We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life. 作:Towelie
青と白。
白と青。
青い空と白い大地。
二つの色しかない世界。
静かすぎて耳鳴りがする世界。
日の光をいくら浴びても暑さを感じることはない不思議な世界だ。
でも、良く知ってる世界。
目の前には銀色に光る線路と白いプラットフォームが見える。
これにも見覚えがあった。
あの家は……ここからでは良く見えない。
まだここにあるのだろうか?
角度を変えて確かめようと、身体を動かしてみる。
……
…………
……なぜか体が動かなかった。
改めて自分の体を見回してみる。
──なるほど、と思った。
わたしの体には動くために必要なものがなかった。
だから動けない。
動きたくとも動けない。
でも不思議とパニックにはならなかった。
困惑はするけど、仕方がないと思ったからだ。
それは、他人事のように思えたから。
自分のことなのに、いまいち実感が湧かなかった。
……ここから動けないのなら何ができるんだろう、ほかにやれることはあるのかな?
きょろきょろと目を動かすと、すぐ真下に線路が続いていた。
どこまでも続くように先の見えない長い線路。
線路の間の枕木の隙間の白い砂利に混ざって、何かが転がっているのが見える。
それは石というにはあまりにも整いすぎていた。
だからすぐ気づいた。
(あ、カタツムリの殻だ)
普通に声を出したつもりだったのだが、なぜか言葉にはならなかった。
その事はとりあえず置いておいて、わたしは殻を拾い上げようと手を伸ばす。
……?
どうやら物を掴む手もないようだった。
手も足もなく、喋る口さえもない、おまけに首も動かせない。
こんな自分になんの価値があるのだろう。
考える脳だけは持っているようだが、それでは何もしないのと同じだった。
そう、何もしないこと。
……それでもいいのかもしれない。
別に特別なことをするわけでもなく、ただここにいるだけ。
それでいいと思う。
もともとわたしには何もできなかった。
自分一人でいいかと思ったけど、結局一人では何もできない。
だからこれが末路なんだと思う。
勝つとか負けるとかでなく、末路。
わたしはこうなることが運命づけられていたのかもしれない。
最初から、生まれたときから。
(みんなはわたしを望んでいたと思うけど、わたしはそうじゃなかったんだね、きっと)
誰の為でもない、自分のため。
わたしは最後まで自分を認めてあげられなかった。
今動けない自分こそが本当の自分なんだと思う。
何物にも縛られず、期待されずにただ立っているだけ。
ほかには何もない。
出来ることはただ空を眺めるだけ。
そしてもし空を眺めるのに疲れたら、今度は真下にあるカタツムリの殻を見つめていればいいんだ。
わたしはそれでいい。
それだけで十分退屈することはなさそうだし。
それにこの世界は夜も来なければ雨さえも降らないのだから。
あれ?
ずっと、ずっと青い空と思ってたのに色が変わってる。
ほんの少し前まで真っ青な空だったのに、今は赤い夕焼けの空に変わっている。
もうそんなに時間が経ったのかな、時間の概念なんて感じられないけど。
あれれ、また変わった。
今度は朝焼けのような金色になってるよ。
やっぱり時が過ぎるのが早いのかな?
それともわたしの頭がおかしくなったのかも?
あ、そうじゃない。
おかしくなったのは頭じゃなくて目だった。
だって左目だけで見ると赤くなって、右目で見ると空がきいろになる。
でも、両目で見ると青に変わるんだ。
それは空だけじゃなくて、周りの景色もそれぞれの色が混ざった景色に変わっていた。
赤い空にはピンクの雲。
黄色い空にはバナナみたいな可愛い雲。
青い空には……やっぱり白い雲だ。
これってすごく怖いことなんだけど、不思議と気持ちは落ち着いている。
あか。
きいろ。
あお。
あか。
きいろ。
あお。
なんだか、小さい頃に歌った童謡みたいだった。
リズムをとるように瞼を閉じたり開いたりするとその度に色が、色彩が変わっていく。
わたしが合図するだけで世界が変わっていくようで、ちょっと有意義な気持ちになった。
でも……やっぱり空は青い方がいいな。
どこまでも澄んだ青い空が。
だからわたしは両目で空を見ている。
そうすることしか出来ないけど、それでもあなたに会えるような気がするから。
それに。
(言ってた通り、すぐに慣れちゃったみたいだね。そのほうが楽だもんね)
わたしはここで待ってる。
どれだけ時が経っても、ずっと青い空を見ながら。
ずっと。
ずっと。
黒が赤紫になって青みが空に滲みだす。
絵の具を零したような夜のしじまに砂の様な小さな星々が消えそうなほどの微かな光で瞬いていた。
燐はパジャマ代わりに着ているライトグリーンの無地のTシャツにベージュのショートパンツ、素足にはピンクのストラップサンダルを引っ掛けていて、所謂ラフなスタイルで見知らぬ少女と空を見上げていた。
「やっぱりさ、星なんて落ちてくるはずもないよね」
燐はたまらず口を開く。
そう都合のいい状況に出くわすわけがない、そう言わんばかりの口調で。
それでも視線は空の一点を眺めたままだった。
「……」
燐の問に何も答えない少女。
その沈黙が何か馬鹿にされているような気がしたので、燐は少し頬を膨らまして話を続けた。
「星ってさ、流れ星のことでしょ。でも、そうそう都合よく見れるものじゃないよね。流星群が見える時期とじゃないとダメなんじゃないかな」
何かわかったような物言いで燐は少女を諭すように続けた。
とは言うものの、今は何の流星群が見れるのかはわからない。
燐はそこまでの天文的な知識をもっていなかった。
「……」
それでも少女は何も答えずに空を眺めている。
まるでそれしか見るべきものがないかのように。
さっきから少女が黙ったままなので、燐がもう一度聞き返そうとしたとき、少女の細い指がすっと伸びて、天を指し示していた。
「えっ!? なに、今、星が落ちてきたのっ!?」
燐は少女の示した方角に瞬間的に視線を合わせると、目をきょろきょろと動かしてみる。
スポーツをやっていたおかげで動体視力には自信があったから、だからすぐにでも見つけられると思っていた。
だが、少女の指し示した方向にはそれらしきものはなかった。
流れるような星の影も軌跡もなかった。
ただ青黒い空に少し色味が掛かった雲が流れているだけ。
指さすほどのものではなかった。
さらにいつの間にか星々の瞬ききもあらかた終わっていた。
夜明け前の天体ショーは大した見どころもなく、アンコールもないまま閉幕してしまった。
「……結局、何も起きなかったよねぇ?」
確認するようにつぶやく燐。
自分の目では確認できなかったが、隣の少女にはなにかが見えていたのかもしれない。
そう言った期待を込めてのものだった。
「期待してた……?」
これまで黙っていた少女がぽつりとこぼす。
あどけない声色は可愛らしさのなかに凛としたものがあった。
「あ、えっ!? そうゆうわけでもないけどさ……あんなこと言われたらちょっとは期待しちゃうんじゃない?」
思っていたことをずばり言い当てられて、燐は手をぱたぱたと振りながら弁明した。
(なんでバレたんだろう? わたしすぐ顔に出ちゃうからなぁ)
燐は子犬のように項垂れながら恥ずかしさのあまり指をもじもじとさせた。
燐の急な変わり身の早さに首を傾げる少女。
「期待を裏切られたから落胆してるのね。でもそれは仕方ないことだわ」
「そうなの?」
燐も首を傾げる。
「ええ、だって、あなたは本気で見ようとしなかったから。だから見えるものも見えなくなるのよ」
再度、胸の内を少女に見透かされて燐は思わずうっ、と喉を詰まらせて唸った。
少女の言うように確かに信用していなかった。
それこそ子供だましというか、少女らしい
少女よりも明らかに年上と自分では思っているのに、それを取り合わなかった自分の懐の狭さがなんとも恥ずかしかったのだ。
顔を真っ赤に染めて何かに耐えかねている様子の燐を特に気にせず少女は話しだした。
「大丈夫。星は地面に降り注いだわ。幸運という偶然の種子を」
納得するようなしないような、煮え切らない表情で燐は少女の言葉を黙って聞いていた。
理解しようと頭を巡らすもその一片さえ拾うことが出来なかったが。
「幸運の力は太陽から星に向けて発せられるの。だから日中はその力を蓄えて、夜になると幸運の力の作用で星が輝くのよ」
「そして、日が昇るころその力は地面に降り注いでいく。そのおかげで大地は肥沃になったり、川や海が綺麗になっていくのよ」
少女の細い首を伝わってでる言葉は小鳥の囀りよりも可憐で、雨のしずくのように透き通って聞こえる。
まるでおとぎ話の住人様な面持ちで燐は少女の言葉に耳を傾けていた。
だが少女の言葉は不思議の国に入りそびれた燐の耳は難しく、全てを理解することは到底叶わなかった。
(どうしよう、何言ってるのか全然わかんないよっ)
助け舟を出すもののない状況で、燐の出来ることは一つだけだった。
「あ、えっとぉ、そろそろ帰ったほうが良いんじゃない。こんな時間に出歩いてたら家の人に怒られちゃうんじゃない?」
頭が理解するよりも少し早く、燐は話題を有利な方向に変えた。
この少女の言葉を理解するには時間が掛かる。
それは苦手なジャンルの本を読むよりもつらかったから仕方がなかった。
「……家なら目の前にあるわ」
話の腰をへし折られても少女は顔色一つ変えず、目で訴えかける。
少女の視線の先には言葉の通り家が一軒あった。
かさついた青のトタン屋根を被った色褪せた古民家。
「目のまえ……?」
燐はきょろきょろと周辺を確認する。
道路に面した住宅街の一角、両隣には家屋はなく、代わりに青々とした茶畑が広がっている、田舎らしい僻地な場所だった。
だから少女の言う”目の前”には今出たばかりの家しかないわけなのだが……。
「まさかとは思うんだけど、それって」
「そうよ。ここがわたしの住む家」
燐は驚きを隠せず、口をぱくぱくとさせる。
この少女は何を言っているのだろう? ここはわたしの家で少女の家ではないはずなのに。 住む家、確かにそう聞いた、でも。
(どういうことなんだろう、だってこの子どう見てもわたしより年下だし、それに親戚でも見たことがない。じゃあ、まさかまさか………!)
「お、おおおお、お父さんの隠し子とか、とかなのぉ──!?」
燐はパニックになって思わず少女を指さしながら叫んでしまった。
燐の父、いや前の父は確かに異性に人気があった。
歳を感じさせない飄々さは、燐から見ても父というよりかは年の離れた友達のような間柄だったから。
それでも遊び好きという風には見えなかったが……。
(いやいや、だったら別の女の人のところに行ったりしないし。結構遊んでたのかも)
父の過去は良く知らないが、離婚だって今回が初めてじゃないのかもしれない。
新しい家に引っ越したと思ったら
「……あなただって、わかっているはずよ」
「ふええぇっ!?」
確信を持った少女の言葉に燐はすっかり動揺してしまった。
「あなたはわたしの事を知っている。それだけじゃない、全てを知っているのに無知を演じている。傷つきたくないから」
「わ、わたしが、全部、知ってる、の……?」
「ええ」
燐は肩を震わせながら少女に問い返す。
少女は平然と答える。
その気丈とも言える落ち着きっぷりに燐は狼狽えたように一歩下がった。
「や、やややっぱり、そうなんだね」
「ええ、そうよ」
さらりとした少女の黒髪から覗くあどけない瞳。
少女は至って平静だったのだが、今の燐には何か悲しみを湛えた瞳に映っていた。
「過去を知ることは悪いことじゃないのよ。それを理解した上でどうするかが重要なのよ」
「うんうん、そうだよね、辛かったよね」
少女に言われるまでもなく分かっている。
両親が離婚するのは誰だって辛い。
わたしのような高校生だって辛いのに、こんな小さな子を残したまま離婚するなんて。
(お父さん……信じてたのにぃ)
燐は自分の心の中の父のイメージをぎゅっと握りつぶした。
「綺麗なものを大事にしたい、あなたはそれがどういうことか分かってしまった。だからこそあなたは悩んだ末に選び取った。未来ではなく尊さ、美しさを選んだのね」
「そうだよね、大人は汚いよねっ。わかる、わかるよその気持ち。わたしたちは綺麗だもんね」
燐は目元を拭うような仕草をする。
燐の大げさな態度に少女は小首を傾げるも、そのまま言葉を続けた。
「だからあなたはいなくなった。失うことそして穢されるが怖くなったから」
「いなくなったのはお父さんの方だけどねぇ。でも、ほんと大人って勝手だよね。離婚するぐらいなら結婚なんかしなければ良いのにね。こんな小さい子を残して、お父さん見そこなったよっ!」
「見そこなう?」
少女は頬に手を当てて疑問を口にする。
その仕草が本当に無垢を感じさせたので、燐は思わず目がうるっとなった。
「大丈夫っ! 今日からわたしがあなたのお姉ちゃんだよっ! お母さんにも言えばきっと分かってくれるからっ! ずっと、ずっとここにいていいからねっ」
燐は感極まったのか少女を正面から抱きしめた。
細い身体を包む幾何学模様の赤い着物が燐の腕の中で小さくなった。
予想外の出来事に少女は小さな口を開けたまま、なすがままに抱かれていた。
驚いた拍子で少女のか細い手から傘が滑り落ちる。
乾いた音と共に地面に落ちる鮮やかな朱色の和傘。
その時初めて少女の姿が空の下に晒された。
艶のある美しい黒髪、透き通ってきめ細やかな肌、折れそうなほどか細い手足。
少女のすべてが作り物のように整っていて比喩ではなく人形のようであった。
これまで感じたことのない心の温もりに、少女は自分の輪郭がこのまま薄れてしまうのではないかと思うほどの衝撃を受けていた。
このまま時が止まっても構わないと思えるほどの時間だったが。
「燐、苦しいわ」
自分と言う存在がまだここにあることを確かめるように、少女は小さく呟いた。
「あっ、ごめん、なさい」
少女の囁きで、燐は思い出したように身体を離した。
なぜだか名残惜しそうな顔で少女を見つめていた。
少女は小さく息をはくと、着物のシワを軽く撫でてて正した。
そして地面に転がっていた和傘を拾い直すと、また同じように傘を差した。
少女の艶のある仕草は同性である燐ですらどきりとさせられた。
「何か……勘違いをしているんじゃないかしら」
「えっ、あ、そうなの? そういえばわたし名前名乗ったっけ? もしかしてお父さんから何か言われちゃった? わたし込谷燐、だよ。離婚したとき苗字を戻すかどうかってお母さんに聞かれたけど、わたしは元のままが良いって言ったんだ。だって、わたしはわたしだしね」
燐はぱっと思いついたように手を叩くと、矢継ぎ早に自分の事を話した。
最後のほうは母の受け売りだったけど、燐はとても気に入っていたから、なんとなく言ってみたかったのだ。
「そう、じゃあ燐」
ため息交じりに名を呼ぶ少女。
その声にはどちらかというと呆れのほうが強かった。
「なになに? お姉ちゃんって呼んでも良いんだよ。あ、燐姉ちゃんでもいいし、燐お姉さまでもわたしは全然構わないよっ」
健康的な白い歯を見せながらころころと笑う燐。
妹が出来たことがよほど嬉しかったのか、それとも自分の境遇を理解してくれるものが出来たせいなのかは分からないが、自分でも不思議なほどテンションが高かった。
「あなたを姉と呼ぶことはないわ」
落ち着いた声で少女はそう言い切った。
「うっ、そ、そうなの……じゃあ」
燐は若干落胆した様子をみせるが、すぐに言葉を続けようとした。
別の呼び方を考えたのだろうか。
だが、その前に少女の声の方が一歩早かったので、それは叶わなかった。
「わたしとあなたに血のつながりはないわ。もっとも、
「
燐は少女の言葉を反芻する。
その言葉に少し胸の痛みを覚えた。
「燐、あなたは最初からわかっていたんでしょう。わたしが誰であるか。そして自分がどういう存在であったのかを」
「わたし……」
言葉の続きが出てこなかった。
別に考えていなかったわけではなく、むしろ考えすぎていたから言葉が出なかったのだけれど、それを言葉にしなければ同じだと思っていたから、燐はそのまま黙り込んでしまった。
「わたしとあなたは違う血が流れている。けれど燐はわたしと似たような性質を偶然持っていた。それはもうあなたにだって分かっているはず」
少女の言葉は燐の胸を静かに抉った。
小さな痛みが心に傷をつける。
だけどそれは今の燐には十分すぎる痛みだった。
「何も特別なことじゃないのよ。ただその力が強かっただけ」
「本当に、それだけ、なんですか」
絞りだすように燐は口を開く。
それは歳下相手ではなく、あの時のあの人と向かい合ったときの声色になっていた。
「ええ、だから誰も悪くない。そう言ったわよね」
少女は諭すように言った。
傍から見れば少し滑稽に見えるが、二人の間にはそんなことどうでもよかった。
問題なのはなぜ今になって現れたのかということ。
「そうね。でも、それだって分かっているはず。あなただって戻ってきたのだから」
「……それは」
燐は痛いぐらいに自分の手を握りしめた。
自分でも分かっている、なぜ戻ってきてどうしてここにいるのかも。
「
燐はその名で少女を呼んだ。
一目見た時から確信はあった。
でもにわかには信じられなかったから、色々探りを入れてみたのだけれど。
やっぱりこの子はオオモト様だと分かった。
見かけだけじゃない、醸し出す雰囲気があのときのままだったから。
オオモト様は一瞬目を伏せると空を仰ぎ見た。
急に日が差したように空の明るさが目に付いて、朝の匂いを嗅いだ気がした。
「そうね……わたしにもわからないのだけれど」
オオモト様は言葉を一旦区切ると、真っ直ぐに燐を見た。
そして何かを決めたように大きな瞳を伏せて、オオモト様は話を続ける。
「あなたは周りを明るく照らす力を持っている。それは
静かな抑揚でオオモト様は言った。
緋色の瞳は凪ぐような平静さで燐を見ていたが、傘を握る小さな指が落ち着きないように何度も握り直しているようにみえた。
逆に燐はオオモト様にそう言われても特に動じはしなかった。
自分でもなんとなく分かっていたことだったから。
「ねぇ、オオモト様。わたし普通の女の子なんだよ。お父さんとお母さんから生まれた、これと言って特別なものはない普通の女の子として」
オオモト様の言いたいことはなんとなく分かる。
でも普通は普通だ。
特別なものはない、自分でも分かっていたことだったし。
「普通の基準なんてものはないわ。ただあなたは周囲に影響を与えることが出来る。そこには普通の定義なんてものは関係ないのよ」
「で、でもっ!」
燐はオオモト様に詰め寄るかのように語気を強めて否定した。
自分でも十分分かっていることだったが、それを認めてしまえば現実になってしまう気がしたのだ。
普通じゃない自分の存在を。
(それはまるで、彼女みたいってこと?)
急に脳裏に浮かんだ言葉に燐は心中で首を振ってそれを打ち消した。
「わ、わたしは普通です! 普通じゃないといけないん、です……」
最後のほうは聞き取れないほどの小さな声になっていた。
オオモト様はあなたの言いたいことはわかってるとばかりに傘をくるりと手の中で回した。
「普通であることはどうでもいいこと。問題は”あなた”と”わたし”がここにいる。そうでしょう?」
「う、はい」
燐は歯に物が挟まったような顔でオオモト様を見つめた。
あの時見た幼いころのオオモト様。
でもそれは異変が見せてくれた過去の姿だと、そう言っていた。
あの”青いドアの家”の人と同一だとしても、それほどおかしくはない。
大人の頃の面影が小さい頃から現れていると思ったから。
ただ存在には矛盾が生じていた。
歳をとらない存在であるとか、何かで作り出した幻想か。
ともかく
だから音もなく背後に現れてもそれほど不思議じゃなかった。
青いドアの家でもそうだったから。
「もし」
オオモト様の小さな口が開いた。
「もしも、わたしが今、ここにいることにあなたが影響してるとしたら。あなたは、燐は、嫌な思いをしてしまうのかしら」
「それは……」
燐はその問いにも答えられなかった。
何故ならそれを認めてしまえば、自分は目の前の少女とそれほど変わりのない存在だと言うことになってしまう。
だが、改めてオオモト様が言うということは……。
(やっぱりわたしは”普通”じゃないんだ)
自分では普通の一般的な人間だと思っていただけにショックだった。
でも、と燐は唐突に思うことがあった。
(こういうこと、”あの時”も考えてたのかもしれない。わたしは自分のことだけで精一杯だったけど、もしかして、こういった悩みを聞いてほしかったかな)
今更なことだけど、同じ境遇になってわかった。
特別な存在に優位性なんてものはないことを。
普通であること。
それはある意味幸せなことであり、安定したことなのだということ。
特別な存在はみんなとは普通とは違う、だから必然的に孤立してしまうのだ。
目の前にいる少女のように。
わたしは
今なら分かる気がする、きっとずっと戸惑ってたことも。
「わたしには、特別な力なんてないです。だって普通の子、だし……」
絞りだすように言う燐に、小さなオオモト様は首を小さく振った。
「特別かどうかはわからないけど、あなたには引き寄せる力がある。でもそれは良いことだけではなく善悪に関わらず様々なものを引き寄せてしまうの」
「そういう力は誰しも持っているのよ。燐は少しだけ他の人より強かった。それがこの町の異変と偶然波長があってしまったの」
「……」
燐には頷くことも首を振ることも出来なかった。
肯定も否定も嘘のように感じられたから。
ただ茫然とオオモト様の話を聞いていた。
「でも、あなたはそれに気づいてしまった。あの白い犬とヒヒが”あなたが望んでいた通り”の結果になってしまった時に。それも偶然なのだけれど、あなたはそれを認めなかった」
心の奥底ではまだ信じていたかったこと。
でも、この人に言われたことで揺らぎが生じだしている。
それは急に夢から覚めたような、めくるめく感覚。
認めたくないけど……認めざるを得ないことだった。
「オオモト様は、その、全てを知ってたんですか……」
燐は両手を固く握りながら言葉を紡ぐ。
すがるような瞳で目の前のオオモト様を見つめながら。
オオモト様は小さく息をはき、目くばせするように瞼を閉じると、差していた傘をすっと畳んだ。
手にした傘よりも小柄な体、全てのパーツが人形のように整った少女。
その顔立ちに似合わぬ芯のある声で小さく語りだした。
「わたしが知っていることは大してない。それは間違いじゃないのよ。それにもう過ぎてしまったこと。だから気にするべき問題はないわ。あなたも彼も町の人も、みんな同じ夢を見ていただけ。ただ夢から覚めた時間が違っただけなのよ」
「彼だけではなく、あなたの想いも町を変えるきっかけになってしまった……燐はそう考えたのでしょう。仮にそうだとしても、この町を元の姿に戻したのもあなたなのよ。だったらあなたは十分に責任を果たしたことになるわ」
「わたしにはそんなこと──」
燐は思わず口を挟もうとしたが、それ以上の言葉は出なかった。
なのでオオモト様はそのまま話し続ける。
聞いていようがいまいが関係なく、それはいつも通りで。
「誰が、なんて関係ないこと。この町にはもう幸運の力もないし、座敷童なんて概念も存在していない。誰が望んだにせよ、これこそがこの町の本来の姿なのよ」
この町は座敷童の幸運によって発展し、そしてその力で狂ってしまった。
それは本来の町の姿じゃないから、と”オオモト様”が言っていた。
目の前の少女と同じ、オオモト様が。
「でも、”オオモト様”は」
「わたしは……わたしは、この町に幸運をもたらす為に来たわけじゃないわ。燐、あなたに会いにきたのよ」
「わ、たしに?」
自信なさげに自分を指さす燐に、オオモト様は小さく頷いた。
(なんでわたしに? どうして)
燐は言葉なく立ち尽くした。
本来ならばオオモト様に真意を確かめるものなのだけど、なぜか燐は口をつぐんだままだった。
それはなんとなくからくるものだったけど、ある意味確信もあった。
燐は聡の残したノートで”彼女”が何をしたのかを知っていたから。
だからかチクリと胸に棘が刺さっていた。
凍り付いたように立ち尽くす燐の横をオオモト様は通り過ぎる。
石畳を歩く細い足に嵌められたぽっくりの音が燐を膠着から解き放った。
「あ……」
思わず燐は呟いてしまった。
通り過ぎる赤い着物が名残惜しそうにひらりと揺れる。
その所作は冷たいというよりも、むしろ気を遣うような素振りに見えた。
燐はオオモト様の動きを呆然と目で追っていくと、その足が自分の家庭を通り抜け、玄関に向かっていることに気付いた。
「オオモト様っ」
焦燥感にかられたように燐がその小さな背中に声をかける。
その声にオオモト様はぴたりと足を止めてこちらを振り向いた。
表情は変わっていない、けれども少し悲しそうにみえた。
「彼のことはわたしに非があるわ。あの時はあれしか方法を知らなかった。そのことであなた達に不義をしてしまった。ごめんなさい」
オオモト様は両手を揃えて頭を下げた。
「謝ってすむことじゃないと思っているの。だから、もし燐が望むのならば、彼との仲を取り持つこともできるわ。わたしにはそれぐらいしか出来ないけど……」
大きな瞳を揺らしながらオオモト様は切なそうにこちらを見つめていた。
その表情は悲しみと後悔で満ちていた。
今まで見たことのないオオモト様の表情に、燐は慌てて笑顔を作った。
「わ、わたしは別にそういうつもりはないです。それに、お兄ちゃんとのことはもう……」
微笑みながら話すつもりの燐だったが、”お兄ちゃん”と言った途端、急に胸が苦しくなって言葉が出なかった。
もう吹っ切れたと思ってたのに、まだ忘れられないでいる。
割り切れない自分の弱さが悲しかった。
「大丈夫よ」
「えっ、なにがですか?」
「じきにあなたはわたしの事が見えなくなるわ。それに座敷童とはそういうものだから」
幼くも柔和な顔でオオモト様は微笑んだ。
「じゃあ、オオモト様は消えてしまうんですか」
「消えるというわけはないわ。ただ見えなくなるだけ。あなたたちの定義で言うのなら光よりも早くなること。つまりわたしを認知することが出来なくなるだけ」
それはつまり”事象の地平線”ということだろうか。
誰かが言った言葉、それが燐の脳裡にぼんやりと浮かぶ。
いつ、誰に言われたことなのかよくは覚えてないけれど、その言葉と意味だけははっきりと覚えていた。
誰なのか思い出すことは出来ない。
思い出そうとするたびに白い霧の様なものが記憶を覆い隠してしまう。
とても重要なことのはずなのに。
(なんか脳が拒否するような感じがするんだよね。わたし変な病気になっちゃったのかな……?)
燐が頭をうんうん唸らせていると、オオモト様は玄関周りをきょろきょろとしている。
何かを探すような仕草をしていた。
「だから燐、悪いけど用意して頂戴」
「えっ、用意って?」
言葉の意味が不明だったので燐はオオモト様に聞き返した。
「この家でパンを売るのでしょう? だからパンを食べてみたいわ。最後にあなたが作ったパンを食べてみたいの。わたしが来たのはそのためよ」
真っ直ぐな瞳をこちらに向けてオオモト様は真剣な表情で突拍子のない事を言い始めた。
燐は何も言えず目を何度も瞬かせる。
オオモト様流の冗談──にしてはイマイチだと思った。
(オオモト様って、そういう食事とか必要ないんじゃないの??)
青いドアの家でも何かものを食べたのを見たことがない。
お茶を淹れてくれたような気もしたけど、結局口をつけなかったと記憶してる。
だからあまりにも意外な言葉だった。
「わたしにだってエネルギーは必要なのよ。そう、人並みにね」
オオモト様は玄関わきに置いていた塩の山を眺めながら言った。
折れそうなほどに細い身体を水鳥のように優雅に曲げて玄関前の白い山の頂を二本の指でつまむオオモト様。
細い指に付いた塩の結晶をじっと眺めたかと思うと、そのままぺろりと舌で舐めとった。
「ん……良い塩ね。これなら美味しいパンがきっと出来るわ」
その一連の動作に何かを感じたのか、燐は見てはいけないものを見たかのように顔を赤くして呆然としていた。
オオモト様の言葉も小さな赤い舌も何もかもが耽美に見えた。
「それに盛り塩には魔除けだけじゃなく、縁起担ぎの意味もあるのよ。穢れのない清い商売をしているという意味で。この町でも昔はよく店先に並べてあったわ」
「もっとも、座敷童が居付いた店屋は、すべからく繁盛するでしょうけど」
小さな舌をぺろりとさせて、はにかむように微笑えむオオモト様。
そのあどけなくも、艶めかしい仕草を見て、燐はお伽噺のヒロインにでもなかったような感情の昂りを覚えた。
(ただ塩を舐めてるだけなのに、なんだか……えっちな感じにみえる。”この”オオモト様ってわたしより年下? なんだよね……?)
「どうかしたの?」
顔が赤くなった燐を見て小首を傾げるオオモト様。
急に近くに寄ってきた感じがして、燐は慌てて身振りを大きくしながら微笑み返す。
「あはははっ、な、なんでもないです」
「? そう」
オオモト様は気にする様子もなく、よほど気に入ったのか丹念に指をぺろぺろと舐めていた。
「それで、燐はどんなパンを作るの」
指をしゃぶりながらオオモト様が真っ直ぐに訊ねてくる。
その仕草だけは年相応の少女らしい愛くるしさがあった。
「あっ、えっと、わたしっ結構何でも作れるんですよ。店で出すパンは大体作れるし、お母さんは作らないベーグルやブリオッシュだって出来るんですよ。パン屋だけじゃなくカフェもいいかなって思ってるから、今はドーナツやラスクの練習もしてるんですよ」
今、一番ハマっていることからか、燐はことさら胸を張って答えた。
「そう、なら問題ないわね」
オオモト様はさらりと受け流すと、そのまま自然な感じで玄関のドアを開ける。
独特のサッシの音がすっかり寝静まった玄関口にがらがらと響いた。
「ほ、ほんとにウチに入って来ちゃうんですか?」
「ええ、都合が悪いの?」
「そういう意味じゃないですけどぉ。なんか本当に入ってくるからちょっと戸惑っちゃって」
「幸運とはそういうものよ。唐突にやってくるわ。受け止められるとかそういったものは一切考慮しない。時には理不尽とも置ける状況下にだって幸運はあるのよ」
急に真面目なことを言うので燐は面食らったように腰を曲げた。
脈絡がないというか切り替えの早いところはやはりオオモト様だと思ったが。
「幸運……」
燐はその言葉を口に出してみる。
もう
でも、オオモト様は居て、あの時のこともわたしのことも覚えている。
幸運がなくなったと言っているがそれはどの程度信用できるものなのだろうか。
それにまた同じようなことが繰り返されることだってある。
その時が訪れるなんて誰も分からかったのだから。
「大丈夫、もうあの時のようにはならないわ」
いつの間にか傍まで来ていたオオモト様がこちらを覗き込んでいた。
大きな二つの瞳が興味深そうにこちらをじっと見ている。
「大丈夫、って、どうしてですか」
穢れのない瞳。
透き通るような視線に見つめられたからか、燐は少し照れてしまっていた。
「それは燐、あなたがもう一度”切り替えて”くれたから」
「あなたはもう一つのスイッチに気付いた。”あの子”でも”彼”のでもなく、自分の中にあるもう一つのスイッチに。でも、それを切り替えるのには迷いがあった。それは自分が歪みの元凶だと思い込んでいたから」
「……」
燐は瞼を伏せる。
その心を閉ざすような仕草を見せる燐に、オオモト様は燐の耳元で柔らかく囁いた。
「あなたは自分よりあの子の幸せを選んだ。それこそがあなたのスイッチ。自分を捨てて守ろうする純粋さこそがあなたが切り替えるべきものだった」
「全てを失って最後に残ったもの。それはお互いに同じだったけど、あなたのほうが少し愛が強かった。だから自分の肉体を捨ててまで彼女の為に全てを戻した。幸運も座敷童も存在しない世界に」
オオモト様の言うように自分がスイッチを持っていたかどうかは分からない。
そんなものを自分で切り替えたつもりなんてなかった。
(ただ、見えただけなんだ。線路の先に何かが揺らめいているのが。それが良くないものってわかったから。そうしたら)
本当にそう思っただけだった。
それだけなのに、自分の中で何かがカチリと音を立てた気がしたんだ。
ただそれだけ。
それだけだったんだけど……。
「そう、それだけ。でもあなたはここに戻ってきた。燐は変わっているのよ。自分を愛し、他の人を愛することができるようになったの」
「愛、ですか?」
「それに、あなたが覚えてくれていたから、わたしはこうして輪郭を保ってあなたの前に立つことができる。ありがとう、わたしを覚えていてくれて」
これまで見たことがない表情が目の前にあった。
燐は微笑み返すとその小さな温もりに体を埋めた。
「わたしは、オオモト様のこと忘れたことないですよ」
それは本当のことだった。
(でも、わたしが覚えていたのは”大人な”オオモト様だったんだけどね)
青いドアの家にいた長い髪の優しい人。
どんなときも笑みをたやさない優しい人。
覚えていたのは
燐は思わず小さなオオモト様の顔を覗き込んだ。
あどけない顔立ちの中にある静謐さは、オオモト様なんだけど。
「今のわたしが嫌なの?」
目の前の大きな瞳が少し悲しんでいるように見えたので、燐はその瞳から誤魔化すように目を逸らした。
(嫌とかそういうわけじゃないけど、なんかちょっと気まずいんだよね……)
燐は変な空気を変えるべく、オオモト様に尋ねた。
それはいま聞かなくても良いことでもあるし、いま聞いておきたいことでもあったから。
だから真剣な目で見つめた。
「あの、オオモト様は……どこから来たんですか?」
オオモト様は一瞬沈黙する。
朱色の瞳には少し迷いがあった。
「そうね……」
話題を変えたのに眉をひそめることなくオオモト様はすっと顎を上げる。
そのまま遠くを見るように視点を空に流すと、何かを掴むように彼方に手を伸ばした。
着物の裾から覗く、折れそうなほど細い腕が真上を差していた。
「多分、空から来たと思うわ。何処という特定の場所はもう分からないけど」
オオモト様が指さすその先にはもう星も月もいなくなっていた。
代わりに東から様々な色の雲が赴くままに流れていた。
漠然とした朝の空気が夜の澱みをその熱量で押し流しているその途中。
もうほとんど夜明けだった。
「わたしは何をしにここに来たのかしらね……」
誰に向けたでもない小さな呟き。
声は小さな星屑となって空にかき消える。
その言葉の小ささと、オオモト様の華奢な体がやけに寂しそうだったので、燐は何も言わずにオオモト様の小さな手を優しく握った。
「わたしも、何をしたいのかまだ良くわからないんです。でも、今やるべきことはわかりました」
「燐?」
「わたしのパン、食べてください。色んな種類のパン、いっぱい作りますからっ!」
大きな瞳を輝かせて燐は言った。
結局、何がしたいのかなんて分からない。
わたしだってこの人だって何のために生まれてきたなんて分からないんだ。
でも今はこの人に、オオモト様にわたしの作ったものを食べてもらいたいと思ったから。
もし本当に星から来たんだったら、地上の美味しいものを食べてもらいたかった。
(何食べても”まあまあ”とか言われそうだけど)
それになんとなく似ている気がしたから。
”わたし”と”オオモト様”。
それは初めて会った時からどこかで感じていたもの。
姿も境遇も何もかも違うけど、お互い傷を負ったもの同士だったから。
その連帯感がそうさせるのかもしれない。
小さなことに拘っている自分を変えるためにも、今は自分の作ったパンをオオモト様に食べさせてみたい。
それは喜んでもらいたかったから。
オオモト様の本当の笑顔が見てみたかったから。
(まあ、実のところ、わたしお母さん以外に”まともに”パンを人に食べさせたことがないんだよね)
そう言う意味ではわたしの最初のお客さんは、この小さな姿のオオモト様だった。
それにもう迷わないって決めたんだ。
わたしは自分に折り合いをつけたから戻ってこれたのだから、きっと。
(なんだか良くわからないこともあるけど)
今はただ、この人の希望通りのことをしてあげたい。
そうすれば何かが分かるかもしれない、そんな気がするから。
燐は、自分の直感を信じた。
今までだってずっとそうやってきたのだから、いまさらそれを変えることをするつもりはなかった。
それが”わたしがわたしであること”なんだ。
「ええ、期待しているわ」
オオモト様はそう言って小さく頷いた。
細く小さな指をぎゅっと握りしめながら。
その柔らかい感触に燐は胸がぎゅっと暖かくなる。
彼女の本心を聞いた気がしたから。
「じゃあ、決まりっ! えっと、オオモト様は何が食べたいの? さっきも言ったけどわたし結構何でも作れるんだよっ。今、女の子に人気のシナモンロールだってバッチリ焼けちゃうんだからっ!」
「わたしは、燐が作ったものならなんでもいいわ」
「そう、ですか? でも、それって恋人同士みたいな言い方だね」
「そうなの? わたしにはわからないわ」
「う~ん、なんかぁ、”付き合って三年ぐらいのカップルがお昼何食べたいって聞く彼女にてきとーに答える”的な感じ」
「わたしならその”彼女”と一緒に料理作るわ」
「いやいやそーゆーことじゃなくて……ってオオモト様料理できるんですかっ!」
目をくるくる変えながら、ひとりノリツッコミをする燐。
「あら、わたしだって料理ぐらいできるのよ」
表情には微塵も見せないが少しむくれたような、珍しい口調でオオモト様は答えた。
ぎゅっと手を繋いだまま、楽しく笑い合うふたりの少女。
それは傍から見れば姉妹のように仲睦まじい姿だった。
それでも二人はひっかき傷だらけ。
だからこそお互いがわかっていた。
「あっ、ごめん! オオモト様! ちょっと玄関で待ってて、すぐに戻ってくるからっ」
燐はぱっと手を離すと、家とは逆方向に掛けていった。
その先にはすっかり忘れられた軽自動車が一台。
死んだように蹲りながら、尚も存在を主張するようにカチカチと泣き続けている。
燐はすっかり待ちくたびれている軽自動車に駆け寄った。
バッテリーというよりも、放置していたことに同情を感じていたのだ。
「ええ、待ってるわ。待つのは……慣れているから」
小さな呟きを駆けだす燐の背中に投げかけると、オオモト様は玄関前の木製の式台に足を揃えてちょこんと腰掛けた。
開かれたままの玄関先には謝りながらボンネットを撫で続けている燐の姿があった。
石造りの土間に漆塗りの小さな
それだけで何かの趣のある絵になりそうな、情感のある風景がそこにあった。
戸口に差し込む光。
いつの間に夜が明けていたのか、青い空に太陽が昇っていた。
初めてみるような面持ちで顔を上げると夏の色をした太陽と目が合った。
それがあまりに目に焼き付いたので思わず笑みが零れた。
朝の光がとても気持ちよかったから。
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さてさて、今回もゆるキャン△ SEASON2の話ばっかりですー。
・第3話。
2話と同じくおおむね原作通りでしたねー。原作5巻の裏表紙の再現とか、原作では3コマ程度しかない庭での綾乃との交流がキチンと描写してあったりで、見ごたえ十分でしたねー。
ですが、新キャラの土岐綾乃の声が……うむむ? 本編予告のときにはそれほど違和感がなかったのに、なんか本編だとなんか違って聞こえる。自分の中のイメージと違ったかぁ……と、思ったのですが、もう一度最初から見直したら何故か慣れてしまったので、万事オーケーですね。単純すぎかー私。
・第4話。
この回も原作通りの感じでした。温玉揚げの変な歌があんな感じになるとは……。桜さんだけやたらと作画に気合が入っていた気がするー。アニメのおかげで車のカギをわざわざ持ち出して、夜中にハンディカイロを仕込むなでしこを拝めるとは……良く考えるとサプライズって結構と大変なんですよねぇ……。
・第5話。
山中湖キャンプ編ですねぇ。
積雪があるせいか今までで一番寒そうに見えますね。山中湖の描写は美しさよりも寒気がしてきましたよ。水曜どうでしょうの人を声優に使うとはねぇ。流石にあの人はちょっと難しかったみたいですけどもー。
そういえば恵那の父が出ませんでしたねぇ。キャラが強すぎるから外されたのかもしれないですね……。
そういえば今頃気付いたのですけど。OPのリンの携帯の画像は毎回違うみたいですねー。5話は、4話のなでしこが買ったガスランタンやドヤ顔になってましたねー。
さてさてさて、今ゆるキャン△ SEASON2と言えばっ!公式発表のあった第2話での不適切な描写問題が話題になってしましたねー。すでに作画は差し変わっているようなんですがっっ──。
ちなみに私は公式発表があってもなんのことなのかさっぱりでした。わりと適当にアニメ見てるんだなーとちょっと凹んでみたり。
既にマスコミ発表的なものもありましたし、2話公開してすぐに分かった問題だったみたいなので今更感はありますが、あえて掘り下げてみようと思います。
★ゆるキャン△ SEASON2 第2話のGoogleストリートビュー問題。
・身延町の? 雪道になってるシーンの左上に2019 Google のロゴマークが白く薄っすらと写り込んでました。(私も後日確認しました)
・それにより、Googleストリートビューの画像をトレスしたとの疑惑が(2話放送後割と直ぐに)Twitter等で話題となっていたみたいです。
・2月1日に公式で第2話における不適切画像のお詫びと差し替えの報告を発表がありました。
・翌日某ニュースサイトで事件のあらましのようなものが記事になりました。(ちなみに私が事件の概要を知ったのはこのニュースのおかげでした)
公式による不適切な画像って何のことだろうと私は最初みたときは勝手に想像を膨らませていたんですよねー。
で、この件で色々書きなぐったのですが、上手くまとめきれなかったので、箇条書きと言いますか、このように経緯をまとめてみましたっ。
そして次に個人的な見解をまとめてみます。
★ストリートビューのトレース問題の個人的な見解と考察。
・雪道の絵が用意できなかったから? 納期を守るためやむを得なく?
・Google側が勝手に撮ったものなんですが、それでも著作権的なもの(ポリシー)はあるようです。
・ストリートビューを参考にした模写はグレーみたいですが、トレスは残念ながらブラック、すなわちNG案件だと思ってます。
・画像を変更しているようですが、今のところ木でロゴを隠す程度のものらしいので、根本的な解決にはなっていない気はします。
・ソフト化の際にはちゃんと直ってるかも? ですが疑わしい事例を作ってしまったので、マイナスイメージもさることながら、各方面に飛び火しないかちょっと気になります。
・私的にはリンが見附天神を走り回ったり、歩きスマホしたり、焚火を放置して移動販売に行ったりと、マナー的な問題かと思ったんですけどねー。まさか制作側のマナーといいますかモラル的な問題だとは思いもよりませんでした。
・公式には詳細は記述してないところをみると、この件はもしかすると業界的に闇が深いのかもしれないですね。
・なんにせよバレなきゃ大丈夫と思っていること程、結局バレるものなんですね。
……と、こんな感じですかねぇ。
まあ、勿体ない案件ですよねぇ、人気作品だけに。
好きだった作品なだけに、クリーンであってほしかったのですが……起きてしまったものは仕方ないですね。
ただ、”消し忘れたー”ではなく”つい魔が差した”の方であってほしいのですよー。
といっても、この件はすぐにどうこうできる問題はない気がしますので、ファンとしては信じて見守るしかないわけです。
楽しく作品を見ることが出来ればそれだけでいいんですけどねー。
それではではー。