テイマー姉妹のもふもふ配信   作:龍翠

22 / 31
はじめてのぬいぐるみ

 夏も近づき、少しずつ気温が高くなってきたとある木曜日。私はれんちゃんのお見舞いのために病院に来ていた。もちろん学校からそのまま。まあ毎日のことだけどね。

 

「れんちゃん、きたよ」

 

 れんちゃんの暗い病室に入ると、れんちゃんはベッドの上でお昼寝していた。今日のれんちゃんのお供は白い犬のぬいぐるみらしい。よくよく見ると、なんだかラッキーに似てるかも。

 

「あー……。なるほどそういう……」

 

 少し昔を、れんちゃんと会ってまだあまり間もない頃のことを思い出してしまった。なるほど、だからラッキーか。

 れんちゃんが抱いてる小さい犬のぬいぐるみは、私が初めてプレゼントしたぬいぐるみだ。れんちゃんはそれはもうとっても喜んでくれて、そのぬいぐるみにラッキーと名付けていた。

 

 少し前に見たアニマルビデオの犬の名前がそうだったから、とか。

 最初から、あの小さいウルフを見た時から、連想していたのかもしれない。なんとなく、思い出せなかったことがとっても悲しくて情けない。

 私にとっても、大事な思い出のはずなんだけどね。

 

 れんちゃんの頭を撫でる。真っ白な、さらさらの髪。昔からここに勤めていてれんちゃんをよく知ってる看護師さんたちが、毎晩のお風呂で丁寧に洗ってケアしてくれてると聞いてる。

 新しく入ってくる看護師さんは原因不明の病気を抱えるれんちゃんを少し避けてしまう人もいるけど、気にしない人はいつも気に掛けてくれていて、感謝してもしきれない。

 

 何かお礼がしたいと思ったことが何度もあるけど、いつだってあの人たちは受け取ってくれない。それどころか、いつでも人前に出られるようにと、いろいろとれんちゃんに教えてるぐらいだ。

 みんな、れんちゃんの病気が治ると信じてくれてる。それが、とても、嬉しい。

 

「んむ……」

 

 もぞもぞれんちゃんが動いて、目を開けた。ぼんやりとした目で私を見つめて、ふんわりと笑う。

 

「おねえちゃん、おはよー」

「おはよう、れんちゃん。夕方だけどね」

「そっかー」

 

 犬のぬいぐるみを大事そうに抱えて、れんちゃんが起きる。小さな欠伸。

 

「その子、まだ大事にしてくれてるんだね」

 

 ぬいぐるみのことを言うと、れんちゃんはふんわり笑って、

 

「うん。大事なお友達。あっちのラッキーに似てるでしょ?」

「似てるね。ちょっと驚いちゃった」

「おねえちゃんは忘れちゃってたみたいだけど」

「うぐ」

 

 ジト目のれんちゃんの視線がとても痛い。いや、ほんとに、申し訳なく……。

 私が何も言えないでいると、れんちゃんはくすくす笑って、

 

「冗談だよ、おねえちゃん。わたしは毎日この子を見てるけど、おねえちゃんは最初の時だけだもん。しかたないよ」

「れんちゃんのフォローが心にしみます……」

 

 れんちゃんの棚にはぬいぐるみがぎっしりだからね。一つ一つはさすがに覚えられない。でもやっぱり、最初の子ぐらいは覚えておけよと自分でも思った。ちょっとだけ、自己嫌悪。

 

「うあー……」

「もう……。気にしすぎだよ?」

 

 私のほっぺたに柔らかいものが触れる。れんちゃんがぬいぐるみの手で私のほっぺたをぷにぷにしてた。もう……。

 

「よいしょ、と」

「わわ」

 

 れんちゃんを膝に載せて、後ろから抱きしめる。ぎゅー。

 

「もう……」

 

 れんちゃんは呆れてるみたいだったけど、抵抗はしなかった。

 

 

 

 れんちゃんは食べ物のアレルギーは全くなくて、なんでも食べる。動く機会が少ないからか量はあまり食べないけど、食べたことのないものにはいつも興味を示してくれる。

 それでも好きなものは、子供らしく甘いもの。

 アーモンドが入ったチョコレートを渡してあげると、れんちゃんは目を輝かせて早速食べ始めた。幸せそうでとってもかわいい。

 

「さてさてれんちゃん。食べながらでいいから聞いてね」

 

 チョコレートをもぐもぐしながら頷くれんちゃん。なんというか、猫じゃなくてリスみたいだ。喉をこちょこちょすると気持ち良さそうに目を細める。やっぱり猫か。

 

「次だけど、雀とかどうかな」

「すずめ?」

「そう。分かる? ビデオで見なかった?」

「んー……」

 

 こういう時、結構不便だ。

 普通なら、雀なんて説明しなくても通じる。よく電線とかにとまってる小さい鳥と説明したら、ほとんどの人が雀を思い浮かべると思う。

 けれどれんちゃんの場合は、そもそもとして外に出ない。電線もほとんど見たことがなく、そこにとまる小さい鳥なんて思い浮かべることもできない。

 そして、ペットにしている人はあまりいないために、れんちゃんがたまに見るアニマルビデオにもほとんど出てこない。だから説明がとても難しい。

 

「あとで調べてみるね。見に行くの?」

「うん。どうかなって。雀をテイムしてる人と会ったことがあるけど、ふわふわだったよ」

 

 これが間違い無くリアルと違うところで、AWOの雀はそれはもうふわふわだった。柔らかい羽毛に覆われた雀は、その小ささも相まってとても可愛らしい。手のひらの上でうたた寝する雀は見ているだけで癒やされた。

 きっとれんちゃんも気に入ってくれるはずだ。

 

「行ってみたい! どこ?」

「ファトスに近いからすぐ行けるよ。じゃあ、今日は雀さんと友達になるってことで」

「うん!」

 

 楽しみに目を輝かせるれんちゃんはかわいいなあ。

 というわけで、今日は雀さんに会いに行くことになった。

 




壁|w・)こちらではお久しぶりです。
宣伝がてら、こちらも更新しておこうかと思いました。
今回はあと何度か、毎日17時5分で投稿します。



というわけで、宣伝なのです。
この度、このお話『テイマー姉妹のもふもふ配信』が本になることになりました!
レーベルは『オーバーラップノベルス』で、6月25日に発売です……!
れんちゃんへの投げ銭代わりに、よければ是非!

詳しくは小説家になろう様での活動報告をご覧頂ければと思います!
活動報告はこちら

もしくはオーバーラップ様の広報室(ブログ?)でも詳しく書いてもらっています!
テイマー姉妹のもふもふ配信紹介ページ

是非是非、よろしくお願いします……!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。