどうでもいいのだが彼がこちらを案じてくれたというその気持ちは素直に嬉しい。
佐藤先生は終盤で十代の目の前で投身自殺をした先生だ。
彼の死が覇王の目覚めの兆しと言っても過言ではなく、実際あそこから展開が暗くなるし救われないのでアカデミアに来たら彼と接触しようと思っていたが……。
「君が流れ着いてきて随分と経ちましたね」
「佐藤先生にはお世話になりっぱなしです」
「困った時はお互い様というだろう、それに私も君のアドバイスがあったおかげで授業崩壊を起こさずに済んだからね」
驚く事に佐藤先生は発見者の大徳寺先生を除けばアカデミアで最初に仲良くなった教師だ。
身の上を聞いた彼は俺の身を案じてか学園の説明や案内などをしてくれたのだ。新入生が入ってからはお互い忙しくなり会う機会は減ったがその前はよく小屋で一緒に呑んだりした仲だ。
思えば佐藤先生はこの世界では珍しい常識人で真面目で優しかったからこそ原作であのようにコブラに目をつけられ悲劇に遭ってしまったのだろうと考える。いやまぁそれだけじゃなくて普通に逆恨みとか先生自体融通きかないとか問題はあったがそれはそれとして置いときたい。コブラが悪いよコブラが(責任転嫁)
まだ授業崩壊を起こしてはいないが生徒の態度が気になっていた佐藤先生は小屋呑みの際に酔った勢いで授業の事を愚痴ってきた。
「じゃあ明日授業見ますね」と答えた俺は翌日に佐藤先生の授業を見学し問題点を指摘した。
「先生の授業はテキストを読むだけで淡々とし過ぎています」
「実践的デュエルって授業ですけど、実践的過ぎて生徒にはつまらないんじゃないですか?」
「え?じゃあどうすればいいか?んー、先生の意見とか実体験を交えるとか、時にはデュエルと全く関係ない話するとか……遊び心って言うんですかね、それが足りないかと」
「あー、後は先生自体のデュエルタクティクスを見せれば良いのでは?それが手っ取り早いかもしれませんね。俺の方からも生徒に色々聞いてみたり他の授業を見てみますよ」
とまぁこんな感じでアドバイスなのかどうか分からないやり取りを何回か交わし、佐藤先生はそれらを実行。
生徒の心を掴もうと不格好に歩み寄ろうとするその姿勢と元プロの実力を改めて見せつけたおかげからか佐藤先生の授業は居眠りやボイコットする生徒が減り、先生自身も生徒との交流が増えた。
今ではすっかり悩みを払拭し教師生活を頑張っているようだ。
これでコブラに騙される事も無いだろう、安心安心めでたしめでたし。
「本来は試験用のデッキが支給されるのですが今回の試験は、まぁ初回ですし遊佐くんは自分のデッキを使用しても良いですよ。……遊佐くん?」
「あ、すみません。思い出に耽ってました」
「もうすぐ授業だ、切り替えてくれたまえ」
「申し訳ありません」
佐藤先生の声で我に帰り、素直に謝罪する。
「ふふ、思い出話なら久しぶりに君の小屋で1杯やりながら話そうじゃないか」
謝罪に対して佐藤先生はにこやかに微笑みそう答えてきた。
俺もそれに笑顔で返すとデュエル場に3年生が入場し試験の時間となった。
「それでは3年生の実技試験を開始します、本日は特別に彼も試験官として実技に参加します」
「臨時講師の遊佐健斗です、本日はよろしくお願いします」
軽い自己紹介を終えると「よろしくお願いします」と生徒の返事がデュエル場に響く。
「では最初は……」
「俺がデュエルを申し込みます」
佐藤先生の言葉を遮る声が響くと生徒達の視線が一斉に集まる。
その視線には白を基調とし青いラインが入ったブルー寮の制服を着こなした青髪の男……カイザーこと丸藤亮がそこに居た。
「遊佐試験官、俺とデュエルしてもらいたい」
「えっと、確か順番は筆記の成績トップ順でしたっけ?」
「え、ええ。しかし遊佐くんには半分から下をお願いしようと思っていたのですが……カイザー直々の指名なら良いでしょう」
おっと、あっさり許可が降りてしまった。
カイザーの方もやる気に満ちた表情でディスクを片手にフィールドに上がって来る。
「色々と話は聞いています、貴方と1度デュエルをしてみたかったので」
「それはどうも、じゃあ早速始めようか」
「よろしくお願いします」
なんか敬語のカイザーって新鮮だな。
「「
健斗
LP:4000
カイザー
LP:4000
「先攻は生徒側だよ」
サイバー相手に後攻は基本。あと試験のルールだから俺悪くない。
先攻のカイザーは特に表情に変化は無く素直に頷いた、やっぱりいつもの事なんだな。
「俺のターン、ドロー!【プロト・サイバー・ドラゴン】を召喚!」
【プロト・サイバー・ドラゴン】
星3/光属性/機械族/攻1100/守 600
「手札から魔法カード【タイムカプセル】を発動!デッキからカードを1枚選択して裏側でゲームから除外し2ターン後のスタンバイフェイズにそのカードを手札に加える」
フィールドにタイムカプセル……というより棺に近い何かが現れるとカードが1枚収納され蓋が閉じられる。
あれ護封剣みたいに永続魔法じゃないのに場に残るし残ってる時に除去されたらサーチ出来ないんだっけか。
「更にカードを2枚伏せてターンエンドだ」
カイザー
LP:4000
手札:2
モンスター:【プロト・サイバー・ドラゴン】
魔法罠:セット2【タイムカプセル】
カイザーっていきなり融合ぶっぱするのと後半に仕掛けるイメージがあるけど、これどっちかなぁ……場に居ないとサイドラ扱いにならないプロトを出したって事は何かあるよな。
まぁいい、考えても仕方ない。
「俺のターン、ドロー」
とりあえずサイドラ警戒のためにドリアードを早く出す準備を整えるとしようか。
「手札から魔法【苦渋の選択】を発動!デッキから5枚のカードを選択し相手はその中から1枚を選ぶ。俺が選ぶのは【ヴィシュワ・ランディー】【ダンシング・エルフ】【炎の女暗殺者】【アルラウネ】【ウォーター・エレメント】だ」
「俺は【ダンシング・エルフ】を選択する」
「【ダンシング・エルフ】を手札に加え残りは墓地へ送る。手札から魔法【天使の施し】を発動し3枚ドローして2枚捨てる」
【氷水】と【ダンシング・エルフ】を墓地に送る。
属性も揃って来たし仕掛けるか。
「手札から【ハーピィ・ガール】を召喚し更に魔法【魔の試着部屋】を発動!デッキの上から4枚をめくりその中のレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する」
「いいだろう」
「1枚目【黙する死者】2枚目【キャッツ・フェアリー】3枚目【月の女神 エルザェム】最後は【恍惚の人魚】なので3体のモンスターを特殊召喚する!」
【ハーピィ・ガール】
星2/風属性/鳥獣族/攻 500/守 500
【キャッツ・フェアリー】
星3/地属性/獣族/攻1100/守 900
【月の女神 エルザェム】
星3/光属性/天使族/攻 750/守1100
【恍惚の人魚】
星3/水属性/魚族/攻1200/守 900
「一気に4体のモンスターが並んだぞ」
「でもみんな弱いモンスターだぜ、カイザーも呆れるだろ」
外野が何か言っているが無視。
「バトル!【恍惚の人魚】で【プロト・サイバー・ドラゴン】に攻撃!」
「この瞬間にリバースカード【アタック・リフレクター・ユニット】を発動!フィールドでサイバードラゴン扱いの【プロト・サイバー・ドラゴン】を生贄にする事でデッキから【サイバー・バリア・ドラゴン】を守備表示で特殊召喚する!」
【サイバー・バリア・ドラゴン】
星6/光属性/機械族/攻 800/守2800
あー、そういえば居たなあんなモンスター。
あと似たような召喚方法でレーザーとかいうのも居たな。
とはいえ守備2800は高い。
「バトルを終了しメイン2で永続魔法【弱者の意地】を発動。カードを3枚セットしてターンを終了します」
健斗
LP:3200
手札:0
モンスター:【ハーピィ・ガール】【キャッツ・フェアリー】【月の女神 エルザェム】【恍惚の人魚】
魔法罠:セット3【弱者の意地】
「俺のターン、ドロー。手札より【強欲な壺】を発動しデッキから2枚ドローする。そして【サイバー・フェニックス】を召喚」
【サイバー・フェニックス】
星4/炎属性/機械族/攻1200/守1600
「ここで手札から【融合】を発動!手札の【サイバー・ドラゴン】2体を融合し現れろ【サイバー・ツイン・ドラゴン】!」
でた!サイバー流の積み込みコンボだ!
実際積み込み疑ってもおかしくない引きだよな、サイバー流は積み込みを教える流派説が濃厚になってきた。
【サイバー・ツイン・ドラゴン】
星8/光属性/機械族/攻2800/守2100
「あれで雑魚モンスターを一掃だ!」
「しかも魔法罠の耐性も完璧だ!」
外野が先ほどから元気だけど俺アウェーなの?泣きたいんだが?
「バトル!【サイバー・ツイン・ドラゴン】で【ハーピィ・ガール】に攻撃!エヴォリューション・ツイン・バースト!」
『ひぃっ』
二つ首の機械龍はガールを標的とするとその口を開き光を溜める。
その姿に自身の破壊を悟ったガールは怯えた声を出す。
しかしそうは問屋が卸さない。
「速攻魔法【突撃指令】を発動。自分フィールドの通常モンスター【キャッツ・フェアリー】を対象にし、対象モンスターを生贄に捧げ相手のモンスター1体を選んで破壊する。選ぶのは【サイバー・ツイン・ドラゴン】」
『えっ』
私なの?と呆ける暇もなくキャッツの体は光に消えツインドラゴンも光となり消える。これもデュエルのため、許せ。
「【サイバー・フェニックス】が無効に出来るのは機械族モンスター1体のみを対象とした効果のみ、抜け穴を突いてきたか。では【サイバー・フェニックス】で【ハーピィ・ガール】を攻撃!」
「それも通さない、【和睦の使者】を発動。このターンモンスターは戦闘で破壊されず戦闘ダメージを受けない」
もう1枚の伏せの【窮鼠の進撃】は地味に対象取るから無効にされるんだよな。
発動して返り討ちにして【弱者の意地】でドローしたかった。
「俺はこれでターンエンド」
カイザー
LP:4000
手札:0
モンスター:【サイバー・バリア・ドラゴン】【サイバー・フェニックス】
魔法罠:セット1【タイムカプセル】
「俺のターンドロー、手札から装備魔法【下剋上の首飾り】を発動して【ハーピィ・ガール】に装備。装備した通常モンスターが相手モンスターと戦闘する場合、レベルの差の数×500攻撃力を上げる」
まぁそれでもバリアはレベル6だからギリ突破できないんだが。
「バトル。【ハーピィ・ガール】で【サイバー・フェニックス】に攻撃!この瞬間にレベル差2つ分、よって攻撃力が1000アップする!」
【ハーピィ・ガール】
攻:500→1500
『てやーっ!』
首飾りの力でパワーアップしたガールの一撃でサイバー・フェニックスは真っ二つになり爆散した。
カイザー
LP:4000→3700
「【サイバー・フェニックス】が戦闘で破壊され墓地へ送られた時、デッキからカードを1枚ドローする」
「こっちも永続魔法【弱者の意地】が発動。手札が0の時にレベル2以下のモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時にデッキから2枚ドローできる。俺はバトルを終了しカードを1枚セット、【月の女神 エルザェム】【恍惚の人魚】を守備表示にしてターンエンド」
健斗
LP:3200
手札:1
モンスター:【ハーピィ・ガール】【月の女神 エルザェム】【恍惚の人魚】
魔法罠:セット2【弱者の意地】【下剋上の首飾り】
さて、俺の予想が正しければ次のターン絶対サイバーエンドが飛んでくると思うが果たしてどうなるか。
「俺のターン、ドロー。この瞬間に【タイムカプセル】の効果で除外したカードが手札に加わる。俺は【天使の施し】を発動しデッキからカードを3枚ドローし2枚捨てる。そしてライフを半分払い伏せていた速攻魔法【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動!」
カイザー
LP:3700→1850
「このカードはこのターン、自分が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に1度だけその融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の手札・フィールド上・墓地から選んでゲームから除外し、これらを融合素材にできる」
「発動して終わり……ってわけじゃないですよね」
「勿論。俺は手札から【融合回収】を発動しツインドラゴンの素材となった墓地の【サイバー・ドラゴン】と【融合】を手札に加えて【融合】発動!手札の【サイバー・ドラゴン】1体と墓地の2体を素材とし現れよ【サイバー・エンド・ドラゴン】!」
さっきの施しでサイドラ捨てたのか!
【サイバー・エンド・ドラゴン】
星10/光属性/機械族/攻4000/守2800
「バトル!サイバーエンドで【ハーピィ・ガール】に攻撃する!この瞬間に【リミッター解除】発動!サイバーエンドの攻撃力を2倍にする!」
「……守備モンスターじゃなくてガールにするのかい?」
「相手の全力を受け止め、リスペクトし、乗り越える事こそサイバー流の教えですので」
なるほど、そういえばサイバー流ってそんな教えがあったな、実際にやられると舐めプにしか思えん。
正直、守備モンスターを攻撃されてたら負けてたんだが少しイラついたので抵抗してやる。
「チェーンして永続罠【窮鼠の進撃】と更に速攻魔法【非常食】を発動。まず【非常食】の効果で自身の魔法罠を墓地に送りその数×1000ライフ回復する。俺は【弱者の意地】を墓地に送りライフを1000回復する。そしてダメージステップ時にライフを3600払い【窮鼠の進撃】の効果を発動。俺の場のレベル3以下の通常モンスターが戦闘するダメージステップ時に払ったライフ分、攻撃してきた相手モンスターの攻撃力を下げる」
「……」
【サイバー・エンド・ドラゴン】
攻:4000→8000→4400
【ハーピィ・ガール】
攻:500→4500
カイザー
LP:1850→1750
『とぉおう!……やった、倒しちゃった!』
ガールの振り上げた爪はサイバーエンドの首を全て叩き斬った。
ガール自身も自分の力に驚きつつも勝利に喜び俺の場へ戻る。
「俺は【サイバー・ヴァリー】を召喚しターンエンド。この時【リミッター解除】を受けたバリアドラゴンは破壊される」
【サイバー・ヴァリー】
星1/光属性/機械族/攻0/守0
カイザー
LP:1750
手札:0
モンスター:【サイバー・ヴァリー】
魔法罠:0
相手の場にはバトルフェイズを終了するヴァリーが1体。
でも今はあれを除去したりあの効果をどうにか出来る手札ではない、このドローが重要になる。
「俺のターン、ドロー!……あれ?」
勢いよくカードをドローし手札に加えた瞬間だった。
周りを覆っていたソリッドビジョンが消えフィールドのモンスターたちが姿を消す。
そしてデュエル場にピリリリリ!と何かを知らせる音が響くと佐藤先生がやれやれといった表情で口を開く。
「残念ながら時間切れです。両者戻ってください」
「えー!今いいところだったじゃないか先生!」
「続き続き!」
「静粛に!本音を言うと私も見たいですが今日は皆さんの試験なんです、時間が押しているんですよ!」
佐藤先生は生徒たちのブーイングに本音を漏らしながらも一刀両断する。
周りの生徒も自身の成績には代えられないにか渋々と引っ込んでいく。
「ありがとうございました」
「あ、うん、丸藤君お疲れ様でした」
「この決着は、いずれ」
そう言い残しカイザーはデュエル場から立ち去っていく。
なんか静かに闘志燃やしてるけど何回か負ける場面があった俺からしたら「ふざけてんの?」としか言いようがない。
カイザーも一応何かアクションした方がいいよな、ヘルカイザーになったらなったで厄介だしドMになるし最終的に車椅子生活だし。
ヘルカイザーになる流れは個人的には好きだが被害を受ける未来が見える立場なら話は別だ、奴には綺麗なカイザーで居てもらわないと困る。
サイバーダークは、まぁ、あれだ、ヤバい状況になったら新たな力として鮫島校長が貸してくれるだろう、多分。綺麗なカイザーなら使いこなせるとか何とか、あるよね、きっと(適当)
そんなことを考えながら、ふと、最後にドローしたカードに視線を落とす。
『私の出番……』
いつもなら優しい笑顔を浮かべているはずの【精霊神后 ドリアード】のカード。
今だけ彼女は悲しみの涙を流している。
「ごめんな」
そう声を掛けてカードをデッキに戻し、佐藤先生の号令のもと試験の続きを行うのだった。
俺は速攻魔法【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動!ライフを半分払い特になにもしない!
ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!
ヘルカイザーってネタ成分が強過ぎるけど、完璧だと言われた男が挫折し今まで何も感じなかった勝負への勝利を渇望した果ての姿って書くとエモくない?