何度か配信を繰り返して、そろそろ私とれんちゃんも慣れてきたので、少し遠出をしてみようかと思います。つまりは新しいもふもふに出会いに行こうというわけですよ。
「そんなわけで、れんちゃん!」
「はい!」
「今日は猫をテイムしよう!」
「にゃんこ!」
「そう! にゃんこだ!」
ファトスの側の草原では犬がテイムできるように、セカンの隣の草原はたくさんの猫がいる。いや、犬じゃなくてウルフだけどさ。
犬役がウルフなんだから猫は虎かライオンでは、なんて言われそうだけど、猫は何故か猫のままだ。いや、猫又なんだけどね。尻尾二本です。初級魔法の使い手だけど、例のごとくノンアクティブなので複数から狙われるようなこともなく、一対一で戦っても相手が詠唱中に攻撃できちゃう。
魔法がどういうものか体験できる敵、と思ってもいいかもしれない。猫好きさんにとっては天敵らしいけどね。攻撃できないんだって。とても分かる。
フィールドボスはここにはいなくて、その代わりにダンジョンがある。ダンジョンに生息するのは、ライオンとか虎とか。
余裕があれば行くのもいいかもだけど、ここは猫と違ってアクティブモンスターしかいないのでちょっと危険。れんちゃんから聞いた運営の話が本当なら、れんちゃんなら問題ないかもだけど。
そしていざ出発という時にメッセージが届いたので、同行者が増えました。
「というわけで、れんちゃん。アリスがいるけど気にせずにもふもふしてきていいよ!」
「うん。私はここで仕上げをしてるからね! れんちゃんのもふもふを見ながら!」
「はーい!」
うーん、素直! れんちゃんの目にはもう猫しか映ってないねこれは!
れんちゃんが早速猫へと突撃。でも猫は猫だからね、結構気まぐれで、なかなか寄ってきてくれない。むむ、とれんちゃんは唸りながら、今度はゆっくり近づき始めた。
「配信でも思ったけど、れんちゃんは本当に楽しそうにモンスターと戯れるね!」
「うん。バーチャルでも、動物と触れ合えるのがとっても楽しいらしくて。リアルでも、すごく楽しいって、笑顔が増えたよ」
「そっか……。大変そう、だもんね。あの、ごめんね、ちょっと調べちゃった」
「ああ……。別にいいよ。テレビにも出たぐらいだから、簡単に調べられるだろうし」
そんなに申し訳なさそうにされると、むしろこっちの方が困ってしまう。間違い無く、れんちゃんも気にしないだろうから。
「まあ、どうしても気になるなら、服がお詫びってことで。もらいすぎの気がするけどね」
「まさか! そんなことないよ! 頑張って作るから! ということで、はい!」
おおう!? トレード画面だ! 仕上げって、渡すことだったのか。
画面に表示された服を見て、お、と思わず声を上げた。
「和服?」
「うん。和服。リアルだと着たことなさそうだし、喜ぶかなって。似合うかなって! まあぶっちゃけ私の趣味だけど!」
「いいねえ和服! 早速着てもらおう!」
ということでれんちゃんを呼ぼうと思ったんだけど、れんちゃんはいつの間にか猫に囲まれていた。地面に座って、膝の上に猫をのせてゆっくり撫でている。れんちゃんの周りの猫は、順番待ちかな?
「にゃあにゃあにゃあ」
「猫の鳴き真似をする妹がとてもかわいい!」
「ミレイちゃん!? 落ち着いて!」
くそ! どうして私は配信してなかったんだ! 配信さえしておけば、動画も勝手に保存されるのに! これは是非とも写真じゃなくて動画がいい! 失敗した!
れんちゃんは膝の上の猫を撫で回して、顎のあたりをもふもふして、とても楽しそうだ。これはとてもいい癒やし空間。妥協して写真は撮っておこう。
「すごく自然にテイムしてる……。すごいねれんちゃん。ここの猫、かなり警戒心が強くてなかなかテイムできないはずなのに」
「私の妹はかわいくて最強」
「あ、うん。そうだね」
どうしてどん引きするのかなアリス?
「そんなわけで、猫が増えました。上限五匹」
『あの猫をいきなり上限までテイムできるなんて、そんなわけwww』
『なってるんだよなあ……』
『いや待って。自然と流されてるけど、服かわってる!』
おお、気付くの早いね! そう、私とれんちゃんは早速もらった服を着ています。れんちゃんはもふもふで忙しいので、とりあえず私から。
「くるっと。アリスからもらったよ。どう? どう?」
『自信作だよ! えっへん!』
『かわいい』
『どっちが?』
『どっちも』
反応はそれなりかな?
青い袴に白い上衣のシンプルなもの。私のはそれに胸当てつき。まあ一応戦闘にも使えるよ、ということらしい。れんちゃんも同じで、胸当てがないだけ。
『巫女服の色違いみたい』
『ん。いわゆる巫女服の袴は緋袴って言って』
『そういううんちくは求めてない』
『そんなー』
ああ、うん。アリスは平常運転だね。大多数の人が緋袴? とか分からないしあまり興味ないとも思うよ……。興味があれば、自分で調べてもらいましょう。
「れんちゃんー。そろそろいい?」
「はーい」
猫を頭に載せたれんちゃんがこっちに走ってくる。足下をついてくるラッキーが、なんだか少しかわいそう。哀愁漂う様子で主人を見上げてるよ。気付いてあげてれんちゃん。
『ラッキーw』
『早くも居場所を奪われてて草』
『なんでや! ラッキー悪くないやろ!』
そんなコメントにれんちゃんは首を傾げる。そしてラッキーを抱き上げると、ぎゅっと抱きしめた。
「みんなかわいいの」
『おまかわ』
『もふもふをのせてもふもふを抱きしめる幼女……。いい』
『かわいいが過ぎる!』
『俺たちを萌えさせて誇らしくないの?』
ふふふ。さすが私の妹だ。そして私の口が開く前に、
「でね! でね! この子が最初に友達になったにゃんこ!」
れんちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねる。多分頭の猫のことを言ってるんだと思う。私から見たらみんなにエサ上げててどれが最初かなんて分からなかったけど、れんちゃんには分かったのかな。
そしてこれはあれだ。長くなるやつだ。
「それがこの子! まっしろにゃんこ! ラッキーみたい!」
『白い子が好きなのかな?』
『なんかこの子もラッキーみたいに子供っぽいよな』
『レアだったりするのかな?』
「しらなーい。えへへ、ふわふわ……」
ラッキーと白猫を抱えてすごく幸せそう。なんかもう、表情がふにゃふにゃしてる。
「それでね、次はえっと、あの子……。ちょっと待ってね!」
ぱたぱたと遠くにいる猫を捕まえに行くれんちゃん。視聴者さんはほったらかしである。相変わらずもふもふに一直線だ。
「あっはっは。うん。悪いけどちょっと付き合ってあげてね」
『りょ』
『かわいいから良し』
『聞いててほっこりする。飽きないから大丈夫よ』
みんないい人で、すごく有り難い。本当にね。
その日は結局最後までれんちゃんの猫自慢が続いた。よくまあ話が続くものだよね。
壁|w・)短め。次回は長くなります。