We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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「はぁっ、はぁっ、はあっ」

 狂おしく反響する虫の声が、警鐘を鳴らすかのように森を山を震わせていた。
 けたたましい声をバックに人っ子ひとりいない夜の峠道を進む影があった。

 華奢な体系に不釣り合いな大きなザックを背負い、息を荒くしながら坂道をのそのそと上がっている。
 その格好は登山者のようであったが、よろよろとした動作は生まれたての小鹿のように弱々しいものだった。

「はあ……、はあ……」

 息を吐く回数が多くなっていた。
 肺が、胸が苦しい。

 なんで、わたしこんなことしてるんだろう。
 舗装道を歩くのがこんなにしんどいとは思わなかった。


 外灯のない夜道を案山子のようにふらふらと体を揺らしていた。
 靴の感触がわからなくなるほど疲弊してる、もう足が限界だった。

「もう、だめ……」

 肺の奥から絞り出したようなうめき声をあげると、その場にがくりとへたり込んだ。
 長い髪が地面に落ちても気にせず、口を開け閉めしながら、酸素を貪り続けていた。

 片側の車道を塞ぐように座り込んでいるのでかなり危ない行為だが、夜の田舎道では通る車は皆無だった。

 昼の間に熱されたアスファルトが、夜風に冷まされてひんやりと心地いい。
 このまま動きたくないほどだった。

 少しは()()な体力になったと思ったのだが、それは自分の中だけで、実際はそれほどではなかったようだ。


(やっぱり……自転車使えば良かったかな)


 疲れ切った頭で考えたのはそんなことだった。

 それだけ目指す場所までは距離があったのだから仕方なかった。
 ()()()()来るのは想定外だったことだし。

 それだけ無謀な道行だった。

 独りぼっちの山歩き。
 ゴールはまだ遠く、暗い道は彼方まで続いている気がしていた。


 汗で濡れた髪を気だるそうにかきあげると、少女は力を振り絞って白い金属製の柵にぐったりと身を預けた。
 
 せわしない虫の声と少女の荒い息遣い、そして遠くの方から聞こえる微かな川のせせらぎが渦のように巻き込んで耳の奥に流れてくる。

 そして一際騒がしい蝉の声がまだ夏であること主張するように激しく鳴いていた。


 少女は下ろしたザックからペットボトルを面倒くさそうに取り出すと、両手で持って、少しづつ吸う様に胃の中に流し込んでいく。

 ──ごくごくと飲むのは返って負担がかかってしまうから。
 そんなどーでもいい事だけをなぜか覚えていた。
 
 ……ほかに思い出すことがあるはずなのに。
 

「……ふうっ」

 ため息と共に空気を吐きだす。
 
 水分を補給したので幾分落ち着いたが、そのかわり汗が噴き出してきた。

 生温い微風は汗を蒸発させてはくれない。
 髪も服もじとっとした不快感で湿っていた。

 代えの下着を持って来るべきだった。

「昼間よりは楽だと思ったんだけど……上手くいかないね」

 空のペットボトルで足をマッサージしながら、スマホの画面を睨む。
 これでも行程表(スケジュール)は作っておいたのだ。

 ただ……ちょっとした衝動に駆られて延長したのだけれど。
 
 その無謀さが甘さを招いていた。


 もっと早くに行動するべきだったと思う。
 それは”時間”じゃなくて”日時”。

 でも分かったふりを続けるよりはずっとマシな事だった。
 だってまだ”終わっていない”のだから。


 ”真実を見つける時はいつも過ぎ去った後”。


 誰かの言葉が頭に浮かぶ。
 人は失って初めて大事なもの気づく、そう言いたいのだろう。


 ──だったら、動くだけだ。
 

「……行かなくちゃ」

 考えを打ち消すように首を振ると、少女は勢いよく上体を起こした。
 奮い立たせるように足をたん、と軽く鳴らすと、少し勢いをつけてまた坂を登り始めた。

 徐々に傾斜がきつくなっていく。
 目的地に近づいてる反面、足への負担も大きくなる。
 

 月は黒い雲に覆われてその光を小さくさせている。
 薄く陰ったまま、黒い輪郭を白く染めていた。


 月明かりさえ届かない暗闇の道、ペンライトの明かりだけを頼りに一歩一歩確認するように歩いていく。

 光が照らす先はくねくねとした山道。
 それが闇の奥まで延々と続いていた。

 暗闇に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、思わずぞっとなった。

 少女は呆れたように大きなため息を零す。
 そのまま横を向くと、何かを辿るように遠くを見つめていた。

 それはまだ何も知らなかった頃の記憶。
 少し前のちょっとだけ希望を持っていた頃。

 ほんの少し前なのにとても懐かしく感じる。
 勝手な期待に胸を膨らませていた。


 でもそれは、ただの強がり。

 陽炎のように揺らめいて消えた儚い想い。


 すべては夢。

 そうだったら良かったのに。





An unfulfilled promise

 

 六月の後半。

 

 長かった梅雨が夏の情景に変わろうとしていた。

 

 初夏の日差しが朝の空気と混ざり合って、山陰の町に本格的な夏の到来を告げていた。

 

 清々しさとは少し遠い、じめっとした暑さは朝から憂鬱になってしまうほどねっとりと纏わりついていた。

 

 駅へ続く坂道をひたすらに下っている少女がいた。

 

 ──”三間坂蛍(みまさかほたる)”。

 

 坂の上の大きな屋敷に住む一人娘。

 家族は居ないのか、お手伝いさんが来る時以外は、蛍が一人でこの屋敷で暮らしていた。

 

 大人しそうにみえる少女は、二つに結わいた長い髪をはためかせながら、今朝も慌ただしく家を出て行った。

 

 この電車を逃したら遅刻は確実、それでも二度寝は止められない。

 友達にもよくからかわれるけど、眠気に勝るものはないと蛍は考えていた。

 

(人間の三大欲求のひとつだし)

 

 欲望を言い訳にしながら蛍は坂道を転がるように下りていく。

 

 下りなので足を赴くまま動かせばいいのだけれど、それに甘えて躓いて転倒しそうになったことが何度もあった。

 

 蛍は少し注意深く足を動かしながら、起き抜けに見た夢に頭を巡らせていた。

 

 

 それは夢だとわかっているのに自意識が残っている。

 夢の話。

 

(なんだっけ? レム睡眠だったかな?)

 

 ともかくそんな時にみた夢だった。

 

 そこは蛍が良く知っている場所、なのに町も人も何もかもが歪んでいて。

 

 悪夢という概念が具現化したようで、そこでは黒衣のカーテンが永遠と広がっていた。

 光を失った世界、白い怪物の群れ、そして赤錆の匂いを漂わせる黒く大きな獣。

 

 変わり果てた世界には混沌と恐怖が渦巻いていた。

 

 だが時には青と白の二色しかない、静謐な世界もあった。

 

 そこには長い髪の女性がひとりいるだけ。

 ただそれだけの場所、でも嫌いではなかった。

 

(ホラー映画というよりも、()()()のような世界だったなあ……)

 

 夢の続きを手繰り寄せるように蛍は頭をひねる。

 

 蛍はいつの間にか走ることをやめて徒歩での移動になっていた。

 それは夢想のせいだけでなく、空も関係していた。

 

 朝早の光線が蛍の白い肌に焼くような痛みと熱を早速与えてくる。

 

 朝から容赦のない日差しから身を守る為、蛍は道の端に小さくせり出した陰に身を隠しながら、怯えたように歩いていた。

 

 これで少しはマシになるが、目に見えない紫外線が黒いアスファルトに燦々と降り注いでいるのが揺らぎでわかる。

 

 梅雨明けの晴天は早朝から積極的だった。

 

 蛍のなだらかな額に汗が吹きこぼれそうになり、思わずハンカチで拭った。

 

(はぁ、はぁ、なんか辛い……このままだと電車に乗り遅れちゃうよ。でも、怠くて……次の電車にしようかなぁ?)

 

 弱気な考えが脳裏に浮かぶ。

 

 しかしこの時間の電車に乗り遅れることは、蛍の通学時間では”遅刻”を意味している。

 それだけ切羽詰まった状況だった。

 

 それに蛍の懸念は遅刻だけではない、いつもの”朝の楽しみ”を奪われることにも向けられていた。

 むしろこちらの方が優先順位が高いといってもいい。

 朝の元気をもらう大切な時間、それはとても”たいせつ”なことだから。

 

(そうだったね。暑くても、日焼けしても、間に合わせないと……!)

 

 蛍は自問自答すると、”大切な楽しみ”の為だけに駅への道のりを再び走ることにする。

 

 容赦なく照り付ける日差しを物ともせず、腕を振って坂を駆け下りる。

 汗が飛び散って、口の中に塩味が入っても気にすることなく。

 ただ目的地へのと向かうだけ。

 

 息が苦しくて、胸も痛む、でもその先には極上の楽しみが待っている。

 

 幸せとはこういった必死さの中に生まれてくるものかもしれない。

 蛍はふとそう思った。

 

 制服を汗まみれにしながら、蛍は目的の駅にたどり着くと、コンクリートの階段を飛び越えて、その勢いのまま改札口へと飛び込んでいった。

 

 そこは”小平口(こひらぐち)駅”は山小屋風の木造の駅舎で、駅入口の特徴的なアーチはこの路線にあるアーチ橋をモチーフとしていた。

 

 小さなロータリーを有し、それなりに商店もある。

 都会と言うにはどうやっても無理だが、田舎と決めつけるには、駅前はそこまで閑散としていなかった。

 

 山間に流れる河川と並行して走るローカル線、その終着駅で始発駅でもある小平口駅。

 通勤や通学、下流の町に行くときと、この町ではこの路線は重要な交通手段だった。

 

 だが近年はマイカーを利用するものが多くなり、利用客は年々減少傾向にある。

 そのため、観光として運用してみるのもどうかとの有識者会議が最近あったばかりだった。

 

 それでも”この駅だけ”はなぜか赤字になることはなく、通常と同じ売り上げを出していた。

 だからこれまでやってこれた。

 

 でも──それがいつまで続くかはわからない。

 ある日突然終わることだってあるのだから。

 

 

 まだ人気の少ない朝のホームに、四両編成の緑色の電車がいつもの時間、いつもの場所で大きな口を開けながらじっと待っていた。

 

 この駅から始発の上り列車。

 そしてこの電車で友達と待ち合わせていた。

 

 列車が待っていることに安堵したのか、蛍は再び眠気と妄想にたゆたいながら、朝の散歩を楽しむようにゆっくりと自動改札をくぐり抜ける。

 

 小気味よいチャイムがなって、ゲートが開く。

 その穏やかな振る舞いは深窓の令嬢のようにも見えた。

 

 

 丸みを帯びた緑の列車──もの言わぬ鉄の従者が寝ぼけ眼の令嬢を出迎える。

 

 赤い絨毯(レッドカーペット)が引いているかのように、蛍はしずしずと足を交差させながらプラットフォームに恭しく入場した。

 

 白い屋根の隙間から、小鳥が朝のさえずりを投げかける。

 

 蛍はそれに小さく微笑んで応えると、蹲ったまま待ちわびている緑の車体をまざまざと見つめた。

 

 蛍はこのレトロな車両を結構気に入っていた。

 何か愛らしい名前をつけたいほどに。

 

(でも大抵笑われちゃうんだよね。センスないのかなあ、わたし)

 

 蛍が自身の想像に拗ねた表情を浮かべていると、レトロな車両からこちらを訝しげに見ている男性とふと目が合った。

 きちんとした身なりの中年の男性、頭には電車の運転手を表わす帽子とホイッスルを口にくわえていた。

 

 その男は眉間にしわを寄せて、無言のまま左腕を指さしてこちらを睨むように見ている。

 

 なんだろう? 蛍が視線に考えを巡らせていると、ホームに備えてある丸い時計が目に入った。

 

 ──発車予定時刻はとっくに過ぎていた。

 

 

 あっ、と小さく叫ぶと、蛍は慌てて電車に飛び乗った。

 そのちょうどのタイミングでドアが閉まる。

 

 続いて気の抜けたようなホイッスルが鳴り響き、大きな振動と共に朝一番の列車が動き出した。

 眩い朝の光線が、緑の車体の輪郭を白く染めていく。

 

 がたがたと車体が大きく揺れて危なっかしい挙動を見せる。

 

 でもそれは古い列車のいつもの普通の動きだった。

 

 

 蛍はほっ、とため息をつくと、いつものようにいつもの席に腰を下ろした。

 

 前から三列目のいつもの座席、それが”わたし”の場所。

 その隣は”親友”の場所。

 

 そこは()()の指定席となっていた。

 

 朝の密かな楽しみに頬を緩ませる。

 

 弾む様な声で、毎朝”おはよう”と言ってくれるあの笑顔が好きだから。

 

 

 ガタゴトと列車は実にリズミカルな音を立てて進行していた。

 かなり古い車両なのにその挙動は一部の狂いもないように思える。

 

 人間に例えるならリタイヤ寸前というかすでにそうなっている状態。

 それを今風に改装して使用していた。

 

 それはさながら延命治療を施した老人のそれの様であり、ある意味残酷かもしれない。

 

 でも列車はそんな疑念を持つことなく走り続けていた。

 いつか来るであろうボロボロになって鉄の塊となるその日が来るまで。 

 

 ゆえに列車は生きているのだ。

 

 

 いつもとは少し早いペースで電車が進んでいる気がする。

 車窓からの景色が早回しでちょっとしたコースター気分になる。

 

 通常よりダイヤが遅れ気味になっているのかもしれない。

 

(わたしのせいじゃないよね? 気のせいだよね)

 

 蛍は当事者意識を隠すように、すまし顔で瞳を閉じた。

 

 それを非難するかのようにレトロな車体がぎしぎしと傾いた音を上げて大きく揺れる。

 錆びついた箇所が悲鳴を上げているかのように軋んだ音を立てて。

 

 

 もたれ込んだ乗客もその動きを合わせるように左右に揺れていた。

 瞼を閉じた少女の長い髪は振り子のように艶めかしい動きで揺れていた。

 

 

 ニュースで今日の気温が予報された影響か、電車の空調は始発からフル稼働していた。

 

 掃除機で吸ったような低い唸り声が車内に充満して、さながらどこかの工場のようでもある。

 

 乗客はそんなことに気にする様子もなく、車窓からの景色を忘れたように目の前のスマホに夢中になっていた。

 

 そんな普通の光景の中、蛍は少し小ぶりな書物を鞄から取り出した。

 

 細い指先で栞を手繰るとそのページをめくる。

 古いインクと紙の香りが少女を出迎えた。

 

 あれ? と小首を傾げる。

 

(前に読んだのってここからだったっけ?)

 

 頬に指を当てて考えてみるが、思い当たる記憶が浮かんでこなかった。

 

 確か、最近買った本のはず。

 買ったことは憶えているのに、読み進めた記憶がないのはちょっとした珍事だった。

 

 うむむ、と唸ってみる。

 やはり結論は出なかった。 

 

 まあ、読んで行けばその内思い出すだろう。

 それほど気にする要素ではない、読み返しは嫌いではなかったから。

 

 それに”彼女”が来れば、小説を読む必要がないのだから。

 二人だけの楽しい時間がやってくる。

 

 その時までしばし本に入り込むことに蛍は決めた。

 

(異世界みたいな夢の話したら何て言うだろう? やっぱり変な子って思われるかな)

 

 でも。

 

 それでも話してみたい。

 

 だって怖くて楽しい夢の話だったから。

 

 蛍は自然と口角が上がっていることを自覚した。

 親友の前では不思議と素直になれる、本当の自分になれる気がするから。

 

 だから早く会いたいな。

 早く()()()まで着かないかな。

 

 そんな蛍の気持ちを汲み取ったかのように、列車は速度をあげて山陰を進んで行く。

 もうすぐ彼女の最寄り駅のはずだ。

 

 高鳴る鼓動を包み込むように開いたページに目を落とす。

 

 だがそこに窓からの光が差し込んで白いページに反射して広がった。

 

 蛍は本を開いたまま、その光の方向に振り仰いだ。

 

 そこには。

 

 迫り出すように盛り上がった雲が幾重にも広がっていた。

 

 雲の隙間から光の柱が何本も、光の道が出来たようにこぼれ落ちる。

 その中のひとつがこの紙の物語の上に偶然にも落ちてきたのだ。

 

 蛍は目を眇める。

 そして小さな声で呟いた。

 

「天使のはしご……」

 

 雨上がりの空でもないのにこれを見ることが出来るのは稀であった。

 そしてそれを知っているものはここにはいない。

 

 みな俯いて黒い画面を見つめていたから。

 

(だったら、わたしがひとり占めしちゃおう)

 

 蛍は本を開いたまま、空からの贈り物にしばらく視線を移す。

 

 四角い枠に収まった荘厳な光景、それは蛍の心を美しくさせた。

 でも、その美しさの中に一抹の寂しさも覚える。

 

 理由は、よくわからない、でも。

 寂しいと思うのはきっと、この光景に気づいている人がいないから。

 この素敵な景色を共有してくれる人がいないから。

 

 蛍はそう解釈した。

 

 

 蛍は空を斜めに見上げながら、軽く微笑む。

 

 そして天使の贈り物をルーペ代わりにしながら、蛍は本の世界に引き込まれていった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 がたん。

 

 線路のつなぎ目が車体を上下に揺さぶった。

 

(んっ……)

 

 その振動は蛍の意識を回復させる。

 まだ微睡に囚われたままで周りを伺う様に見渡してみる。

 

 すでに電車内は乗客でいっぱいになっており、座る席がないのか立っているものもいた。

 

 ここまで乗客がいるということは多分終点が近いはず、蛍がまだはっきりしない意識のなかでそう考えていると。

 

『次は浜松……』

 

 車内アナウンスが蛍の耳朶にエコーのように木霊する。

 

(あれ? もう……?)

 

 そのことで蛍はいつの間にか寝入っていたことに気づいた。

 それでもまだ寝たりない、前日に夜更かししたわけでもないはずなのに。

 

 朝から全力疾走した影響かもしれない。

 体力不足は悩みの種であった。

 

 

 本はしっかりと手に握られていて、辛うじて落とすことはなかった。

 こういう読書の仕方をしているから読んだ記憶がなくなるのだろう。

 蛍は自分に深く納得がいった。

 

 

 濁ったアナウンスが流れると車内が急に慌ただしくなってきた。

 蛍は軽くあくびをして、緩慢な動きで降りる準備をする。

 

 まだ立ち上がる気はない、人の波に飲まれるのは好きではなかったから。

 

 騒がしい車内を呆然と見ていると、ある違和感が蛍に浮かびあがった。

 

(確かこういう時、一緒に待ってくれる人が隣にいた気がする……でも)

 

 あれ?

 

 蛍は反射的に右隣の座席に振り向いた。

 そこには、見知らぬサラリーマン風の男がスマホの画面に夢中になっていた。

 

 蛍はため息をつくと、視線を元に戻した。

 そしてまた違和感について考え込む……しかし何も浮かんではこない。

 

(まだ、寝ぼけてるのかな……)

 

 もやっとした感情を乗せたまま列車は整然と並べられた幾ばくかのホームの一つに滑り込むように入って行く。

 

 いくつかの路線が乗り入れて、ひしめき合っている巨大なターミナル。

 かなりの利用客がこの駅から西へ東へと行き来している。

 蛍の通う学校もこの駅にほど近い場所にあった。

 

 ホームに着くや否や、降りる順番を競い合う様に車内はごった返す。

 一分一秒を争う何かが彼らにはあるのだろう。

 

 絵空事のように蛍はその様子を呆然と見送っていた。

 

 そしていつの間にか車内には蛍ひとりが取り残されていた。

 まだ終点ではないが、この駅でほとんどの乗客は降りてしまう。

 所謂(いわゆる)、要衝の拠点駅であった。

 

 

 焦燥感に駆られたように慌てふためきながら座席から立ち上がると、両手で鞄を抱きながら恥ずかしそうにホームに飛び降りた。

 

 それを合図にきちんと整列した四角い体躯の乗客達は無人の車内にどっと乗り込んでいく。

 

 みんなそれを朝から晩まで繰り返している。

 同じことの繰り返しに飽きることなく、ただひたすらに、何の疑問も感じることなく忠実に。

 

 それが社会というものだった。

 

 

 少し気後れしながらも蛍は改札を抜ける。

 人の流れに押されるように、いつもの学校への方角に向かう。

 

 その道のりも蛍はひとりきりだった。

 所在投げに片手をひらひらさせながら、朝の疑問に首をひねる。

 

 その内、同じデザインの制服が徐々に増えていって街路を花のように埋めていく。

 

 通りの向こうには駅前の繁華街にはおよそ似使わない、荘厳な門扉とさも異世界のような大げさな校舎が、さながら中世の城のようにそびえ立っていた。

 

 それこそ異世界の住人のように下賤とは違った様式で語らいながら少女たちは門をくぐる。

 外界の侵入を拒む、乙女の園。

 蛍も一応そこの住人だった。

 

 学校に来ても違和感は拭いされない。

 それどころか数珠つなぎに増していくように感じられた。

 

 何かとても大事な忘れ物をしたときのような、モヤっとした不安が蛍の脳裏によぎるが、それが一体何なのかがわからない。

 

 蛍は内心首を傾げながら、門をくぐり校舎へ向かう。

 途中の無駄に贅沢な庭に優雅に咲く、無数のアガパンサスを見た時、唐突に思いついた。

 

 忘れ物のことを友達に聞いてみればいい。

 一人でわからない答えは他の人に聞くのが一番。

 

 誰かにそう教えられた。

 それが誰かは思い出せないが。

 

 クラスで仲のいい友達に聞いてみよう。

 そんなに多くはないけれど蛍にはその方が良かった。

 

 前に”友達”のせいでトラブルに見舞われたこともある。

 一人のほうが気楽でいい、そう考えたことさえあった。

 

 でも、今は違う。

 かけがえのない”親友”がいる。

 その人のおかげでわたしは前よりも柔軟になった気がする。

 

 考え方も表情も、自分では気づかないけど”良くなった”みたいだった。

 

 

 ”蛍ちゃんは肝心なところが抜けてるんだから”。

 

 少し呆れたような顔で微笑む親友、きっとそんな感じなことを言われちゃうんだろうな。

 

 そんな台詞を想像するだけで蛍は恥ずかしさで身悶えしそうになる。

 

 でもそんなに悪い気はしない。

 その人にちゃんと話を聞いてくれるだけで嬉しい。

 話題を共有することが嬉しいのだから。

 

 

 蛍は穏やかな表情のまま昇降口に辿り着くと、整然と並んだ郵便受けのような靴箱から自分の内履きを取り出した。

 

 その時、びゅんと、一陣の風が長い髪を撫で上げた。

 風は長い下駄箱から出口に抜けて、空と混じり合ってそのまま通り過ぎて行った。

 

 蛍は呆気に取られて、一瞬呆然としてしまう。

 はっと気が付くと、何事かと思い自身の靴箱をまざまざと覗き込む。

 

 そこにはいつもの内履き以外には何も入っていない、いまどき手紙なんてのももっての外だ。

 

 気のせいかと思ったが、それでも何かが体の隙間をぬって通りすぎていった。

 忘れていたなにかに気づかせるように。

 

 風が抜けた方に首を向ける。

 ちょうどそこにいた知らない生徒と目が合って、思わずあっ、と声を出してしまう。

 気まずい空気が間に流れた。

 

 今日はやけに他人と目の合う日であった。

 

 蛍は見知らぬ生徒に愛想笑いを浮かべると、そそくさと靴を脱ぎ、茶色いローファーを手に取った。

 

 そして誤魔化すように外履きをワザとらしく気にかけてみる、すると本当に気づくことがあった。

 

 細かい傷があちらこちらについていた。

 いつも通学に使っているとはいえ、ここまで傷だらけだっただろうか?

 

 まるで一つの山を登り切ったようにボロボロとなっていた。

 つるっとしていたソールも大分すり減っていたことから、本当に山に登ったのではと錯覚を受けそうになる。

 

 でも……道具なんて使い続ければいつかはガタがくるものだ、その時、直すか新しく買い替えればいいだけのことだ。

 今までそうしてきたのだから。

 

 ふうっ、と大きなため息をこぼすと、蛍は回りくどい動作で内履きと外履きを交換する。

 

 パタン、という乾いた音がやけに大きく耳に響いた。

 

 

 キュッとなる内履きに履き替えると、ガラスのように磨きこまれた廊下の端を静かに歩く。

 そこでは誰もが淑女の真似をしていた。

 

 それでも、こんなに静かだったかな? もっとこう……誰かとおしゃべりしながら廊下を歩いていたそんなイメージがある。

 

 でも今は静かに歩いていた。

 それが普通なようで普通でない気がする。

 

 蛍は囁くような声で挨拶をしながら教室に入り込む、すると何人かの生徒に挨拶を返された。

 

(なんか、もっと教室の中が騒がしかったような気がするけど?)

 

 

 僅かな疑問に首をかしげつつ、自分の席に着くと、中の良い生徒たち数人に囲まれる。

 よく知っている顔が机の前で花のように咲いていた。

 

 みんな違って綺麗だよね、蛍はそう思っていた。

 

 でも、仲が良い子はこれで全てだっただろうか。

蛍はそれほど友達は多くないけれどちょっと寂しい気がした。

 

 口を結んで何やら考え込んでいる蛍に、集まった少女たちは少し戸惑いの表情をみせる。

 

「あ、ごめん」

 

 その視線を感じ取って、蛍は慌てたように表情を取り繕うと、とりあえず当たり障りのない話題から振ってみることにした。

 

「ええっと、なんか、変わったことってなかったっけ?」

 

 口から出たのはあいまいな言葉。

 蛍の口下手は相変わらずだった。

 

 目の前の彼女等は一瞬きょとんした様子を見せるが、これが蛍の個性であることをそれなりに理解しているので、適当にあれこれと問題提起する。

 

 少女たちの会話の大半はこの異常な暑さのこと、そして少し前に起きた大雨の事。

 もっぱら天気の事が多かった。

 

 むしろ重大な、たとえば人命がかかわる事件なんかよりはずっとましであった。

 

 蛍も学校までの大騒動を話しのネタにした。

 ……やっぱりというか当然、揶揄(からか)われてしまった。

 

 そんなこんなで結局何の他愛のない話になっていた。

 めいめいが好き勝手に話をしていた。

 話の内容などどうでもいいのだ、集まることに意味があるのだから。

 

 結局、蛍の疑問は解決しなかったが、彼女たちの会話は蛍の気を少し紛らわすことぐらいは出来た。

 

 でも誰かが言ったある言葉は蛍に強い衝撃を与えた。

 それこそが疑問の、忘れ物の正体かもしれなかったから。

 

「”宿題”やってきた?」

 

 どうしよう……何もやってないよ……。

 

 

 教室の喧噪を切り取るようにホームルームのチャイムが鳴った。

 

 

 いつも通りの授業が始まった。

 スケジュール通りの学生生活。

 

 楽しいかと問われれば、まあまあと答えるだろう。

 

 それでも前よりかはましになった。

 友人たちの存在が大きいのかもしれない。

 

 

 でも、と蛍は思う。

 

 やっぱり何かが足りない。

 圧倒的に決定的なものが欠けている、そんな気がしてならないのだ。

 

 だがそれを追及する暇も余裕もそんなにない。

 

 

 それは学期末のテストが近かったから。

 長期休みの前の大事なテスト、それが来週に迫っていた。

 

 その為、生徒の話題はもっぱら暑さとテストのことが中心となっていた。

 

 それが終われば待望の夏休みが待っている。

 その為か、みんな真剣に授業に取り組んでいた。

 

 それは蛍も例外ではなかった。

 理数系はかなり得意なのだが、それ以外は平均点どまりだった。

 教科によっては平均点に届かないものさえあったのだ。

 

 そのため蛍にとっての問題は不明瞭な違和感の解明ではなく。

 

(なんとしても補習だけはしたくない……!)

 

 蛍は春のテストのことを思い返していた。

 友達に散々いじられた苦い経験が頭をよぎる。

 

 そちらの対策の方が今は重要だった。

 

 だから真面目に勉学に取り組もう。

 まだ学生なんだから。 

 

(でも宿題忘れちゃった……放課後補習かも……)

 

 結局良くわからないまま、本日の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 昼に何を食べたのかも、なんの知識を学んだのかもイマイチ良く分かっていない。

 補習だけは嫌、それなのに。

 

 宿題の分の補習をもう受けてしまった……。

 

(胸のモヤモヤも残ったままなのに)

 

 蛍は訳も分からぬまま、帰宅の準備をする。

 友達もみんなさっさと帰ってしまった、テスト勉強があるからだろうか。

 

 少し薄情なのではないか? 蛍はむぅ~と頬を膨らませた。

 だが、クラスで宿題を忘れたのは蛍だけだったので仕方なかった。

 

 

 午後の強い日差し、それが斜めに差し込んで格子模様を描き出す。

 トラックから聞こえる規則的な掛け声と(ひぐらし)の鳴き声。

 

 夕暮れ前の夏の放課後。

 それが四角く切り取られていた。

 

 蛍は確かめるように教室を見回したが、特になにもない。

 静まり返った教室があるだけ。

 

 

 のそのそとした動きで鞄を手にすると蛍は静かに教室を後にする。

 廊下へ抜ける際、蛍は不意に後ろを振り返ってみた。

 

 教室には誰もいない、何の”忘れ物”も落ちていなかった。

 

 

 結局、行きも帰りもひとりきりだった。

 

 でも特に寂しいとか思わない。

 むしろ補習が無ければみんなと一緒に帰ったのだろうか?

 そちらの方が何故か実感が湧かない気がしていた。

 

 青と橙の混ざったそらに薄く縁どられた雲が伸びている。

 何度見上げても空はただ青いだけ。

 

 斑色の雲が紐のように伸びていた。

 

 

 藍色の空を見上げながらひとり歩いていると、複数の影が視界の隅に入った。

 同じ制服の一団が駆けながら何かを喋っていた。

 

「あっ」

 

 その一団のある言葉に蛍は思わず反応した。

 それは駅前にあるクレープ店のこと、放課後に食べに行こうという約束のこと。 

 

 ”約束”。

 

 そういえば彼女が思い付きで決めた他愛のない約束があったこと、それを今、急に思い出した。

 

(そういえばわたしも約束したんだったよね。確か……金曜の放課後だったっけ?)

 

 偶然とはいえ”約束”の事を思い出すことは出来たが、肝心なことが蛍はわかっていなかった。

 

(あれ、今日って何曜日?)

 

 肩に下げたポシェットから、蛍は今日初めてのスマホを手に取る。

 時刻と共に今日の曜日が映し出される。

 

 ()()()

 放課後を過ぎた時刻に、今日を知った。

 

 蛍はそれで納得したようにパンと両手を叩く。

 

(そっか、”忘れ物”って、この事だったんだ)

 

 蛍は朝からの胸のつかえがようやくとれた気がした。

 モヤっとした頭も急にクリアになった気がする。

 

 でも、なぜ忘れていたのかはわからない、大事な親友との大切な約束のはずなのに。

 

 でも偶然思い出せたのはやはりラッキーだった。

 ヒントをくれた名も知らぬ生徒たちにお礼を言っても良いぐらいに。

 

 

 木漏れ日というには強い光が差す並木道を、蛍はその気持ちのまま楽しんで帰る。

 

 

 親友との約束。

 

 蛍は夕暮れの電車の中でそのことばかりを考えていた。

 

 

 ……………

 …………

 ………

 

 

 待ちに待った”金曜日”がやってきた。

 と言っても次の日なのだが。

 

 その日の午前中、蛍は早速クレープ店の前にいた。

 

 来週からテスト期間に入るので、午前中で学校は終わっていた。

 蛍はわき目も降らず駅前のクレープ屋に来ていたのだった。

 テスト勉強のことは頭の片隅にも入っていなかった。

 

 

 親友との約束。

 この日が来るのを指折り数えていたのだから。

 たった一日だけど……それでも待ち遠しいものだ。

 

 だから早く来てもいいよね。

 

(一緒に行ってもいいんだけど……なんか恥ずかしい気がする)

 

 浮ついた気持ちを抑えるように、蛍はクレープ店の外観をつぶさに眺めた。

 

 ”Pastel”と書かれたポップな看板が目を引く、こじんまりとした店舗。

 大通りの裏に面していて、周りのビルの影に埋もれてぱっと見分かり辛い場所にあった。

 

 それでもそこそこ人気があるのは、近隣の学校へ通う生徒達のおかげで、ちょっとした隠れスポットだった。

 

 店の前には小さなテーブルと椅子が車道をぎりぎり跨がない程度に用意してあった。

 所謂、オープンカフェなのだがあまりにも簡素すぎる、それでもランチタイムにはこの席の予約があるほどで、それなりな人気だった。

 

 今はまだ早いからか誰も利用していない。

 蛍はそこには腰をかけず、メニューの掛かれた看板の傍に寄りかかるように立っていた。

 

(お昼には、まだ早い……か)

 

 蛍は右手で時間を確認する。

 確か待ち合わせ時刻は特に決めていなかった。

 

 でもそんなに時間も掛からないだろう、同じ学校の生徒なんだし。

 用事が合って遅くなっても昼時には来るはずだ。 

 

 

 蛍は忍ばせておいた小説に目を通しながら、楽しみに想いを馳せる。

 それだけで時間を限りなく楽しむことが出来た。

 

 でも、と蛍はふと思う、ちょっと浮かれすぎな気もする。

 友達と待ち合わせてスイーツを食べることがここまで待ち遠しいものなのか。

 

 まだそれほど空腹感はない、この為に朝食を抜いてきたわけでもないし。

 

 だったら?

 

 蛍は目を動かして周りをきょろきょろと確認する。

 同じような制服姿の女子が店の前で行列を作っていた、それに混じってちらほらと男女のカップルの姿も見える。

 

 その様子は楽しそうに見えた、蛍は微笑ましさで目を細める。

 

 でも、もしかすると自分もそっちの方に思われているのだろうか? まさかとは思うが。

 

 意識するつもりはなかったが何だか急に恥ずかしくなってきた。

 

(恋人を待ってるとかそういうのとは違う、よね? 彼氏とかいるわけないし……でも、このドキドキは何だろう?)

 

 蛍は急に居ても立っても居られなくなり、慌てたようにポシェットから小さな鏡を取り出すと、誤魔化すように髪形を気にしだした。

 

(前髪おかしくないかな? あ、枝毛もある……)

 

 鏡を睨みながら必死に身なりを気にする姿は、恋人を待つそれと酷似していて誤解を受けても仕方がないほどだった。

 

 そういえば、と蛍は思いだす。

 クレープ店の人に店の近くで待たせてもらう許可を受けにいったときも誤解を受けていた。

 蛍ぐらいの年頃になればカレシの一人ぐらいいることはごく普通のことだったから。

 

(気になる男の人なんていないのに……待ってるのは女の子の友達。ただそれだけ……)

 

 普通の友達なのにその事を思い浮かべる度、蛍は顔が熱を帯びたように火照っていた。

 これはきっと頭上から照り付ける日差しのせい、今日も午前から猛暑だからきっとそのせい。

 

 ほのかな胸の高鳴りを夏の暑さのせいにして、蛍は再び本と向かい合った。

 

 しかし、意識すればするほど余計に気になってしまって、物語に入り込むのに些か時間を要していた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 

 日は徐々に傾きはじめていた。

 橙色に染まった雲がしだいに細くなって空と混ざり合う。

 

 

 意識的に時間を気にしてしまうので腕時計は鞄の奥にしまっておいた。

 

 

 蛍は白い椅子に腰かけて待ち人の到来を静かに待っていた。

 

 クレープ店の店員が気を利かせてくれて、蛍に座るよう促してくれていたのだ。

 

 待ち続けていることが不憫に思ったのか、それともただ単に迷惑していたのか。

 蛍は余計な詮索はせず、素直に好意を受け取った。

 

 お昼過ぎになると同年代の女子で賑わっていた小さな店も、人がまばらに来る程度となっていた。

 そのため席も空いていたのだが、夕暮れも相まって寂しさを感じさせる。

 

 

 昼時の喧噪が嘘のように静かな時間。

 銀と銅が入り混じった光線が町と少女を朱色に染めていた。

 

 

 持ってきた小説もすでに佳境に入っていた。

 

 ふと、視線を感じて蛍は顔をあげる。

 すると先ほどの親切な店員が気遣わしそうにこちらを見ているのが分かった。

 それで蛍は何を言わんとしているかを察した。

 

(そっか、もう閉店時間なんだ)

 

 借りていた椅子を両手持って、店員に深く一礼する。

 軒先を借りただけでなく、座席まで用意してくれたお礼をしなければならない、蛍はそう考えた。

 

(ずっと居たわけだし、冷やかしは流石に悪いよね……)

 

 さて、何を頼もうかとメニューを見ながら蛍が逡巡していると、バンダナを巻いた親切な店員は穏やかな調子で紙袋に入ったものを手渡してくる。

 

 なんのことかさっぱり理解できず、蛍は店員に尋ねた。

 

 それは売れ残った品という名目の暖かいクレープ。

 まさか店員さんに気を遣わせてしまうとは思わなかった。

 

 蛍は申し訳なくなって再度頭を下げる。

 

 ちゃんとお金を払うと言ったのだが、売れ残りに値段はつけられないと、やんわりと断られた。

 

 その代わり今度その友達と一緒に来て欲しい、その時は腕に寄りをかけて特製のクレープを作るから、代金はその時でいいと笑顔で返された。

 

 前から知っている店だし、店員さんだって見知ってはいる。

 けれどもこんなことは初めてだった。

 こんな事がなければこういった心持ちを受けることはなかっただろう。

 

 

 偶然には悪意も善意もない。

 誰かの言葉が胸を少しくすぐった。

 

 

 蛍は別れる際、親切な店員にこう言った。

 

「あの、今度来るときは新作クレープ友達の分も一緒に注文します! それもトッピングマシマシの超特大でお願いします!」

 

 と、甘党の蛍でもかなり無茶な約束をした。

 

 

 でも、それぐらい素敵な偶然と綺麗な気持ちに結びつきに感謝しておきかった。

 

 その人は待ってる、と約束してくれた。

 小さな信頼が生まれた瞬間だった。

 

 

 暖かい感情を胸の内に留めながら、蛍は夜の帳のおりた公園の隅のベンチに一人座り、きわめて遅いランチをとった。

 

 気を利かせてくれたのだろうか、様々なフルーツと色とりどりのソース、そしてアイスクリームまでもトッピングしてあった。

 

 店員の言葉通り残り物を詰め合わせたのが、混ざり合ったソースの色で判断できる。

 それでも甘い香りが食欲をそそった。

 

(でも、これって、新作クレープとそんなに大差ないよね……)

 

 色々なフレーバーのごった煮という意味では同じかもしれない、蛍はちょっと気の毒になった。

 けれども香しい香りがその後ろめたさを打ち消して幸せな気分に変えた。

 

 しかしあるものが蛍の小さな幸せに暗い影を落とす。

 普通の人なら気にすることはない、むしろ喜びそうなことなのだが、蛍にとっては天敵に近いものであった。

 店で焼くクレープなら多少なりとも入れるもの……。

 

(こんなところにまで気を利かせなくてもいいのに……)

 

 具材がたっぷりと詰まったそのクレープには、これでもかというほどの生クリームがたっぷりとトッピングしてあった。

 

 ()()()頼んでいるときは生クリーム抜きにしてもらっていたのだが。

 

 この場合”好意”だから仕方ない、それにこれは突然のサプライズだったから。

 そんな無理な注文できるわけがなかった、自分の好き嫌いの為だけに。

 

 

 蛍は精一杯の笑いを浮かべながらそれと対峙する。

 

 甘党なのに生クリームが苦手なのは致命的であるが、これは好みの問題なのでそうそう解決出来るものではない。

 それは当事者が一番よくわかっていることだから。

 

 

 蛍はぎゅっと目を瞑ってクレープ相手に精神統一を図る。

 他人が見ていたら何事かと思う儀式を臆面もなくやっていた。

 

 美味しそうなのは間違いない、それに朝からなにも食べていないのだから余計にそうみえる。

 

 蛍はごくりと喉を鳴らすと。

 

「……いただきます」

 

 苦手意識が食欲に一時的な敗北を認めたようで、蛍は手を合わせて、両手で持ったそれにがぶりと食らいついた。

 

 ──もちもちとした食感の生地、それにくるまれた色とりどりのフルーツと滑らかなソース。

 そして冷たいアイスクリーム、何もかもが口の中を楽しませる。

 食べる度に味が変わるのでつねに新鮮なフレーバーが舌を躍らせて、一口かむごとに口内が多幸感(ユーフォリア)に包まれた。

 

 でも、生クリーム……やっぱり()()()()()好きになれない。

 

 だが実際のところ、お腹が空いていたからか普通に全部食べてきってしまった、これは蛍には”脱帽”ものであった。

 

 ペットボトルのお茶を全て飲み干してようやく、といったところであったが。

 

 

 お腹と心が幸福感で満たされた。

 ベンチに持たれながら、空をぼーっと眺めていた蛍はぼそっと呟く。

 

「今度頼むときは生クリーム抜きにしてもらわないと……」

 

 食べ終わった後に考えたのはそんなこと。

 蛍は少し胃の重さを気にしていた。

 

 …………

 ……

 

 白い月が密やかに顔を出していた。

 

 先ほどまでのクレープの甘い香りは湿った空気と混ざりあって夜風に消えていた。

 

 町全体を黒いヴェールが覆いつくす。

 夜に染まった繁華街は、昼間とは違って大人の色に変わっていた。

 

 

 夜であることを認知した蛍は急に悪寒を感じた。

 先ほどまでの小さく甘い幸福感はどこかへいってしまった。

 

 代わりに出てきたのは焦りと恐怖。

 蛍は明らかに夜に怯えていた。

 

 

 こんな時間まで街に居る事が怖いのではない。

 もっと別の、蛍だけの個別的な恐怖が徐々に頭を(もた)げていた。

 

 

 こつ、こつ。

 

 

 恐怖に拍車をかけるように、夜の闇に男性的な靴音が木霊する。

 靴音はこちら(公園) を目指しているようにも聞こえる。

 

 蛍は突然の焦燥感に駆られて立ち上がると、ベンチの横の木にその身をさっと隠した。

 

 なにかを察したわけではない、ただ靴音が聞こえるだけ。

 それなのに蛍は身を縮こませて震えていた。

 

 小刻みに震える体を無理やり木の陰に隠して、横目で公園の出口のほうを確認する。

 そこにはまだ何もいない、外灯に照らされた住宅街の路地があるだけ。

 

 

 こつ、こつ、こつ。

 

 

 無機質な靴音が徐々に大きくなってくる。

 間違いなくこちらに向かってきているのだろう。

 

 木の陰に隠れながら蛍は足音が近づいてくるのをじっと待った。

 強い口渇を感じて、唾を呑み込んだ。

 

(なんか……こういうの前にもあった気がする?)

 

 見えない恐怖と渦となって、あの時の悪夢を蛍に思い起こさせようとしていた。

 もう居もしない白い”何か”の姿を。

 

 顔のない白くぶよぶよとした皮膚を持った白い影。

 ひび割れたような黒い亀裂が所々に入っていて、意味不明な言葉を発していた人の姿をした化け物。

 そいつらが悪臭を漂わせながら群れをなして襲い掛かってくる、文字通りの”悪夢”だった。

 

 悪夢が蛍の心に引っかいたような消せない傷跡(トラウマ)を残していた。

 

 それが靴音となって、蛍の眼前に白い人影を隆起させていた。

 

 居もしない化け物に怯え、一歩二歩と後ずさりする蛍。

 我慢は限界を迎えようとしていた。

 

(なんで? なんでアイツ等がここにいるの!? もう嫌だ、もう帰りたい……!!)

 

 パニックになった蛍は叫び出しそうになるのを必死に堪えて、鞄を抱きかかえたまま公園を飛び出した。

 

 公園から突然出てきた蛍にスーツ姿の()()の男性は驚き、その場で尻餅をついていた。

 

 それに振り返ることなく蛍は夜の町をひた走る。

 焦りからくる無意識な衝動、足が勝手に動いていた。

 

 一晩中でもあそこで待っているつもりだった。

 なのに、今はそのことすら忘れたように、蛍は迷宮のように入り組んだ小道を、息を切らせながら走り続けた。

 

 四角い影となったビルの間を小走りに通り抜けて大通りに出る。

 

 週末のネオンで彩られた見慣れた大きな駅を確認すると、蛍はようやく安堵して足を止めた。

 

 荒くなった呼吸を落ちつかせるように、近くの信号に手をついて息を整える。

 信号待ちをしていた人が何事かと見てくるが、今の蛍には目にすら入っていなかった。

 

 地上から浮かび上がる人工的な光と、星空に彩られた白い光が混ざり合って、相反するような色調(グラデーション)を描いていた。

 

 

 一つ信号を遅らせた頃、蛍はようやく落ち着くことができた。

 

 月が闇夜にひとりぼっちで浮かんでいる。

 まるで全てを見透かすように。

 

 それはあのときだってそうだった、月だけは裏切らなかった。

 

 蛍は空を見上げながら縞模様の歩道を渡り、改札前の太い柱に身を預けて月光をその身に浴びた。

 

 安らかな光、暖かささえ感じさせる夜の光を全身で受ける。

 それは蛍に冷静な感情を呼び起こした。

 

(そういえば、なんで来なかったんだろう? 大事な約束のはずなのに)

 

 ──日時を間違えていたから? 

 ──それともただ単に忘れていただけ?

 

 様々な経緯が頭の中にあふれ出す。

 

 でも答えはわかっていた。

 考えたくない、理解したくない、そして認めたくない。

 

 それでも答えはひとつだけ。

 

 

(そうか、わたし()()分かっていたんだ……)

 

 蛍は夜風に言葉を濁らせる。

 

 忘れていたわけではない、むしろ全てを知っていた。

 それを心の奥底に大事にリボンで包んで仕舞いこんでいただけ。

 

 傷つきたくなかったから、辛い思いをしたくなかったから。

 

 ああ、だから。

 

(だから友達は”久しぶり”とか”元気だった”とか形式ぶった挨拶をしてきたのか)

 

 何に対してなのかと首を傾げていたが、何てことはない”自分の事”だったんだ。

 蛍はようやく合点がいった。

 

 

()()()()わたし……学校へも行かず、ひとりだった……吉村さんにもずいぶん迷惑かけたんだっけ……)

 

 蛍は少し前の自分の姿を思い出していた。

 

 虚無の鎖にくるまれた、全てを失い自暴に囚われた時のことを。

 様子を見に来たお手伝いの人がそんな自分にとても甲斐甲斐しかったことを。

 

(でも、行かなくちゃって思ったんだ。それは多分、約束。そのことを覚えていたんだね)

 

 蛍は目で月に問いかける。

 大きな瞳に丸い月が宝石のように写り込んでいた。

 

(なんて……ごめん、最初から全部覚えているんだ、あの時のあなたの顔も)

 

 蛍はぺろっと小さく舌を出した。

 悪戯っぽく、そして切ない微笑。

 

(そんな都合よく忘れることなんて出来ないよね。だから探している振りしてた。でも自分を偽るのって疲れるね。そう考えると道化師とか詐欺師の人って凄いよね。わたしは演技とかそういうの苦手だから……小学校の演劇のときだって……)

 

 蛍はもの言わぬ月に胸中を告白する。

 だが月は無垢な輝きを放っているだけ、話し相手さえなってもくれない。

 だれも蛍の話に耳を貸すものなどここにいなかった。

 

 信号が変わり、行き交う群衆が横をすり抜けても蛍はただひとりきり。

 ひとりで月と戯れていた。

 

 

 でもそれはそんなに悲しくない。

 だって理解してほしいと思わないから。

 悲しいのはもっと別の事。

 

 それは現実。

 夢が現実であったことが悲しい。

 

 ──()()()()()()()、全てが、夢であってほしかった。

 

 ただそれだけなのに。

 

 

 月を宿した瞳に熱いもの込み上げてきて頬を濡らす。

 

 胸の内側から外側に広がっていく悲しさ、寂しさ、そして後悔。

 様々な想いがないまぜになってあの時の切なさを呼び起こさせる。

 

 なんで、どうして。

 何度考えても答えはなかった。

 

 

(あれ? わたし、まだ泣けるんだ……)

 

 

 瞳を滲ませながら自分の意外な反応に感心をしめす。

 

 あんなにいっぱい泣いたのにまだ涙が出てくる。

 こころの一部が壊れてバラバラになったとてっきり思っていたのに。

 

(そっか、まだ気持ちの整理がついてないんだね……わたし。どこかに希望があると思ってるんだ。わたしも諦めが悪いよね。そんなところもあなたと一緒だ)

 

 蛍は自嘲するように小さく笑う。

 

 

 真円の月、それが少し輝きを増した気がする。

 気のせいかもしれないが、その小さな光が穏やかな笑顔と重なって見える。

 

(なんか、ちょっと燐に似てるね。だからかな月が優しく見えるのは)

 

 

 太陽の眩しさと月の儚さの両方をもっていた少女。

 

 素敵な笑顔ときらきらとした瞳でいつも真っ直ぐだった、かけがえのない友達。

 

 ”それが込谷燐(こみたにりん)”。

 わたしの憧れで大好きな唯一無二の”親友”の名前。

 

 

 わたしだけが彼女を概念として記憶している。

 ”燐”という名の少女が実存していたことを。

 

 

 吉村さんもクラスのみんなも誰も覚えていなかった。

 でも、わたしは憶えている、彼女の声も容姿も性格さえも全て。

 

 それはわたしの中の悲しさがまだ残っているから?

 それともわたしは期待しているの? 手から離れて行った彼女のことを。

 

 ……よくわからない。

 

 でも、それだけじゃないはずだ。

 もっと純粋で透明なものが二人の間にある、そうであってほしい。

 

 でも、それを確かめる術がない。

 

 

 だから──月に微笑んだ。

 

 親友が、燐が悲しくならないように頑張って笑うんだ。

 とても笑う気分じゃないけど、燐がそう望んだから、わたしに。

 

 それが燐のたった一つの願いごとだったから。

 

 

「燐。月が綺麗だね」

 

 

 聞こえるように話しかける。

 

 隣で同じ景色を見ている気がしたから。

 

 同じ思いで月を見上げている気がしたから。

 

 

 

 だからまだ、一緒に月を見ていた。

 

 

────

───

──

                            

                                 






お久しぶり&初めまして。Towelieと申すものです。

前作を終わらせてからかなり間が空いてしまいました……なんか燃え尽き症候群っぽいものになってしまったようです……。拙作でもなるもんですねー。

その間、ちょこちょこ書いていたんですけど、イマイチ継続性に欠けてしまったりで、なかなか投稿まで至りませんでした。

でも、このまま先延ばしにするのもなんなので、思い切って投稿してみました。
安定の拙作ですが、ほんの少しでも楽しんでもらえたら幸いです。


さてさて、今回はいわゆる”青い空のカミュ”のエンディング後の話になっています。あとがきでこんなことを書くのも何かおかしい気もするのですが……1話の時点ですとそこまでネタバレになってない、ような気がします……多分。

ですが、ネタバレ前提の話となっております故、もし青い空のカミュを未プレイの方がいましたのならば、先にゲーム本編をお楽しみになってからの方がいいかと思います。

でも未プレイでもなんとかなりそう? 私の場合は基本斜め上の展開になりますからねー。
それって所謂、原作クラッシャー? 一応タグつけておいたほうがいいのかな?

あ、もちろん二次創作の勝手なエンディング後の話なので、私の妄想100%で出来てます。
わざわざ書くことでもないと思うのですが、念のため補足しておきます。


プロットというかストーリーボードっぽいのはちょうど一年前ぐらい前には出来ていました。
むしろ一番最初に考えたのがこの話でした。かなり適当なプロットでしたけどねー。

でも、エンディング後の話だとちょっと無謀っていうか、大それたことな気がして、とりあえず保留にしておきました。
それで書いたのが、話が作りやすそうだった”学校であった怖い話”と”青い空のカミュ”のパロディ作品だったわけです。

それとは関係ないのですが、”学校であった怖いカミュ”最近リメイクしてみましたー。っていうかほぼ全文書き直してますよー! だってもの凄い拙作でしたし……。
まあそれは今も変わってないですけどねー。

新たリメイクとして投稿するわけではなく、直接書き直しています。

でも、まだ1話しか直してない……こちらも並行してやれない、かな? と思ってますけどマルチタスクは私の脳の構造的に無理っぽいので、気が向いたときにちょっとづつ直してみたいと思ってます。

それに偶然ですが、学校であった怖い話が発売されて今年で25周年みたいなんですよー!!
記念というわけでもないですが、なんとか年内までにリメイク終わらせたいなー。


そう言えば前回の話のあとがきで”千頭駅”が”小平口駅”の元ネタかなーってドヤ顔で書いてしまったわけですが。

すでに一年以上前に分かっていて、しかも聖地巡りをしてきた人がいるじゃないですかーーー!!!
何度恥をかけばいいのやら……ですが、貴重な資料ありがとうございます。大変参考になりました。

私自身まだ千頭駅及び周辺地域に行っていないので、こういった形で残していただけるのには本当に助かります。しかもわざわざ比較画像まで用意していただけるとはっ! なんてマメなお方だっ!

その方は駅舎を千頭駅と特定したようですがプラットフォームはまだ特定出来ていなかったようですね。
なので私の見解としましては……大井川鉄道の”金谷駅”のホームっぽいかなーと思ってます。画像検索すると似てる……気がする、かな? 
まあ、また間違ってる可能性がありますけどねーー安直すぎるかなぁ? 


あと、本編で燐と蛍が待ち合わせたコーヒーショップがシカゴのピザショップ? から来てるのかなと思ったのですが、Robertsonsという南アフリカ? の香辛料を扱うブランドも関係してるみたいです。
帆船のロゴマークとライトグリーンっぽいカラーはこのブランドのロゴをモチーフにしたっぽいですねー。
英語圏ではポピュラーなスパイスっぽい? 日本ではあまり馴染みがなさそうですね。ちなみに私は全く知らないブランドでした。コハダ先生は博識ですねー。


さてさて、今回の話はプロットの段階では6話で終了の予定です。
前の話のように話数が伸びることは……なさそうです、多分……多分です……。
仮に伸びても1話追加するぐらいです……もうあんなに長いのは嫌なのでーー。

肝心の投稿頻度ですが……相変わらず重度なのんびり思考なので1週間から10日前後かかると思って間違いないです。
もしかしたら前回みたいに2週間以上更新が開いてしまうこともあるかもしれません。
あまりに期限が空くようでしたら活動報告を使ってお知らせします。


それにしても、もう9月ですね。コロナ禍で色々混乱した年ですが、それでもすっかり秋にななっちゃいましたねー。
今年もあと、三か月ですよ───嘘みたいに早いですね──。

でも、まだちょっと暑い……このまま残暑が続くんでしょうか?
と思ったら急に寒くなってきたよぅ……この辺の時期は天気の移り変わりが早いかもですねー。
やはり体調管理に気を付けたいです……って毎回言ってる気がしますねぇ……。まぁ、健康は大事ということで。


さてさて、無駄に長くなりましたが、これもいつものことですねー。

拙文かつ、長文のお目汚し失礼しました。


それではでは。
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