テイマー姉妹のもふもふ配信   作:龍翠

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配信二十九回目:キツネさんと防寒具

「そんなわけで、キツネさんを探しに行きます」

「行きます!」

 

『開始一言目がそれか』

『まあ経緯なんてどうでもいいさ』

『キツネってことは、あのクエストか』

 

 午後六時半。れんちゃんのホームで配信を始めると、何故か呆れられた。まあ唐突過ぎたとは思います。うん。まあ詳しいことは説明しなくても、簡単な経緯は分かるでしょ。

 

「れんちゃんがキツネさんに会いたいらしいので会いに行く。今更そんな説明がいるの?」

 

『いらないなw』

『むしろそれ以外に理由がないw』

『れんちゃん、どうしてキツネなの?』

 

「かわいいから!」

 

 れんちゃんの即答に、微笑ましいというコメントがいくつも並んでいく。とりあえず、おまかわが多すぎる。何を分かりきったことを書いているのやら。

 

「あのね、おねえちゃんにキツネさんのぬいぐるみをもらったの。それがかわいかったんだ。だから、会いたいなって思いました!」

 

『とても分かりやすい説明です』

『いいお姉ちゃんしてるじゃないか……』

『普段とのギャップがすごい。まさか、偽物?』

 

「喧嘩を売るなら買いますが。追放の形で」

 

『やめてください死んでしまいます』

『今更この配信が見られない生活なんて耐えられない!』

『ごめんなさい許してお願い』

 

「必死すぎて逆にびっくりだよ……」

 

 さすがれんちゃん、人気者だね。れんちゃんの頭を撫でてあげると、れんちゃんは不思議そうに首を傾げてすり寄ってきた。もっと撫でて、ということらしい。今日は甘えモードかな?

 なでくりなでくりこちょこちょこちょ。

 

『おれたちは……何を見せられて……』

『甘えるれんちゃんかわいすぎないか?』

『れんちゃんは普段からかわいいだろ何言ってんだお前』

 

 まったくだ。れんちゃんはいつもかわいいです。

 とりあえず満足したので、まだ何も聞いてないれんちゃんのためにも説明を始めましょう。知らない視聴者さんもいるみたいだしね。

 

「ではれんちゃん。キツネさんのテイムのための説明です」

「はい!」

「かわいいなでくりしちゃう!」

「はやくしよ?」

「あ、はい。ごめんなさい」

 

『れんちゃんつよいw』

『飴と鞭の使い分けをしてる……?』

『普段からミレイに苦労かけられてるからな……』

 

 いや待ってほしい。私そんなに苦労かけてるかな? え、そうなの?

 れんちゃんを見る。いつの間にかラッキーを頭にのせてもふもふしていた。うん。いつも通りだ。何も問題はない!

 

「はい続きです」

 

『おk』

『時間は有限だ、さくさくいこう』

『おまいう』

 

「知ってる人もいると思うけど、キツネは普通のモンスと違って、クエスト限定のモンスです。今後のアップデートとかイベントとかで変わってくるかもしれないけど、今のところはね」

 

『ああ、どうりで。このゲームで見たことなかったけど、そういうことか』

『気付かなくても仕方ないがもったいない』

『もっふもふやぞ』

 

 そう。このクエスト、知らないとまず気付かない。そしてさらに報酬も特に良いものがあるわけじゃないから、クエストをクリアする意味もあまりない。

 検証大好きな人たちは何かあるはずだって調べてたみたいだけど、結局何も分からなかったらしい。今ではキツネやタヌキを見るためのクエストという扱いだ。

 

「ちなみに場所はファトス方面。みんなセカンに向かうから気付かないみたいだけど、その逆方向、スライムがいる森を抜けると雪山があるよ。そこがクエストの場所。ちなみに防寒装備にしないと、寒さでダメージ受けるから要注意」

 

『最初の方のフィールドでそれはちょっとひどいと思うw』

『ちゃんと山の入口にNPCがいて、装備してなかったら警告してくれるぞ』

『いやまずファトスの側にそんな山を置くなよ』

『それは言わないお約束』

 

 ほんとにね。正直私たちは慣れてしまったところがあるけど、初心者さんはちょっと困ると思う。防寒装備はちょっとだけ高いからね。店売りはされてるけど。

 

『本当にそう思うのか?』

『ニキ! 君は行方不明になっていた本当にそう思うのかニキじゃないか!』

『すまんな、やってみたかっただけで別人なんだ』

『絶許』

『ごめんて』

 

「喧嘩よくないよ。で、どういうこと?」

 

『いや、公式のホームページに周辺地域の説明文あるだろ?』

 

 え、そうなの? どうやら気付いてなかったのは私だけじゃないみたいで、そんなのあるのかって多くのコメントが流れていく。ああいうのって、あまり見ないで始めちゃうからね。

 

『そこに、雪山の綺麗な水がファトスに流れて、多くの生産業に利用されてるってあるぞ』

『まじかよ、実は重要なエリアだったのか』

 

「そんな設定あったんだね……」

 

 実はキツネやタヌキはその守り神とか、そんな扱いだったりするのかな。調べてみるのも面白いかもしれない。……まあ、検証勢がすでに調べた後だとは思うけど。

 

「よし、説明はそれぐらいにして。れんちゃん!」

「はーい」

 

 振り返ると、れんちゃんはレジェに遊んでもらっていた。大きく翼を広げたレジェに喜んでるれんちゃんは、とても年相応だ。

 いや、というか、あっちに固まってるボスモンスたちがみんな立ち上がってるんだけど。

 

「がおー!」

 

 れんちゃんが叫ぶと、ボスモンスたちも雄叫びを上げた。なんだこれ。いや本当になんだこれ。本能的な恐怖が! こわい!

 

『今ミレイがびくっとしたぞ』

『俺もびくってした。びっくりした』

『おおおおおお落ち着けお前らおれれれれおれはへいじようしんんん』

『お前が落ち着けwww』

 

 いや本当に、急にやられると怖いんだけど。れんちゃんのその、やってやったぜ、みたいなやりきったお顔はなんなの? 何の意味があったの?

 お家の前の子犬たちが一切動じていないのも逆に怖い。私が知らないだけで、もしかしてよくやってるのかな?

 

「れ、れんちゃん、急にどうしたの……?」

「え? えっとね、かっこいいところを見たいなって言ったら、やってくれるようになったんだよ。かわいくてかっこいいでしょ?」

「あ、うん……。そうだね……」

 

『ミレイ! そこで諦めるなよ!』

『お前が止めなくて誰が止めるんだ!』

 

「え、じゃあ君たちが止めなよ。私は無理。たまにがおーを見られるなら、それでいいかなって」

 

『なるほど同意』

『あまりにも早い手のひら返し、俺じゃなくても見逃さないね』

 

 街中でやるなら怒らないといけないけど、ホーム内でなら問題ないでしょ。むしろ定期的にやってほしい。次は是非とも写真がほしいところだ。

 

「うん。おもいっきり脱線したけど、れんちゃんそろそろ……」

 

『ミレイちゃんミレイちゃん!』

 

「次はなに!?」

 

 さくっと説明してさくっと行くつもりが、もうすぐ七時だよ! いつになったら出発できるのかな!? もしかしなくても説明だけで終わらないかなこれ!?

 

『防寒装備用意しておいたよ! きっといつか行くはずだって思ってたから! 雪山の前で待ってるからね!』

 

「あ、アリスか……。えと、ありがとう? でもファトスで買っても……」

 

『もこもこれんちゃん、見たくない?』

 

「是非! お願いします!」

 

 それは是非とも見てみたい! 店売りの防寒着って本当に必要最低限でかわいげも何もないからね! アリスなら、きっと分かってくれてるはずだ。

 

『もこもこれんちゃん』

『やばい、楽しみになってきた』

『はやく行こうぜさっさとしろよミレイ!』

 

「ひどくないかな?」

 

 むしろ時間かかってるの、君たちのせいでもあると思うんだけどね私は。

 ともかく、あまり待たせるのも申し訳ないので、れんちゃんと一緒に雪山に向かうことにした。

 

 

 

 ファトスから出て少し歩いて、れんちゃんにディアを召喚してもらう。れんちゃんがお願いすると、私たち二人を背中に乗せてくれた。いい子だ。

 

「もふもふごろーん」

「もふもふごろーん」

 

『この姉妹はw』

『似たもの姉妹w』

『少し羨ましい……。気持ちよさそう……』

 

 ディアは大きいからね、ごろんとできる。でもさすがに二人だとごろごろは少し危ないけど。

 ディアの背中に揺られながら、スライムの森を駆け抜ける。れんちゃんがスライムにも興味を示したけど、そっちはまた今度だ。きりがないからね。

 

「スライムさんかわいかった……」

「うん。まあ、ぽよぽよしててかわいいかな。意外と愛嬌があるし」

「むう……。キツネさんの次はスライムさん!」

「了解です!」

 

 動物じゃないからだめかなと思ってたんだけど、スライムも大丈夫なのか。忘れないようにしないとね。

 しばらくディアの上で揺られていると、すぐに森を抜けることができた。森を抜けた先は一本道が延びていて、その奥に雪山が見える。ちなみに森と雪山の間は雪原だ。

 私は以前も見た光景だから気にしなかったんだけど、れんちゃんは私の服をちょんちょんと引っ張ってきた。

 

「ん? どうしたのれんちゃん」

「ゆき」

「うん」

「あのね……。ゆきだるま、とか、ゆきがっせん、とか。してみたい」

「…………」

 

 とりあえず私は自分のことを殴りたくなった。

 れんちゃんにとっては雪も初めてだ。知識として雪だるまとか雪合戦とかは知っていても、そもそもとして雪に触れたことすらない。遊んでみたいって思うのは当たり前だ。

 でも、雪だるまならともかく、雪合戦は二人でやるのはちょっと寂しい。

 

「れんちゃん。キツネさんの後でもいいかな? どうせなら、キツネさんと一緒に遊ぼう?」

「うん!」

 

 お。納得してくれた。むしろ楽しみにしてくれてるかも。一安心だ。

 

『ああ、そうだよな。れんちゃん、雪も初めてか』

『普段から元気いっぱいだから忘れそうになるな』

『是非ともたくさん遊んでほしい』

 

 終わったら、ね。れんちゃんも、たくさんの友達と一緒に遊ぶ方が楽しいだろうし。

 雪原を走ると、すぐに雪山が見えてきた。この一本道はその雪山に真っ直ぐ続く。雪山のクエストがある場所も道の先だから迷うことはない。とても便利。

 で、その道の途中、山の入口の前に、見知った人影があった。

 

「れんちゃーん! ミレイちゃーん!」

「あ、アリスさんだ!」

 

 れんちゃんが大きく手を振ると、アリスもぴょんぴょん飛び跳ねて手を振ってきた。私と同い年ぐらいに見えるのに子供っぽい。

 アリスの隣にはエドガーさん。その隣には、彼のテイムモンスのドラゴン。アリスとエドガーさんに面識があったことに驚くけど、なんとなく、彼がここにいる理由を察してしまった。

 二人の前でディアから下りる。山の中だとディアは少し大きすぎるので、残念ながらこの子はここまでだ。

 

「ディア、また遊ぼうね」

 

 れんちゃんがディアをなでなでもふもふしている間に、私は二人に向き直った。

 

「早いね、アリス。まあ予想がつくけど」

「まあね。優秀な足を見かけたからね!」

「どうも、足です」

 

 哀愁漂うエドガーさん。ドラゴンは飛べて楽しかったのか、どことなく機嫌がよさそうだ。

 

『ファトスにいるれんちゃんたちより早いって不思議だったけど、そういうことか』

『エドガーさん、ご苦労様です』

『でも美少女と二人きりとか。裏山』

 

「だったら今すぐ代わってほしいかな。ドラゴンで飛んでる間、早くして急げって何度も蹴られたからね。女性恐怖症になりそう」

 

『草』

『いやそれでも、お前の立場が羨ましい。だって、れんちゃんと気軽に会えるんだぞ』

『それな。お前ほんと自慢するのもいい加減にしろよ?』

 

「あれー?」

 

 コメントに罵倒されまくってるエドガーさんはそのままにして、私は早速アリスから衣装を受け取った。れんちゃんと、私の分。うん、いいかも。

 

「れんちゃんやーい」

「はーい」

 

 ディアがいなくなってちょっとだけ寂しそうなれんちゃんがすぐに駆け寄ってくる。おっと、抱きついてきた。とりあえずぎゅー。

 

「れんちゃんの防寒着をアリスからもらったよ!」

「わ! ありがとうアリスさん!」

 

 にっこり笑顔でお礼を言うれんちゃん。うん、アリス。すごく笑顔がだらしないよ。でへへ、なんて効果音が聞こえてきそうなぐらい。

 とりあえずれんちゃんに服を譲渡して、早速着てもらった。

 れんちゃんの防寒着は、薄い青色の毛糸の帽子に、真っ白なもこもこセーター。下はスカートだけど、もこもこが足を覆ってる。手袋ももこもこ。全体的にもこもこ。

 

「まさにもこもこれんちゃん。何これかわいい。写真写真」

 

『かわいい』

『もこもこしてる!』

『れんちゃんれんちゃん! くるっと!』

 

「んー? こう?」

 

 れんちゃんがその場で一回転。かわいい。何度も言う。かわいい。もう一回言う。かわいい。

 

「大事なことなので三回言ってついでに三回言う! かわいいかわいいかわいい!」

 

『落ち着けお姉ちゃんw』

『間違い無く俺たちよりも興奮してるw』

『こんな保護者で大丈夫か?』

『大丈夫じゃないけど手遅れだ』

 

 いやだって、本当に、かわいい。もこもこっていいよね。とりあえず後ろからぎゅっとしてみる。おお、ふわふわもこもこ……。

 

「あったかい……。アリスさんありがとー!」

「いえいえ、どういたしまして。……すごいね、ミレイちゃんが急に抱きしめても動じてないよ」

 

『日常茶飯事なんやろなw』

『てえてえ……?』

『てふてふ』

『なんて?』

 

 いやあ、役得役得。お前らが何を言おうとも、この場所は譲らないよ。ふふん。

 

「アリスさん。このちっちゃい帽子ってもしかして……」

「うん。ラッキーの帽子」

「わあ!」

 

 頭で寝ていたラッキーをれんちゃんが両手で持ち上げる。起きたラッキーがふわ、と眠たそうに欠伸をして、小さく震えた。さすがに寒いのかな?

 そんなラッキーの頭に、れんちゃんが小さな帽子を被せてあげた。れんちゃんとお揃いの帽子だ。ラッキーは不思議そうに首を傾げていたけど、すぐに嬉しそうにれんちゃんのほっぺたを舐めた。まあ、多分、分かってはないだろうけど。

 

「ラッキーかわいいよ!」

「わふん」

 

 おまかわ。

「おまかわ」

『おまかわ』

 

 うん。みんなの心が一つになった気がする。

 

「おねえちゃんは?」

「ああ、うん」

 

 れんちゃんから離れて、私もアリスからもらった衣装を装備した。

 私の方はシンプルだ。赤いコートで、首回りがちょっともふもふ。生地は柔らかい素材みたいで、なんだかちょっとマントみたいにひらひらしていた。

 シンプルだけど、ちゃんと防寒具扱いみたいでぬくぬくしてる。うん。いいと思う。

 

「ミレイちゃんは鎧を装備することもあるからね。ちょっとシンプルにしてみたよ」

「うん……。ありがとう、アリス。気に入った」

 

 悪くない。むしろ私の趣味だ。さすがアリス、分かってる。

 

「おねえちゃん! くるって! くるって!」

 

 れんちゃんの要望があったのでその場で一回転。くるっと。ほれほれ、どうかなれんちゃん。

 

「おねえちゃんかっこいい!」

「そっかそっか。よしアリス、言い値で買おう!」

「うん。落ち着こうかミレイちゃん。前も言ったけどあげるから」

 

 さすがアリス太っ腹! いや、まあ、実際は請求されても払えないんだけどね。アリスの服って高いからね……。いや、本当に、頭が上がらない。

 

「いつもありがとうございます」

 

 深々と頭を下げると、アリスが少し慌てたのが分かった。

 

「いやいや急にどうしたの!? いいから! そんなのいいから!」

 

 それよりも、とアリスが続ける。

 

「れんちゃんに、お願いしたいことがあってね……」

「なあに?」

「その、今度でいいから、ホームに呼んでほしいなって。私もレジェをもふもふしたい……!」

 

 ああ、そう言えば……。アリスは、結局レジェに触ってないんだよね。れんちゃんがレジェをテイムした後、アリスはイベントが始まったみたいで、終わった時にはセカンの広場にいたそうだ。私たちも気付いたら同じ場所にいて、レジェはすでにいなかった。

 当たり前と言えば当たり前で、あんな街中で始祖龍が出てきたら大騒ぎだ。アリスはクリアの喜びなんて吹っ飛んでもふもふできなかったことを心の底から悔しがってたけど。

 

 あの後はれんちゃんがログアウトしないといけない時間だったからすぐに解散したけど、そうだよね、アリスも触りたかったよね。

 れんちゃんはぱちぱちと目を瞬かせた後、

 

「いいよ!」

 

 にっこり笑顔でそう言った。

 

「ありがとうれんちゃん! 楽しみにしてるね……!」

 

『くっそ羨ましいんだけど』

『まあまあ。俺たちもイベントの時には触れ合えるわけだし……』

『ああくそ、今から楽しみすぎる……!』

 

 羨ましい、というコメントが多いけど、さすがに全員招待なんてできないししたくない。アリスなら歓迎するけど、正直エドガーさんでも微妙なところだ。

 ホームはれんちゃんの聖域だ。だからこそ、招待する相手は慎重に選びたい。

 

「まあでも、今はキツネさんだよね。邪魔してごめんね!」

 

 アリスとエドガーさんが一歩下がる。エドガーさんはひらりとドラゴンにまたがった。なにあれかっこいい!

 れんちゃんもきらきらとした瞳でエドガーさんを見つめていて、エドガーさんは照れくさそうに頬をかいた。

 

『処す? 処す?』

『処す』

『エドガー。戻ってきたら覚悟しておけ』

 

「なんで!?」

 

 うん、まあ、なんだ。がんばれエドガーさん!

 

「それじゃあ、またね!」

 

 手を振るアリスとエドガーさんに、私たちも手を振る。そしてドラゴンはあっという間に見えなくなってしまった。

 

「さてさて……。気付けば時間も残りわずか。せめて、村までたどり着きたいかな」

「村?」

「そう。そこでクエストがあるんだよ」

 

 というわけで、出発だ。入口の側にいるNPCに頭を下げて挨拶して、横を通る。れんちゃんも同じようにしていた。何故かその頭のラッキーも。ぺこって。

 さくさくとした雪特有の感触に、れんちゃんは顔を輝かせていた。私の見える範囲でラッキーと走り回ってる。すごく楽しそうだ。

 

「あはは! すごい! 気持ちいい!」

 

『れんちゃん楽しそうだなあ』

『初めての雪なら感動するだろうな』

『雪なんていいものじゃないって思ってたけど、少し好きになった』

『北国の人か。大変だよな』

 

 こんなに喜ぶなら、先に雪遊びしても良かったかもしれない。まあでも、今更か。時間も残り少ないし、まずは村に到着してから考えよう。

 れんちゃんと一緒に雪に覆われた道を歩いて行く。リアルだと絶対に途中で疲れるこの道も、ゲームだけあって楽に歩いて行ける。れんちゃんもずっと走り回ってるぐらいだ。そろそろ落ち着いてほしいけど。

 十分ほど歩き続けて、やがて小さな村にたどり着いた。

 

「わあ……」

 

 れんちゃんの目がきらきらしてる。すごくわくわくしてる。こっちを先にして正解だったかな。

 村そのものは何の変哲もない村だ。木造の家がいくつかあって、雪に覆われた畑らしきものもある。池は凍り付いていて、道具さえあればスケートもできるかもしれない。

 そんな村に、キツネはいる。テイマーの村なのかと思ってしまうほどで、それぞれの家にキツネが必ず一匹いるのだ。外に出て遊んでいる子もいるけど、ほとんどは家の中で丸まってるんだけどね。

 れんちゃんはそれはもううずうずしていた。分かる。とても、分かる。すごくもふもふだからね、ここのキツネ。

 

『すげえ。なんだこのキツネ』

『遠目でも分かるもふもふ感!』

『はやく近くで見たい!』

 

 ここのキツネを知らない視聴者さんもいるみたいだね。キツネがすごく楽しみらしい。

 それじゃあ、行くとしましょうか。

 

「れんちゃん。まずは村長の家に行くよ」

「き、キツネさんは? キツネさんはまだ?」

「んー……。気持ちは分かるけど、先にクエストだけ発生させておこうね。明日のお楽しみで。ね?」

「うう……。わかった……」

 

 すごいしょんぼりしてる。そのしょんぼりした姿を見てもほっこりしちゃう。コメントも微笑ましいといったものばかりだ。

 村長の家は村の中央にある大きな家だ。大きな家といっても、木造二階建ての家だけど。ちなみに他の家に二階はないのでこれでも一番大きい。

 村長の家の扉を叩くと、すぐに扉が開かれた。

 

「おや、いらっしゃい。旅の人かな?」

 

 初老の男の人。おひげたっぷり。いかにも、

 

「ザ・村長って感じだよね」

 

『わかる』

『でも今言うことじゃないw』

『村長が困惑しておられるぞ』

 

「おっとすみません。はい旅人です。疲れたので泊めてください」

 

『ストレート過ぎるw』

『ちなみに本来はもう少し会話があります』

『こいつ面倒だからってすっ飛ばしたな』

 

 だってショートカットできるんだし、いいかなって。私はこのクエスト、終わってるしね。

 このクエストは何度でもクリアできるのだ。だからこうしてれんちゃんと一緒に受けることもできる。まあ、だからこそ、何かあるのではとか思われてるわけだけど。

 

「うむ。小さい村ゆえ、宿がないからな。泊まっていきなさい」

 

 村長が中に入れてくれるので、れんちゃんと一緒に入る。

 村長の家は中央に囲炉裏がある。ちなみに煙は空中でどこかに消える不思議仕様です。絶対開発の人面倒になったな。

 囲炉裏の上にはお鍋があって、くつくつと何かが煮込まれている。晩ご飯で食べさせてもらえます。

 どうぞ、と座布団を出してくれたので、座らせてもらった。

 

「あ」

 

 れんちゃんも座ろうとして、部屋の隅にいるキツネに気が付いた。私は知らなかった。あんなところにいたのか。

 

「あ、あの! キツネさん! キツネさん!」

「ん? ああ、儂がテイムしているモンスターだよ。遊んでやってくれ」

「わーい!」

 

 れんちゃんが嬉しそうにキツネさんの元に向かっていく。村長は柔らかい笑顔でそれを見ていた。これがNPCなんだから、本当にすごい。

 れんちゃんはキツネと見つめ合って、ゆっくりと手を伸ばした。キツネはしばらくれんちゃんを見つめていたけど、その指を舐める。おお、れんちゃんの顔が輝いた。

 れんちゃんが両手を広げて、キツネがそこに飛び込んで。

 

「えへへ……ふわふわだあ……」

 

 丁寧にキツネの背中を撫でるれんちゃん。キツネは身を委ねていて、気持ち良さそう。いいなあ、まざりたい。

 

「ということであります。引き受けてくださりますか?」

「いいですよ引き受けます」

 

『おおおい!? 話全然聞けてないんだけど!』

『俺も。れんちゃんに意識いってたw』

『ミレイも完全無視してたしなw』

 

「いやだって、一度聞いたし……」

 

 このクエスト、別に特別なストーリーがあるわけじゃないのだ。むしろ内容としてはとてもありきたりなもの。近くにモンスターの親玉が棲み着いたのか畑を荒らされてしまうので討伐してほしい、という内容だ。

 

「そんな話を聞くぐらいなら、私はれんちゃんを愛でる!」

 

『わかる』

『全面的に支持しよう』

『そしてさりげなくれんちゃんを捕獲するなw』

 

 キツネを抱き上げていたれんちゃんをさらに私が抱き上げて、膝の上に載せる。後ろから抱きしめると、れんちゃんが不思議そうにこちらを見つめてきた。

 

「おねえちゃん?」

「なんでもないよ」

「そっかー」

 

 れんちゃんは再びキツネのもふもふに戻った。

 

「尻尾おっきいねえ……。ふわふわしてる……」

 

 れんちゃんがそんなことを言うと、キツネが尻尾でれんちゃんの顔をくすぐった。嬉しそうに笑いながらキツネを抱きしめて……。ほんわかしてきた。

 

「キツネの尻尾ってすごく気になるよね。抱きしめて寝たい」

 

『キツネの尻尾抱き枕ってのが昔あったなあ』

『え、なにその魅惑的なもの』

『普通に欲しい』

 

「おなじく。何か情報あったらよろしく」

 

 調べてくれるらしいので、視聴者さんにそのあたりはお任せしよう。

 キツネをもふもふするれんちゃんを、さらにもふもふする私。もこもこれんちゃんなので抱き心地が抜群だ。やわらかもこもこれんちゃんだ。とりあえずのどをこちょこちょ。

 

「んう……」

 

 くすぐったそうにしながら、私に体重を預けてくる。それでもキツネもふもふはやめないあたり、さすがれんちゃんだ。

 なんとなく幸せな気分に浸っていたら、耳にアラーム音が聞こえてきた。私にしか聞こえないアラーム音。時間を確認すると、夜の八時五分前。れんちゃんのログアウトの時間だ。

 

「れんちゃんれんちゃん。時間だよ」

「えー……」

「気持ちは分かるけど、ログアウトしましょう。明日から制限されちゃうよ」

 

 それはやだ、とれんちゃんは残念そうにしながらキツネを床に下ろす。キツネもお別れの時間だと分かったのか、尻尾をふりふりしてれんちゃんに挨拶していた。なんだこのかわいい毛玉。

 

「キツネさん、また明日ね」

 

 れんちゃんが撫でながら言うと、キツネは小さく一鳴きした。

 


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