れんちゃんのホームはとても愉快なホームだ。ログインしてれんちゃんのホームに入ると、いつも思う。もふもふがたくさんだ……!
れんちゃんのお家の側には、木の柵で囲まれた小さなエリア。ここではいつも子犬たちが遊んでる。そしてれんちゃんも遊んでる。子犬と一緒にころころ転がってる。なにあれかわいい。
ふわふわもこもこな子犬とじゃれ合うれんちゃんの写真を大量に保存しつつ、次に目を向けるのは新しくできあがった森だ。いや、ちょっと前まで林だと思ってたんだけど、気付けば鬱蒼と生い茂る深い森になってた。何を言っているのか私でもちょっと分からない。
ここにはれんちゃんが連れてきたウルフが百匹近く。他にも猫やらトラやらライオンやら。どんな森だよと言いたくなるけど、まあいっか。
お家を挟んで反対側には、最終ダンジョンでテイムした子がずらりと勢揃いしてる。この子たちは普段はずっと寝てるんだけど、ひとたびれんちゃんが遊びに誘うと、それはもう犬みたいに尻尾をぶんぶん振って遊び始める。なんというか、幼女と追いかけっこする巨大モンスはなかなかシュールな光景です。ホラーかな?
「れんちゃん」
子犬と遊んでいたれんちゃんを呼ぶと、すぐに子犬を優しく離して、こっちに戻ってきた。なんだろう、心なしか顔がつやつやしてる。そんなに良かったのかな……。
「おねえちゃんおねえちゃん」
「なにかなれんちゃん」
「お手々出して!」
「んー?」
言われた通りに手を出す。
「両手広げて!」
「こう?」
両手を広げて手のひらをれんちゃんに向けると、れんちゃんが私の手の上に何かを置いた。何か、というか、子犬だ。行儀良く私の手に座って、こてんと首を傾げて私を見てくる。
なにこれ。かわいい。なるほどこれは、かわいい!
わふん、と小さく鳴いて、私の手にすりすりしてきて、ふわふわで……!
「どう? どう?」
「かわいい!」
「でしょ!」
嬉しそうに笑うれんちゃんもかわいい! ああ、そっか、私の楽園はここにあった……!
「ところでおねえちゃん。雀さんは?」
「おっと、そうでした」
今日の目的を忘れそうになった。いやでも、私は悪くない。いきなり子犬をのせてきたれんちゃんが悪い。……れんちゃんが悪いわけないでしょうが私!
子犬をそっと地面に下ろすと、なんと自分でてこてこ歩いて柵の中に戻っていった。さすが賢い。私からもれんちゃんからも視聴者さんからも子犬子犬と呼ばれてるけど、狼だもんね。さすが狼。
「さて。それじゃあれんちゃん。配信を始めます」
「はーい」
ではでは、ぽちっとな。
ふわりと光球が現れて、コメントが流れる板みたいなものも出てきて。そしてすぐに、コメントが流れ始めた。
『新鮮な配信だー!』
『待ってたぜ! この時をよぉ!』
「ノリがうざいから終わっていい?」
『待って』
『許して』
「仕方ないなあ」
やれやれと首を振ると、れんちゃんがくすくす笑っていた。うん。遊びすぎかな。
「さてさて、今日は新しいもふもふと友達になりに行くよ」
『おお! ついに新しい子!』
『次はどこだ?』
『まだまだいるからな。タヌキとか』
「今日は雀さんだ!」
『え』
『なんか、意外なチョイス』
『雀ってそんなにもふもふだっけ?』
『テイマーしか知らないだろうな。このゲームの雀はもっふもふやぞ』
『知らんかった』
コメントがどんどん流れていく。視聴者数は、あっという間に二千をこえた。本当に、すごい増えたよね……。
「とりあえず、いきましょー」
「はーい」
れんちゃんのホームから出て、ファトスへ。向かう先はすでに懐かしく感じてしまう、草原ウルフがいるエリア。その隣にある穀倉地帯が雀のいるエリアだ。
ちなみにこのゲームの雀はプレイヤーが育てた農作物は無視してくれる。さすがにリアリティよりもゲームとしての快適性を重視したんだと思う。親切設計だね。
「さてさて、穀倉地帯に到着しました」
「ぱちぱちぱちー」
『かわいい』
『れんちゃん見てるとほんと和むわ……』
『一日の疲れが癒やされる……』
何か変なコメントが流れてる気がするけど、気にせずいきましょう。
道を、空を、あっちこっち見ると、たくさんの雀がうろうろしていた。光球を雀たちに向ける。ファトス開始の人以外はあまり雀を見ないらしいからね。しっかり映しておこう。
「おねえちゃんおねえちゃん、すごくまるっこい!」
「でしょ?」
このゲームの雀は本当にまるい。いや、まあるい。まあるい毛玉のようになってる。そんな毛玉なのにちゃんと翼で空を飛ぶ。でも、そんな動きもかわいいとテイマーの間では評判だ。
戦闘能力はあまり高くなくて、そしてノンアクティブ。ほとんどの人は気にしない子なんだけど、何かしらの依頼で討伐をしようと思うとかなり難易度が高かったりする。
まず攻撃が当てにくい。雀があまりにも小さくてすばしっこいから。そして雀からの攻撃は固定ダメージ。どれだけ防御力を上げても、必ず一ダメージは貫通してきちゃう。
まあ、この子もノンアクティブだかられんちゃんには関係ないだろうけど。一応気にしないとね。
「おねえちゃんおねえちゃん」
「ん?」
「はい」
「んん!?」
れんちゃんが差し出し当て来た手には、見慣れたまあるい小さな鳥が!
「いや早すぎるよ!」
『ほんとになw』
『確かに雀は懐きやすいけど、だからってこれは早すぎるわw』
『れんちゃん、雀はどう? かわいい?』
「かわいい! ちょっとくすぐったいけど、ふわふわしてるの。すっぽり包めちゃうんだよ」
れんちゃんが両手で雀を包むと、なるほど確かにほどよい大きさみたいだ。雀さんの顔だけがちょっぴり出てます。苦しくないのかと思いきや、なんか気持ち良さそうというか、落ち着いてる感じ。いいなあ、私もやりたい。
周囲を軽く見回してみるけど、ほとんどの雀はこちらを遠巻きに見てるだけだった。なんだろう。逃げられてるわけではないけど、近づいてもこない。ちょっと寂しい。
「まあ、仕方ないね。それじゃあれんちゃん、遊んできてもいいけど、別のエリアに行っちゃだめだよ」
「はーい」
雀を肩に載せて走って行くれんちゃん。見ていてなんだかほんわかする。
シロを呼び出して、シロにもたれかかる。ふむ。快適だ。
シロにエサをあげながら、私はれんちゃんをのんびり見守ることにした。
で、見守っていたわけですが。
「誰か説明」
『俺たちはれんちゃんを見守っていたんだ』
『れんちゃんは……れんちゃんは……!』
『着実に雀さんを友達にしていったんだ……!』
『で、気付いたらこうなってた』
「なるほど、わからん」
『大丈夫だ、俺たちもわからない』
今、私の目の前には、どう説明したらいいのかな……。毛玉がいるというか、なんというか。
れんちゃんはれんちゃんなんだけど、体中に雀がとまってる。なんだこれ。雀に覆われててれんちゃんの顔しか見えない。あと頭のラッキー。すごくへんてこ。
「お友達たくさん!」
「う、うん。そうだね」
それはいいんだけどね? いんだけどさ。どうやって雀たちはとまってるの? いや、うん。本当に、なんだこれ。
「わたし、今なら空も飛べる気がする……!」
「落ち着けれんちゃん。空はこの間飛んだでしょ。我慢しなさい」
それ以前に雀だけで飛べるわけがない。と思う。……飛ばないよね?
れんちゃんの意志を汲んだのか、それとも私に馬鹿にされたと思ったのか、雀たちが一斉に小さな翼を動かし始めた。最初は小さく、徐々に大きく。
「わ、わ、わ……!」
さすがにれんちゃんも少し慌ててるみたいだ。
そして、ついに!
『おおお!?』
『飛んだ! れんちゃが飛んだ!』
『飛んだ……飛んだ?』
「えっと……。五センチぐらい?」
ほんのちょっぴり地面から浮かび上がって、そしてそのまま止まってしまった。雀たちは今も頑張ってるけど、それ以上は飛べないらしい。
「雀さん、もういいよ?」
れんちゃんがそう声をかけると、ゆっくりと地面に降り立った。ぼとぼと雀が地面に落ちていく。疲れ切ったみたいだ。システム的に言うならスタミナを使い切った、かな?
「ごめんね、疲れたよね、ありがとう」
一羽ずつ撫でながらお礼を言うれんちゃん。撫でると姿が消えていくのは、お友達になってるからなのかな。多分、ホームに送られてるんだと思うけど。
「あー……。それじゃあ、そろそろ帰る?」
「うん!」
どうやられんちゃんも満足したみたいだ。
その後はファトスまで戻ってから、ホームに帰った。
「ホームの森にいるのは、草原ウルフと猫又が百匹ずつに、ライオンとトラが十匹ずつ。そして雀が百羽増えました」
『草』
『多すぎて理解できない』
『増えすぎじゃね?』
「ほんとにね」
れんちゃんのホーム。お家の側にある森は、それはもう巨大化してとんでもない広さの森になってしまった。縄張りがあるわけじゃなくて、テイムしたモンスはみんな仲良く生活してる。
「そして我らがれんちゃんはあんな感じです」
森の入口に目を向ければ、たくさんのもふもふに包まれてるれんちゃんがいる。いろんな子から舐められてて、それでもれんちゃんは幸せそう。
「写真ぱしゃり」
『人はそれを盗撮と言う』
『黙っていてほしくば、撮影したスクリーンショットをこちらにもよこせ!』
「仕方ないなあ、あとで投稿しておくよ」
『ありがとうございます!』
正直だなあ。
さてさて。れんちゃんは今でもとても幸せそうだけど、私としては他のモンスターも気になるところなんだよね。
まあ、そのあたりは明日決めるとしましょう。多分れんちゃんはあのまま戻ってこないだろうからね!
とりあえず、もふもふをもふもふする妹がとてもかわいいです。うえへへへ……。
『おまわりさんこっちです』
『だから手遅れだってば』
「うるさいよ」