テイマー姉妹のもふもふ配信   作:龍翠

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配信三十一回目;雪遊び!

「いやあ、ぬいぐるみ自慢するれんちゃんはかわいかったね!」

 

 れんちゃんのホームに来て、配信をさっさと始めてそう言った。

 

『挨拶ぐらいしろよw』

『でも全面的に同意する』

『え、なに? 何があったんだよ』

 

 病室での配信を見てなかった人もいるみたいだね。告知もせずにいきなり始めたから、当然だとは思うけど。

 

『もったいないな。夕方にリアル配信あったんだぞ』

『れんちゃんの病室配信だ』

『ぬいぐるみを自慢するれんちゃんはとてもかわいかった』

『なにそれ!? うわ、くそ、まだ仕事中だよその時間!』

 

 ああ、なるほど。夕方だとお仕事もあるし、学校で部活してる人もいるよね。そう言えば、視聴者数もいつもより少なかったし……。

 でもこればかりは許してほしい。だって面会時間が決まってるから。

 

「見逃した人は後で見てください。過去の配信って見れたよね?」

 

『問題ない。見れる』

『むしろ毎日過去放送見てます』

『同じく。お気に入りはれんちゃんのソロ配信』

『いたずら失敗配信かw』

 

 ああ、最初の方のやつか。私としては、ちょっぴり苦い記憶でもある。まあ、見守るのも楽しかったけど。

 

『で、れんちゃんは?』

 

「アリスたちを待ってるよ。待機中」

 

 光球をお家の前、柵の中に向ける。いつものようにラッキーを頭にのせて、さらに両手で子犬を抱えたれんちゃんが、見て分かるほどにわくわくした様子で待っている。

 誰かを招くのは初めてだから楽しみなんだって。少しだけ、ちょっぴり、緊張もしてるみたいだけど。来るのはアリスとエドガーさんだから、大丈夫でしょ。

 アリスからは準備ができたらすぐに行くと連絡がきてる。なのでのんびりアリスを待ってるところだ。

 

「アリスが来るまでは子犬を抱えてたまに頬ずりするれんちゃんをお楽しみください」

 

『どういうことなの』

『いや、普通に言葉通りの意味だろ』

『ほんとだ。たまに頬ずりしてる』

 

 待ってるだけだと退屈なのか、れんちゃんは時折子犬をぎゅっと抱きしめたり、頬ずりしたりと楽しそうだ。頬もにやけてる。かわいい。

 そんな風に視聴者さんたちとれんちゃんを見守っていたら、不意にメニュー画面が開いた。内容は、プレイヤーアリスがれんのホームへの訪問を希望しています、というもの。許可しますかと出てきてるから、はいを選択すればアリスがこのホームに入ってくることになる。

 れんちゃんがこっちを見つめていたので、とりあえず報告しよう。

 

「アリスが来れそうだけど、許可していい?」

「うん!」

 

 元気なお返事。ではでは、早速。

 ぽちっとな。

 

 すぐにアリスとエドガーさんが転移してきた。人の転移の瞬間ってあまり見る機会がないんだけど、こうして見るとちょっと拍子抜けというかなんというか。突然出てくるから驚くけど、その程度。

 アリスはきょろきょろと周囲を見て、れんちゃんを見つけて声を上げた。

 

「れんちゃん!」

「アリスさんいらっしゃーい!」

 

『ぴょんぴょん飛び跳ねるれんちゃんかわいい』

『それ以上にやっぱりくっそ羨ましいんだけど!』

『いいなあ行きたいなあ!』

 

 れんちゃんが大人気で私としても嬉しいけど、ここはれんちゃんの聖域だからね。さすがにだめです。

 そして、れんちゃんはと言えば。

 

「アリスさんエドガーさん!」

「うん?」

「なにかなれんちゃん」

 

 二人がれんちゃんを見る。私はそっと耳を押さえた。何をしようとしてるのか、知ってるから。

 

「がおー!」

 

 れんちゃんのがおーと同時に、咆哮を上げるテイムモンスたち。レジェはもちろん、オルちゃんたちもディアたちも、同時咆哮。

 

「うひゃ!」

「うお……!」

 

 二人とも驚いてる。目をまん丸にしてる。やると知ってる私でも驚くからね。当然の反応だ。いや、ほんと、レジェ単独の咆哮なら私も慣れてきたけど、まとめての咆哮は本当に怖い。分かってても身構える。それぐらい怖い。

 

「みんなありがとー!」

 

 そんな怖いモンスたちは、れんちゃんにお礼を言われるとそれはもう嬉しそうにぶんぶん尻尾を振っていた。本当にこの子たち、れんちゃんのことが好きだよね。

 コメントを見る。咆哮で阿鼻叫喚の騒ぎだけど、まあ、うん。そのうち落ち着くでしょう。

 

「それにしても、アリスは面白い悲鳴を上げるね。うひゃ、だって。うひゃ!」

「ミレイはひどくないかな!? あれは本当に、怖いから。やってくるかな、とは思ってても怖いから」

「うん、知ってる。何度も聞いてる私でも驚くから」

 

 不思議なことにれんちゃんは全く動じない。それどころか、あれをやるといつも嬉しそうだ。今ではログインの時のお楽しみになってる。

 まあ、それはともかく。

 

「ではではれんちゃん! あとアリス、ついでにエドガーさん!」

「俺はついでか。いや、いいけどね」

「さくっと雪山に行くよ!」

 

 というわけで、移動開始。いや、近いけどね。

 みんなで防寒具を着て、雪山に向かいます。

 

『もこもこれんちゃん。やっぱりかわいいな』

『ぬくぬくしてそうだよね。アリスはミレイの色違いっぽい?』

 

 アリスを見てみると、なるほど確かに私と似たデザインだ。私の視線に気付いたみたいで、アリスがにやりと笑った。

 

「うん。ミレイちゃんとお揃いだよ。本当はれんちゃんの色違いにしようかと思ったけど、多分怖いお姉ちゃんが怒ると思ってね」

「私を差し置いてれんちゃんとお揃いとか、絶対に許さないよ。絶対に」

「あ、はい。うん。大丈夫。作ってないから」

 

『こえーよw』

『こいつ、これで平常運転なんだぜ』

『平常だけどまともではない』

 

「うるさいよ」

 

 君たちこそいつも失礼すぎると私は思います。

 さて。雪山の周囲は仕様なのか分からないけど、雪原になってる。雪遊びをするならこの雪原が一番だ。ちなみに雪山は雪山で、凍った池のスケートリンクや、木がまったくなくて坂道だけのスキー場みたいなところもある。まさに至れり尽くせりだ。

 

「まあ全てお金の力だけどね!」

 

『草』

『本当に事実だからなw』

『雪山の機能拡張だっけ。こんなのがあるならもっと早く知りたかったよ』

 

 ほんとにね。

 雪山がホームに加わると、課金メニューが増えるのだ。雪山の機能拡張が数種類。池のスケートリンク作成だったり、スキー場作成だったり、雪原エリア拡大だったり。

 もちろんすぐに買いました。幸い、投げ銭はあの後も続いていて、コインに困ってないから余裕なのだ。なのでこの雪山はれんちゃんの遊びスポットになってます。もちろん、モンスたちもたくさん住んでるよ。

 

「まずは何する?」

「夜の八時までだからね。二時間近くあるとはいえ、有効活用しないと」

「れんちゃんは何をしたい?」

 

 三人でれんちゃんを見る。頭のラッキーを撫でていたれんちゃんは、え、と一瞬固まって、視線を泳がした。その後、上目遣いに私を見て、

 

「おねえちゃんと一緒なら、なんでもいいよ……?」

「れんちゃんはかわいいなあ!」

 

 本当にもう、れんちゃんはすごく嬉しいことを言ってくれる。だから、抱きしめようとしたら、何かがれんちゃんを真横から突き飛ばした。

 何か。そう、白い毛玉みたいなもの。

 あんぐりと口を開けて固まるアリスに思わず苦笑して、れんちゃんを見る。

 

「あはは、や、くすぐったい……!」

 

 れんちゃんを押し倒してぺろぺろ舐めてるのは巨角ウサギだ。以前、配信中にテイムしたフィールドボス。もふもふウサギさんだ。

 れんちゃんと会えたのが嬉しいのか、れんちゃんを舐め続けてる。れんちゃんもそんなウサギをぎゅっと抱きしめて、見てるだけで微笑ましい。

 

『おお、巨角ウサギ。配信に出てくるの久しぶりだよな』

『やっぱりウサギもいいよな』

『襲ってこなければ本当にただのウサギだからな』

 

「ちなみに草を食んでる姿が私は最高だと思います」

 

『わかる』

『あれはあれでとても癒やされる……』

 

 そんなかわいいウサギだけど、私としてはれんちゃんとのスキンシップを邪魔されてとても不愉快です。ウサギ鍋にしちゃうぞ。

 あ、ウサギがこっちに振り返った。なんか、私にとびついてきた。甘えてきた。

 

「そ、そんな甘えてきても、許さないんだからね……!」

「そう言いつつでれでれだよミレイちゃん」

「だってもふもふかわいいし!」

 

『さっきまでのいらいらしてる表情はどこへ』

『単純だな、と言いたいけど、そのもふもふの誘惑には俺も勝てそうにない』

『いいなあ、ウサギ……』

 

 いや、ほんとうに、ふわふわもふもふ……。

 いやいやそんなことよりも、何するかだよ。何に時間使ってるのかな!?

 

「れんちゃん、雪遊びは調べた?」

「うん!」

 

 れんちゃんには前もって、どんな遊びをしたいか聞いておいたのだ。そもそも雪遊びをあまり知らないみたいだったから、ちょっと調べるということだったけど。

 

「あのね。あのね。かまくらに入りたい!」

「なるほどかまくら」

「いいよねかまくら。子供の憧れだよね」

「いや、納得してるけど、二人は作って入ったことあるの?」

 

 あるわけないじゃないか。アリスと二人で黙って目を逸らすと、エドガーさんに笑われてしまった。

 

『ないのかよw』

『いやまあ、ある程度雪が降らないとそもそもとして作れないぞ』

『それはそうだけど、そうなら言えよと』

 

 私だって見栄を張りたい時ぐらいあるんだよ。ほっといてほしい。

 とりあえずかまくらは作ることに決定。でもれんちゃんの言い方から察すると、かまくらに入りたいだけで、自分で作りたいってわけでもないみたいだ。

 なので、かまくらに関しては私が作ることにしよう。

 

「あとは、雪だるまと雪合戦!」

 

 ふむふむ。

 

「じゃあまずは雪合戦だね。先に他を作ると余波で壊しちゃうかもだし」

 

『まって』

『余波で壊すとは』

『大丈夫? 雪合戦だよ?』

 

「分かってるよ」

 

 私が住んでる地域はあまり雪は積もらないけど、それでも雪合戦ぐらいは知ってる。当たり前だ。でも、ここにはテイムモンスたちがいるからね。ただの雪合戦で終わるわけがない。

 

 というわけで、チーム分けです。

 

「れんちゃんともふもふな仲間たち!」

「わーい!」

 

 れんちゃんは一人だけど、その代わりテイムモンスの参加を許可だ。たくさんいるよ。ディアもいるし白虎もいるし、なんならオルちゃんたちまでいる。レジェはその後ろでのんびりこっちを眺めてる。

 

「ばーさす! ミレイと愉快な仲間たち!」

 

 こちら側はなんと三人だ。私とアリスとエドガーさん。いやあ、一対三とか、すごく不公平だよね! ごめんねれんちゃん、勝負は非情なのだ!

 

「いやいやミレイちゃんミレイちゃん」

「なにかなアリス」

「人数差ァ!」

 

 ふむ。人数差。

 

「私たちが三人。れんちゃんは一人。なるほど確かに不公平だね」

「いや違うから! あっちのテイムモンス何匹いると思ってるの!?」

 

『これは草』

『ひどい戦力差だwww』

『なるほど、確かに一対三だな。れんちゃんはテイムモンスに頼ってるだけだもんな』

 

「テイムモンスを人数に入れるとか、テイマーさん全員を敵に回すよ」

「いやいや! いやいやいやいや! 数! 数! あっちの数!」

「うん……。大丈夫だね!」

 

 たくさんいる。だからなんだと言うんだろうか。アリスは騒がしいなあ。

 

「え、なにこれ。私が悪いの!? エドガーくんも何か言ってよ」

「いやいや、アリス。考えれば分かるよ」

「なにが!?」

 

 あははー。あっはっはー。

 

「これじゃあこっちの勝ち目がないから! 可能性がとても低いじゃなくて、ないから! 勝てるわけないから!」

「アリスは不思議なこと言うね。れんちゃんに勝つつもりでいたの?」

「え」

 

 にっこり笑って問いかける。どうして固まるのかなアリス。顔が青くなってるよアリス。不思議だね。

 

「本当に勝つつもりでいたの? それなら、残念だよ。開始すぐに、私がアリスを倒すから」

「味方が……いない……?」

「よっしそれじゃあ、始めましょう!」

「ちょお!?」

 

 私が開始を宣言してすぐに、蹂躙が始まった。

 

 

 

「ガアアァァァ!」

「うぴゃああぁぁ!」

 

 ちょっと離れたところで、ケルちゃんの咆哮とアリスの悲鳴が聞こえてくるけど。

 

「気のせいだね」

 

『ひどいw』

『助けようとは思わないのかw』

 

「助けたところで勝てるわけないしね」

 

『これは間違い無く鬼畜の所業w』

 

 失礼だなあ。

 私はただいまかまくらを作るために、雪合戦から少し離れています。アリスとエドガーさん、まあ二人で何とかするでしょう。

 実際には、れんちゃんも不公平だとは思ったみたいで、雪合戦に参加してるモンスはオルちゃんとケルちゃんだけだ。いや、まあ、この二匹を選んだあたり、れんちゃんも負けず嫌いなのかもしれない。正直に言えばその二匹が出てきただけで戦力差がおかしいからね。

 でも、れんちゃんを見ると楽しそうだし、これでいいと思う。あ、れんちゃんはケルちゃんに乗ってるんだね。……いや、あれは当てられないでしょ物理的に……。

 

「アリス。エドガーさん。君たちの犠牲は無駄にはしないよ……」

 

『草』

『無駄にはせずにかまくらを作ります』

『れんちゃんの要望だからね! 仕方ないね!』

 

 そう、れんちゃんがかまくらを望んでるのだ!

 というわけで。ここで問題が一つ。

 

「かまくらってどうやって作るの?」

 

『知らないのかよw』

『まあ俺も知らないけどな』

『同じく』

 

 困った。どうやら視聴者さんの多くが知らないらしい。仕方ない、今から調べて……。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか足下に何かが来ていた。

 

「お。白キツネだ」

 

 私の足下にすり寄ってきてたのは、あの雪山で真っ先にれんちゃんに向かった子だ。ふわふわの尻尾をふりふりさせてとても可愛らしい。抱き上げてみると、白キツネは嬉しそうに短く鳴いた。かわいすぎる。

 

「どうしたの?」

 

 優しく撫でながら聞いてみると、白キツネは短く鳴いて、すぐに私の腕から下りてしまった。むう、もうちょっともふもふしたかった。

 

『ミレイの表情w』

『残念そうだな』

『本当に白いのは他よりもふもふだよなあ』

 

 撫で心地も抜群でした。いやあ、役得だね。

 白キツネは私から離れて、ぺしぺしと地面を叩く。何してるんだろう。

 不思議に思いながら見守っていると、白キツネが今度は大きく鳴いた。その瞬間、雪がいきなり盛り上がってきた。

 

「わわ!?」

 

 すぐに大きな雪玉になった。雪玉、というか、ドームみたいなもの。半球みたいな感じだね。そして今度は白キツネが雪玉を掘り始めた。

 

「ん……? これを掘れば、かまくらになるのかな?」

 

『さあ?』

『何事もやってみればいいさ』

『レッツチャレンジ!』

『なあに、崩れてもミレイが生き埋めになるだけさ!』

 

「それは嫌なんだけど」

 

 白キツネを真似て、私も手で掘っていく。スコップぐらい買っておけばよかった。リアルと違って、手で掘っても冷えすぎることはないけど。ちょっとだけ冷たく感じる程度だ。

 私と白キツネがそんなことをしていたら、ウルフや猫又たちも集まってきて、みんなで掘り進めることになった。

 そして、数が数だからか、あっという間に中が空洞の雪のドームができあがった。

 

「完成! これ、かまくらでいいかな」

 

『いいのでは?』

『十分だと思う』

『まるで俺の頭のよう……』

『おいやめろ。俺にもダメージが来るだろうが』

 

「……?」

 

『分かっておられない』

『若いって、いいよね』

 

 本当に何言ってるんだろう。

 まあ、いいか。うん。いいや。とりあえず完成したのでれんちゃんを呼ぼう。

 

「れんちゃんやーい」

「はーい!」

 

 おお、すぐに反応があった。見ると、アリスとエドガーさんがオルちゃんとケルちゃんの下敷きになってる。何がどうなってそうなったんだあの二人。

 でも、どことなく幸せそうなのは何故だろう。

 

「変態さんかな……?」

 

『そのレッテルはさすがにかわいそうだからやめてやれ』

『もふもふの下敷きだからな。もふもふしてて幸せなんだろう』

『うんうん。うん……? 十分変態さんでは?』

『しゃらっぷ! 気付いちゃだめなやつ!』

 

 なるほどやはり変態さん。

 

「おねえちゃん!」

 

 おっと、いつの間にかれんちゃんが目の前に。いつの間にか白キツネはれんちゃんに抱かれていた。白キツネさん、ご満悦である。すりすりとれんちゃんに頭をこすりつけてる。本当に、すごくれんちゃんに懐いてるよね。かまくらも、れんちゃんが見たがってたから手伝ってくれたんだろうし。

 そう言えば、あの雪玉は白キツネのスキルなのかな。私はあの子のステータスを見れないから分からないけど、白キツネの種族名を考えると、その可能性は十分ある。

 

 ちなみに白キツネの種族名はスノウフォックス。思わずそのまんまかい、と突っ込んでしまった私は悪くないと思う。

 で、その白キツネだけど、れんちゃんに甘えるのに満足したのか、いやあれでも満足してないのか、今度はれんちゃんの首に器用に巻き付いていた。

 

「白キツネさんのマフラー!」

「よしれんちゃん動かないで。ちょっと写真撮りまくるから」

「え、あ、うん」

 

 れんちゃんが戸惑ってる間に激写激写! いやあ、いい絵だね! もこもこれんちゃんに白キツネさんのマフラー、まさにこれは!

 

「ふわもこれんちゃん!」

 

『お前はいきなり何を言ってるんだ』

『まあ言いたいことは何となく分かるけど』

『だがあえて言おう。落ち着け』

 

「だが! 断る!」

 

 次いつ見られるか分からないからね! 今のうちに、たくさん撮らないと!

 

「んー……。おねえちゃん」

「なにかなれんちゃん!」

「おねえちゃんが見たいって言ってくれたら、いつでも着替えるよ?」

 

 そう言って、ふんわり笑うれんちゃん。

 

「私の妹が天使すぎる。かわいい」

 

『わかる』

『なにこの天使』

『あかん、死ぬ』

 

 やはり私の妹は世界一だ。間違い無い。異論は聞こえない。

 

「かまくら完成してるよ。その子が頑張ってくれました」

 

 そう言うと、れんちゃんは少しだけ驚いたみたいで目を丸くして、白キツネさんを撫でた。

 

「ありがとう」

 

 白キツネさんが嬉しそうにれんちゃんに頬ずりしてる。いいよね、こういうの。

 とりあえず、せっかく作ったのでかまくらに入ることにしましょう。いや、私が手伝えたのってほんの少しだけだけど。

 

 今回作ったかまくらは、少し大きめのサイズだ。ディアが入るとなると厳しいけど、人なら四人ぐらいは余裕で入れると思う。

 かまくらには雪で作った椅子とテーブル。ウルフたちがかりかり削って作ってて、それはそれでかわいかった。三匹ほどがくるくる回って雪の塊を削っていくのは見てて面白かった。

 

「ああ! かまくらもうできてる!」

 

 おっと。アリスが戻ってきた。先に入ってた私たちに続いてアリスも入ってくる。中央の何もないテーブルを見て、にやりと笑った。

 

「れんちゃん」

「なあに?」

「おもちとか、どう?」

「おもち!」

 

 おもち。なるほどそれはいいと思う。絵本とかでも、七輪とかにのせて焼いて……、あれ? あれってかまくらの中でやってよかったっけ? そもそも溶けないの?

 

『ゲーム内でそんなこと気にするなよ』

『むしろ俺らとしては、足下の方が気になるんだけどな?』

『気付いてる? 気付いた上で無視してる?』

 

 気付いた上で気にしないようにしてる方だね。気にするとくすぐったくなるし。

 

「うわ!? なんだこれ!?」

 

 お、エドガーさんも戻ってきた。で、真っ先に反応してくれた。

 私たちの足下はキツネさんがたくさんです。何故かアリスが入ってきたあたりから、キツネたちも続々と入ってきて、足下はキツネの群れになってる。れんちゃんはいつの間にかキツネに埋もれてるし。

 

「テーブルにおもち置くよ」

 

 アリスが動じてない!? あ、いや違う、考えないようにしてるだけだ。

 とりあえず近くの椅子に座る。と、私の隣にキツネの塊が座った。違う。キツネにまとわりつかれたれんちゃんが座った。れんちゃんなのかキツネなのかこれが分からない。

 

「あー……。れんちゃん?」

「ふぁい」

「うん。ちゃんといるね」

 

『雀もそうだけど、よく動物にまとわりつかれる子だなw』

『れんちゃんは動物を引き寄せるフェロモンでも出してるのか?』

『ミレイを引き寄せるフェロモンなら出てるな』

 

「いやいや、フェロモンじゃなくてれんちゃんの魅力に引き寄せられてるのさ!」

「何言ってるのおねえちゃん」

「うん。その冷たい目は私にききます」

 

 やめよ? 口で言わなくても、気持ち悪い、と言われてる気がするよ?

 

 エドガーさんもゆっくりキツネの隙間を縫って椅子に座った。この人、ここに来て一番体力使ってるんじゃないのかな。もしくは気力。キツネを蹴飛ばすと間違い無くれんちゃんから嫌われるから、気を遣うのも分かるけど。

 

「みんな、ちょっと下りてね。足下ならいいからね?」

 

 れんちゃんがそう言うと、キツネたちはするするとれんちゃんから下りていった。白いキツネはれんちゃんの首にいるままだけど、この子は特別枠みたいだ。

 さて。おもちである。雪の上、かまくらの中、あったかいおもちを食べる。

 

「なんかこう、風情があるよね。冬って感じがする」

 

『わかる』

『冬と言えば雪、雪と言えばかまくら』

『お餅も冬って感じだよな』

 

「まあ今はぎりぎり五月なわけですが」

 

『草』

『それを言うなw』

『季節感も何もないなw』

 

 ログアウトしたら夏の入りを感じ始める気温だからね! 暑いわけじゃないけど、寒いとも言えないほどよい気温。まあ最近は春なんてほとんど感じられないぐらいに短いから、すぐに暑くなるだろうけど。

 

「ミレイちゃん。れんちゃんはお餅は大丈夫だよね?」

「ああ、うん。病院ではあまり出ないから、私がたまにスーパーでやわらかいお餅を買って持って行ってる」

 

 れんちゃんからお餅が出たとは聞いたことがないから、あの病院ではお餅を出してないのかもしれない。私が入院してるわけじゃないから、そこまでは分からないけど。れんちゃんが甘えんぼモードになって泊まることになっても、コンビニでお弁当買ってくるし。

 

「れんちゃん、お餅はお醤油をつけたやつでいいかな?」

「うん!」

 

 アリスからお皿に入ったお餅がれんちゃんに渡される。れんちゃんは見るからにうずうずしていた。お餅をぱくりとかじって、

 

「うみょーん」

 

『うみょーん』

『かわいい』

『よくのびるお餅だなw』

 

 ほんとにね。のばしたお餅を噛み千切れなくて、結局そのままもぐもぐしてるし。

 気に入ったのは気に入ったみたいで、嬉しそうな笑顔でもぐもぐしてる。かわいいなあ。

 キツネたちはそんなれんちゃんの様子を、どことなく羨ましそうな顔で見てる。もしかして、食べたいのかな? でもさすがにこれだけのキツネの分は持ってないだろうし……。

 

 アリスを見てみると、引きつった笑顔で首を振られた。そりゃそうだ。

 私もお餅をかじる。うみょーん。……漫画でもここまでのびないと思う……。キツネに上げたくなるけど、不公平になるだろうしなあ……。悩ましい。

 そう考えていたら、先に食べ終わったれんちゃんが、ごちそうさまでしたと手を合わせた。

 

「あ、そうだった。キツネさんにもあるんだった」

「え、なにが?」

 

 れんちゃんがインベントリからテーブルの上に出したのは。

 

『うおお……』

『圧巻の一言』

『山盛りのお揚げ様じゃあ!』

 

 うずたかく積まれた油揚げ。なにこれすごい。

 れんちゃんは油揚げを一枚手にとって、少し持ち上げてぷらぷらする。キツネたちの視線がそれを追ってふらふらと。ゆらゆらと。なにこれかわいい!

 

 れんちゃんはくすくすと小さく笑って、はい、と近くのキツネに渡した。キツネが嬉しそうに油揚げをくわえて、外に出て行く。その後は山盛りの油揚げに群がる、なんてこともなく、みんなお行儀良くれんちゃんからもらうのを待っていた。

 たくさんのもふもふが、じっとれんちゃんを見上げて待ってる様子は、なんだかとっても微笑ましい。一匹ずつもらって、嬉しそうに走り去っていく。

 でもさすがに油揚げが足りないのでは、と思ってたけど、なんと追加があった。山盛りどん!

 

『れんちゃんいくつ用意したの……?』

『山盛りおかわりはさすがに草』

 

「んー……。百個セットが百個!」

 

『どこかで聞いたことのあるセリフ』

『つまり千個かwww』

『やめろお! 俺の古傷をえぐるなあ!』

 

 うん? 何の話かな。視聴者さんたちの間で何かあったみたいだけど。

 それにしてもれんちゃん、いつの間にこんなに用意したのかな……。あまり一人で出歩いてほしくないっていうのは、過保護すぎかな? ちょっと困るところだ。

 お餅を食べ終えて、かまくらを出る。風情はあるけど、特に何かをするわけでもなかったから、早々に飽きちゃった。次は何か持ち込まないといけないかな。

 

 外に出た私たちを待ってたのは、雪像だった。大きな犬と虎にキツネ。それぞれウルフと猫又、キツネたちがどや、とばかりにふんぞり返ってる。

 えっと……。雪だるまの代わり……?

 

「どう見ても雪だるまじゃなくて雪像です」

 

 いや、まあ、れんちゃんが喜んでるからいいか。

 

「すごーい! おっきーい!」

 

 楽しそうに走り回るれんちゃんと、その後ろに続くモンスたち。なんだかすごい光景だ。

 

「あれって、モンスターたちが作ったのか?」

「そうじゃないかな」

 

 エドガーさんの問いに頷いておく。それしか考えられないし。れんちゃんの要望を聞いて、考えて行動したのかもしれない。AIって、すごい。

 

「いや、これは逸脱してるような……。まあ、いいけど……」

 

 ふむ。エドガーさんが何かを気にしてるけど、まあ、うん。大丈夫でしょう。

 

 

 

 のんびりと、モンスたちを追いかけっこするれんちゃんを眺める。たまにはこうしてゆっくりする日も悪くないね。そう思いました。

 

「ゆっくり……?」

 

『どう見てもハードな一日でした』

『ゆっくりとは』

『感覚狂ってきてるなw』

 

 うるさいよ。

 




※『百個セットが百個、つまり千個!』
最終ダンジョンの掲示板回のネタ、なのです。

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