用務員の日常   作:八雲 紅

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ベクターの前世こと神楽坂登場
結構好き

十代はちょっと出ます


無職→用務員→講師→師匠

『今、プロで活躍している響紅葉選手が監修した新パックの登場だ!君も連続融合でHEROを呼び出せ!』

 

購買部の休憩室のテレビを眺めているとCMに入る。

CMには赤いコート姿の男性が数々のHEROを召喚し、それらが収録されたパックが出るという内容だった。

 

この響紅葉という男、俺の記憶が確かなら漫画版の登場人物だったはずだ。彼が死んだか倒れたかで彼のデッキを十代が受け継ぎアカデミアで過ごす、という内容だったような気がする。

漫画版はマトモに見ていないので記憶が朧気だが、確かトラゴエディアが黒幕だっけ?この世界にトラゴエディアが居ないから彼も元気なんだろう。

あとプラネットシリーズも漫画産か。

昔帝のストラクを崩してアドバンスプラネットを組んだな懐かしい。

ジュピターでモンスターを装備したりプルートで手札を当てたりするのが地味に楽しかった。

 

「トメさんに頼んで入荷してもらうかな」

 

CMを見たところ属性HERO等が入っているようだし十代のために頼んでおいて損は無いだろう、そう決めて休憩室を出る事にした。

休憩室を出たところで購買部に人だかりが出来ている事に気付きそちらへ向かうと翔とイエローの生徒がデュエルしていた。

 

「あー、確か遊戯デッキのやつか」

 

その光景を見て原作の一幕、武藤遊戯のデッキをあのイエロー生が奪う話を思い出す。確かに今ちょうど購買部では整理券が配られているし間違いなくそれだろう。

 

「トメさん、このパックを仕入れてもらう事できますか?」

 

「あら、健斗ちゃんがそう言うなんて珍しいね。分かったよ手配しとこうね」

 

別に関わる必要はない、と判断し俺はレジでデュエルを見守っていたトメさんに仕入れて欲しいパックのリストを渡すのだった。

 

「じゃあ俺は準備に戻ります」

 

「はいよ。楽しみだねぇ健斗ちゃんのカードショップ」

 

「仕事が少ない今の内に準備しないとですね」

 

今は冬、火山島で温暖な気候とはいえ寒いものは寒く植物は休眠しているので草刈りやら植木の刈込等の用務員としての仕事は少ない。

そこで鮫島校長に前々から思っていた「カードの投棄が多過ぎる」という文句を告げ、臨時とはいえ講師になったのを利用し購買部のスペースにカードショップを開く事を了承して貰った。

購買部の店員のトメさんとセイコさんがカードの知識が無いためデュエルの学校でありながらショップが無いというのは薄々感じていたらしくすんなり許可は下りた。

まぁ鮫島校長は俺に負い目感じてるところがあるのは事実だがカードの不法投棄は実際問題なので、という事だと予想する。

 

なんにせよ今はカードショップの開店準備に忙しいのだ。

作業に入ると同時にデュエルが終了したらしく、原作通り翔が勝ちイエロー生は敗北したようだ。

敗北した生徒、どうやら神楽坂という名らしい彼はデュエルを見ていた野次馬から陰口を受けており膝を付いたまま立ち上がらない。

はい民度民度、お前ら明日は我が身という言葉を知らんのか、見ていて気分が悪いしやっぱり無理だもう見てられん。

 

作業を中断し神楽坂の前へ立つと陰口を叩く生徒達はビビって散っていった。

 

「惜しかったね、大丈夫かい神楽坂くん?」

 

それを確認し、膝を付いたままの神楽坂にそう声を掛ける。

 

「は、はい……」

 

神楽坂は戸惑いながらもそう返事をすると立ち上がる。

その表情はデュエルに負けた落ち込み半分、いきなり声を掛けられた困惑が半分といった様子だ。

 

「いやぁ、ちょっと放っておけなくてね。あれクロノス先生のデッキだろう?よく使いこなせてたよ」

 

「ありがとうございます……?」

 

「デッキの相性もあるし勝つ時は勝つし負ける時は負ける。デュエルなんてそんなもんだよ。陰口なんて気にせずに頑張れ」

 

そう肩を叩いて俺は作業に戻ろうとする。

 

「健斗さーん」

 

「やあ十代くん」

 

まぁあっちに翔居るし俺を見掛けたら声を掛けてくるよね。

俺は振り返り十代に向けて返事をすると十代は翔を連れて駆け寄ってきた。

 

「健斗さん!勝ったっス!」

 

「見てたよ、ギアゴーレムの魔法罠を封じる効果を躱す上手いプレイングだった」

 

「見てくれよコレ!憧れの遊戯さんの展覧会の整理券!健斗さんは行くの?」

 

「しばらく忙しいから無理かな」

 

「そっかー……そういえば健斗さんずっとレジの端に居たけど何してんの?」

 

勝利の余韻と憧れの遊戯の展覧会に行ける、というテンションの高い2人の相手をしていると十代が俺の作業について訊ねてきた。

 

「秘密」

 

「ケチー!教えてくれよー!」

 

「お楽しみって事で」

 

「ちぇっ、仕方ないか」

 

本当は教えても良かったのだが意地悪をしたくなったので適当にはぐらかすと十代は諦めて購買を後にした。

さて、それでは作業に……

 

「健斗さん」

 

「居たんだ三沢くん」

 

「最初から居たんですが……」

 

「冗談だよ」

 

作業に戻ろうとすると今度は三沢が声を掛けてきた。

振り返ると彼の後ろには神楽坂が居る。あれ?こいつこの後遊戯のデッキにリアル強奪発動しに行くんじゃなかったっけ?

 

「彼はイエローの神楽坂です。健斗さん、彼の力になってもらえませんか?」

 

「お願いします!」

 

三沢がそう言うと神楽坂は頭を下げる。

こりゃ直ぐに作業に戻れそうにないな、そう判断した俺は2人を休憩室に上げる事にした。

 

 

 

 

 

「神楽坂くんはデッキを組もうとすると誰かのコピーデッキになってしまう、と」

 

「そうなんです」

 

休憩室に2人を上げて茶を出し、詳しい話を聞く。

神楽坂は記憶力が良過ぎるせいでデッキを組もうとするとデータ等で見た誰かのデッキになってしまう。使用者のデュエルデータを読み込みデュエルをするも勝率は悪く思った結果が出せず行き詰まっていた。

さっきの翔のデュエルで心折れかけたが拾ったカードであの制裁デュエルを勝利し試験でカイザーと渡り合った俺の存在を三沢に話され思い切って相談する事にした、という流れだそうだ。

カイザーの件、ちょっと広まってるのか……あれあんまり納得出来ないから広まって欲しくないんだけど、まぁそれは置いておこう。

 

「俺も覚えがあるな、そういうの」

 

「健斗さんもですか?」

 

「気になったテーマを組もうとしてレシピとか見るけどだいたい寄っちゃうんだよね」

 

思い出すのは前世の記憶。

気になったテーマがあったらまずはデッキパーツを集めて純構築で揃えデッキレシピを見て楽しく動けそうなものを見つけて参考にする。

レシピ通りになる事は少ないんだけどね……手札誘発足りないから。

うらら……増G……夢幻……うっ、財布が。

 

「でも凄いじゃん神楽坂くん。コピーデッキを使いこなすのも才能だよ?タッグデュエルのパートナーとかテストデュエルとか活かせる場面はたくさんあると思うよ」

 

「才能……?」

 

「うん。タッグデュエルとかだと自分がもう一人居たらなー、って思うし。自分のデッキとのミラーマッチとかだとデッキの弱点を発見出来そうだし。物の見方、捉え方を変えればそれも才能さ」

 

自分がもう一人欲しいはタッグフォースやってた時に死ぬほど思ったわ。

やめろバカイザー!相手のサイクロンに対してサイバネティック・フュージョン・サポートを撃つんじゃない!勝手にライフポイントを減らすんじゃない!

うっ、頭が。

 

「才能、才能か……俺、初めて言われました。自分のデッキが組みたいのに組めなくて、でも勝ちたくて必死にデータを集めて読み込んで……でも勝てなくて。真似事しか出来ないって馬鹿にされる事はあっても褒めてもらえた事なんて1度も……うぅっ」

 

「神楽坂……」

 

「泣くには早いぞ、お茶でも飲んで落ち着きなさい」

 

感極まったのか、神楽坂は涙を流す。

少し気恥しさを感じながらお茶を飲むよう促して落ち着くのを待つ。

神楽坂は差し出された湯呑みを掴むと一気に呷る。

 

「あっっっつ!!!」

 

「落ち着け神楽坂!健斗さん水を!」

 

「ちょっと待っててね」

 

熱々のお湯で神楽坂が悲鳴を上げ、三沢は慌て、俺は水を用意する。

そんなやり取りを挟み、空気も落ち着き和む。

 

「死ぬかと、思った……」

 

「大丈夫か?」

 

「なんとかな」

 

「さて、神楽坂くんが復活したところで話を戻そうか」

 

パン、と手を叩き2人を注目させて俺は再び口を開く。

 

「決闘者なら自分のデッキを持ちたいよね、その気持ちはよーく分かる。だから俺は神楽坂くんのデッキを作る手伝いをするよ」

 

その俺の言葉に神楽坂は目を丸くする。

 

「放課後またここに来てくれ、もうすぐ昼休みも終わるしね」

 

「はい!」

 

話し込むと昼休みの終わりが近くなった。

俺はまたここに来るよう伝えて2人を帰した。

 

 

 

 

そして放課後

 

「あれ、三沢くんも来たんだ」

 

「ええ。頼んだのは俺ですし、俺も自分の第七のデッキを作るヒントを与りたいなと」

 

そうか、まだ試験で十代と戦ってないのか。

まぁあのデュエルは別にどっちが勝っても大した問題にはならないだろう、もし三沢が勝ってもブルーに行った三沢がどうなるか興味がある。

三沢は空気化するという大人の事情を除いても最後までブレる事なく十代の味方だったし、単純に今からやらせる事を考えると人手が欲しかったから有り難い。

 

「それで、何をするんですか?」

 

「2人にはコレの仕分けを手伝ってもらいたい」

 

「これは……色んなカードがたくさんありますね」

 

神楽坂の質問に、俺は休憩室の隅に積み重なっているダンボールの山を指差し、三沢がダンボールの1つを開封してそう呟いた。

 

「捨てられたカードや回収BOXに入っていたカードを詰め込んだんだ」

 

「あの不要カード入れは健斗さんが考えた物だったんですね」

 

三沢の言葉に俺は頷く。

捨てるくらいならこっちにどうぞ、とストレージBOXを購買に置いてみたところ結構カードが貯まったのでショップに使えそうなものを厳選しそれ以外は学園の教材等に回す予定だ。

 

「前からカードの投棄は問題だったからね。校長に頼んで購買部にカードショップを開く事に決めたんだ。仕分けの報酬って訳じゃないけど、気になるカードは君達にあげるよ」

 

そして、と俺は神楽坂に向き直る。

 

「デッキを作るならまずは実際にカードを見るのが一番。気になったカードとかこいつを使ってみたいとかそんな些細な気持ちや閃きが大事だと俺は思ってる。デュエルは楽しんだもの勝ちだよ」

 

「デュエルを、楽しむ……ですか」

 

「まるで十代みたいですね」

 

「実際影響は受けてるよ」

 

三沢の言葉に笑顔で肯定する。

デュエルを楽しむ心、ワクワクを思い出させてくれた彼の影響を受けたからこそ俺はここに居るのだから。

 

「じゃあ仕分けを始めようか。初めはモンスターと魔法罠の種類を分けてそれが終わったらモンスターは属性順、魔法罠はあいうえお順に分けよう」

 

「「はい!」」

 

2人にそう指令を飛ばして作業に入った。

俺も何か気になるカードがあったらデッキを組んでみるかな。

 

 

作業を開始して数時間が経過した。

時々三沢や俺が「いいなコレ」と呟くくらいで会話らしい会話はなく仕分け作業は続く。

 

「第1段階はこれで終わりか。どうだい何かあった?」

 

「ええ、俺は気になるカードをいくつか。神楽坂は?」

 

「うーん……」

 

三沢の言葉に神楽坂は難色を示す。

やっぱり良いカードが見つからなかったのだろうか。

 

「強いて言うなら……」

 

そう言って神楽坂は1枚のカードを俺達に見せてきた。

 

「これは……【デーモンとの駆け引き】か」

 

「【バーサーク・デッド・ドラゴン】を小さい頃に当てた事があるんです。あれが初めてのレアカードで、懐かしいなって思って」

 

「ふむ、これは」

 

「決まったな」

 

神楽坂の返事に俺と三沢は顔を見合わせ笑い合う。

 

「作ろうぜ、そのデッキを」

 

「ああ、俺も協力するぞ神楽坂!それなら早速高レベルモンスターを探さなければ」

 

「ああ、ちょっと忙しくなるな三沢くん」

 

「え、あのっ」

 

「仕分けはここまでやってくれたら後は俺がやる、それよりデッキ作るぞ神楽坂くん!っと、まずは腹ごしらえか。じゃあ夕飯後にまたここに集合、外出申請は俺の名前を出して構わないから申請するように!」

 

「分かりました、行くぞ神楽坂!」

 

「引っ張るな三沢!」

 

三沢は神楽坂を連れて購買部を後にする。

半ば引っ張られていた神楽坂だがその表情はどこか嬉しそうだ。

うむうむ、ちょっと強引過ぎて引かれたかと思ったがあの様子なら良かった。

 

「さて、と」

 

2人が去った後に軽くダンボールを移動させて休憩室を整える。

その際に先程の仕分けで見つけた、新しいデッキのパーツになりそうなカードに視線を落とす。

そのうちこのカードもデッキにして形にしよう、そう決めてレッド寮の夕飯の準備のために休憩室を後にした。

 

 

その後、再び合流した2人とデッキ作りを再開。

神楽坂は小さい頃に当てた【バーサーク・デッド・ドラゴン】を持参して気合いを入れ、神楽坂の意思を尊重しつつコピーデッキにならないよう三沢と共に見守りつつアドバイスや意見を出し合い、夜遅くに遂に神楽坂のデッキは完成した。

 

「で、出来た……!」

 

「やったな神楽坂!」

 

「誰のコピーでもない、君だけのデッキだ神楽坂くん!」

 

「ありがとうございます!三沢もありがとうな!師匠と呼ばせてください健斗さん!」

 

「いいぞ神楽坂くん!弟子1号だ!」

 

「「「アッハッハッハッハッ!」」」

 

完成した時、俺達3人はやり切った達成感と深夜テンションでお互いを褒めちぎり肩を叩き合い喜びあい、神楽坂は涙を流しながら俺を師匠と呼び敬い俺も弟子にしてやるぞと笑いながら返し、2人を寮まで送った。

 

そして翌朝、レッド寮の朝食の用意していたら神楽坂と三沢が訪ねてきた。

 

「あれ、どうしたの」

 

「今日の実技で早速あのデッキを使う事を知らせておこうと思いまして。あと、昨日は本当にありがとうございました」

 

そう言って神楽坂は頭を下げる。

本当にいい子だな、と思いつつ他のレッド生の視線が痛いので頭を上げさせ、ここで食べていきなさいと勧めた。

三沢と神楽坂は了承して席に着く。

そして朝食のハムエッグ定食が完成し、取りに来た神楽坂くんのお盆に昨日渡しそびれた手伝いの報酬として封筒を挟む。

 

「これは……展覧会の整理券!?」

 

「そ、昨日の手伝いのお礼。俺は行かないからあげるよ」

 

「し、師匠……!」

 

これを機に神楽坂が本当に俺を師匠と呼び始めたので改めて深夜テンションは恐ろしいと感じた。

だけどなんだろうか、こう騒がしくも平和な日常が楽しくて心地よい。

しかし、この平和な日常も長くは続かない事を俺は知っている。

だけど今だけは良いだろう、この世界の住人として、この瞬間を楽しんでも。

 




神楽坂はあのアテムのデッキをまともに回せただけでも凄いと思う

神楽坂のデュエルは次回くらい
これには主人公も後方師匠面
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