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今回デュエルはありませんが十代が出ます
冬休みのサイコショッカー襲来から数日が経過した。
冬休みは終了し帰省していた生徒が学園に戻り学校も再開した頃、購買部の荷物の整理をしていた所に放送で校長室に呼ばれた。
「遊佐です、入ります」
「どうぞ、入ってくれたまえ」
校長室の扉をノックし返事を聞いてから中へ入ると笑顔の鮫島校長が席に座っており隣にはクロノスが居る。
さて、呼ばれた心当たりがまったく無いのだが。
「何の御用でしょうか。また肝心な時に役に立たな委員会が何か言ったんでしょうか?」
「ハハハ……君は相変わらず委員会に当たりが強いね」
「心配しなくても今回は怖い話じゃないノーネ、むしろシニョール健斗にとっても喜ばしい話なノーネ」
半眼で問いかける俺に苦笑いを浮かべる鮫島校長。
しかし俺の心配するような事は無いとクロノスは言い、そして鮫島校長は真剣な顔付きになる。
「話というのはだね、君に臨時のデュエル講師をやってもらいたいんだ」
「デュエル講師ですか?」
「ああ、といっても教員のように教壇に立つ必要は無いよ。実技試験の手伝いや実習の補助をしてもらうことになる」
いまいち事態を掴めていない俺に向けて補足するように鮫島校長は言葉を続ける。
「制裁タッグでのデュエルを見た生徒や教員からいくつか要望があってね、君をただの用務員にしておくのは勿体無いというのは私も思っている。だから少しでもデュエルに関われる立場を用意しようという事になったのさ」
「貴方のタクティクスはこの実技最高担当者の私が保証するノーネ」
「有難いお言葉ですが、あのデュエルは十代くんが居なければ勝てませんでした。評価は私ではなく彼に向けられるべきです」
「その辺は問題無いでスーノ。近々昇格デュエルを行う時にドロップアウトボーイにも声を掛けるノーネ」
「そういう事だ。それに元々あの件は君に非は無かったんだ、これくらいはしないと学園としても申し訳が立たない」
「はぁ……」
突然の提案にそう返事をする他がない。
俺を評価する前に十代を評価しろと一応言ってみたがあまり効果はない。まぁ十代は実技はともかく授業態度は良いと言えないしまだクロノスが彼を嫌っているので仕方ないだろう。
「遊佐くんは島に来る前にプロを目指していたんだろう?これで実力を示せば学園としても君をプロに推薦する事も出来るし今の待遇よりももっと良い待遇にする事も出来る。君にとっても悪い話では無いと思うんだ」
「本土に居た時の貴方の公式大会のデュエルも調べたノーネ。【暴君】の名に恥じないパワフルなデュエルだったノーネ」
「クロノス先生、その名で呼ばないでください。あれは他の人が勝手に呼んでいただけです」
何が悲しくてあんな厨二ネームで呼ばれなければいけないのか。
それに本土には正直良い思い出が無いし用務員として緩やかに過ごせればそれで良いのだが……断るのは難しそうだ。
とりあえずその場はよく考えてきますと答えて校長室を後にした。
「健斗さーん」
「やあ、十代くん」
校長室から出た瞬間に待ち構えていたのか十代が手を振りながら駆け寄って来る。
「放送で呼ばれてたから気になって来たんだけど何を話してたんですか?」
「大した話じゃないさ。十代くんは確か調べ物だったよね?」
「その事なんだけど、アカデミアの情報網でもやっぱり何も分からなかったんだ」
「仕方ないさ」
十代は冬休みで実家に帰り両親に事の次第を問いかけたらしいが両親は気の所為だと誤魔化したようだ。しかし十代の家に居た精霊が過去の事を簡単に伝えた。それにより十代は【ユベル】と【ネオス】の存在を知り、それらをロケットに乗せた事実も知る。
しかしロケットに乗せられたカードの行方だけは分からず十代はアカデミアで詳しく調べるために図書室へ向かったようだが、徒労に終わったようだ。
まぁ1枚は宇宙にそのまま残ってもう1枚は地球に戻って十代に会うために色々企んでるとか思わないだろう、言ってて俺もよく分からん。
「ま、そのうちひょっこり帰って来るかもしれないし気長に待ってればいいよ。それで、帰って来たらおかえりって言うんだよ」
ひょっこり(協力者がやベー奴)(無関係の人々を洗脳)(ガチの死人が出る)(あの時点での十代の1番の理解者を乗っ取る)(ちくわ大明神)(世界を壊す僕の愛)(コーナーで差を付けろ)
ひょっこり帰って来るとかいうレベルじゃない。
「それもそうだよな!よーし、この冬もガンガンデュエルするぜー!」
「授業も真面目に受けるんだよ」
走り去っていく十代に手を振りながら忠告を残す。
十代を見送ると俺は作業の続きをするために購買部へ戻った。
「健斗ちゃん、ちょっといいかい?」
「どうしました?」
「最近ドローパンが盗まれているみたいなんだ」
購買部で作業中にトメさんが声を掛けてきた。
内容を聞くと購買のドローパン、しかも限定の黄金の卵味だけが決まって盗まれているらしい。
「あー……」
それを聞いて思い出したのがドロー回。
確か山篭りしてる奴が腹減らしてパン盗んでるんだっけか、あと一撃必殺居合ドローの使い手だっけ。
トメさんは泥棒をなんとかして欲しいと俺に相談してきたという訳だ。
「分かりました、十代くん達にも協力してもらうようお願いします」
「ありがとうね」
こういう時は原作通りにするのが1番だ。
早速十代に連絡を取ると最近食べれていない恨みからか、すぐに協力するという返事が来た。
『なぜ話を受けなかったのですか?』
待ち合わせの夜まで時間があるのでファラオに魚でもプレゼントしようとレッド寮近くの岩場で釣りをしているとドリアードが顕現し、隣に座る。
そして先程の校長室での一件を訊ねてきた。
『普段から給料が少ないと嘆いているじゃないですか、待遇が良くなるなら受けるべきでは?』
「普通は嬉しいんだろうけどね」
ドリアードにそう答えながら釣竿を横に置いて一呼吸。
そしてゆっくりと口を開く。
「俺、正直言うとこの世界のデュエル好きじゃないんだ」
『は?』
突然の言葉にドリアードは面食らう表情となるが構わず続ける。
「俺が元居た世界にもデュエルモンスターズはあったよ。でもこの世界みたいに発展はしてないし社会の一部になるほどじゃない、ただの趣味のひとつだったんだ。勿論やってたし金もかけてたくさんのデッキも組んだ、ジェネレイドもそのひとつさ」
『デュエルを前世でしていたのならなおさらこの世界は貴方にとっては都合が良いのではないのですか?少なくともカードの種類はこの世界よりは豊富な事も伺えますし、あの王達が居れば負けなしでしょうに』
「俺も最初はそう思ったよ。周りは一昔どころか三昔はありそうな環境、対してこっちは最新のカード。結果は連戦連勝、公式大会はほぼ負けなしさ」
『だったら……』
「でもさ、だんだんデュエルを全く楽しいと思えなくなったんだ」
『何故ですか?』
純粋に分からないといった様子の彼女は首を傾げて俺の答えを待っていた。
ため息をひとつ吐いて再び話を続ける。
「この世界の人との意識の"ズレ"だな。俺の世界のデュエルはぶっちゃけ金さえかけりゃ強くなれる。そのテーマの初動や展開、手札誘発や魔法罠のタイミングさえ覚えとけばあとは手札と相手のデッキとの相性の問題。勝つ確率を上げる事はあるけど負ける時は負ける、まぁ結論言うと運」
『ぶっちゃけましたね』
「ああ。でもこの世界はそんな運ゲーで物事決めてるっていっても過言じゃないだろ?そこなんだよ、俺にとってのデュエルはどう頑張っても金のかかる趣味なんだ。だからデュエルに人生とか色々大切な物を掛けられるこの世界に困惑しかないワケ。だってどんなデッキでも勝つ時は勝つけど負ける時は負けるだろ?手札事故で負けて職を失いましたー、とか俺にとっては絶対納得できないの」
『はぁ……』
「一番嫌なのがそういうのをこっちに押し付けてくるこの世界の風潮。バーンとか先攻制圧やめろとかお前らの風潮とか知らねーよ、こっちはこっちでジェネレイドのセオリー通りに動いてんのに。んで勝ったら勝ったで陰口叩くわ批判するわで煩わしいしプレイにケチ付けるし負けたら負けたで普通に罵倒するし全体的に民度低いんだよこの世界。デュエル強けりゃなんでもいいのか。カード作ったペガサスに謝れ」
『でも【暴君】って通り名があるんですよね?』
「あれこそ周りの奴らが勝手に言ってるだけだ、ジェネレイドの徹底妨害の事を皮肉ってんだよ。一応言うが俺はいつも真面目にルール守ってデュエルしてるよ。んでジェネレイド以外を使ったら舐めプとか言うし。ジェネレイド好きなのか嫌いなのかどっちなんだよ、それとは別に違うデッキとか組んで使いたくなる時もあるだろうが。……色々あって、それならプロになって大会荒らして金だけ稼いでとっとと隠居でもしようと思ったら前に説明した騒ぎがあって今に至る。だから必要以上にデュエルに関わらないで用務員してる方が気が楽なの」
そう締めくくり、釣り道具を片づける。
いつの間にか日は傾き沈んでゆく、少し話過ぎたようだ。
『傲慢ですね』
釣り道具を片付けているとドリアードがそう呟く。
『異界で過ごしていた貴方にとってみればこの世界は異質に感じるのでしょう。この世界の人々に対しての知識があるからこそ見方が違うのでしょう。ですがそれは傲慢に他なりません』
「……知ってる」
彼女の言葉に片付けをする手が止まる。
彼女に言われなくても分かっている。薄々感づいてたし考えないようにしていた。
俺はこの世界の未来を知っている。人物の過去や未来を知っている。
だからこそ、それが分かる自分は特別なのだと思っていた。何とかできるのは自分しか居ないと思っていた。
だがそれは無意識にこの世界の人間を下に見ていたのと同じだ。
『そんな顔をしないで下さい健斗、私は悪いとは言っていませんよ?』
俯く自分の両頬に温かな手が添えられ、顔を上げると穏やかな表情を浮かべたドリアードがにっこり微笑んだ。
『貴方がそれを自覚しているなら良いのです。貴方が優しい人間だからこそその傲慢に気付き、改めようと苦しんでいる。それは私の、いえ、誰が望むものでもありません。貴方の価値観と人生を否定する事は誰にも出来ませんから。それに、傲慢であったとしてもこの世界を守るために立ち上がった貴方は間違い無く正しいです』
「ドリアード……」
『私も未来の刻に生きる精霊として貴方に協力を申し出た身です、貴方を責める事など出来ません』
それに、とドリアードは続ける。
『貴方は一言もカードの事を悪く言ったり否定しなかった。デュエルを愛しカードを大切にする人にこそ、精霊は力を貸すのです。講師の話を受けても受けなくても私は気にしません』
「……ありがとう、お前に出会えて本当に良かった」
俺の心からの言葉を伝えると彼女は再び微笑んだ。
『さぁ帰りましょう、夜にも仕事があるんでしょう?』
「あぁ」
纏め終わった釣り道具を抱えて小屋へ戻る道を歩き出す。
ドリアードはふよふよと浮遊し俺と一緒の道を行く。
「なぁドリアード。俺、この世界に来て良かったと思う事が他にもあるんだ」
『なんですか?』
「十代に出会えた事だよ。しがらみも何も無い、純粋にデュエルを楽しむ彼を見てたら俺もああいうデュエルがしたいと思ってさ。そこで気付いたんだ。やっぱり俺、デュエルが好きだって」
だからこそ決めたんだ。
何もかもを吹き飛ばしてくれるような気持ちのいいデュエルをしてくれる十代を、あの笑顔を守るために、俺はアカデミアに残って過ごすと。
『遊城十代……まるで太陽みたいな子ですね』
「抱えてるのは闇だけどな」
『全然笑えませんよ傲慢男』
「その時はドリアードが何とかしてくれ」
そう茶化し合いながら小屋へと戻るのだった。
その夜、ドローパン泥棒が現れたが原作通りだった。
俺もドロー力を磨いた方が良いのか真剣に考えようと思った。
唯一違ったのは一撃必殺居合ドローの使い手では無かった、あれ別の奴だっけ?記憶があやふやだ。
『マスターが傲慢なんてショックでした、せっかく協力してるのに。でもカードとデュエルを大切にしてくれるならオッケーです!』
永続魔法【転生者あるある】を発動するが【ドリアードの抱擁】の効果により無効にさせてもらうぞ