レジェとの出会い、そして懐柔……違う、友情イベントを終えた、翌日。私はれんちゃんと会う前にゲームマスターの山下さんと会っていた。忙しいとは思うけど、ちょっと会えないかなって
相談したのだ。
山下さんに呼ばれた場所は、山下さんのホームだった。
「始祖龍オリジンのことでしょうか」
開口一番、山下さんにそう聞かれた。まあ、予想がつくよね。誰だって分かるか。
「そうです。あれって大丈夫なんですか?」
私としては、だめだと思う。確かにれんちゃんは戦闘そのもの、ダンジョン攻略とかにも興味がない子だけど、バトルジャンキーたちがそれで納得してくれるとはどうしても思えない。
あいつら、比較的常識人な人もいるにはいるけど、色々とおかしいからね……。
「結論を言えば、問題ありませんよ」
「そうなんですか?」
「ええ、まあ……。実を言いますと、始祖龍オリジンはテイムを想定していなかったモンスターではあります」
「え」
いや、それはおかしい。間違い無くれんちゃんはテイムしていたし、れんちゃんのホームにいることも確認したのに。
「条件がとても厳しいんです。ここだけの話ですが、テイムの条件は、敵意がなく、そして最終ダンジョンでジェガ以外のモンスターをテイムしていることになります」
あ、なるほど。それは確かに無理だ。まず最初の条件の敵意がないがほとんどのプレイヤーで引っかかるし、他の四体もまともにプレイして全てテイムできると思えない。
「それに、始祖龍は通常召喚できない、ホーム専用のテイムモンスターです。厳しい条件ですが、かといってもし他の人がテイムして召喚してしまうと、バランス崩壊どころじゃないですから」
それは確かにそうだ。まず不可能だとは思うけど、この先れんちゃんみたいに、モンスターとただただ友達になりたいって人が出てこないとは限らないわけで。そんな人がテイムしちゃうと、間違い無く問題になる。誰も勝てなくなる。
まあ苦労した結果召喚できないっていうのは、ちょっとどうかと思うけど……。でもあれはホームにいるだけで満足感があるのは間違い無いと思う。いやあ、あのもふもふはね……。私も触らせてもらったけど、他のモンスターとは一線を画すからね……。すごいよあれは……。
「ですが、れんちゃんだけ特別に、例外を設けました」
「え。なんか、聞くのが怖いんですけど……」
「大丈夫です。悪いことにはなりませんから」
山下さんはそう言って、にっこり笑って、
「れんちゃんが恐怖を感じた時、もしくはシステム的に危険な状態と判断された時、始祖龍が自動的に召喚されてれんちゃんを守ります」
「うわあ……」
そもそもとしてシステムでPKから守られてたれんちゃんだけど、これで本当に盤石になってしまったような気がする。
でも、それぐらいならいい、かな? れんちゃんは普段はダンジョンに潜らないし、レジェが呼び出される時はよっぽどということになる。たまに私がいなくてもログインするし、あの子の守り手としてはいいかもしれない。
「いかがでしょう?」
「いいと思います!」
うん。いい。すごく、いい。私もとても安心できるからね。
「では、ミレイ様。ここから先は別件なのですが」
「え、あ、はい」
なに? なんか、ちょっと真剣な顔になってるんだけど……。何か、やっちゃったっけ……?
「ミレイ様とれんちゃんに、依頼したいことがあります」
「はい?」
「なにやら騒ぎになってるね……」
十八時になる前に、つまりれんちゃんが来る前にログインしての雑談配信です。れんちゃんのホームにお邪魔して、配信を始めての私の第一声だ。
『ほんとにな』
『廃人どもが最終ダンジョンに挑戦する人に同行してるな』
『始祖龍テイムしようとして、しゅんころされてるの草』
「ああ、あの後配信で挑戦した人がいたみたいだね。当事者の私はちょっと笑えなかったよ……。申し訳なさすぎてさ……」
その人は、やっぱりだめでしたねと笑ってたんだけど、視聴者があいつはチートだったんだ不正だとすごく騒いでたらしいんだよね。その視聴者を配信者が諫めてたのは本当に申し訳ないのと有り難いのと、複雑な気持ちになったよ。
その時の配信者さんはれんちゃんがアクティブモンスターのことを言ってた時に見てくれてたみたいで、わざわざ説明してくれて。本当に、ありがとうございます、だ。
『ところでさ』
『いるの? いるのかそこに?』
『始祖龍いるの?』
「んー? ああ、なんか今日はやたらと視聴数多いなと思ったら、それが目的?」
『むしろそれ以外に何があると?』
『ばっかお前、ミレイという美人を見て……いや何でも無い」
「おい今なんで言うのやめたんだこら。怒らないから正直に言いなさい。怒るから」
『ヒエッ』
『どっちなんだよwww』
まったく……。
光球をくるりと回して、れんちゃんのお家の向こう側を映す。
『うわ』
『まじかよほんとにいる……』
『改めて見るとでけえ……!』
ほんとにね。れんちゃんのお家がすごく小さく見えるよ。
私がそのドラゴン、レジェに手を振ると、レジェはのっそりと起きて、こちらに顔を近づけてきた。レジェの鼻を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細める。うん。意外とかわいいかもしれない。
『ラスボスとは思えないな……』
『意外と愛嬌がある……?』
『ただし戯れ一撃でプレイヤーは死にます』
「よく考えなくてもぶっ壊れだよねこの子」
戦闘では呼び出せないからいいんだけど、本当にぶっ飛んだステータスだと思う。
ちなみに山下さんとお話しした後、運営から正式な告知があって、始祖龍はテイムしたとしても戦闘には呼び出せず、ホームに居座るだけとお知らせをしてくれた。それでもテイムしたいって人が後を絶たないみたいだけどね。気持ちは分かるとても分かる。
「ちなみに、配信を見てたなら知ってると思うけど」
光球の向きを少しだけ変える。レジェの隣へと向ければ、期待通りの反応が返ってきた。
『ふぁ!?』
『なんか、なんかいるう!?』
『そうだった、テイムしてたんだった!』
そこにいるのは、オルちゃん、ヒューちゃん、ケルちゃん、キーちゃんの四匹だ。もちろん、オルトロス、ヒュドラ、ケルベロス、キマイラのことだ。
愛称で呼んでいたから、もしかすると名付け判定されるかも、なんて思ったけど、あくまで愛称として認識してもらえたらしい。名付けはされてないので、れんちゃんはここを出ると呼び出すことができないみたいだった。
まあ、あんな大きなモンスター、ほいほい召喚されたら困るんだけどね。
「オルちゃん」
れんちゃんのテイムモンスターは私にも懐いてくれる。多分、保護者特権だと思う。文句なんてあるはずもない。私だってもふもふは大好きなのだ。
顔を寄せてくれたオルちゃんを撫でてあげると、気持ち良さそうな顔になる。犬みたいでかわいい。ただ、片方を撫でるともう片方がこっちも撫でろと寄せてくるんだよね。うん。かわいい!
『うらやま』
『お前ばっかずるいぞ! 俺も撫でたい!』
『改めて見るとそいつらももふもふやん。もっふもふやん!』
「んふふー。敵として見ると二つ首とか三つ首とか怖いけど、こうなるとすごくかわいいよね」
役得役得。まあ私の役得は何よりもれんちゃんを……。
「何やってるのおねえちゃん……」
「うひぃえ!」
『れんちゃきた!』
『なんて声出してんだw』
『オルトロスがびくってしてるの草。お前ボスだろ』
振り返るとれんちゃんがこっちを見てた。怒ってるのかと思ったけど、呆れられてるだけみたい。うん。それはそれで悲しい。
れんちゃんはオルちゃんから順番に撫でていくと、レジェに抱きついて頬ずりした。れんちゃんの一番のお気に入りはレジェかな? ……あ、いや、頭にラッキーがのったままだ。ラッキーは特別なのかもしれない。
「れんちゃんが構ってくれなくて私はちょっぴり寂しいです」
『れんちゃんはあれだな、ちょっと猫っぽいな』
『構い過ぎると逃げちゃうけど、構わないでいると寄ってくるってやつ?』
『それな』
『分かる』
なるほど、れんちゃんは猫かもしれない。なるほどなるほど。
「よし想像してみよう。れんちゃんに猫耳と猫尻尾……」
『ひらめいた』
『ひらめくな』
「あ、健全な絵ならください。よこせ。変な絵書いたら通報するからね。容赦なくやるからね」
『うい。描いてくる』
『ほんとに描くのか……』
釘を刺されても描くっていうことは、ちゃんとしたイラストなのかな。それなら私も見たい。むしろ私に見せるべきだと思うのです。
それにしても、猫耳れんちゃんか……。
「鼻血でそう」
『おい保護者w』
『猫耳妹に興奮する姉がいるってマ?』
『非常に残念で遺憾ながら、マ』
「うるさいよ」
いいじゃないか、れんちゃんかわいいんだもん。
ひとしきりもふもふして満足したのか、れんちゃんが戻ってきた。ふにゃふにゃれんちゃんだ。すごく満足そう。
しかし! しかししかし! そんなれんちゃんを、もっととろとろにしてあげよう!
「れんちゃん。メッセージは読んでくれた?」
「うん! 大丈夫! やりたい!」
「了解。それじゃ、山下さんにメッセ送るよ」
フレンドリストを呼び出して、山下さんにメッセージを送るを選択する。プレイヤー多しといえども、ゲームマスターがフレンドにいるのって私ぐらいだろうなあ……。
少し前に依頼されたことを承諾する旨を送れば、すぐにありがとうございますと返信がきた。さすが、仕事が早い。
『なんだ? 何が起きてる?』
『置いてけぼりなんだけど』
『ミレイちゃん、何かするの?』
「んー? もう少し待ってね。れんちゃん、お家の前に出してくれるって」
「わーい!」
れんちゃんがぱたぱた走って行く。私ものんびり歩いてその後を追う。いや、すぐそこだから、追うってほどの距離じゃないけど。
「視聴者さんに先に言っておくけどね」
『ん?』
『なんぞ?』
「これは正式な依頼で、そして正式な報酬。もふもふともっと触れ合いたいっていう要望を運営に出した人がいて、よければどうですかってこっちに依頼があったんだよ」
『どういうこと?』
「来週の日曜日の夜だけどさ。何があるか、覚えてる?」
まあ、プレイヤーで覚えてない人はいないだろう。直接関係ないれんちゃんはそもそも興味がないみたいだったけど、参加しない私ですらそれぐらいは把握している。
『当然』
『公式イベントだな』
『ただ、戦闘関係のイベントだからなあ』
そう。来週の日曜日の夜は公式のイベントがある。メインは闘技場でのPvP大会なんだけど、闘技場の周辺ではたくさんの出店が開かれるらしい。
運営は出店希望のプレイヤーを募っていて、もうすでに上限以上の申し込みがあるんだとか。ちょっとしたお祭りみたいなものだね。
「でね。もっと動物と触れ合いたいっていう要望が多かったらしくて、闘技場の隣に一回り小さい会場が用意されることになったんだってさ。その会場が、触れ合い広場」
『あっ(察し)』
『なるほど。どういうことだ?』
『何がなるほどだったんだよw』
「うん。れんちゃんがその触れ合い広場を担当することになったのだ! つまりれんちゃんのテイムモンスもみんな行くよ!」
『おおおおお!』
『会えるのか!? 触れるのか!? このもふもふたちに!』
『運営もミレイも、そして何よりもれんちゃんありがとおおお!』
わあ。すごいコメントが流れていく。さすがに追い切れない。まあ、これだけ喜んでくれると私としても嬉しいし、れんちゃんもたくさん自慢できて……。
あ、いや、れんちゃんすごくわくわくして待ってる。すごく待ってる。さっさと説明を終わらせよう!
「というわけで、運営には先払いで報酬をもらうことになっててね。これからそれが来るよ」
『なるほど。れんちゃんが楽しみにしてるのはそれか』
『つまり、新たなもふもふを運営が用意したってことか』
『もうえこひいきを隠さなくなったなw』
『でも許せる。むしろもっと甘やかすべき』
優しい視聴者さんたちで私はとても嬉しいです。
山下さんに合図代わりのメールを送ると、お家の前の景色が歪んだ。そして次の瞬間にできあがったのは、背の低い柵だ。丸い円形の柵で、広さはれんちゃんが走り回って遊べることができるぐらい。一般家庭の一部屋分ぐらいかな? 小さい出入り口が一つだけある。
そしてさらに、その柵の中に黒い穴みたいなのがうにょんと出てきた。
『うお、なんか黒いのが……』
『効果音がwww』
『うにょんってw』
その穴から、小さなもふもふがとことこ歩いて出てくる。ふっわふわでもっふもふの子犬たち。ラッキーの色違いで、黒い子犬と茶色の子犬が三匹ずつ。
「わあ……」
『見た目で分かるもふもふっぷり!』
『やばい! すっごくかわいい!』
『いい仕事するなあ運営!』
うん、これは本当に、なんだろう。すごいもふもふ。
子犬たちは全部出てくると、思い思いに動き始める。何匹かは遊び始めて、お互いの体を上ろうとしてころんと転げたりしてる。かわいい。
れんちゃんは早速柵の中に入ると、その子犬の集まりに近づいて行った。
子犬たちがれんちゃんを見る。でも、どの子も逃げようとしない。興味深そうにれんちゃんを見ている。
れんちゃんが一匹の黒犬に手を差し出すと、ぺろ、とその子犬がなめていた。
「はわあ……」
そっと黒犬を抱き上げるれんちゃん。黒犬はふんふんとれんちゃんの匂いを嗅いでいたみたいだけど、なんだか安心したようにその身を委ねた。
これは、いい。すごくいい。かわいいが過ぎる……!
『あかん、萌え死ぬ』
『しっかりしろ! 傷は深いぞ!』
『いいなあいいなあ……。もふりたいなあ……』
ふむ。これは誘惑が強すぎたかな? ……いやその前に、私も入っていいかな。抱いてもいいかな。でもれんちゃんの邪魔をするのは不本意だし……。
と、そんなことを考えていたら、れんちゃんが黒犬を抱いたまま戻ってきた。すごく優しく抱いているのが見ているだけで分かる。
れんちゃんはそのまるっこい毛玉を、私に差し出してきた。
「はい、おねえちゃん。すっごくふわふわ!」
これはあれだよね、れんちゃん公認ってことだよね! それじゃあ、遠慮無く……。
「うわあ……。なにこれすごい……。ええ、なにこれ……」
『語彙力が圧倒的に足りてないw』
『いやでも、実際抱いてみたらこうなるんじゃね?』
『いいなあ、羨ましい……』
れんちゃんに視線を戻すと、いつの間にかれんちゃんは柵の中に戻って他の子犬と戯れていた。れんちゃんの体に他の子犬たちがよじ登ろうとしてる。
なんだか、見ているだけで和むねこれは……。
「私もうここから動きたくない。ここでずっとれんちゃんともふもふを眺める……」
『ええで』
『配信切らなければそれでよし』
『かわええのう……』
「うん。じゃあ、このまったりもふもふ空間から、追加のお知らせ一つ」
私がそう言うと、なんだなんだとコメントが流れてくる。まあ、何人かは察してるみたいだけどね。
「どうして報酬が前払いか、という話ですよ」
『え? どういうこと?』
『ああ、つまりやっぱり、そういうことね』
『おいおい、分かるように言えよ』
「うん。まあ単純な話、触れ合い広場にはあの子たちも行くことになるからね。あのふわふわもふもふな子犬たち」
おお!? コメントがすごい流れ始めた。みんな大興奮みたいだ。まあ少し狙って言ったから、成功して私としても嬉しい。
「というわけで、触れ合い広場には期待してね!」
『おk』
『超期待して楽しみにしとく』
『れんちゃんに会うのももふもふと触れ合うのも楽しみだ!』
よし。まあこの程度でいいかな。れんちゃんも、せっかく自慢できるって張り切ってるのに、誰も来なかったら寂しいだろうからね。これでみんな来てくれるはずだ。
そんなれんちゃんは、いつの間にか寝転がっていて。もふもふにまとわりつかれていた。
「何あれ楽しそう」
『あれはまさか!』
『知っているのかコメント!』
『いや知らんけど』
『知らんのかいw』
『草』
まあ知ってる方がおかしいけどね。
うん、それにしても気持ち良さそうだ。見ていて、本当に私も和む。
「それじゃあ、そろそろ終わるよ。みんな今日もありがとー」
『いかないで』
『勝手に終わるな』
『もうちょっと! ちょっとだけでいいから!』
切ろうとしたらそんなことを言われてしまった。まあ、うん。映すだけでいいなら、いいけども。
その後はれんちゃんが落ちる時間になるまで、視聴者さんたちと一緒にれんちゃんともふもふを見守ることになった。私は私で抱いたままの黒犬をもふもふ……。ああ、幸せ……。
「ところで、私もみんなも子犬子犬言ってるあの子たちだけどさ」
『ん?』
『なんだ?』
『あー……』
「あの子たち、ラッキーと同じ種族だからね。つまりは立派な狼だ」
『なん、だと……?』
『あんなかわいらしい狼がいてたまるか!』
『どこからどう見ても子犬な件について』
それについての文句は運営様にお願いします、てね。
壁|w・)だいたいこのあたりまでが、私の中での一章扱いでした。
一応まだ続いていますが、もう少し書きためてから投稿しようと思います。
具体的に言えば、なろうで三章が書き終わってからぐらい……?
その時にまた、お読みいただければ嬉しいです。
と言いつつ、明日からは掲示板回を三回ほど投稿します。
よろしくお願いします。