テイマー姉妹のもふもふ配信   作:龍翠

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配信九回目:放牧地

 

「おねえちゃん、放牧地は?」

 

 今日も今日とでわんわんとにゃんこをもふもふする様子を眺めていたら、最愛の妹からそんなことを言われました。

 ふむ。放牧地。ふむ。

 

「忘れてた……」

 

 わ、私はなんということを! 他の人のもふもふと戯れて、もふもふをもふもふするもふもふれんちゃんを見たいと思っていたのに! もふもふ!

 それに何よりも、れんちゃんに怒られる。

 と、思ってたんだけど。

 

「えへへ。わたしも」

 

 そう言ってはにかむれんちゃん。かわいい。好き。

 

「うん。せっかくだし、今日行こうか。配信もしちゃおう」

「うん!」

 

 

 

「というわけで、突発的ですが放牧地突撃回!」

 

『放牧地キタ!』

『いきなりすぎませんかねえ!? 今から行くぜ!』

『残念だったな、れんちゃんが入っていったからか、テイマーたちは我先に放牧地に入った。すでに人数上限で入れない』

『野生のお前ら積極的すぎじゃね?』

 

 うん。まあ、そうなのだ。放牧地に行こうとテイマーズギルドに行ったら、テイマーさんに声をかけられてね。ミレイさんとれんちゃんですかって聞かれたから頷いたら、いつの間にか大勢集まってた。意味が分からない。

 いや、なんとなくは分かるんだけどね。れんちゃん、一週間程度ですごい人気になったからね。今も視聴者さんが続々増えてる。怖い。

 多分、内容がおもしろいとかじゃなくて、れんちゃん目当てだと思う。普通はいない幼女プレイヤーだからね。興味を持つのは分かる。それにれんちゃんだからね! かんわいいからね! 仕方ないね!

 

「おねえちゃん、なんか気持ち悪い」

「ひどい」

 

 うん。落ち着こうか。

 とりあえず放牧地を見回す。大勢のテイマーさんたちが、こっちをちらちら見てる。こっち、というかれんちゃんを。

 

『なんか、妙な雰囲気だな』

『いやいや、テイマーの俺には理解できるぞ』

 

「うん。私も理解できちゃう。普段から放牧地にいるようなプレイヤーは生粋の動物好き、自分の子大好きな人だからね。自慢の子を見せたくなるものだよ」

 

『親馬鹿心理』

 

「否定はしない」

 

 ただ、蛇とかテイムしている人は、あまり期待はしてなさそう。こっちを見てるけど、少し離れた場所にいる。

 安心してほしい。れんちゃんは特にもふもふが好きなだけで、生き物全て好きだから。博愛主義者だから。さすがれんちゃん、

 

「私の女神!」

 

『お前はいきなり何を言ってるんだ』

『おまわりさん、この姉です』

『おまわりさんです。お医者さんを呼んでください』

 

「ひどくないかな!?」

 

 そこまで言わなくても。

 

「おねえちゃん……」

「おっと、ごめん」

 

 れんちゃんがうずうずしながら私を見てくる。うん、おあずけで待たされてる子犬みたい。ちょっとこれはこれでかわいいかもしれない。

 れんちゃんの頭を撫でながら、

 

「じゃあ、行ってらっしゃい。私は後ろからついていくからね。何かあったら呼んでね」

「はーい!」

 

 嬉しそうに駆け出すれんちゃんを見送りながら、私はだらしなく頬を緩めた。

 

「私の妹がとってもかわいい」

 

『しかしその姉の顔はとても気持ち悪い』

『一度鏡見た方がいいよミレイ』

 

「うるさいよ」

 

 

 

 れんちゃんがまず最初に向かったのは、リスによく似たモンスターだ。そのモンスターをテイムしているらしい少年の顔が強張る。まさか自分のところに来るなんて、とか思ってるのかもしれない。

 れんちゃんは少年の足下のリスまで駆け寄ると、わあ、と小さな歓声を上げた。

 

「あ、あの、この子!」

「は、はい」

「抱いても、いいですか!」

 

 れんちゃんの声に、少年は目をぱちぱちと瞬かせていたけど、すぐに小さく笑った。リスを抱き上げて、れんちゃんへと渡す。受け取ったれんちゃんははわあ、と妙な声を上げていた。

 

「かわいい……。ちっさいのにふわふわもふもふしてる……!」

「ふふ……。そうだろ? 僕の自慢の子さ。お願いすれば木の実とかも取ってきてくれるんだよ」

「すごい! 見たい!」

「いいよ」

 

 下ろしてもらったリスへと少年が何かを囁くと、リスがどこかへと駆けだしていく。あのリスのモンスター、そんなことができたんだね。面白い能力だ。

 

『木の実ガチャだな。無料でできるガチャ。なんて甘美な響き』

『いいなあ、無料ガチャ』

『肝心の木の実の使い道は?』

『美味しいよ!』

 

「いや微妙すぎるでしょ」

 

 盛り上がるコメントに思わず突っ込みを入れてしまう。無料のガチャは楽しそうだけど、木の実の使い道はかなり限られてるみたいだ。美味しいだけでもいいと思うけど。

 リスは一分もせずに戻ってきた。口に何かをくわえていて、それをれんちゃんへと差し出している。見ていて微笑ましい光景だ。

 

「あ、あの……」

「もらってあげて。美味しいよ」

 

 少年に促されて、れんちゃんが木の実を受け取る。れんちゃんがリスを撫でると、リスも心なしか嬉しそうにしていた。なんだろう、この、癒やし空間。頬がにやけちゃう。

 

「ありがとうございました!」

 

 少年にお礼を言って、リスをまた一撫でして次に向かうれんちゃん。私も少年に会釈すると、少年は少し照れたようにはにかみながら頭を下げてくれた。

 

 次にれんちゃんが向かったのは、驚いたことに蛇のモンスターだ。蛇をテイムしているのは、私よりも少し年上に見える女の人。女の人は目をまん丸にして驚いていた。もちろん私も驚いた。

 確かにれんちゃんは生き物が好きだけど、それでもやっぱりもふもふしている子の方が好きだと思っていた。まだもふもふはたくさんいるのに、蛇を選ぶなんて。

 

「あの、この子、さわってもいい?」

「え、ええ。もちろん」

 

 女の人が慌てて返事をしている。足下でとぐろを巻いてる蛇にれんちゃんが触れると、蛇は体を持ち上げてれんちゃんを見つめ始めた。威嚇かな?

 

「ええっと。れんちゃん、よね?」

「はい! れんです!」

「撫でてあげると、その子も喜ぶから」

 

 早速れんちゃんが蛇を撫で始める。なんだか気持ち良さそうなお顔。蛇なのに。

 

「わあ。すべすべ……」

「気持ちいいでしょ? 撫でたら落ち着くのよ。うふふふふ……」

「あ、えと、はい」

 

 珍しいことにれんちゃんがなんだかとっても微妙な表情だ。そして何故私を見る。なにかな、私と同類だとでも言いたいのかな? 怒るよ? 怒っちゃうよ?

 

「おねえちゃんみたい……」

 

 やめて。本当に言われると怒るよりも前にへこむから。

 

 

 

 その後もれんちゃんはいろんな人のモンスターと触れ合った。特にれんちゃんがあえて最後に残していた人、そのテイムモンスターには興味津々だったようだ。

 

「どら! ごん! だー!」

 

 緑色の、いかにもなファンタジーのドラゴン。正直私も気になってた。

 

『おいおい。ドラゴンって、こいつ前線組だろ』

『現時点でドラゴンは最新のダンジョンの最深部限定だろ』

『なんで都合良くそんなやつがいるんだよ』

 

 視聴者さんたちも困惑してる。私も困惑してる。ここに集まる人は戦闘なんてどうでもいい、テイムモンスターを愛でたい人がほとんどだ。こんな、いわゆるガチ勢が来るような場所じゃないはずなんだけど。

 

「いや、その、なんだ。俺はれんちゃんの配信を最初から見てたんだけどさ」

「わあ! ありがとうございます! じゃあ、もふもふ好き!?」

「いや、もふもふもだけど、どっちかというとそれに癒やされる二人を見るのが楽しみだったよ」

 

『わかる』

『むしろここにいるほぼ全員がそうだと思う』

 

 私もれんちゃんを自慢したいがための配信だからね。満足な感想です。れんちゃんは首を傾げてたけど、れんちゃんはそのままでいてね。

 

「でさ、俺のこいつを、是非ともれんちゃんに自慢したくて。なんせ、俺のフレはみんなこいつを戦闘力でしか見ないからさ……」

 

『あっ(察し)』

『ああ、うん。その、落ち込むな』

『ペット自慢には不向きな連中ばっかりだもんなあ……』

 

 前線組と呼ばれる人はそれはもう戦闘大好きな変態さんたちだ。バトルジャンキーばっかりだ。ドラゴンを見て思うのは、多分かっこいいとかそんなことより、強そう、になると思う。

 

「自慢したくて、そろそろかなと思って、待機してました。すみません」

「そうなんだ! 会わせてくれてありがとうございます! あのね、触ってもいい?」

「うん。もちろん」

 

 れんちゃんがそれはもう嬉しそうにドラゴンに触る。ぺたぺたなでなで。そんなにいいものなのかな? 私はふわふわな子の方が好きだから、よく分からない。

 

「れんちゃんはドラゴンも好きなんだね……。生き物が好きらしいから分からないでもないけど、そこまでの反応はお姉ちゃんは予想外です」

「だってドラゴンだよ! かっこいいんだよ! ぐわーって!」

「ぐわーとは」

 

『ぐわー』

『意味が分からないけど大好きは分かった』

 

「だってだって! 男の子の憧れだよ!」

「うん。そうだね。でもれんちゃんは女の子だね」

「男の子も女の子も関係ないの!」

「あ、はい。……男の子のくだりは必要だったの……?」

 

『興奮しすぎて勢いで喋ってるんだろうなあw』

『これはこれで、いい』

『まあドラゴンは初めて見ただろうしなw』

 

 なるほど、それもあるのか。もふもふはディアやラッキーで堪能してるものね。初めて見るドラゴンに興奮する、というのは分かるかもしれない。

 

「ちなみに、背中に乗せてもらえるよ。飛べる」

 

 テイマーの青年の発言に、れんちゃんの目が輝いた。すごいすごいと大はしゃぎだ。確かにプレイヤーを乗せて飛べるモンスターなんて聞いたことがない。このドラゴンが初めてなのかも。

 

「乗ってみる?」

 

 青年の問いに、れんちゃんはすぐにぶんぶんと首を縦に振った。

 

 

 

 というわけで、ファトスの外に来ました。

 青年がドラゴンに専用の鞍を取り付けて、れんちゃんを乗せてくれた。れんちゃんのわくわくが私にまで伝わってきそうだ。

 

『いいなあ、俺も乗りたい』

『ドラゴンのテイムってやっぱり難しいのか?』

 

 ああ、それはちょっと気になる。れんちゃんも気になってるだろうし、聞いてみようかな。

 

「ドラゴンのテイムって難しいですか?」

 

 というわけで聞いてみました。

 

「いや、ごめん、実は分からないんだ」

「分からない?」

「うん。たまたま見かけて、たまたま持っていたエサを上げたら一発でテイムしちゃって」

 

『なんという豪運』

『前線組の私、ドラゴンのテイムに失敗すること千回以上』

『あー……。どんまい……』

『いじれよぉ! 慰められると泣いちゃうじゃん!』

 

 まあ、つまりはそれだけ確率が低いってことだね。千回やってもテイムできないってよっぽどだと思う。よくやるよ。

 

「れんちゃん。騎乗スキルは持ってるかい?」

「持ってる! 山下さんに勧められたの!」

「確かゲームマスターの一人だっけ。いい選択だね」

 

 まったくだ。騎乗スキルがなかったら、そもそもディアに乗れなかったと思うし、さすがは運営の人だね。片手剣なんて取らなくてよかったと今なら思う。

 

「それじゃあ、補正がかかるから落ちることはないから安心していいよ」

「なかったら落ちるの?」

「落ちる。落ちた」

 

『経験談かw』

『すっごく怖そう……』

『想像しただけで、ちょっと、むずむずする』

 

「あれだね、いわゆる玉ひゅんだね」

 

『女の子が言っていい言葉じゃないからな!?』

 

 それは失礼。

 さてそんな話をしている間に、あちらの準備は終わったみたいだ。青年がこちらに駆け寄ってくる。……あ、出発前にやることが一つ。

 

「れんちゃん!」

「なあに?」

「光球、れんちゃんを追うようにしておくから! 楽しんでくるんだよ!」

「はあい!」

 

『おお! 助かる!』

『空からの景色とか初めてじゃないか!?』

『これは良い判断。ミレイやるな!』

 

「むしろ私が見たいだけだよ。あとで見るから」

 

『納得したw』

 

 お、ドラゴンが走り始めた。れんちゃんいてらー!

 

 

   ・・・・・

 

 さて、空の旅を始めたれんですが。

 

「たかーい! こわーい! あははははー!」

 

 テンションうなぎ登りの天井知らず。ひたすらに笑っています。これでもかと笑っています。あっちこっちを見て笑顔を振りまいてます。

 

『すごい景色!』

『やばいなこれ。楽しそう。でも怖そう』

『れんちゃんのテンションが完全にぶっ壊れてるwww』

 

 だってとっても楽しいですから。

 

「みゃー!」

 

『何故猫w』

 

「わんわん!」

 

『落ち着けれんちゃんwww』

『気持ちは分かるがw』

 

 楽しい。とても楽しいです。れんは今、風になっているのです!

 

「たーのしぃー!」

 

『れんちゃんwww』

『ここまでテンションの上がったれんちゃんは初めてではw』

『れんちゃんの病気を知ってると、涙が出そうになる』

『おいばかやめろ。触れないようにしてるんだから』

 

「生きてるだけで嬉しいっておねえちゃんは言ってくれるのー!」

 

『ミレイ……』

『いや、うん。よくネタにするけどさ。やっぱりいいお姉ちゃんだと思うよ』

『本当にな』

 

 それはれんも知っています。誰よりも、両親よりも、れんが一番知っているのです。

 

「おねえちゃんはねー! わたしの、自慢の、大好きなおねえちゃんなのー!」

 

『そっか』

『どうしよう。ちょっと泣きそう』

『本当に、いい姉妹だ』

 

「でもたまに気持ち悪いのー!」

 

『れんちゃんwww』

『もう色々と台無しだよwww』

『草w』

『草に草を定期』

『ちょっとは反省しろミレイw』

 

 空の旅を楽しみながら、れんはコメントさんたちと楽しくおしゃべりするのでした。

 

   ・・・・・

 

 そして私は膝をついていましたとさ。

 

「きもちわるい……きもちわるいて……」

「いや、うん……。その、何て言えばいいか……。ほら、お姉ちゃんが大好きって言ってくれてたじゃないか」

「そうだけど……。ぞうだげどぉ」

「ガチ泣きじゃないか……」

 

 れんちゃんの言葉の前半がなんかもうとっても嬉しくて涙腺にきて、そして後半で落とされてもう感情がぐちゃぐちゃだよお!

 

「ひぐ……。あ、そうだ、フレンドになろう……。たまにでいいからドラゴンに乗せてあげて……」

「あ、うん……。それぐらいでよければ」

 

 泣きながらフレンド登録。フレンドリストにエドガーという名前が登録された。今度は私も乗せてもらいたいところだ。ということで。

 

「エドガーさん。次の機会でいいので私も乗りたい」

「ん? 別に今でもいいよ?」

「そろそろ配信を終える時間なの。配信が終わったらぱぱっとお片付けをして、れんちゃんが落ちるのを見届けないといけないからね。時間超過は病院に怒られるので」

「病院……」

 

 エドガーさんが神妙な面持ちになる。そんな顔をしないでほしいんだけどね。なにせ、れんちゃん自身がそれほど気にしてないから。

 

「その、確認だけどさ。れんちゃんって、光そのものに過敏に反応するっていう……」

「お。テレビのまとめでも見たの? 名前が大島だったられんちゃんだよ。よければ寄付もよろしく」

「もちろん。必ず」

「あ、いや。言っておいてなんだけど、無理しない範囲でいいので……」

 

 そんなに即答されるとは思わなかった。助かるのは助かるけど、無理に出させたと思われると、私も心外だしれんちゃんも悲しむ。それだけはやめてほしい。

 

「うん。分かってるよ。れんちゃんがテレビで言ってたぐらいだしね。……戻ってきたよ」

 

 あ、はやいかも。

 エドガーさんに言われて空を見ると、真っ直ぐにドラゴンが落ちてくるところだった。垂直に。怖くないかなあれ!?

 そんな私の心配なんて知らないとばかりに聞こえてきたのは、

 

「あはははは!」

 

 れんちゃんの楽しそうな笑い声。うん。楽しそうで何よりです。

 ドラゴンは地面の直前に一瞬だけ浮かぶと、ゆっくりと着地した。

 

「ただいまー!」

 

 うわあ、まさに満面の笑顔。とても、とっても、機嫌がよさそうだ。

 

「おかえりれんちゃん。楽しかった?」

「楽しかった! びゅーんが空でぐわーなの!」

「なるほど、まるでわからん」

 

 まあそれでも、すごく楽しかったというのはよく分かった。私としても、すごく嬉しい。でも少し心配なのは……。

 

「おねえちゃん、おねえちゃん」

 

 ドラゴンから下りたれんちゃんが私の元に駆け寄ってきて、私の服をつまむ。とても、とても嫌な予感がする。

 

「わたしも、ドラゴンと友達になりたい!」

 

 ですよね、そうきますよねー! エドガーさんまで表情が引きつってるじゃないか! やめなさい、その、俺やらかしちゃいましたか、みたいな顔やめなさい!

 

「そ、そっか。うん。どうしようかな……」

 

 あのダンジョンは、現時点でのエンドコンテンツの位置づけだ。このゲームにもメインストーリーというのがあるんだけど、そのストーリークエストを全てクリアして初めて挑戦できるダンジョンなのだ。

 つまりは、れんちゃんは行くことはできない。

 でもなあ……。できれば、会わせてあげたいよね。この期待の眼差し、裏切りたくないよね。

 

「れんちゃん、ちょっと待ってもらっていい?」

「うん」

 

 不思議そうに首を傾げるれんちゃんに愛想笑いをしつつ、光球をこちらに戻して振り返る。コメントのウィンドウを小さくして、と。

 

「助けて」

 

『言うと思ったwww』

『あのきらっきらな目は裏切れないよなw』

『言うて、あのダンジョン以外にドラゴンなんて出てこないぞ』

『ワイバーンなら出てくるけど……』

 

「あんなにドラゴンに喜ぶれんちゃんだよ? 期待してたのに出てきたのがワイバーンだったら、がっかりするでしょ」

 

『だな』

『それは俺らとしても見たくない』

『いやでも、マジでドラゴンなんてどこにもいないぞ』

 

 やっぱりだめか。いや、まあ私も無茶ぶりがすぎるとは思う。正直に、れんちゃんに話すしかないかな……。

 そう思い始めたところで、そのコメントが流れた。

 

『いや、ドラゴンならいるだろ』

 

 は?

 

『どこにだよ。フィールドボスにすらいないのに』

『最終ダンジョンの最後で否応なく戦うじゃん』

 

「あ」

『あ』

『あ』

 

 盲点だった。盲点だった、けど。いや、でも……!

 

「あれはだめじゃないかなあ!?」

 

 ストーリーのラストの最終ダンジョン、そのボス。つまりはラスボス。私もまだ見たことはないけど、動画とかでその姿は知ってる。れんちゃんがイメージしているような鱗のドラゴンじゃないけど、確かにドラゴンだ。

 ただし、でかい。冗談抜きででかい。れんちゃんが乗ったあのドラゴンが赤ちゃんだと思うほどにでかい。豪邸レベルの大きさだ。

 まあそのサイズよりも、理不尽なほどの強さの方が有名だけど。ストーリーで味方にかけられるバフ特盛りでもぎりぎりの戦いだし、そもそもとして倒しきることを想定していないボスだったりする。

 

『ストーリーは見れないけど、最終ダンジョンに同行するだけならストーリーをやってないプレイヤーでも行けるはず』

 

「つまり、私に最終ダンジョン直前までクリアしろってことだね」

 

『そうなるな』

 

 それなら、まあ、どうにかなるかもしれない。さすがにソロでは厳しいだろうけど、幸い協力してくれそうなプレイヤーならたくさんいる。ここでお願いしても、きっと誰かが助けてくれるはず。ただ、それでもれんちゃんとの時間を優先したいから、すぐには無理だろうけど。

 

「決まりだね。とりあえずれんちゃんに説明して、待ってもらうようにするね」

 

『がんばえー』

 

「気の抜ける言い方だなあ……」

 

 さて、と振り返ると、何故かれんちゃんがしょんぼりしていた。その隣にはおろおろと慌てるエドガーさん。これは、話しちゃったかな?

 

「どうかしました?」

 

 念のために聞いてみると、エドガーさんが申し訳なさそうに眉尻を下げた。

 

「いや、ごめん。せめて説明だけでもと思って、ダンジョンのこととれんちゃんは入れないってことを伝えたんだけど……」

「ああ……。落ち込んじゃった、と」

「うん……。その、本当に、申し訳ない……」

「あはは。まあ、大丈夫です」

 

 さすがにこれでエドガーさんを責めようとは思わない。説明だけでもしてくれただけ有り難いからね。おかげで時間の短縮ができるというものさ。

 

「れんちゃん」

「うん……」

 

 ああ、でも、しょんぼりしちゃってる。こう、しょぼーん、て。

 

「しょんぼりしてるれんちゃんもかわいいなあ」

「おねえちゃん?」

 

『草』

『お前ほんといい加減にしろよ?』

『いつかれんちゃんに心の底から嫌われるぞ』

 

 それは困る。こほんと咳払いして、改めて言う。

 

「ドラゴンだけどね。エドガーさんと同じドラゴンは、ちょっと会いに行くのは難しいの」

「うん……」

「でも、違うドラゴンなら、時間をもらえれば会いに行けるよ」

「え!」

 

 れんちゃんが勢いよく顔を上げて、エドガーさんも目を丸くした。やっぱりエドガーさんも思い至っていなかったみたいだ。いや、すぐにあれが思い浮かぶ方がおかしいと思うけど。

 

「一ヶ月ほど、待ってもらえる? とびっきりのドラゴンに会わせてあげる」

 

 一ヶ月でストーリークリアっていうのは、学生の私にはかなり厳しいところではある。でも、れんちゃんのためならやってやりますよ。

 

「だから、ちょっとだけ待ってね?」

「うん!」

 

 私の言葉に、れんちゃんは嬉しそうに頷いた。この笑顔だけで私はがんばれるよ……!

 


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